亀岡の花々〜アヤメ科一番乗り〜

今日は朝から亀岡にて「大本みろく能」に出演いたしました。

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朝一番に舞台の方に向かうと、お濠に鮮やかな紫色が見えました。

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なんと、もう「業平の杜若」が満開になっていたのです。

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2年前と比べると、1週間ほど早いと思われます。

すかさず定点観測で何枚か写真を撮りました。

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そして、アヤメの仲間で一番早く開花するために「イチハツ」と呼ばれる花のことを思い出しました。

杜若がこれだと、もう散っている頃だろうか…と思い、舞台への道の途中にある「イチハツ」のある場所に立ち寄ってみました。

すると…

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なんと「イチハツ」も見頃だったのです。

今年は「アヤメ科アヤメ属開花一番乗り」の座を、杜若とイチハツが争っていたようです。

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舞台がすぐに始まったので他の花を見る余裕は無かったのですが、

遠目に「カザグルマ」らしい花が見えたり、他にも沢山の花々が咲き乱れていました。

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今日は夕方に舞台を無事に終えてからも、最終新幹線ギリギリまで色々な出来事が続いたのですが、それはまた明日以降に。

今は大混雑の最終新幹線のデッキにてこのブログを書いています。

間も無く到着の名古屋で、何とか席を確保するのが大事なミッションなのです。。

三種の神器と能楽

今日から年号が改まり、いよいよ「令和時代」が幕を開けました。

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今朝「剣璽等承継の儀」をテレビで拝見いたしました。

三種の神器のうちの「草薙の剣」と「八尺瓊勾玉」を、テレビカメラ越しとはいえこの眼で見ることが出来るとは、実に感慨深いことでした。

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というのも、「三種の神器」は実は能楽にも深く関わっているのです。

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例えば「草薙の剣」は、能「草薙」においてシテ日本武尊が実際に手に持ち、その神剣の力で東夷を征伐した時の戦いを再現します。

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また「八咫の鏡」と「八尺瓊勾玉」は天照大神の「天の岩戸開き」の時に使われたと言われています。

この岩戸開きの有様が能「三輪」と能「絵馬」の中で詳しく描写されています。

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そして三種の神器は「壇ノ浦の合戦」において、平家と共に一旦海中に沈みます。

それを源義経がすくい上げたのです。

その壇ノ浦の合戦の模様は、能「大原御幸」のシテ建礼門院によって切々と物語られます。

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このように神話の時代や源平合戦での出来事を、我々能楽師は能の中で擬似体験しています。

とは言えそれらは余りにも遥かな昔の出来事で、もしかするとフィクションなのではないかと思ってしまう時もあります。

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しかし今回の「剣璽等承継の儀」で、「三種の神器」がその神性を古のままに保ちつつ、現代まで引き継がれているのを目の当たりに出来ました。

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連綿と継承されて来た「三種の神器」は、能の中の世界が遥か昔に確かに存在していた証のように私には思われて、なにか力強い気持ちになるのです。

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奇しくも今月は「草薙」を2回謡い、「絵馬」に関わるワークショップをする予定があります。

神秘なる「三種の神器」に思いを馳せつつ、新しい令和時代も一層能楽の道に励んで参りたいと思います。

魅力的な司会者

昨日の「杣月会」の宴会でのこと。

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司会の会員さんがとてもユニークな人で、宴会が始まるとすぐに、進行と全く関係無いことを話し始めたのです。

「皆さん。田んぼの”田”という字を思い浮かべてください。

“口”という字の中に二画を加えて出来ている漢字ですね。

それではこれから順番に、”田”と同様に”口”に二画を足して出来る漢字を答えていってください!」

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会場は「えっ、なんだなんだ?」

とややざわつき始めましたが、司会の方は気にせずに「それでは最初の人、どうぞ!」

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すると最初に当てられた司会の隣の席の方が

「えーと、”兄”?」

おお、確かに”田”に二画を加えて出来ています!

皆さん段々と頭が柔らかくなって、

「叶!」

「右!」

「司!」

などなど、意外性のある回答が続出して盛り上がったのでした。

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宴会の進行としてはやや破茶滅茶な部分もありましたが、非常に魅力的な司会だと思いました。

そこで思い出したのが、これまでも色々な会の後席で、同じように大変個性的な司会者が何人かおられたということでした。

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中でも倉本雅先生の「梗風会」の司会者の長本さんという方は、毎年宴会の最後に必ず「謡曲クイズ」という景品付きのクイズ大会を開催されました。

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真面目な内容の「謡曲クイズ」で正解が多かった人から景品を渡していくのですが、そこで一捻りあるのです。

「あなたの景品は”ヨーロッパ旅行”です!」

と言われて、「えっほんと⁉︎」と驚く人に向かって、

「ヨーロッパ旅行、つまり”欧州のたび”です。

景品は”ソックス”。くつ下で〜す!」

という具合に、駄洒落連発で景品を渡して会場を大いに沸かせてくださったのでした。

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私は毎年「梗風会」に呼んでいただく度に、この長本さんのクイズ大会が楽しみだったのです。

昨日の「杣月会」の司会の方も、是非来年以降も同じスタイルで会場を盛り上げてくださると嬉しく思います。

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尤も杣月会会主の土屋師は、大笑いしながらも司会の軌道修正をするのに終始大変そうでしたが。。

第11回杣月会に出演して参りました

今日は矢来能楽堂にて、土屋周子師主宰の「杣月会」に出演して参りました。

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杣月会の皆さん声が堂々として大きいのは以前からすごいと思っておりました。

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今日はまたそれに加えて、会の「雰囲気」にとても感銘を受けました。

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朝から夕方までの1日の会が無事に終わって、我々が着替えや片付けをしている時。

矢来能楽堂のお茶番の方がやはり片付けにいらして、

「今日の会は今迄経験した中で一番気持ち良く働ける会でした。皆さまそれぞれ素晴らしい方ばかりでした」

と気持ちを込めて仰ったのです。

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確かに私も、今日1日の会を通じて土屋師の実に細やかな心配りを感じました。

会員の皆様にも舞台から宴会までとても良くしていただきました。

そしてお茶番の方と同様に、

「こんなに気持ち良く過ごせる会は中々無いなあ」

と思いながら1日の舞台を勤めさせていただいたのです。

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具体的なことを書くと長くなってしまいます。

しかし今日の諸々の事は澤風会でも是非とも参考にさせていただきたいと思います。

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土屋先生、杣月会の皆様、本日は素晴らしい会にお招きいただきまして、誠にありがとうございました。

おしまいの仕舞

今日は水道橋宝生能楽堂にて「夜能」に出演して参りました。

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私は能「藤戸」の地謡を勤めましたが、今日は能が終わって一度切戸から入ると、すぐにまた舞台に出ました。

これは「仕舞」の地謡を謡うためです。

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「仕舞」は能のハイライトシーンを短く切り取って、紋付袴で舞う形式です。

京大宝生会や澤風会などの舞の稽古では、普段はほとんどの人がこの「仕舞」を稽古しています。

1番の能を稽古するのは時間もかかり、動かない場面も多いので、ハイライトシーンである「仕舞」を稽古するのはちょうど良い鍛錬になるのです。

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しかし元々「仕舞」とは、1日の能の催しの最後に将軍や偉い人からの「アンコール」の要望があった時に舞われていたものだそうです。

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なので宝生流の「夜能」で能の終わった後に「仕舞」を舞って催しが終わるのは、実は古くからの慣わしに則ったやり方なのです。

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ちなみに物事の終わりを「お仕舞い」というのも、最後に「仕舞」を舞って終わりにしたからだという説もあるそうです。

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そして再来月6月28日の「夜能」では、おしまいに私が仕舞「富士太鼓」を舞うことになっております。

「おしまいの仕舞」に興味がある方はどうかお越しくださいませ。

色々重なった五雲会

今日は水道橋宝生能楽堂にて開催された「五雲会」に出演いたしました。

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能「巴」の地謡という役目に加えて、今日は朝から色々と用事が重なりました。

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能楽師を目指す若者の「楽屋入り」という重要な節目への立ち会い。

そして5月6月に連続する「関西宝連」と「全宝連京都大会」へ向けての様々な準備作業など。

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上に掲載したのは、先ずは5月の「関西宝連」のチラシです。

関西宝連は「京都宝生流学生連盟」と「阪神宝生流学生連盟」の合同の組織ですが、このうち「京都宝生流学生連盟」は今回で第120回の大きな節目を迎えます。

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それを記念して同志社大学、京都女子大学、京都大学が三校合同で能「高砂」を演ずるのです。

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これに加えてまた「全宝連京都大会」のチラシなども改めて掲載したいと思います。

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今日は短いですがこれにて失礼いたします。

声の百番集「山姥」の思い出

私がまだ小学生の頃、家の本棚に「宝生流 声の百番集」というのが並んでいました。

“ソノシート”という薄いレコード盤がたくさん入っている物で、本棚のかなりの場所を占領しています。

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その頃の私には全く価値のわからない物で、母親が大事にしている事だけが子供心にもわかりました。

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やがて京大宝生会で謡を少し齧った頃に、休みで実家に帰るとあの「声の百番集」が目につきました。

初めて棚から抜き取って中身を見てみると、名だたる先生方のお名前がずらりと並んでいます。

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実家にはどこでも持ち運べる小さなレコードプレーヤーがあったので、「声の百番集」の棚の前に置いて、これはと思う曲を順番に聴いてみました。

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最初に衝撃を受けたのは、高橋進師がシテの「山姥」でした。

当時私は農学部林学科でよく山に入っていたのですが、その本物の深山幽谷で体験した感覚が、高橋進師の”謡の力”だけで脳内に有り有りと蘇って来たのです。

後シテの出の謡を聴いていると、山の木々や土の匂い、冷んやりとした空気感までがリアルに思い浮かび、感動で震える思いがしました。

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「声の百番集」は忽ちにして”宝の山”にかわり、私は別の百番集を1セット入手して、小型レコードプレーヤーと共に京都に送って日々聴き暮らしたのでした。

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今日は宝生能楽堂にて、日曜日開催の「月並能」の申合があり、私は能「山姥」の地謡を勤めました。

あの高橋進師を聴いて以来、私の最も好きな曲のひとつになったこの「山姥」。

地謡を謡わせていただくと毎回非常に勉強になる曲なのですが、今回もシテ佐野由於師と地頭三川淳雄師の謡で多くの学びがありました。

そして謡っていると、やはりあの「声の百番集」を最初に聴いた時の感動が蘇ってくるのです。

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日曜日の本番も、私にとってある意味で転機になった曲であるこの「山姥」を、精一杯謡わせていただきたいと思います。

「隅田川」の覚え方

今日は水道橋宝生能楽堂にて、リレー公演の能「隅田川」の地謡に出演して参りました。

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「隅田川」は難曲なので、先日の別会能が終わった後はずっと「隅田川」の地謡にかかりきりでした。

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この曲の地謡は、節や位取りが難しいのは勿論ですが、浚うにあたってまた別の難題がありました。

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クライマックスの部分で、「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」と3回繰り返すフレーズを、シテ、子方、地謡が更に何度も何度も繰り返して謡うのです。

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私は新幹線などで謡を浚う時、非常に小声ながら、つい音に出して謡ってしまうことがあります。

しかしさすがに新幹線車内で「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」とブツブツ繰り返していると、隣の人が怪しむでしょう。

下手をすると車掌さんに通報されるかもしれません。。

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頑張って無言で覚えましたが、何となく調子が出ずに覚えるのにいつもより苦労してしまったのでした。。

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明日は2年ぶりに「京大宝生会 仕舞100番舞う会」が開催されます。

今度は仕舞で1日頑張ろうと思います!

2019年春の別会能が無事に終了いたしました

「良い舞台というのは偶然では成立し得ない。

充分な稽古を踏まえた上での必然の結果である。」

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これは本日の宝生能楽堂における「春の別会能」の最後に演じられた能「道成寺」が無事に終了した後の、記念パーティで家元が仰られた言葉です。

今回の「道成寺」は全くそのお言葉通りに、時間をかけて丁寧に作り上げられた舞台だと感じました。

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「別会能」最後の「道成寺」が終わった時間は夜8時近くでした。

最後までご覧いただいた沢山のお客様からの、附祝言の後に頂戴した万雷の拍手の音は、楽屋で聴いていても実に有り難い響きでした。

「宝生流の一員として、これからも頑張っていこう」と気持ちを新たにした瞬間でもありました。

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本日の長丁場の舞台にいらしてくださいました皆様、誠にありがとうございました。

最大級の催し・春の別会能2019

今日は水道橋宝生能楽堂にて、日曜日開催の「春の別会能」の申合がありました。

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今回は「宝生能楽堂 開場四十周年記念」

として開催される別会能で、特別な番組になっています。

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午前11時〜午後3時までが「第1部」で、素謡「翁」、能「高砂 作物出」、狂言「二人袴」、能「安宅 延年之舞」が演じられます。

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そして少し間をあけて午後4時〜午後8時まで「第2部」が開催されて、能「草紙洗」、狂言「富士松」、最後に能「道成寺」が演じられるのです。

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全部御覧になると午前11時から夜8時までというのは、1日だけの催しとしては私が楽屋に入ってからでは最大の規模になります。

今日の申合だけでも約5時間程かかりました。

複数の曲に出演する楽師もいて、申合の楽屋はいつにも増して活気に溢れていました。

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私は第1部の能「安宅 延年之舞」のツレ同行山伏を勤めさせていただきます。

初めて「安宅」のツレを勤めたのは内弟子の頃で、場所は金沢の石川県立能楽堂、シテ弁慶は佐野萌先生でした。

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それから何度もツレ同行山伏をさせていただきましたが、何度経験しても本当に良く出来た構成の曲だと思います。

舞台の使い方と言い、見せ場の並べ方と言い、一切の無駄がなく作られています。

シテツレ子方、ワキに間狂言の合計13人が、舞台と橋掛りを縦横無尽に移動して繰り広げる緊迫感漲る大活劇なのです。

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他の3曲も同様に名曲揃いです。

明後日3月24日は是非宝生能楽堂にいらしていただき、歴史的な規模の「春の別会能」を御覧いただきたいと思います。

どうかよろしくお願いいたします。