新しい月の生まれる頃に

今日は朝からずっと電車で移動しています。

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日が落ちて暗くなってくるとともに、東の低い山脈から濃い黄色をした巨大な月が上って来ました。

今年見た中で一番大きく見える満月な気がします。

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ちょうど1週間前には、亀岡で冷え冷えとした半月を眺めました。

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そしてあと1週間後、この満月が半分になる頃には京大宝生会の能「竹生島」の申合がある予定です。

更にその1週間後、この月が消えてまた新しい月が生まれる頃に「竹生島」は本番の舞台を迎えるのです。

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私が「竹生島」の稽古を出来るのは、おそらくあと3回ほどでしょう。

全身全霊をかけて残りの稽古をして、なんとかこの能を成功させたい。

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右手の車窓の空にかかる巨大な満月を、今祈るような気持ちで眺めています。

静寂の中で終わる曲

昨日は京阪神巽会から最終新幹線で東京に帰りました。

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新幹線の座席に着いた途端にスイッチが切れたように東京まで眠りました。

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今日も少し遅くまで休ませてもらい、昼過ぎから水道橋宝生能楽堂での「月並能」に向かいました。

私は能「蝉丸」の地謡を勤めました。

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曲の最後、姉逆髪と弟蝉丸の別れのシーンでのことです。

逆髪は橋掛りをトボトボと寂しげに歩んでいき、幕に近い”三の松”で振り返って蝉丸に最後の別れを告げます。

そして舞台の蝉丸は留拍子を踏まず、静かに終曲を迎えるのです。

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逆髪が”三の松”から幕に向いて歩き出した時、見所から少しだけ拍手が起こりかけました。

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しかしその拍手は、蝉丸が舞台から橋掛りへと静かに静かに歩むにつれて、徐々におさまっていったのです。

そして幕が開いて蝉丸の姿が消えていってもなお、水を打ったような静けさは能楽堂を包んでいました。

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御囃子方と地謡が退場する時になって、ようやく拍手が今度は盛大に起こりました。

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曲にもよるのだと思いますが「蝉丸」のように留拍子を踏まない曲では、今日のように静寂の中で終わるのが良いとしみじみ思いました。

京阪神巽会など

今日は朝から香里能楽堂にて京阪神巽会でした。

昨日は朝に水道橋で月並能申合、その後香里能楽堂に移動して巽会申合、更にその後に京大宝生会の能竹生島の稽古を満次郎師にしていただきました。

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書くべきことは山積しており、大変心苦しいのですが本日はこれにて失礼いたします。

様々なお便り

今日は江古田稽古でした。

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夕方にメールが届いていたので、稽古の区切りで確認しました。

先日岩手県の正法寺で「地水火風」の舞台を共にした尺八奏者ラルフ・サミュエルソンさんからのメールでした。

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今成田空港で、間もなくアメリカに帰ること。

そして来年は是非東京で再び「地水火風」の舞台をやりたいということが書いてありました。

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今頃は太平洋上空を飛んでいるであろうラルフさんに、正法寺での御礼と、こちらこそ来年は是非東京で「地水火風」をやりたいという返信をお送りしました。

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昨日はまた別のお便りが読者の方より届きました。

亀岡のことを書いた昨日のブログへのコメントとして届いたお便りです。

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亀岡で毎年フジバカマに飛来する「アサギマダラ」という旅する蝶。

そのアサギマダラを巡る物語が、NHKのラジオドラマとして放送されたという内容でした。

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私の好きな蝶がドラマになったとは、何とかして聴いてみたいと思いました。

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今週は他にも、あまねく会の記事へのコメントも頂戴いたしました。

この場で御礼申し上げます。ありがとうございました。

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あまねく会・東京巽会に出演して参りました

今日は朝から水道橋宝生能楽堂にて「あまねく会・東京巽会大会」に出演して参りました。

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毎年京大宝生OB会からも多くの舞囃子や仕舞、独吟などが出る舞台です。

今日特に感銘を受けたのは、舞囃子「春日龍神」でした。

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この舞囃子のシテは、第1回京宝連にも参加され、卒業してから60年経つという大・大先輩でした。

そして春日龍神には、「三回廻り返し」の後に「抜き足」など、とても激しい型が連続しています。

更にシテ謡や足拍子も非常に複雑です。

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その難曲を、大先輩はひとつひとつの型や謡を実に正確に、そして大きく軽快な動きで最後まで舞われたのです。

地謡座で謡っていて、思わず拍手をしたくなってしまいました。

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今日はもうひとつ嬉しいことがありました。

去年まで亀岡稽古場で稽古をなさっていて、その後東京に引っ越された方が、東京で再び稽古を始められて今日久しぶりに舞台でお会い出来たのです。

しかもお仲間を増やして3人での参加でした。

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色々な方の元気な舞台を見て、私も頑張ろうと思いました。

あまねく会・東京巽会関係者の皆様、どうもありがとうございました。

1件のコメント

「地水火風」ご報告と御礼

岩手県奥州市の曹洞宗古刹 正法寺における「地水火風」の舞台は、おかげさまで昨日無事に終了いたしました。

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正法寺本堂は、決して装飾的な派手さはありませんが荘厳で巨大で、何か圧倒的に骨太な力を感じる建造物です。

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その本堂の堂内、能舞台が5面はとれる程の広大な空間に、マグダレナ・ソレ氏の写真を映し出すスクリーンが3面据え付けられていました。

スクリーン前の、2部屋にまたがった縦長のスペースが私が舞う舞台になります。

そしてラルフ・サミュエルソン氏が尺八を演奏する椅子と譜面台は、舞台左前方に据え置かれていました。

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装束をつける部屋には、釈迦如来像、文珠菩薩像、普賢菩薩像の三体の小ぶりで非常に美しい仏像が置かれています。

「よろしくお願いいたします」と合掌して、能装束への着替えに入りました。

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「地水火風」は、地・水・火・風それぞれが5〜6分ずつの曲です。

その合間に数分の尺八ソロと写真のスライドショーが挟まり、私は仏像の部屋で素早く装束を替えて再び舞台に出て行くわけです。

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装束は曲に合わせて4回かわります。

しかし装束つけをしてくれる楽師は、辰巳和磨さんただ1人です。

最小人数で、最短の時間で早替わり出来るように様々な工夫を凝らしました。

その甲斐あって、本番の着替えは実にスムーズに進みました。

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ラルフさんの尺八と私の舞も、この1週間みっちり稽古したおかげで本番では今までで一番良く合っていました。

稽古段階では、舞が終わっても尺八が残ってしまったり、逆に尺八演奏が終わっても舞が終わらない事がありました。

しかし本番では4曲全てぴったり同時に終えることが出来たのです。

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見所には台湾からの20人ほどの団体もいらしていて、とても熱心にご覧くださり、終了後には大変喜んでいただきました。

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他の分野の芸術、芸能との本格的なセッションは私にとって初めての経験でした。

そして沢山の方々の力がひとつになって、「地水火風」の舞台は成功裏に終わることが出来たのです。

実に勉強になり、また多くの縁が結ばれた本当に貴重な経験になりました。

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改めてまして岩手未来機構の皆様始めスタッフの方々、正法寺の皆様、そしてマグダレナ・ソレ様、ラルフ・サミュエルソン様、装束や撮影などにご協力くださいました皆様、誠にありがとうございました。

心より御礼申し上げます。

「地水火風」無事に終了いたしました

昨日のリハーサルに続いて、尺八×写真×能のセッション「地水火風」の本番が先ほど無事に終了いたしました。

正法寺の皆様、また岩手未来機構を始めとする関係者の皆様、そして連日お手伝いいただいた辰巳和磨さん、誠にありがとうございました。

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大変貴重な経験になった今回の「地水火風」。

書くことは山ほどありますが、また明日以降にゆっくりと書かせていただきたいと思います。

今日はこれにて失礼いたします。

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「地水火風」リハーサル

今日は岩手県の「正法寺」にて、能楽と尺八と写真のセッション「地水火風」のリハーサルに参加いたしました。

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正法寺に到着するとこんなポスターが飾られていました。

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舞台となる正法寺本堂は、「日本一大きな茅葺き屋根」を持つ建物だそうです。


水沢江刺駅から山道をくねくね登っていくと、山あいの斜面に突如としてこのような巨大建造物が現れるのです。

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…と言っても、この写真では大きさがわかりづらいですね。。

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というわけで、もう一枚撮ってみました。


写真の左下に、”ウォーリーを探せ”レベルの小ささで人が写っています。

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この巨大な本堂の中で、曹洞宗の非常に高い位におられる正法寺山主様の前での「地水火風」リハーサルでした。

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縦に長く取られた舞台、短時間での3回の早替わり、そして次々と投影される写真と尺八とのタイミングの合わせ方など、難しい要素がたくさんありました。

しかし本番と全く同じ進行で、見所には山主様など10人ほどがいらっしゃる中で、何とかリハーサルを無事に終えることが出来ました。

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あとは体調を整えて本番を待つのみです。

日本とアメリカ。岩手と東京と京都。

今週末に、岩手県水沢江刺の「正法寺」という曹洞宗の古刹にて、尺八奏者ラルフ・サミュエルソン氏と写真家マグダレナ・ソレ氏との合同舞台があります。

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「地水火風」をテーマに、素晴らしい尺八演奏と美しい写真に合わせて、日本最大の茅葺屋根を持つ正法寺本堂で私が舞う、という企画です。

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今日も朝から江古田舞台でラルフさんとの稽古がありました。

著名な尺八演奏家でありながら、いつもニコニコして実に柔らかな雰囲気をお持ちのラルフさん。

「オールドグランダッド」

という柔らかな味の、私の好きなバーボンウィスキィを何となく思い浮かべてしまいました。

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尺八に合わせて舞う、という企画ながら、私は1年前まで尺八演奏を殆ど聴いたことがありませんでした。

ラルフさんの演奏のCDを聴いても、当初は全くリズム感や抑揚を掴むことができずに焦りました。

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しかし、ラルフさんは春頃に、「地、水、火、風」という4曲の尺八演奏をアメリカから送ってくれました。

それぞれが5〜6分のこれら4曲を繰り返して聴くうちに、尺八のゆったりとしたリズムが徐々に感じられてきました。

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これらの曲に、東北地方の自然と歴史を織り込んだ舞を重ねていくことは、困難ながらもとても勉強になる楽しい作業でした。

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そして一曲ずつ出来上がっていく「地水火風」を、東京芸大の青年や京大宝生会の部員の力を借りて動画にして、アメリカのラルフさんに送りました。

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そうして太平洋を跨ぐやり取りの末に、昨日ついに日本でラルフさんの生演奏に合わせての「地水火風」稽古が行われたのです。

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初めての稽古ながら、聴き込んで耳に馴染んだラルフさんのメロディに合わせてごく自然に舞うことが出来ました。

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あとは正法寺でのリハーサルを経て本番を迎えます。

岩手未来機構の皆様には、この企画に向けた準備段階から大変お世話になりました。

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日本とアメリカ。

岩手と東京と京都。

遠く離れた土地の沢山の方々のお力をいただいて完成した「地水火風」。

その舞台が良いものになるように、あとは体調を整えて、装束などの準備をしっかりとしたいと思います。

鞍馬天狗 天狗揃

今日もまた水道橋宝生能楽堂に行き、「秋の別会能」に出演して参りました。

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私は能「鞍馬天狗 天狗揃」の地謡を勤めました。

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「天狗揃」という小書(特殊演出)は、宝生流の定例会では数十年に一度しか出ておりません。

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通常の「鞍馬天狗」の後場では、シテ大天狗が1人出るだけです。

しかしこれが「天狗揃」になると、ツレ小天狗が7人、シテと合わせて計8人の天狗が登場して、それぞれ順番に牛若丸に稽古をつけていきます。

ちなみにツレは”小天狗”と言いながら、実はそれぞれが主役を張れるほどの名のある天狗達なのです。

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最後の部分で大天狗は牛若丸に、

「今後の合戦においては、我々天狗勢が影ながらあなたに加勢いたしましょう」

と告げて鞍馬山中に消えて行きます。

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今日の場合はその言葉が、全国の有名な天狗達を引き従えた大天狗から告げられる訳で、謡っていて大変な説得力を感じました。

義経が平家との合戦において連戦連勝したのは、彼ら天狗の超人的な能力に助けられたからなのかもしれません。

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一ノ谷で、また屋島や壇の浦で、宙空を翔け回って源氏に加勢する無数の天狗達を想像して、何かそんなお話でも書いたら面白いかも…

などと思いながら帰路についたのでした。