最大級の催し・春の別会能2019

今日は水道橋宝生能楽堂にて、日曜日開催の「春の別会能」の申合がありました。

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今回は「宝生能楽堂 開場四十周年記念」

として開催される別会能で、特別な番組になっています。

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午前11時〜午後3時までが「第1部」で、素謡「翁」、能「高砂 作物出」、狂言「二人袴」、能「安宅 延年之舞」が演じられます。

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そして少し間をあけて午後4時〜午後8時まで「第2部」が開催されて、能「草紙洗」、狂言「富士松」、最後に能「道成寺」が演じられるのです。

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全部御覧になると午前11時から夜8時までというのは、1日だけの催しとしては私が楽屋に入ってからでは最大の規模になります。

今日の申合だけでも約5時間程かかりました。

複数の曲に出演する楽師もいて、申合の楽屋はいつにも増して活気に溢れていました。

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私は第1部の能「安宅 延年之舞」のツレ同行山伏を勤めさせていただきます。

初めて「安宅」のツレを勤めたのは内弟子の頃で、場所は金沢の石川県立能楽堂、シテ弁慶は佐野萌先生でした。

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それから何度もツレ同行山伏をさせていただきましたが、何度経験しても本当に良く出来た構成の曲だと思います。

舞台の使い方と言い、見せ場の並べ方と言い、一切の無駄がなく作られています。

シテツレ子方、ワキに間狂言の合計13人が、舞台と橋掛りを縦横無尽に移動して繰り広げる緊迫感漲る大活劇なのです。

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他の3曲も同様に名曲揃いです。

明後日3月24日は是非宝生能楽堂にいらしていただき、歴史的な規模の「春の別会能」を御覧いただきたいと思います。

どうかよろしくお願いいたします。

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大原から加古川へ

今日は朝に大原の京大宝生会合宿所を出て、加古川能に向かいました。

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霧のような細かい雨に煙る大原の里は、それはそれで風情があるなあと思いながら、京都バスで国際会館駅へ。

そこから地下鉄で京都駅に出て、更に姫路行きのJR新快速に乗り換えました。

あとは加古川まで1時間半弱、謡を覚える時間です。

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神戸を過ぎると、普段はあまり通ることのない地域に入っていきます。

私は新快速の進行方向右側の山手の席に座っていました。

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謡本からふと目を上げて右手の車窓を見ると、松の木が立ち並ぶ公園の景色が目に入りました。

そして何故かその景色には見覚えがありました。

ずっと昔に来たような…

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思い出しました。

あれは京大宝生会で能「箙」が出た時のことです。もう10数年前になります。

「箙ツアー」を企画して、何人かの部員で”一ノ谷”を訪れたことがありました。

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確かその時に「須磨浦公園」という所にも行って、それがこの車窓の景色だと思われ…

と、そこでハッと気づいて私は左側の車窓を振り返りました。

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窓の外には、須磨の浦がゆったりと広がっていたのです。

海は東海道新幹線で熱海の辺りを通る度に見ている筈なのに、何故かとても久しぶりに海というものを見る心地がして、静かに感動しました。

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更に新快速は進んでいきます。

今度は前方に巨大な橋が見えて来ました。

「明石海峡大橋」のようです。

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能「草紙洗」で紀貫之が詠み上げる和歌

「ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に 島隠れゆく 舟をしぞ思ふ」

が頭に浮かんできました。

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しかし車窓には圧倒的な迫力の明石海峡大橋が、淡路島に向けて「ドドーン」という感じで伸びています。

和歌に詠まれた明石の浦の風情は、とうの昔に無くなってしまったようでした。

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仕事とは言え、今日の大原から加古川への移動は何か”旅情”のようなものを感じてとても心地よいものでした。

海の良い写真が撮れたらもっと良かったのですが、天気もあって中々難しかったです。

本当はもっと青く、のたりのたりとした「春の海」でした。

“若武者”を目指して

今日は水道橋宝生能楽堂にて、明後日開催の「五雲会」の申合がありました。

私は能「箙」の地謡を勤めました。

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能「箙」のシテは梶原源太景季という源氏方の若武者です。

一ノ谷の合戦で背中の”箙”に梅のひと枝を挿して奮戦し、その名を上げたのです。

今回シテを勤める川瀬隆士君は30代前半の若手能楽師。若々しく張りのある謡と型は、この曲にぴったりだと思いました。

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そして今日の申合の楽屋には、彼よりも更に若々しい詰襟制服の男子2人の姿がありました。

2人はこの度、東京芸術大学邦楽科能楽専攻に合格が決まって、挨拶のために宝生能楽堂にやって来たのです。

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明後日の「箙」で凛々しい若武者姿を披露する川瀬君も、やはり10数年前に東京芸大に入学して、それから厳しい修行を経て五雲会のシテを勤めるまでになったのです。

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詰襟の2人が今日の川瀬君のような一人前の”若武者”になるまでには、長く厳しく、しかし充実した修行の日々が待っていることでしょう。

未来の若武者2人に心からエールを送りたいと思います。

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励ましのお便り

私のこのブログをいつも読んでくださっているという、観世流をお稽古されている方からお葉書をいただきました。

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先日の澤風会郁雲会を観にいらしてくださったということで、色々な感想が書いてありました。

例えば「元気いっぱいの可愛い男の子」

「清々しい舞の女の子」

「京大生の美しい足運び、無駄のないしなやかな動き!」

などなど、暖かい視点で観てくださったのがわかり、読んだ私もとても暖かな気持ちになりました。

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今回の澤風会郁雲会は朝から夕方まで、本当に大勢のお客様で見所が賑やかでした。

これは私は勿論のこと、出演者の方々にとって何より有り難いことで、大きな力になりました。

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そして更にその舞台の感想を書いて送ってくださるとは、より一層有り難く、次の舞台に向けて何よりの励みになります。

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他にも個々の出演者にきっと色々な感想が寄せられたことと思います。

それら全ての方々にお礼のお返事が出来ず申し訳ございませんが、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

そしてまた次回の舞台もどうかいらしていただき、私と出演者の皆さんを励ましていただければ何より有り難く思います。

どうかよろしくお願いいたします。

変わるための力、変わらないための力

あの震災から8年が経ちました。時は流れていきます。

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時が流れて変わっていくものもあれば、変わらない事もあります。

一昨日の澤風会郁雲会の時のこと。

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朝に仕舞「大江山」を舞った男の子は、この4月から中学生になるそうです。

私が彼に初めて会ったのは、彼が0歳の時。つまり生まれて間もない頃でした。

最初はお姉さんの稽古についてくるだけ、そしてやがて自分も稽古を始めて、成長と共に着実に舞台を重ねて来ました。

足の運びや仕舞の型が今回の「大江山」で随分と良くなって、「本当に成長したなあ…」と地を謡いながらしみじみと嬉しい気持ちで見ていました。

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そのお姉さんの方は、幼稚園の時に宝生能楽堂の謡曲仕舞教室に入門してからずっと熱心に稽古を続けて、この春にはもう高校3年生になります。

今回の澤風会では、ほぼ同時期に稽古を始めたもう一人の高校生の女の子とペアで仕舞を舞いました。「船弁慶キリ」と「野守」という大人でも難しい曲を、高校生の2人は元気良く伸び伸びと舞ってくれて、素晴らしい舞台でした。

2人とも内面的にも非常にしっかりして来て、もう間もなく巣立って社会に出て行くのだろうと、こちらも何となくしみじみと感慨深い気持ちで地を謡っておりました。

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一方で今回仕舞「葵上」を舞われた澤風会最高齢91歳の方は、やはり宝生能楽堂での「ジパング倶楽部謡曲教室」に入門されてから10数年、驚くべきことに稽古はただの一度もお休みにならず皆勤で、お1人で電車を乗り継いで江古田まで来てくださっています。

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見た目も初めてお会いした時から少しも変わらず、本当に若々しくお元気なのです。

「ずっと変わらずに稽古を続けて、舞台に立つ」というその姿勢、というよりその存在そのものが、全ての会員さん達の目標になっています。

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時の流れとともに変わっていく人と、変わらずにいる人。

両者は一見正反対に思えます。

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しかし、上記の子供達と最高齢の方には、何故か共通した”力強さ”のようなものを感じてしまうのです。

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「日々の様々な困難に負けずに乗り越えて前進していく」という点において、実は両者は同質な力を持っているのではないかと、一昨日の舞台を見て思ったのでした。

澤風会、月並能、そしてその後…

昨日はおかげさまで澤風会郁雲会大会を無事に終えることが出来ました。

お世話になりました皆様、改めまして誠にありがとうございました。

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明けて今日は水道橋宝生能楽堂にて「月並能」が開催されました。

私は能「春日龍神」の地謡でした。

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無事に謡い終わって用事でロビーに行くと、昨日出演してくださった京大OBの先輩と、やはり昨日出演してくれた京大宝生会現役の何人かに会いました。

現役達は、来たる5月25日(土)に京都大江能楽堂にて開催の「第120回記念京都宝生流学生能楽連盟自演会」において舞囃子「春日龍神」を出すことになっているのです。

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澤風会の後に1泊して、能「春日龍神」を観て勉強してから京都に帰るということなのでしょう。

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私は「月並能」の終了後に、3月24日開催の「別会能」で演じられる能「安宅 延年之舞」の稽古に参加いたしました。

ツレの”同行山伏”を勤めることになっているのです。

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昨日の会のことをゆっくり思い出してブログに書いたりしたいのですが、早くも次の舞台に向けて私も周りも動き出しています。

また少し落ち着いてから昨日の模様を書いてみたいと思います。

第6回東京澤風会・郁雲会大会御礼

本日おかげさまで「第6回東京澤風会・郁雲会大会」が無事に終了いたしました。

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朝からお世話になりました先生方、京都や松本などご遠方から来てくださった方々、いつもながら大勢でご参加くださいました京大宝生OB会の先輩方、そして郁雲会と東京澤風会の会員の皆様誠にありがとうございました。

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また今回も本当に沢山のお客様にいらしていただき、見所が終日にわたり賑やかで有り難い限りでした。

渋谷セルリアン能楽堂は久しぶりに使わせていただきましたが、スタッフの皆様に何かと親切にしていただいて、運営をとてもスムーズに進めることが出来ました。

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今は御礼の言葉だけが浮かんで参ります。

今日の舞台を終えられた会員の皆様は、先ずはゆっくりお休みくださいませ。

そしてまた疲れが取れましたら、次の舞台に向けて動き出しましょう。

まだこれから遠く京都や松本まで帰られる皆さんは、どうかくれぐれもお気をつけて。

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全ての皆様のおかげさまで、今回も熱量のある舞台になったと感じております。

今日の舞台で生まれた熱がまた次の舞台に繋がっていくように、明日からまた頑張って参りたいと思います。

いよいよ明日。

澤風会郁雲会の前日です。

明日に向けての準備は一応全て終わったと思います。

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毎度思いますが、会に向けての稽古を始めてからここまで長い道のりでした。たくさんのことがありました。

会員の皆様にも、稽古の出来具合や体調や、お仕事との兼ね合いなど諸々の事柄を乗り越えて明日の本番を迎えられることと存じます。

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それらの努力や苦労や色々を飲み込んだ明日の舞台が良い結果になるように、全力で頑張りたいと思います。

皆様どうかよろしくお願いいたします。

もう一踏ん張り

昨日も書きましたように、今日は澤風会郁雲会本番前の最後の江古田稽古でした。

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皆さん殆ど完成しているのですが、どこか一箇所くらいは「あれ?」と思うところがあるものです。

その部分に的を絞って直したつもりですので、あと2日で修正していただければ、より良い舞台になると思います。

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今日は私自身は出来るだけ動かず、本番を想定して見ているだけの時間が多かったはずなのに、何故かいつもよりも体力気力を使ったような気がします。。

明日も午後に舞囃子中心の稽古をして、それが本当に本番前最後の稽古になります。

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明日稽古の方はもう一踏ん張りよろしくお願いいたします。

そうでない方々はどうか体調を整えて、明後日万全のコンディションでセルリアン能楽堂でお会いいたしましょう。

春の風は空に満ちて…

今日は二十四節気のひとつ「啓蟄」だそうです。

最近の東京では、冬眠から目覚めた動物や虫などに出会うことは中々ありませんが、あたりの空気は確実に春を感じさせます。

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春になると頭に浮かぶ好きな謡があります。能「嵐山」の一節に「春の風は空に満ちて 春の風は空に満ちて」というリフレインの部分があるのです。

何となく現代的な言い回して、しかもあえて繰り返しているのが如何にも「春が辺りに満ちている」と感じさせて好きなのです。

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実際にはまだ日が暮れると寒いくらいで、冬と春がせめぎ合っている所だと思われます。

しかし、次の二十四節気である「春分」までには完全に”春の風が空に満ちる”のでしょう。

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…その前に、先ずは土曜日に迫った「澤風会郁雲会」です。

今日は渋谷で当日のお菓子や飲み物などを予め買い物して、セルリアン能楽堂に預けて参りました。

宴会の座席表を作成して、夕方からは大会前最後の田町稽古でした。

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そして明日は大会前最後の江古田稽古です。

ギリギリまで稽古を頑張って良い舞台にして、良い春を迎えられたらと願っております。