光秀公ゆかりの稽古場

今日は大山崎稽古のために早朝に東京を出ました。

新幹線はかつて無いほどがら空きで、私の乗った車両には10人ほどしか乗客の姿がありません。

新型肺炎の影響は徐々に大きくなっているように感じます。。

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しかしJR山崎まで来ると、全く普段と変わらない様子でホッとしました。

いや、厳密にはちょっと普段と違っていました。

まず下のようなポスターが駅などに何枚も貼ってあります。

そう、今年の大河ドラマは”明智光秀公”が主人公です。

そして山崎や隣の長岡京はその光秀公や、娘の細川ガラシャゆかりの地なのです。

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稽古場の「宝積寺」も天王山の中腹にあるので、境内には上のような「いざ!天王山」という幟がたくさんはためいていました。

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そして午前中の大山崎稽古を終えて、私が午後に移動した先は…

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亀岡です。

こちらには光秀公が築城した「亀山城址」があり、やはり大河ドラマで盛り上がっているようでした。

稽古場もその亀山城址の中にあるのです。

亀岡駅には明智光秀グッズがたくさん並び…

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城址のお堀端には新しく作られた”明智光秀公像”が立っていました。

亀岡には新しいサッカースタジアムも完成して、今年は色々と賑やかになるのでしょう。

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しかし稽古場に到着すると、城址の中は普段と変わらない静謐な雰囲気でした。

そして今年も梅の花が音も無く開花していました。

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世間は色々大変ですが、変わらず静かに咲く梅を見て、また何かホッとしたのでした。

「安全な死に方」とは…?

今日は水道橋宝生能楽堂にて開催された「月並能」に出演して参りました。

私は能「錦戸」の立衆を勤めました。

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この立衆は、ワキ錦戸太郎の配下の武士で、シテ泉三郎と切り組んで討死する役です。

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切り組みの討死の仕方には、色々なバリエーションがあります。

①直立した状態からそのまま後ろに倒れる「仏倒れ」

②舞台から橋掛りへ向かって欄干を飛び越える「欄干越え」

③手を使わずに前転する「でんぐり返し」

④その場で飛び上がり平臥をする「平臥」

などです。

①が一番危険で、下に行くほど危険度は低くなります。

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そして今日の私の討死の仕方は…

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頭上に差しかざした太刀でシテの太刀を何度か受けて、押されて三足ほど下がって片膝をつく。

というものでした。

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膝にも足にも頭にも負担の全くかからない、いわば「最も安全な死に方」だったのです。

なんだか申し訳ないと思いながら片膝をついて、すぐに切戸に引いて帰りました。。

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来たる4月の「五雲会」で勤める能「兼平」では、ちゃんと(?)飛び上がり平臥をして、「自害の手本」となるような華やかな最期を遂げたいと思います。

居合女子!

今日は都内の私立女子中学校での能楽教室に行って参りました。

始まってからもう7年目になる能楽教室です。

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各教室に分かれて色々なお囃子や型や謡を体験します。

教室では、掃除の時のように机が後ろに下げてありました。

そしてその机の間に、私は気になるものを見つけました。

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どう見ても、能に使う「太刀」にそっくりなものがキャリーケースに入れて置いてあったのです。

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そのキャリーケースも、今日の実演曲「船弁慶」の太刀を入れて来たケースと全く同じものでした。

しかし船弁慶の太刀は控え室に置いて来たので、この教室にある筈がありません。。

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中学校の先生に「あの…この”太刀”は誰のものなのですか?」と聞いてみました。

すると…

先生「ああ、”居合道部”の子がいるのです」

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なんと、居合に使う刀なのでした。

後で詳しく聞くと、その学校に居合道九段の達人の先生がいらっしゃるとか。

なので、家で親御さんに「クリスマスプレゼント何が良い?」などと聞かれると、

「新しい刀!」

と答える居合女子が沢山いるそうです。。

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150人程の生徒さんは、皆とても熱心に能楽体験をしてくれました。

「この中にいる”居合女子”さん達は、きっと能の型をやっても格好良くきまるのだろうな…能も稽古してくれないかな…」

と思いながら、最後の実演の「船弁慶」を頑張って謡ったのでした。

面白写真〜2020冬〜

最近ネタが集まらずに御無沙汰していた、旅先などでの「面白写真」です。

およそ一年ぶりくらいになりました。

先ずはこちらから。

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神保町にて。”激安居酒屋 きぬちゃん”というお店でした。

しかしこの看板…ほぼ確実に蕎麦屋のリサイクルですよね。。

“ちゃん”がなんとも哀愁をそそって、ツボに嵌りました。

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浅草の唐揚屋さんです。”ご当地ずり”ですね。

しかし急いでいたので「スカイずりー」そのものを目視できなかったのが残念でした。

次は時間を見つけて食べに行ってみたいと思います。

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ここは青森駅片隅の、むしろ殺風景な場所でした。

そこに唐突に津軽弁を使うセンス。

やはり青森県人のユーモアは計り知れません。。

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京都駅にて。最近爆発的に増えた外国人観光客向けのお土産です。色々考えるものですね。

読み方が中々難しいものがいくつかありました。

「家仁威寿」とか。「ケニーズ」ですかね…?

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こちらも京都にて。

面白そうな古本屋さんを見つけると入ってみるのが常なのですが、ここは入口が本で塞がれて入れないという恐るべき古本屋でした。。

店員さんは一体どうやって出入りしているのでしょうか…?

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これは能「藤戸」を知っている人だけにわかるネタです。

後ワキの謡う一句に、この二社の社名が出てくるのです。

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もう最後の写真になります。

三ノ輪のご近所の根岸にある交差点です。

スクランブルどころか、交差点をとにかく全部横断歩道にしてしまったようです。

こういうヤケクソ気味のセンスも私は大好きなのです。

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今回はこの辺で失礼いたします。

皆さまからいただいた面白写真もあるので、また機会を見て掲載させていただきます。

新しい歴史を刻みつつ

今日は先週木曜日に続いての江古田稽古でした。

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そして先週に引き続いて、日本女子大の学生2人が夕方に稽古に来てくれました。

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昨年末の「関宝連」での初舞台が無事に終わった後、それぞれ新しい仕舞に取り掛かっています。

「高砂」と「熊野クセ」です。

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やはり初舞台を終えると、構えや型が一段階上手になっています。

この2番の仕舞を、先ずは来月の「澤風会郁雲会」で一度舞ってもらう予定です。

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そしてその舞台を経て、さらに稽古して6月の「関宝連」で完成させる計画なのです。

3月の澤風会郁雲会では、ついに京大宝生会との競演も実現します。

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去年の今頃にはまだ影も形も無かった日本女子大宝生会が、着実に新しい歴史を刻みながら、一歩ずつ進み続けているのです。

今年の日本女子大の活躍にもどうかご期待くださいませ。

サードマンと彼方のアストラ

今日は松本から移動して、夕方から矢来能楽堂にて辰巳大二郎君の「橙白会」の申合でした。

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松本からの特急あずさでは、専ら読書に専念いたしました。

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と言ってもいつものように比較的読みやすい内容の文庫本です。

今日は新潮文庫の「サードマン」という本でした。

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探検家が海や山で遭難した時に、自分以外の不思議な”存在”が現れて生還に導いてくれたという「サードマン現象」を科学的見地から研究した本です。

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サードマン現象そのものよりも、それが現れるまでの遭難の凄まじい状況に圧倒されました。

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ヒマラヤの8000m峰での滑落事故、南極大陸での壮絶な越冬、また大海原に放り出された小さな救命艇での絶望的な漂流…

私ならばきっと”サードマン”が現れる前に音を上げてしまうでしょう。。

しかし、極限状況を強かに生き延びた人々の話に勇気をもらえた気がいたしました。

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特急あずさ車内では、最近スマホで雑誌や本が読めるサービスが始まったのでそれも利用してみました。

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と言っても漫画です。。

以前から一度読みたいと思っていた

「彼方のアストラ」

という漫画の1、2巻を読んでみました。

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私の好きな漫画家の星野之宣さんの作品に通じるような、宇宙SF漫画でした。

そう言えばこの作品も、宇宙での”遭難”を描いています。

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今日の特急あずさの旅は、様々な遭難エピソードを終始ドキドキしながら読んで過ごしました。

新宿駅に無事に到着したのが何か奇跡のように有り難く思えたのでした。

お腹が空く稽古場所

今日は松本稽古でした。

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稽古場の公民館の都合で、最初の1時間は和室が使えませんでした。

その代わりに空いていた部屋がなんと…

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“調理実習室”です。

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過去色々な場所で稽古をして参りましたが、これは初めてのパターンでした。

据え付けの調理台の間に1〜2m幅の通路が縦横に走っている構造です。

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この通路を縫うように動いて調理台をうまく避けるようにして、試しに仕舞「加茂」の稽古をしてみました。

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もちろんとても不思議な感覚でしたが、ちゃんと一通り稽古出来て、内容も有意義なものになったのです。

部屋全体に微かに美味しそうな匂いがして、途中お腹が空いてきましたが…。

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1時間してから和室に移り、通常の稽古形態になりました。

いつもの大きさの和室が、なんだかとても広々と感じられました。

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稽古場所の可能性がまたひとつ広がった今日の松本稽古だったのでした。

節分の京都稽古

今日は京都紫明荘組稽古でした。

いつものように朝の地下鉄日比谷線は殺人的混雑でしたが、東京駅と新幹線車内はいつになく空いていると感じました。

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そして京都の「ゲストハウス月と」に到着して亭主さんに伺うと、やはり新型肺炎の影響で京都の観光客は激減しているとのことでした。

最初にいらした会員さんも、

「錦市場に人が少なくて、すいすい通れてびっくりしました!」

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なるほど。それはちょっと有り難い面もありますが、節分の日の観光客を期待している方々は大変なのだと思います。。

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紫明荘稽古の後は京大宝生会稽古に行きました。

今は吉田神社の節分祭が開催されていて、そこで購入した面を掛けた人の舞も披露され…

今日も賑やかに稽古を終えることが出来ました。

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順番は逆になりますが、今朝は富士山に珍しい雲がかかっておりました。

ちょうど富士山と上下対称に見えたのです。

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世間は色々騒がしいですが、今日の京都稽古は節分を祝うように穏やかに終始いたしました。

立春の舞台

今日は水道橋宝生能楽堂にて「立春能」に出演いたしました。

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能「巴」、「吉野静」、「加茂物狂」、「鵜飼」と4番出て、私は留の「鵜飼」の地謡を勤めました。

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「鵜飼」は、数ある能の中でも地謡の謡出しが最も遅い曲だと思われます。

正午から始まった「立春能」の舞台で、私が留の「鵜飼」の地謡を謡い始めたのは17時頃でした。

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長く待った分、気合が充填されています。

そして「鵜飼」の地謡は、始まるといきなり「鵜之段」なので、一気に高いテンションで謡に入りました。

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そして中入の後も、”早笛”で後シテの閻魔大王が出てきて、最後まで力強い型やシテ謡が続きます。

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今日はシテの気持ちが非常に入っており、それに伴いやはり地謡もハイテンションで終始して、謡った時間は短いながらも謡い終えると全力を使い果たした感がありました。

私にとって今月最初の舞台で、また「立春」の名に相応しい、どこか爽快感のある「鵜飼」だったと思います。

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明日からまたしばらくは稽古の日々になります。

新型肺炎の心配などもありますが、気をつけつつ頑張って参りたいと思います。

悪夢にうなされずに済む方法

今日は朝から水道橋宝生能楽堂にて、日曜日開催の「立春能」の申合がありました。

私は能「鵜飼」の地謡でした。

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立春能申合に行くために起床する、その直前の夢の中でのお話です。

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以前にも書きましたが、私がたまに見てうなされる悪夢があります。

「やったことの無い曲のシテを舞うことになっており、鏡の間で幕が上がるのを待っている」

というシチュエーションの夢です。

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知らない型や謡を舞台上でどうやって誤魔化そうかと必死で考えるうちに目が覚めて、ホッと安堵するのが常のパターンでした。

しかし今日はちょっと違う展開になったのです。

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シチュエーションは常と同じで、今回は”勝修羅”の格好で”平太”の面までかけて鏡の間に座っていました。

一度も稽古しておらず、謡も型も全く頭に入っておりません。

「ああ、いつも見る悪夢と同じ状況だなぁ。ついに悪夢が現実になってしまうのか…」

と嘆いていたのです。

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しかし今日の私はそこでハッと気付きました。

「待てよ、今の状況ももしかしたら夢なのでは…」

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そして良く考えてみると、確実に夢だということがわかったのです。

夢の中で、

「なんだ夢か。良かった良かった。」

と安心して舞台に出て行ったあたりでアラームが鳴って目が覚めました。

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…というわけで今後はこのパターンの悪夢を見ても、夢の中で夢かどうか確認する事で、うなされずに熟睡出来そうです。