能楽堂稽古で確認する事

来たる3月9日(土)10日(日)、水道橋宝生能楽堂にて

「20周年記念澤風会大会・郁雲会大会」

を開催させていただきます。

9日に能「野宮」、10日に能「敦盛」能「砧」

が演じられ、他にも舞囃子、居囃子、一調、仕舞、素謡、独吟などがたくさん出る予定です。

今日は能「砧」と能「野宮」の稽古を宝生能楽堂でいたしました。

どちらの曲もシテはベテランの会員さんです。

しかしやはり能楽堂での稽古だと普段の江古田稽古場とは色々と勝手が違います。

稽古場と能楽堂で最も異なる要素は、

「橋掛」

だと私は思います。

私が稽古している場所で「橋掛」が真っ直ぐに能楽堂と同じくらいの長さにとれる所は1箇所も無く、普段は四角い舞台をぐるぐる回って橋掛の替わりにしているのです。

なので、今日のような能楽堂稽古では例えば「幕内から橋掛の”三の松”まで行くには何歩くらいかかるか」

と言った江古田では出来ない要素を確認するのが非常に大事です。

他にも、

「宝生能楽堂本舞台の中心線の目印はどこか」

「常座に立った時に前に何が見えるか」

など、型や謡以外にも確認する点は多数あるのです。

今日は限られた時間でとても有効な稽古ができました。

あとは来週の「申合」でまた色々と確認して微調整して、本番に備えたいと思います。

一回生だけで舞囃子が…

昨日は京都観世会館にて「同明会」が開催されました。

宝生流からは能「来殿」、舞囃子「松尾」、舞囃子「西行桜」が出て、他にも観世流金剛流の舞囃子や一調、独調などが盛大に演じられました。

京都の囃子方が主催の「同明会」は、色々珍しい番組が出るので、能楽愛好家にはとても人気がある舞台です。

終演後にロビーに出ていくと、昨日「仕舞百番舞う会」で頑張っていた京大宝生会の現役や若手OBOGもたくさん観に来ていました。

彼らの中には、お囃子を習っている人も何人かいます。

大鼓、小鼓、太鼓、笛の四拍子のうち、京大宝生会関係では小鼓と太鼓がちょっと少なめだったのですが、実は一回生達がお囃子にも興味を持って、最近何人かが習い始めたのです。

6人の一回生のうちの3人が、それぞれ大鼓、小鼓、太鼓の稽古を始めてくれました。

そして笛に興味を持った一回生もいるので、間もなく一回生だけでシテ、地謡に四拍子が揃って舞囃子が出来る事になります。

流石にこの春の新歓には難しいと思いますが、来年以降の新歓では是非とも今の一回生達が自前で舞囃子を出してもらいたいと期待しております。

百番会のテーマ

昨日京大能楽部BOX舞台にて開催された

「2024年京大宝生会仕舞百番舞う会」

今回は私としては「一回生に仕舞を沢山見てもらって、将来やりたい仕舞や、春合宿で習いたい仕舞を選んでもらいたい」

というのを最大の目的と考えておりました。

しかしいざ始めてみると、この”一回生に見てもらって”というのはちょっと的外れなテーマだとわかりました。

一回生達は”見る”というよりは、積極的に”参加”してくれたのです。

彼らは昨年習った仕舞を舞うだけでなく、先輩達の仕舞の地謡にもどんどん入って謡っています。

「班女」などという、一体いつの間に稽古したのかと思うような難しい地謡にも果敢に入っていきます。

一回生の成長ぶりは、私の想像をはるかに超えていました。これは嬉しい驚きでした。

また今回もう一つ私が決めていたのが、

「私自身は100番のうち1番も舞わない」

という事でした。

百番会を初めた頃は私が40番ほども舞っていた記憶がありますが、回を重ねるごとに私の番数は少なくなっていきました。

2019年の百番会ではブログによれば私は9番舞ったようです。

それから5年で若手OBOG達も飛躍的に実力をつけました。

もう彼らだけで100番舞えるだろうと思ったのです。

こちらの方は私の思った通りになりました。

私は地謡を少しだけ謡っただけで、仕舞は1番も舞う事なく100番目の「船弁慶キリ」まで終えることができたのです。

今回の百番会は現役も若手OBOG達も、得たものがとても大きかったと思います。

この経験を自信にして、今後の合宿、新歓、舞台に繋げていってもらいたいと願っています。

昨日参加してくれた皆様本当によく頑張りました。お疲れ様でした。

引き算の宿

昨日青森で泊まった宿は、私が各地で泊まる中でも最も安いところです。

昨日は一泊3000円でした。

部屋やベッドの広さは普通のビジネスホテルと変わりません。

では何故そんなに安いのかというと、いわゆる「アメニティ」がほとんど無いのです。

歯ブラシ、ティッシュペーパー、タオル、バスマット、髭剃りなどは全て無しで、必要な物だけ別途レンタルできます。

また「冷蔵庫」や「テレビ」もありません。

要するに「部屋」、「ベッド」、「風呂」、「トイレ」だけで、あとはなにも無し。という宿なのです。

ここまで来ると、何か能楽にも通ずるような「引き算の美学」すら感じます。

私はこういう思想にはとても共感いたします。

歯ブラシは家から持参して、あとはバスタオルだけ1枚100円でレンタルすれば充分に事足ります。

「冷蔵庫」はちょっと欲しいところなのですが、そこは青森の真冬の寒さを逆手に取ります。

窓際に冷やしたいモノを並べてカーテンを閉めれば、外は氷点下なので「即席冷蔵庫」になってしまうのです。

昨日は到着してすぐに購入した青森の食材を「即席冷蔵庫」に置いて稽古に行き、稽古を終えて22時頃に宿に戻って美味しくいただいたのでした。

(宿代が安い分、地物のお刺身などちょっと贅沢なモノを買っても心が痛みません)

私の行く地域では青森にしか無いこのタイプの宿、もっと全国的に流行ってくれたらと密かに願っております。

予報通りの氷点下…

昨日の東京は最高気温が23℃まで上がったようです。

私は天気予報を見越して、昨日は今年初めてシャツ1枚で出かけて、それで丁度良いくらいでした。

道を歩いていると沈丁花の花をやはり今年初めて見かけて、春の香りを楽しみました。

そして今日。

水道橋の「来殿」申合に行くために家を出る時のことです。

私はやはり天気予報を見越して、今日は厚手のシャツに、持っている中で一番暖かいウールのジャケットを着込んで、更に鞄にはカーディガンを入れておきました。

今日の最終目的地の予想気温は氷点下なのです。

申合を終えた正午頃の東京の気温が15℃。霧雨模様でやや肌寒い感じです。

能楽堂を出て東京駅に向かい、東北新幹線に乗りました。

車内でひと眠りして目が覚めると、外の景色が一変しています。

雪が降りしきる寒々とした東北の風景です。

更に北上して、日が暮れてから到着した街は…

気温マイナス2.5℃。

やはり天気予報通りの氷点下の寒さでした。

この日この街の最高気温は0℃で、いわゆる「真冬日」だったようです。

昨日は春、今日は真冬を体感しております。

ここまで来ると体調管理がとても難しいですが、何とか服装や食べ物などで健康維持に努めたいと思います。

坊主が屏風に…

明日は宝生能楽堂にて、今週末開催の「同明会」の申合があります。

私は能「来殿」の地謡を勤めます。

この「来殿」という曲は、

シテ…菅丞相(かん・しょうじょう)

ワキ…法性坊の僧正(そうじょう)

です。

また謡の中に出てくるシテの養父の名前が、

菅丞公(かん・しょうこう)

で、ワキ僧正はしばしば上人(しょうにん)と謡われます。

つまり一曲の中に「しょうじょう」、「そうじょう」、「しょうこう」、「しょうにん」

がランダムに出てくるという、間違いやすいトラップだらけの曲なのです。。

さらっていると、普通に”丞相”と”僧正”を間違えるだけでなく、「しょうぞう(肖像)」とか「そうぞう(想像)」など、全然違う単語も出てきたりしてもう大変です。

何となく早口言葉の

「坊主が屏風に上手に坊主の…」

という一節を思い出しました。

ある意味で覚えづらい「来殿」なのですが、先ずは明日の申合をミス無く終えられるように、

丞相、僧正、丞公、上人

の四語と今しばらく格闘したいと思います。

車内ごはんの裏技

昨夜は松本稽古を終えてから最終20時31分発の特急しなのに乗って名古屋まで行って泊まりました。

今朝の大山崎稽古に間に合うためには名古屋まで行っておく必要があったのです。

名古屋に着いてから晩御飯だととても遅くなるので、特急の中で晩御飯を済ませようと思いました。

松本駅近くのバスターミナルの地下に大きなスーパーマーケットがあり、昨夜のような時にはそこで食料を買い込む事にしています。

20時を過ぎてお惣菜はとても安くなっています。

しかし逆上して無差別に買うと大変な事になるので、私なりの一応の基準で素早く買い物をしていきます。

先ずは栄養バランスです。揚げ物は大抵安いのですが、そこは控え目にして野菜物を多めにします。昨日は”エビと青菜の中華炒め”とか。

また地元の物があればひとつは混ぜてみたいです。

昨日だと”鯉の煮付”とか。

そして地味に重要なのが、

「セロテープで蓋が止められている」

という事なのです。

なんの事かと思われるでしょう。

しかし、中央本線のようなカーブが多い路線だと、テーブルに並べたお惣菜類がカーブ毎に左右に振られて、最悪落ちてしまうのです。

なので、蓋からセロテープを慎重に外して輪っかにして、それでお惣菜をテーブルに固定する訳です。

この”技”に気づいてから、特急や新幹線車内の晩御飯が非常に快適になりました。

松本は地酒も非常に美味しいので、昨夜は15分程で素早く吟味したお惣菜を肴に、純米酒の小瓶と共に至福の車内ごはんをいただいたのでした。

稽古お休みの理由は…

今日は松本稽古日でした。

2週間前に大雪で行けなかった分の代替稽古です。

今回は無事に行けて安堵しました。

松本は晴れて気温も上がり、16時前の気温が17℃もありました。

今回は代替稽古日という事もあり、お休みの方もいらしたのですが、そのお休みの理由がなんと、

「本日のお稽古はお休みさせていただきます。
昨日のH3ロケット打ち上げを観に種子島に来ています。
申し訳ありません」

というものでした。

それは羨ましい…

また別の方は、

2/18はイグルー講習会をやる予定で残念ながらまた次回、よろしくお願いいたします」

イグルーとは雪洞の事で、この方はイグルー作りにかけては日本一という凄い方なのです。

私も一度イグルー作りに挑戦したいと思っております。

更に稽古にいらした方のお一人は、

「この度世界一周旅行に行こうと思いたちまして、5月頃までお休みさせてください」

なんだか松本稽古場の皆様は、私のやってみたい事ばかりされているようで、繰り返しですが実に羨ましい限りです。

世界一周旅行の方は、

「お土産話を楽しみになさってください」

確かにとても楽しみです。

私は皆様のお土産話を期待しながら、日々の稽古と舞台を引き続き頑張っていきたいと思います。

地謡No.3

今日は宝生能楽堂にて開催された宝生会定期公演にて能「巴」の地謡を勤めました。

私の座った位置は”後列の右端”です。

これは地頭、副地頭に次いで上から3番目のポジションにあたります。

実は私はこの”3番目ポジション”が地謡の中で一番好きな位置なのです。

「地謡はどこに座っていようが地頭のつもりで謡うのだ」

という教えも確かにあるのですが、私が3番目ポジションが好きな理由もまた幾つかあります。

第一には、「地頭の隣なので、地頭の微妙な謡の変化が良くわかる」

という事です。

今日の能「巴」は、場面によって地謡の”速い遅い”、”強い弱い”が繊細に変化する曲です。

地頭の意思を素早く受け止めて地謡に正確に反映させるには、やはり地頭の隣が一番なのです。

第二に、「プレッシャーが比較的少ない」

という事です。

同じ地頭の隣でも、やはり副地頭は責任が重くなります。

“3番目ポジション”だと、精神的な重荷が軽い分、落ち着いた気持で地謡に集中できます。

今日も繊細微妙な舞台の変化に気を配りながら、なんとか無事に謡い終えることが出来ました。

ロビーでは何人かの知り合いの方にお会いしたので、機会があれば今日の地謡の感想など伺ってみたいものです。

本日定期公演にお越しいただいた皆様ありがとうございました。