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初めての関宝連

今日は水道橋宝生能楽堂にて「関東宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されました。

私は初舞台の「日本女子大学」と「自治医科大学」の付き添いとして参加いたしました。

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全くキャラの異なるこの2校。

パワフルでどこか豪快な自治医大と、

折り目正しくお淑やかな日本女子大です。

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しかし今日はこの2校が協力し合い、また東大宝生会の皆さんのお力もお借りして、初舞台の仕舞と素謡を全て無事に終えることができました。

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私は「関宝連」のことをもう遥か昔から知っていましたが、まさか自分自身が参加することになろうとは…!

つい1年前までは思いもよらないことでした。

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今日一日で、関西とはまた違う関宝連の雰囲気を体感してとても興味深く思いました。

そして京大宝生会からも大勢が観に来てくれて、関宝連の学生さんと楽しく交流していたようです。

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今回はお客様の人数が前回から倍増していたということで、とても賑やかだった関宝連。

来春には日本女子大と自治医大ともに新入生を増やして、関宝連をますます賑やかに出来ればと思います。

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そして京大宝生会など関西の学生達との繋がりもますます密になっていくと、色々と面白いことになりそうです。

新しい縁がたくさん結ばれて、未来への予感に満ちた関宝連の一日でした。

ひたすらに歩くこと

今日は夜に渋谷のセルリアン能楽堂にて「渋谷能 第七夜」に出演いたしました。

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今回はシテ方五流が舞囃子を一番ずつ出すという大変面白い企画でした。

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金春流「高砂 舞序破急ノ伝」

観世流「屋島」

金剛流「雪 雪踏之拍子」

宝生流「安宅」

喜多流「猩々乱」

というラインナップです。

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異流合同の舞台は度々あります。

しかし今回演目を舞囃子だけに絞ることで、流儀間の違いがより鮮明に見えた気がいたします。

ワキ謡を誰が謡うか、というのにも流儀の主張が感じられたりして、色々大変興味深く拝見いたしました。

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「安宅」の地謡では、やはり同世代の他の流儀に負けないようにと気合いが入りました。

お客様の感想など聞いてみたいものです。

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話題は全くガラリと変わってしまうのですが、私は先日の「満次郎の会」で今年最後のツレが終わって以来、ひたすらに歩いております。

今日は水道橋宝生能楽堂から渋谷セルリアン能楽堂まで歩いてみました。

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来年春に能「兼平」のシテがあるので、それまでに”勝修羅”のような強い身体になりたいと思うのです。

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それならば効率的に筋トレをするべきなのでしょう。

しかし私は、「歩く」という単純な行為がとても好きなのです。

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知らない道を歩きながら、無心になったり色々なことを考えたりします。

今週はこれまでに京都と東京の街を合計80㎞ほど歩いて、たくさんの風景に出会いました。

これから春まで、色々な土地をひたすらに歩いて身体を鍛えたいと思っております。

舞台に彩りを生む謡

今日は京大宝生会の稽古でした。

「能と狂言の会」以来の稽古です。

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新しい仕舞がたくさんと、素謡も新しい曲でした。

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この間までの「能狂」直前の稽古では、完成された曲をどうしたらより良く出来るか、という事に焦点を合わせて稽古していました。

一転して今日は、新しい曲を皆がどう解釈して舞ってくるのか、謡ってくるのかを先ず見せてもらう事から始めました。

それはある意味でとても楽しみな作業でした。

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成る程、こんな風にイメージして来たのか!

と少し驚いたり、

フムフム、手堅く稽古しているな。

と納得したり。

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総じて、いつもながら短期間で新しい曲を殆ど完全に自分のものにしていて大変感心いたしました。

「関西宝連」までにもう一度稽古すれば、また大きく伸びると思われます。

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稽古を終えて皆で遅い晩御飯を食べている時、「能狂」翌日にお囃子の稽古を受けた部員の話を聞きました。

そのお囃子の先生は能「竹生島」を打ってくださった先生です。

そして、

「竹生島は場面場面で謡の位取りをきちんと変えていたので、”次はどんな謡を謡ってくるのだろう”と舞台上で楽しみに聴いていた」

と仰ってくださったそうなのです。

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私は謡を稽古する時に、

「場面ごとの位取りを良く理解して、謡分けをしっかりとする事で、舞台に鮮やかな彩りが生まれるはず」

という事を常に考えています。

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その狙い通りの事をお囃子方が感じてくださったとは、非常に嬉しいことでした。

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「能狂」という舞台は終わりましたが、その大きな成果は部員それぞれの中に確実に蓄積されたと感じます。

各々がその大きな力を携えて、新たな舞台へと再び船出した京大宝生会。

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次の舞台がまた良いものになるように、私はあと1回の稽古を全力で頑張りたいと思います。

夕霧と朝顔

今日は「第11回東京満次郎の会」にて、能「砧」のツレ夕霧を勤めさせていただきました。

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ちなみに昨年には「京都満次郎の会」にて能「熊野」のツレ朝顔を勤めさせていただきました。

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この「夕霧」と「朝顔」は、色入唐織に小面という全く同じ格好をしています。

また舞台上での役割や謡も似ている部分があります。

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しかしながら、能「砧」と「熊野」では曲の位が全く異なります。

それに伴ってツレの性格もまた、異なるものになっているのです。

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華やいだ娘という雰囲気の「朝顔」。

対して「夕霧」はその名前に象徴されるように、どこか暗く湿気を帯びた雰囲気を纏った女性だと思われます。

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…とは言えあくまでもツレなので、変に重たくなると舞台の邪魔になってしまいます。

その辺りの位取りが非常に難しかったのですが、何とか無事に勤めることが出来ました。

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私の今年のツレは、ちょっと早いのですが今日の「夕霧」が最後でした。

あとは地謡や後見、そして稽古を頑張って、師走を駆け抜けたいと思っております。

これから始まる歴史

少し時間を遡って、今週月曜日のことです。

京大宝生会が火曜日に能「竹生島」などの熱演でまた部の歴史に大きな一歩を記した、その前夜のこと。

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私は栃木県の自治医科大学に稽古に行きました。

彼らの初舞台である「関東宝生流学生能楽連盟自演会(関宝連)」がいよいよ来週末12月7日に迫って来たのです。

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内容は仕舞「鶴亀」「葛城クセ」と素謡「鶴亀」で、出入りの作法などを含めて時間をかけて丁寧に稽古いたしました。

何しろ、

「当日の着物はどうしましょう?」

「帯もありません…」

「そもそも、部の正式名称を考えないといけないのです。何か良い案はありますでしょうか…?」

まだまだ万事がこういう感じなのです。

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手探りで初舞台へと進んでいる彼らですが、謡と仕舞はとても良い仕上がりになって来ました。

同じように手探りで稽古している日本女子大の2人を含めて、当日は良い初舞台をお目にかけられることと思います。

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長い歴史を刻む部があれば、これから新しい歴史を始める部もあります。

12月7日土曜日、宝生能楽堂にて正午開始の

「関東宝生流学生能楽連盟自演会」。

もちろん自治医科大学と日本女子大の初舞台以外にも、舞囃子、仕舞、素謡など見応えのある番組になっております。

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新たな歴史の始まりを少しでも多くの皆様に御覧いただきたく思います。

どうかよろしくお願いいたします。

見えない力に支えられて

昨日の京大宝生会の能「竹生島」では、舞台上の現役達は力一杯に頑張って素晴らしい能を演じてくれました。

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その成功は、実は見えないところで沢山の人達のサポートに支えられていたのです。

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「竹生島」は最初の作り物を出すのに4人必要です。

まずその作り物を運ぶ「台持ち」としてOBのK嶋君が来てくれました。

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更に「竹生島」は”幕上げ”の回数が多く、また今回シテが高身長なこともあり中々難しかったのですが、この幕上げをOBのK崎君と、一回生が1人手伝ってくれました。

おかげで舞台が滞りなく進行しました。

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そして…

舞台を無事に終えて私が楽屋を出て帰ろうとした時、背後から「あのう…」と声をかけられました。

「澤田先生ですよね?いつも○○がお世話になっています。私○○の母親です」

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今回は見所がほとんど一杯になる程の多くの方々にいらしていただきました。

その中には先程のお母様のように、部員達のご家族が大勢いらっしゃったことと思います。

ご家族の応援は何よりの心の支えになったことでしょう。

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また東京や神戸や名古屋などご遠方からも沢山の皆様にいらしていただき、その応援もまた舞台の現役達に更なる力を与えてくれたのだと思います。

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「竹生島」ではありませんが、番外仕舞の地謡も何人かの若手OBが駆けつけて、力を合わせて謡ってくれました。

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見える力と、”見えないけれど確かに存在した力”が合わさって、昨日の舞台が成功したのです。

その見えない力を与えてくださった皆様に、改めて御礼申し上げます。

「竹生島」に力を与えてくださってどうもありがとうございました。

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あの時の竹生島

今日は京大能楽部自演会が滞りなく開催され、京大宝生会の能「竹生島」もおかげさまで無事に終了いたしました。

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昼過ぎに「竹生島」がいよいよ始まり、私は後見座で祈るような気持ちでシテツレの同吟を聴いておりました。

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やがて地謡が始まります。

最初低い調子で謡い始めますが、「ところは海の上」という部分で”下の下”という調子から”上”という高い調子に急に変わり、そこで船が広い湖上に出たことを表現します。

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しかし今日そこで私は「ハッ」と驚きました。

地謡の調子が、申合とも稽古とも微妙に違うのです。

今日はよりキッパリと、強い調子の謡に聴こえました。

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そしてその謡は、春の長閑な湖ではなく、もっと熱い風が吹いて強烈な日差しが照りつける夏の湖面を想像させたのです。

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そうです。

それはあの9月始めに皆で行った「竹生島合宿」の時の琵琶湖でした。

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「我々は今、”あの時の竹生島”への船旅を再び辿っているのだ…」

と思い、舞台上で震えるように胸が熱くなりました。

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そこから先は、天女も龍神も”あの時の竹生島”で舞っているように感じられました。

舞台が進んでいくにつれて、「最後まで無事に終わってほしい」という気持ちと「終わってほしくない、もっとこの旅を続けたい…」という想いが同時に湧いて来ました。

こんな気分になったことはこれまで一度もありませんでした。

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この先能「竹生島」に関わることは何度となくあるでしょう。

しかし今回の京大宝生会の「竹生島」のような経験は二度と出来ないと思います。

今日の「竹生島」を私は生涯忘れることはないでしょう。

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お世話になった先生方、見所で応援してくださった沢山の皆様、誠にありがとうございました。

稽古の結晶の輝き

明日、京大能楽部自演会「能と狂言の会」が京都観世会館にて開催されます。

京大宝生会の能「竹生島」もいよいよ本番を迎えます。

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これまで何十年もの間、繰り返して現役達に言い続けてきたことがあります。

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「ちゃんと稽古を積んできた舞台は、必ず見所にその努力と想いが伝わる」ということです。

そういう舞台では、もしも何ヶ所かの失敗があろうとも、その稽古の結晶の輝きには何の影響も無いのです。

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そして今回も、我々京大宝生会は能「竹生島」に向けて、個々人の持つ最大限の力をひとつに合わせて、其々の想いを持って懸命に稽古して参りました。

その結晶は既に眩しい輝きを放っています。

明日の舞台でその輝きは間違いなくお客様に伝わることでしょう。

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なので現役達は明日の本番ではどうかあまり気負わずに、緊張し過ぎずに、稽古と同じように冷静な心持ちで臨んでほしいです

そして一期一会の「竹生島」の舞台を五感で存分に味わって楽しんでほしいのです。

このメンバーでひとつの舞台を作るのはこれで最後、という気持ちよりも、このメンバーで「竹生島」を作れた喜びを舞台上で感じてくれたらと思います。

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京大宝生会が120%の本気を出して作り上げた稽古の結晶「竹生島」を、皆様どうか御覧くださいませ。

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京都大学能楽部自演会「能と狂言の会」

京都観世会館にて明日11月26日午前10時始曲。

能「竹生島」午後12時35分開始予定です。

どうかよろしくお願いいたします。

いつの間に…⁉︎

昨夜は大阪大仙公園日本庭園にての薪能「マクベス」を終えて、最寄りのJR百舌鳥(もず)駅まで歩きました。

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日本庭園から駅まで、ちょうど「仁徳天皇陵」の南端を西から東へと横断する形になりました。

そして私はその道のりの長さに驚いたのです。

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左手に黒く繁る古墳の森を見ながら早足で駅を目指します。

しかし歩けども歩けども百舌鳥駅の灯りは見えて来ません。。

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一度は訪れてみたかった仁徳天皇陵。

その広大さを暗闇の中とは言え自分の足で体感出来たのは意義あることだった、と思いながら、ほぼ全力で15分程歩いて漸く百舌鳥駅に到着しました。

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ところがそこで更に驚くべきことがあったのです。

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改札機を潜ろうとした時。背後から、

「やあ、間に合ったね」

と声を掛けられたのです。

振り返ると、先ほどまで日本庭園で御一緒させていただいた御囃子方が涼しく微笑んでいらっしゃいました。

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…しかし私は日本庭園を出る時に、その先生に

「すみません私電車の時間があるのでお先に参ります!」

と言って殆ど小走りにスタートした筈なのです。

先生は「ああ、僕は急がないからお先にどうぞ」と穏やかに仰った筈なのです。。

それがいつの間に追いつかれたのでしょう…。

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私は密かに、歩くのは早い方だと思っていたのですが、能楽師の中では全然そんなことはないのかもしれません。。

色々驚かされた昨日の帰り道だったのでした。

冷や汗ものの解説…

昨日は大阪船場にある坐摩神社(これで”いかすり神社”と読むのです)の境内にて薪能「草薙」の地謡を勤めました。

そして今日はやはり大阪の、仁徳天皇陵に隣接した大仙公園日本庭園にて、薪能「マクベス」の地謡を謡いました。

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この2公演は地謡もひとつのヤマでしたが、私にとっては「解説」を仰せつかったのがむしろ大ごとでした。。

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特に今日の新作能「マクベス」。

正直な話、私はシェイクスピアの戯曲に関する知識などほぼ皆無です。

そんな人間が解説をするなど、シェイクスピアや能「マクベス」の作者の先生など各方面に失礼になるのでは…

と内心冷や冷やしながら、何とかかんとか15分ほどお話しをさせていただきました。

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この秋は、泉涌寺での能「舎利」の時にも、泉涌寺の徳の高い僧侶様の前での解説を仰せつかり、今日と同じような冷や汗をかきました。。

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極度に緊張すると早口になるのが私の欠点のひとつです。

昨日も今日も注意されてしまいました。

舞台度胸ならぬ「解説度胸」をもっとつけて、緊張してもゆっくり丁寧にお話し出来るようにしたいと思います。