声の高さ

今日の江古田稽古に、ホームページを御覧になった方が見学に来られて、そのまま謡の稽古を少し始めてくださいました。

また新しいお仲間が増えて、嬉しい限りです。

その方は歌をうたうお仕事の女性なのですが、それでもやはり私の謡う声と高さを合わせるのが難しいと仰いました。

女性と男性は元々の声のトーンが違いますが、私の稽古に於いては、お弟子さんが一番出しやすい高さを私が探して、その高さで謡うように努めております。

その方ももう少し慣れてくれば、適切な高さが見つかると思います。

実は私は、東京芸大に入るまでは「自分の声の高さ」というものに意外に無頓着でした。

その日の体調や気分によって、日々声の調子が変わるような気もして、しかしそれでも謡は相対的な音程が合っていれば良いのかな、と思っていました。

その意識が変わったのは、芸大の「ソルフェージュ」という西洋音楽の授業でのことです。

ソルフェージュの先生が「ちょっと謡を謡ってみて」と仰られて、私が「鶴亀」の弱吟を謡ってみた所、それを瞬時にピアノで演奏されたのです。

また、高さを色々変えて、同じ鶴亀のメロディを弾いてみてくださいました。

「1オクターブの範囲で謡の高さを自在に変化させられれば、理論的にはどんな声の人とも合わせて謡うことが出来る!」ということにそこで気付きました。

それから色々試行錯誤を繰り返して、一音単位で高さを微調整出来るように努力しております。

しかしまだ上手くいかないこともあり、稽古中に気がつくとお弟子さんがすごく高い声でヒイヒイ言いながら謡っておられたりして、慌てて調子を低く直したりしております。。

お弟子さんが気持ち良く謡える高さを見極めて、瞬時にその高さで謡えるように、今後も努力を続けていきたいと思っております。

半年間待つこと

田町稽古場では、今日から新しい謡「花筺」を稽古します。

能「花筺」のシテ「照日の前」は、子方「男大跡辺皇子(おおあとべのおおじ)」の寵愛を受けて幸せに暮らしていました。

ところがある春の日に突然皇子は、一通の手紙と花籠を残して、天皇になるために都へと旅立ってしまいます。

手紙には「少しの間離れ離れになるけれど、必ずまた会える日を信じて、待っていてほしい」と書かれていました。

しかし、次に二人が再会するのは秋のことです。その間半年、照日の前は皇子に会うことも、連絡をとることさえも出来ずに待たされ続けた訳です。

その半年もの長い空白を経て再会した二人が、また元のように幸せになれたのは、現代人の私からすると驚くべきことです。

現在であれば、メールやラインで常に連絡を取り合い、半年間メールもラインも全然来ない場合、まあ途中で怒るか諦めるかしてしまいそうな気がします。

現代に於いては「花筺」のような物語は起こり得ないな…と思ったら、ちょっと設定は違いますがあるエピソードを思い出しました。

奇人変人揃いの京大宝生会OBの中でもとりわけユニークなI君。

ある日同じ京大OBで京都在住のK君の元に、I君から連絡がありました。

「原付バイクで神奈川を出発して、京都方面に旅行します。4月頃にそちらに行くので、泊めてもらえませんか?」

もちろん快諾したK君ですが、待てど暮らせどI君はやって来ません。4月が過ぎ、夏が来て、夏も終わり、秋になってようやくI君はやって来たそうです。

何故か紀伊半島先端の串本などを経由していて、遅くなったとか。

半年遅れても平然と現れるI君と、それをそれほど驚きも起こりもせずに迎えたK君。

京大宝生会に於いては、平安時代と同じように時間が緩やかに流れているのですね。

しかしこちらの話は二人とも男子なので、花筺のようにロマンチックなことは全く無いのが残念なのでした。。

初めてのお問合せ

当ホームページを立ち上げてから9ヶ月と少し経ちました。

ホームページのそもそもの目的が「出会った方々に能楽の楽しさを知っていただく」ことと、それに付随して「澤風会のお稽古のPR」というものでありました。

しかしながら、お問合せフォームからのお問合せも中々無く、実質的に既に知り合いだった方々や、澤風会の会員の皆さんとの情報共有の場として、9ヶ月運営して参りました。

それが今月に入って、全く新規の方から「お稽古を始めたい」とのお問合せを初めて頂戴したのです。

また同じくつい最近、ホームページを見たという方より「能楽師を撮影したいのでモデルになってもらえないか」とのお問合せもありました。

私としては、このホームページが縁でお稽古を始めて下さったり、また知り合いになって下さる方が唯1人でもいらしたら、ホームページ立ち上げの意味があると思っておりました。

なので、今月に入ってのこの2件のお問合せは、実は嬉しくて仕方ないのです。

お稽古を始めたいという方は来週から、また撮影したいというカメラマンの方とは11月にお会いする予定です。

このホームページから始まるご縁がこれからどう広がり、また繋がっていくのか、本当にわくわくしながら日々を過ごしております。

このページを御覧になって能楽に興味を持たれた方は、お問合せフォームよりどうかお気軽にお問合せくださいませ。

大喜びで返信させていただきます。

どうかよろしくお願いいたします。

第12回澤風会の申合

今日は、来たる10月1日に京都大江能楽堂にて開催される「第12回澤風会大会」の申合がありました。

今回は舞囃子が5番出ます。

「杜若」、「生田敦盛」、「邯鄲」、「橋弁慶」、「熊坂」です。

皆さんそれぞれ、これまで積み重ねた稽古(申合の1時間前まで稽古していたのです)の成果が出て、そして其々が何箇所か間違えられました。。

…しかしこの「何箇所か間違える」というのが、申合においてはむしろ大切なことだと私は思います。

経験則ですが、申合で完璧な人よりも、申合で課題が見つかった人の方が、本番が良い舞台になるようです。

例えばサッカーの日本代表チームも、ワールドカップ前の親善試合で手酷く負けてしまった時の方が、ワールドカップの成績が良いという記憶があります。

申合で間違えた人は、本番まで「上手く出来ないかも…」と心配したり、「覚えられていない気がする!」と追い詰められたりしてしまいます。

しかしその分、良い緊張感を持って当日を迎えられて、本番が無事に終わった時の喜びは一層大きいのだと思います。

たまに、稽古を始めたばかりの方で「仕舞の楽しさがまだわかりません…」と仰られるのを耳にすることがあります。

しかし私が思うに、一番嬉しくホッとする瞬間は「苦労して稽古した曲を本番で無事に舞い終えた直後」で、一番楽しいのは「その日の夜の宴会」なのです。

舞囃子の皆さん、そして仕舞や謡の方々も、終わった後の「嬉しい、楽しい」の為に、本番までのあと10日、もうひと頑張り稽古して参りましょう!

子供パワー

松本稽古場は、何度も書いておりますが「子供率」が非常に高い稽古場です。

昨日も稽古に行くと、澤風会最年少の5歳の男の子が「ザリガニ獲った!」とペットボトルを改造した即席水槽を見せてくれました。

私も小学生の頃にはよくザリガニ釣りをしたものです。松本の子供達は今でもちゃんと(?)川で遊んでいるのだなあと嬉しくなりました。

しかしこの子、稽古が始まるとすごいのです。

今は「西王母」の仕舞を、お母さんの打つ太鼓に合わせて舞う稽古をしています。

合わせ所の謡もきちんと覚えて、待つ所はちゃんと待ってくれます。

この歳で「舞囃子」を舞えている訳で、これは本当に大したものだと思います。

しかも、次は立場を入れ替えて、お母さんの仕舞「西王母」に合わせて太鼓を打つ、ということまで稽古しているのです。

子供がこれだけ頑張っていると、そのパワーに触発されて自然大人も頑張らねば!と思って稽古場全体が活気付いてきます。

10月15日の「松本澤風会」がとても楽しみになって参りました。

昨日はまたもう一つ子供の嬉しい話題がありました。

「先生お久しぶりです」

おお、なんと!松本稽古場の立ち上げメンバーで、現在は結婚して静岡在住の「まきさん」が遊びに来てくれました。

しかもその足元には、そっくりな顔の小さな女の子が。

「2歳になりました」

前に会った時は0歳でお母さんに抱っこされていましたが、今はもうしっかり歩き回っています。

これまで子供達を稽古した経験からすると…

私「再来年くらいから稽古できますね!」

まきさんのお父様も松本澤風会で稽古されていて、上手くいけば三代で舞台で共演、という夢も膨らみます。

昨日は小学4年生のふうちゃんが、既にお姉さんの風格で2歳の女の子の世話をしていたのも、また微笑ましい光景でした。

松本の子供達に沢山の元気をもらった一日でした。

出会いの化学反応

他の皆さんと同様に私も、これまでの人生の色々な段階で、沢山の面白い人達と出会って来ました。

全く違う時と場所で知り合ったそれら面白い人達を、引き合わせて友達になってもらうのが、実は私はとても好きなのです。

面白い人同士が友達になれば、化学反応を起こして更に面白いことが起きそうだからです。

実は今日の江古田稽古でそんなことがありました。

江古田稽古場に新たに入会してくれたのは、20数年前に京大宝生会の縁で知り合った人でした。英語の先生です。

そしてその人が稽古に来る時間帯に、私の小中高の同級生も稽古しているのです。こちらは英語の通訳をしています。

今日初めて稽古場で顔を合わせました。

私としては、その2人が目の前で会話しているのを見るのは不思議な感じなのですが、どちらも実に愉快な人物でテンションも高めなので、すぐに打ち解けて軽快に話していました。

また共に「英語」と「能楽」に関わる人になるわけで、この点でも今後何か面白いことに繋がっていけば良いと思います。

能楽を縦糸にして、これからも色々な面白い人達との出会いを織り重ねていけたら、有り難いことだと思います。