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リンボウ先生の和歌の講義

今日のニュースで「歌会始」が皇居にて催されたと知りました。

歌会始で歌を読み上げる時の独特の抑揚は、一度聴いたら耳に残ります。

「変わった読み方をするなあ」と思う人も多いでしょうが、私にとってはあの抑揚はそれ程違和感を感じないものなのです。

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というのは、謡の中で和歌を詠むシーンは割と頻繁に出てきて、その時には和歌に”節”をつけて、歌会始風にゆっくりと読み上げるからです。

私は澤風会稽古の時など、逆に「和歌を読み上げる謡は、”歌会始”のような心持ちで謡うと良いです」と会員さん達に言っているくらいです。

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そういえば、東京芸大時代に和歌に関する林望先生の講義を受講した時のことを思い出しました。

試験はレポート形式で、和歌に関する事ならなんでも可、というゆるい条件のレポートでした。

ちょっと考えて、「百人一首」の何首かの歌に謡の節を付けて、それを私が歌会始風に読み上げた音源を提出したら単位を貰えたのです。

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その講義では、「1人一首の和歌を詠む」という回もあり、15分ほど時間を与えられて参加者全員で「う〜ん」と唸りながら和歌を考えたものです。

私は結局、京大能楽部の旧BOXでのことを詠みました。

「謡ひ終へ 窓辺に寄りて 涼み居れば

北山の上を 行く夏の雲」

夏の旧BOXは本当に暑くて、エアコンなど無いので大きな窓をとにかく全開にして稽古したのでした。

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いつか時間が出来たら、和歌を詠む勉強もしてみたいものです。

2019年京大宝生会初稽古

今日は今年初めての京大宝生会稽古でした。

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今はいわゆるオフシーズンなので、各自好きな仕舞を稽古するようにしました。

外は冬の京都で非常に寒々としていたのですが、BOXに到着して稽古を始めると、皆なかなか元気の良い仕舞ばかりを希望してきます。

加茂、七騎落、国栖、また国栖、春日龍神舞囃子、またまた国栖、また加茂…

などと稽古していくと、なんだか汗だくになってしまいました。。

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「次の人は何か希望ありますか?」

「えー、鵜飼か、女郎花クセか…」

「うん、女郎花クセにしよう!」

と、思わず柔らかいものを選ばせてもらいました。

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全員揃って「中之舞」を稽古したり、オフシーズンなのに思いのほか充実した稽古を終えた後には晩御飯に行きました。

とても久しぶりに行く「三愛ふぁんてん」というお店でした。

“ふぁんてん”は”飯店”のことで、しかし中華料理店とも言い切れないという、不思議なしかし学生にとても優しいお店です。

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冬の名物の鍋や、絶品の餃子など色々食べて帰りがけにレジに寄ると、

「あれ、久しぶりやね〜!」

なんとお店の人は私の顔を覚えていてくださいました。

私「以前に来た頃は、小さな男の子がいましたね」

お店の方「あら!その子はもう高2ですよ!」

うーん、ついこの間だと思っていたのに。時の流れの速さを感じてしまいました。

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今日の京大稽古は、稽古内容も充実していたし、今の現役達に「三愛ふぁんてん」も紹介できたし、とても実りある新年初稽古になりました。

青山の琵琶ストラップ御守り

先日京大宝生会の2018年謡納めに参加した時のこと。

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謡納めが無事に終わると、今年も”申合”をしたという前部長プロデュースの美味しい鍋や、驚くことに前々部長が下宿のオーブンで自ら焼き上げたという七面鳥の丸焼きなどをいただきました。

そしてやがて卒業生へのプレゼント贈呈が始まりました。

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私の頃は謡納めではなく、冬の京宝連の後席で行われていたプレゼント贈呈式です。

今は各学年から「真面目なプレゼント」と「ネタ(受け狙い)のプレゼント」の2種類ずつが贈られるという、中々に品数が多い贈呈式でした。

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それらもひとしきり終わって、再び鍋と七面鳥に戻ろうかと思ったところで、現部長が僕の横に来て「実は…澤田先生にも贈り物がありまして…」

なんと、それは驚きです。卒業するわけでも誕生日でもなく、一体何のプレゼントでしょうか?

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部長「関西宝連の”経政”の前の日に、何人かで仁和寺にお参りに行きまして…。」

そして小さな袋を取り出しました。

部長「ついに手に入れたのです。」

おお、これはまさか!

袋から取り出してみると…

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やはり!

「青山の琵琶ストラップ御守り」!

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思えば9月初めの「経政合宿」の時に、仁和寺に参詣して境内を詳細に見て回り、この「青山ストラップ」も入手するはずだったのです。

しかし台風21号が接近していた為にその予定は叶いませんでした。

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それが遂に目の前に…!

よく見ると、ちゃんと第一〜第四の弦が張ってあります。

そして平家物語にある、

「夏山の峰の緑の木の間より、有明の月の出ずるを撥面に書かれたるゆえにこそ、青山とは付けられたれ」

という由来通りに、山から昇る月が撥面に描かれていました。

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台風襲来の前日に、京大宝生会の皆と登った双ヶ丘のことが思い出されました。

その日は台風の雲がかかり、月が昇るのは残念ながら見られませんでした。

ストラップが無事に手に入った今、次の目標はいつか双ヶ丘から昇る月を見ることでしょうか。

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そして謡納めでは、来年出す能の話もかなり具体的に相談されました。

来年もまた今年の「経政」と同様に、各人が色々な道程を経て本番の舞台を目指すことになるのでしょう。

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今年最後の太陽がつい先程沈んでいきました。

このブログもなんとかほぼ毎日書き続けて2018年を終えることが出来ます。

読んでくださった皆様、またこの1年でお世話になりました皆様、今年も誠にありがとうございました。

一番下にあったのは…

昨日書きましたように、今日の私の最大のミッションは「机の上を片付ける」ということでした。

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思えば1年前の年末は、翌3月に控えた「郁雲会40周年・東京澤風会第5回記念大会」の番組作りに大半の時間を費やしておりました。

なので机の上の整理整頓まで全く手が回らなかったのです。

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おそらく2年ぶりとなる本格的な机掃除です。

上にあるものから順々に「要るもの・要らないもの」に仕分けしていきました。

それはまた今年の時間を徐々に遡っていく作業でもありました。

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つい先日の関西宝連番組と経政の絵のチラシ→11月の京大能と狂言の会の番組とサブパンフ→10月の松本澤風会番組と乗鞍高原の地図→澤風会京都大会の番組と大山崎聴竹居のパンフレット…

と遡っていき、更に8月の岡山子供能楽教室と吉備津神社のパンフレット、松本城薪能のチラシや前座発表会番組及び松本市民タイムズの記事、3月の郁雲会澤風会の番組とパーティやお弁当など諸々の書類…

と続いていきました。

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そして机の上の山はまだまだ残っており、去年の関西宝連や京大能狂、松本澤風会、澤風会京都大会…とまた少しずつ遡って行って、遂に一番下にはなんと一昨年平成28年春の「澤風会10周年記念東京大会」の番組が埋もれていたのでした。。

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つまり今日1日で、ほぼ3年前までの自分の足跡を振り返ったことになります。

色々とても懐かしい番組や資料があり、この機会に整理して保存しておこうと思います。

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そして机の上が見違えるように綺麗になり、非常に良い気分です。

明日はいよいよ大晦日です。

たまった本の整理などをして、あとは静かに新年の訪れを待とうと思っております。

足の裏が見えるシーン

先日の五雲会での能「舎利」の数日前に、「舎利では見所に足の裏が見える可能性が高いので、新しい足袋を履きます」

という内容のブログを書きました。

今日はその後日談を。

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能「舎利」の冒頭、舎利殿を表す台が舞台の正先に出されて、更にその上に”三宝”に載せられた舎利珠が据え置かれます。

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そして前シテは中入の直前に舎利珠を取り上げた後、この”三宝”を睨みつけ、高く上げた右足で「グシャリ!」と三宝を踏み潰してから飛び去っていくのです。

舎利殿の天井を蹴破る様子をこの型で表現しているそうですが、初めて見るとちょっと驚くシーンです。

しかし能面を掛けているために、実は踏み潰す瞬間には”三宝”はシテからは見えていないので、綺麗に潰すのがとても難しくもあるのです。

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この”三宝”は、形は神社などでよく見る三宝そのものなのですが、全体が黒い布で覆われています。

この特殊な”三宝”は舎利が出る度に内弟子が手作りします。

私も何度も作ったのですが、真上から踏むと簡単に綺麗に潰れて、尚且つシテの足に刺さったり絡まったりしないように、素材や構造に工夫が凝らされているのです。

中々に手間のかかる作り物です。

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今回も楽屋で見ると、大変丁寧に作られた”三宝”でした。

これは心して踏み潰さないと。

そしていよいよ能「舎利」が始まり、話が進んで前シテが舞台の真ん中で「下に居」をするところまで来ました。

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「下に居」をすると、ちょうど正面に”舎利珠”が見えます。

そしてその先、見所の最前列のど真ん中になんと京大宝生会の若手OB2人が正に「かぶりつく」勢いで観ているのが見えたのです。

普段は脇正面に座っている2人です。これは私のブログを読んで、「足の裏が見えるシーン」を狙って正面最前列に座っているに違いありません。

これは益々失敗出来なくなりました。。

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いよいよ中入前。

私は台に飛び乗り、三宝の右横で「くるくる」と一回転してから素早くしゃがみ込んで”舎利珠”を取り上げました。

そして一度立ち上がり、三宝に向けて顔を切ってから右足を振り上げます。

するとそれを見上げる京大の2人が目を丸くしているのが一瞬だけ見えました。

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「グシャッ!」という手応え(足応え?)があった後、私はすぐに三宝から足を離し、飛び返って台から降りて幕へと走り込みました。

「果たして三宝は上手く潰れただろうか…?」

と気になって、中入してすぐに楽屋で見ていた楽師達に聞いてみると、

「ばっちり潰れてましたよ!」

との答えが返ってきて安心しました。

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そして後日、あの最前列で観てくれた2人に「どうだった?」

と聞いてみたところ、

「はい、足の裏が見えました!」

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…というわけで、”三宝”を丁寧に作ってくれた内弟子さんにも、ブログを読んで観てくれた人達にも面目が立ってホッとしたのでした。

76往復目

このところ連日「今年最後の…」という話題ですが、今日はまた「2018年最後の新幹線」に乗ったというお話です。

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試みに手帳を見て数えてみたのですが、今年は東海道新幹線(京都、大阪)と東北新幹線(青森、仙台)を合わせて76往復152本の新幹線に乗ったようです。

今は76往復目の帰りの新幹線に乗っている訳です。

改めて、私の日々の稽古や舞台は”新幹線”あってこそ可能なのだと感謝しております。

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思えば去年2017年は鉄道関係のトラブルに巻き込まれることが多かった気がします。

青森駅が全面停電で東京に戻れないとか、岡山駅でペットの犬がホームから線路に逃げて遅延とか…。

今年2018年は不思議にそんなトラブルが少ない年でした。

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今もクリスマスイブだからか新幹線はとても空いており、ゆったりと座って東京に戻れそうです。

次に乗るのは年が明けて少し経ってからになる予定です。

来年も今年と同じような移動の日々になりそうですが、願わくばトラブルの少ない1年になってほしいものです。

2019年舞台出演予定を更新いたしました

日頃ブログの更新ばかりでホームページの他の部分の更新が滞っておりまして、誠に申し訳ございません。

来年の舞台出演予定をようやく先ほど更新いたしました。

来年2019年は東京、大阪、京都、名古屋などで出演予定があります。

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5月には京宝連120回記念にあたる関西宝連大会が開催されます。

京宝連加盟大学による合同演能という話も持ち上がっております。また詳細がわかり次第発表したいと思います。

ちなみに10年前の京宝連100回記念では合同演能「竹生島」が前シテ京大、後シテ同志社、ツレ京女、地謡京大同志社連合、後見京女、という布陣で演じられました。

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…今日は久々の休みでした。これから年末年始にかけては何日か休みがあり、いよいよ今年が終わっていくという気分になって参りました。

ブログの最初の頃はカテゴリー分けが出来ていないので、その作業なども休み中にしたいと思っております。

短いですが今日はこれにて。

2018年冬の関西宝連が無事終了いたしました

本日香里能楽堂にて、関西宝連の舞台が無事に終了いたしました。

例年にも増して沢山見所に応援にいらしてくださった皆様、誠にありがとうございました。

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色々な出来事がありましたが、まだ終えたばかりで消化してお話するのが中々難しいです。。

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とりあえず能「経政」が成功裡に終わったことがやはり大きな収穫でした。

「次の能を来年冬の関西宝連で出すのは可能か、そして地頭を3回生にしても大丈夫か?」という相談を学生から受けたのが1年ほど前。

そこからの1年間の道のりは決して平坦なものではなく、部員達はそれぞれが様々な試練を乗り越えなくてはなりませんでした。

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また4月に入った1回生達は、ギリギリまで一緒に能地の稽古をして、その成果か例年よりも部員全員が一体感を持って本番を迎えられた気がします。

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そのように実に沢山の良いことや辛いことを経てついに始まった能「経政」は、とても熱い舞台になったと思います。

シテも地も気迫が漲っていて、しかし決して舞い上がること無く「静かに燃えている」という感じでした。

申合で出た修正点もことごとく改善されています。

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舞台が佳境に入ったのはクセが始まったところでした。

「月に双びの丘の松の…」という地の謡い出しは、それまでの丁寧に道を辿るような雰囲気から、ついに何かが弾けたような激しい調子になりました。

溜まっていたもの、熟成されたもの達が一気に発散されて気化していくような、なんとも言えない感情に後見座で聴いていて胸が熱くなりました。

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この舞台を間近で体感した1回生達も、きっとそれぞれに感じることがあったと思います。

その想いがまた来年再来年に能の舞台で花開き、発散されてさらに次の世代に伝わっていけば良いと思います。

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学生の皆さん今回も素晴らしい舞台をありがとう。

幹事の皆さんお疲れ様でした。

五雲会の能「舎利」無事終了いたしました

本日五雲会にて能「舎利」が無事に終了いたしました。

ご遠方からの方々も含めて、たくさんの皆様にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。

能「舎利」の感想はまた改めて詳しく書かせていただきます。。

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今年の私のシテは今日で全て終わりました。

一応ホッと一息なのですが、今は新幹線で関西に移動中です。

明日は香里園能楽堂にて「関西宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されて、京大宝生会は能「経政」を出すことになっているのです。

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明日は学生達にとってはある意味、人生の中での山場の1日になるわけです。

私はその1日が少しでも充実したものになるように、頑張ってサポートしたいと思います。

私の「舎利」と京大の「経政」

昨日のブログでも書きましたように、次の日曜日の12月16日朝10時半より、香里能楽堂にて「関西宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されます。

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京大宝生会からは能「経政」が出るのですが、実はその前日には東京で私自身が能のシテを勤めます。

水道橋宝生能楽堂にて12月15日正午始めの「五雲会」にて、能「和布刈」、能「巻絹」に続いて私が能「舎利」を舞うのです。

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因みに京大宝生会の能と私自身がシテの能が連続してあるのは初めてではありません。

そもそも私が”初シテ”を勤めた時がそうだったのです。

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平成17年11月19日土曜日、水道橋宝生能楽堂の「五雲会」にて、私は初シテの能「忠信」を舞いました。

そしてその前日の11月18日金曜日、京都観世会館での「京都大学能と狂言の会」にて京大宝生会の能「箙」があったのです。

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私はその「箙」の後見を勤めて、無事に終わったのを見届けるとすぐに東京に戻りました。

「能と狂言の会」が終わった後には、盛大に打ち上げをするのが常なのですが、この時は有り難いことに現役や若手OBOG達は打ち上げもそこそこに皆夜行バスなどで東京に移動してくれました。

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翌日私の「忠信」を観て、その後の初シテ記念パーティを京大の「箙」の打ち上げと兼ねてやる、ということにしてくれた訳です。

おかげさまで「忠信」と「箙」の2番ともに無事に終わり、パーティは能2番分の大変な盛り上がりを見せて最終的には江古田舞台で大勢で夜を明かしました。

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今回は逆に私が、自分の「舎利」を終えて土曜日のうちに関西に移動します。

京大宝生会としては2年ぶりの能となる「経政」と、その他の仕舞や謡も含めて、良い舞台になるようにしっかりとサポートしたいと思います。

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…それにしても、初シテから13年経っても私の行動パターンはあまり変わらないのだなあと、少々可笑しくなりました。