現場主義の玄翁和尚

昨日の神保町稽古には、山形県新庄の曹洞宗のお寺で僧侶をしている京大宝生会若手OBが久しぶりに来てくれました。

謡稽古は「殺生石」で、いつも曲の解説資料を作って来てくださる会員さんに今回も解説をしていただきました。

それを聞いてちょっと驚いたのが、ワキの「玄翁和尚」が”曹洞宗”の高僧だったという事です。

たまたま今回来てくれた京大OBと同じ宗派だった訳です。

解説も会員さんと若手OBが交互にする形になりました。

会員さん「玄翁和尚は、總持寺の”峨山禅師”に入門して、”二十五哲”の1人と数えられた偉い僧侶です」

おお成る程。

若手OB「でも…」

ん?

「実は總持寺から”出禁”になった事があるんですよね」

何と!それは一体なぜですか?

「玄翁和尚は、總持寺の経営に参画する立場だったのに、總持寺にはあまり寄り付かずに、諸国を巡って布教活動ばかりしていました。

それで、玄翁さんが亡くなった後に、厳密には玄翁和尚の弟子達が一時期總持寺から出禁をくらってしまったのです」

成る程。事務的な仕事よりも現場で働く方が好きな人だったのですね。

何となく玄翁和尚への好感度が増しました。

若手OB「殺生石以外にも、北は秋田から南は鹿児島まで、玄翁和尚が”悪龍”を退治した、というような伝説は多く残っています」

それはまた興味深いです。

今後どこかの土地で玄翁和尚の足跡を見つけることができるかもしれません。

また移動の楽しみがひとつ増えました。

お祭りを終えて

全宝連京都大会から1週間と少し経ちました。

あの舞台では、みんな春先からの稽古の成果を遺憾なく発揮してくれました。

そしてそれからの1週間の間に早くも、京大と自治医大から「夏合宿のご案内」というメールが届きました。

京大からは、「秋の京大能楽部自演会の舞囃子のご相談」というメールも来て、既にシテと候補曲も決まっているようでした。

お祭りのような大きな舞台を終えて、この先は合宿と稽古で地力をつけて、また次の大きな舞台へのチャレンジが始まるのです。

…しかし、学生さん達はその前に大変な実習や前期試験などが待っているはずです。

とりあえず学業のヤマを越えて無事に夏休みが迎えられるように祈っております。

京大OBOGが囃子方を勤めた舞囃子

先日の「全宝連京都大会」では、京大宝生会から舞囃子「草紙洗」を出させていただきました。

シテも地謡も全員2回生で、ちょっとだけ背伸びした舞台になります。

2回生達にとってはもちろん初めての舞囃子ですが、実は他にも”初めて”の要素がありました。

大鼓と小鼓をそれぞれ京大宝生会若手OBとOGが勤めたのです。

これまで新歓企画の舞台などではそういう事もありましたが、全宝連のような歴史ある大舞台では例の無い事でした。

しかし大鼓も小鼓も、緊張しながらも非常に気迫のこもった演奏で、笛の貞光智宣先生のリードによって大変素晴らしい囃子になりました。

また、シテや地謡にとっても、普段から京大BOXで大鼓小鼓と何度も稽古ができたので、若い2回生達にとっては安心感に繋がったと思います。

今回の舞囃子「草紙洗」が無事にできた事で、2回生は大きく成長しました。

そしてまた囃子方を勤めた若手OBOGにとっても、今回の舞台の成功によって、今後も同じように学生達の囃子が打てる可能性が広がりました。

秋の京大能楽部自演会「能と狂言の会」では、更にパワーアップした舞囃子が披露できる事と期待しています。

舞台を”言語化”して観るということ

先週土曜日の全宝連京都大会レセプションの時のお話です。

宝生和英家元は昼間の国立能楽堂での舞台の後すぐに京都に駆けつけてくださり、レセプションの冒頭でスピーチをしてくださいました。

その中で家元は、

「他の学生達の舞台を見るのはとても大事です。他人の芸の長所と短所を”言語化”して、それを自分の芸に活かすのです。私も常にそうしています」

と仰いました。

「長所短所を言語化する」

という考え方は初めて聞いたので、すぐには腑に落ちませんでした。

しかしよくよく考えてみると「成る程!」と目から鱗が落ちる思いがいたしました。

例えば、

「この人は運びの最中に下を向いている」

とか、

「今の飛び返りはとてもキレが良かった」

というのを、普段の私は感覚的にしか捉えていなくて、「何となく上手い」としか認識していませんでした。

それを”言語化”して改めて認識し直す事によって、

「運びの最中に下を向かないように気をつけよう」

とか、

「キレのある飛び返りを研究してみよう」

と具体的に自分の芸に活かす事ができるのです。

今後は私も他人の舞台を観て気付いた事は一度”言語化”して、自分の芸の改善に努めていきたいと思います。

家元の貴重なお言葉は学生達にもきっと響いたことでしょう。

有り難い事でした。

全宝連京都大会が盛大に開催されました

昨日一昨日と京都金剛能楽堂にて、

「全宝連京都大会」

が盛大に開催されました。

コロナ禍の時には開催見送りやオンラインでの開催、また開催されても学校毎に固められた番組で、学生同志の交流が制限されていました。

しかし今回からは、番組も色々な大学がランダムに配置され、また初日終了後には京都ガーデンパレスホテルにて、全国の学生と、宝生和英御宗家始めシテ方能楽師も参加した「レセプション」も開催されました。

完全にコロナ以前に戻った雰囲気の2日間で、特にレセプションでの学生達の楽しそうな様子は、見ているこちらも思わず笑顔になってしまうほどでした。

そしてもちろん、2日間にわたる舞台は非常に熱気溢れるもので、見所も学生やOBOG、また学生のご家族などで終日賑やかでした。

舞台でも楽屋でも、またレセプションやその前後にも、本当に多くの素敵なエピソードが生まれた「全宝連京都大会」でした。

また個別のエピソードも改めて書かせていただきます。

今回の全宝連に関わったすべての皆様、特に運営を担って大会を成功させた全宝連委員の皆様に心より御礼申し上げます。

全宝連前の仕上げの京大稽古

今日は「全宝連京都大会」前日、京大宝生会の仕上げの稽古に行きました。

新入生3人は仕舞の初舞台です。

3人とも作法までちゃんと出来るようになっていて、先輩達がよく稽古してくれたと感心しました。

素謡「敦盛」も、新入生も含めて全員がきちんと暗記して無本で謡えていました。

明日は天気も回復しそうです。

私も朝早めに金剛能楽堂に行って、直前の準備を手伝いたいと思います。

全宝連での得難い経験

いよいよ明後日から「全宝連京都大会」が2日間にわたって開催されます。

私が全宝連委員長を勤めたのは確か平成3年の全宝連京都大会で、会場は四条室町上ルの旧金剛能楽堂、レセプション会場はコープイン京都でした。

今は金剛能楽堂は御所の西に移り、コープイン京都も無くなりました。

あれから幾星霜、コロナ禍も乗り越えて、また京都に全宝連が帰ってくるのは実に感慨深いです。

と言っても私が委員長を勤めた時は、私自身は2日間ほぼずっと玄関に座って、全国から来る皆さんや、能楽師の先生方をお迎えしたり、色んなトラブルへの対応に終始していました。

自分が出る時以外の舞台は全く見られなかったので、舞台の記憶は殆ど無いのです。

正直しんどい仕事でした。

しかし、例えば目上の人への手紙の書き方、口のきき方、フォーマルなレセプションでの挨拶の仕方などは、この全宝連委員長の時に初めて経験しました。

そしてその経験が今の私の日常にも確実に活かされているのです。

今回も神戸大の委員長さんを始め、全宝連委員や関西の大学の学生は、これから本番終了まで、間違いなく大変な数日間になる事でしょう。

でもその大変な経験は、将来きっと自分を助けてくれる、得難い経験になるというのもまた、間違いない事なのです。

全宝連京都大会が実り多い舞台になるように、私も全力でお手伝いしたいと思います。

全宝連京都大会のお知らせ

今週末の6月29(土)30日(日)に京都金剛能楽堂にて、

「全国宝生流学生能楽連盟自演会京都大会」

が開催されます。

東京、名古屋、金沢、関西を中心に、宝生流を稽古する全国の学生達が一堂に会する盛大な催しです。

29日10時半〜15時まで学生自演会

30日は10時〜13時まで学生自演会、15時から鑑賞能があります。

学生自演会は入場無料、鑑賞能は有料の催しになります。

鑑賞能は宝生和英御宗家による

能「鞍馬天狗 白頭」

ほか、各大学を指導する能楽師による仕舞が多数演じられます。

番組は下の通りです。

詳細情報、また鑑賞能チケットの購入は下のリンクをご覧くださいませ。

鑑賞能チケットは当日受付でもご購入いただけます。

学生達の熱い舞台と、その後の盛りだくさんな内容の鑑賞能を観に、週末は是非京都金剛能楽堂にお越しくださいませ。

よろしくお願いいたします。

https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=10193

https://zenporen2024.peatix.com/?lang=ja

和洋折衷言語での稽古

今日は久しぶりの京大稽古でした。先月の「関西宝連」以来の稽古になります。

「関西宝連」では素謡「鶴亀」だけの出演だった新入生達は、来る6月29.30日の「全宝連京都大会」で仕舞デビューすることになっています。

新入生の仕舞を1人ずつ本格的に稽古するのは初めてだったのですが、既に関西宝連で謡を稽古した効果が出て、シテ謡がちゃんと謡の声になっていて驚きました。

またカナダからの留学生も仕舞「紅葉狩」を出すので、2回生の先輩が稽古をつけていました。

その稽古が英語を交えたとても面白いものでした。

「ユア上半身キープストレート!(上半身を真っ直ぐに!)」

「ライク キング!(王様みたいに胸を張って!)」

「フットは全部キープグラウンド!(足の裏を地面につけたままで摺り足!)」

という和洋折衷言語で、聞いていてちょっとニヤリと笑ってしまいました。

でもこの稽古を受けた留学生さんは意味を良く理解して型をやっていて、中々に筋が良いのです。

全宝連までにはまだ稽古があるので、より精度を上げて、良い仕舞になるように私も頑張って稽古したいと思います。

私は日本語しか使えないのですが…。

京大宝生会流の追善謡

先週末の「京大宝生全国OBOG会」では、4月29日に亡くなられた佐藤孝靖先輩の追悼で「融」が謡われました。

ちょっと変わった謡い方で、「それは西岫に」から始めて、1人が一句ずつ交代で謡っていきます。

私は「例えば月のある夜は星の薄きが如くなり」を謡いました。

数十年来の交友があったOBが、それぞれの佐藤先輩への想いを込めて、一句を大切に謡っていきます。

掛け合いの部分が終わって、

「影傾きて明け方の」

からは全員で謡います。

京大宝生会30人の声が唱和すると、底力のある重厚な響きになりました。

舞台正面には笑顔の佐藤先輩の遺影が飾られていたのですが、その瞬間には笑みが一層深くなって、細かくウンウンと頷かれたような気がいたしました。

カレンダーの6月1日の欄に、

「京大宝生全国OBOG会」

と大きく書いておられたという佐藤孝靖先輩。

間違いなく誰よりも今回の久々のOBOG会を楽しみにされていました。

御参加が叶わなかったのは誠に残念無念ですが、京大宝生会流の追善謡「融」にはご満足いただけたと思います。

そしておそらく天上では、辰巳孝先生や小川先生、坪光先生、植田先輩、米澤先輩、塚本先輩といった錚々たるメンバーに佐藤先輩も加わった舞台が、地上と平行して盛大に催されていたことでしょう。