あとは”十郎”のみ

昨日は新作能「王昭君」が終わった後にすぐ大阪から名古屋に移動して、名古屋宝生会の能「嵐山」と能「夜討曽我」の申合がありました。

そして今日の午後から本番があり、先ほど無事に終了いたしました。

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私は「夜討曽我」の団三郎を勤めさせていただきました。

「夜討曽我」はいわゆる「人数物」で、五郎、十郎、団三郎、鬼王、古屋、五郎丸、縄取2人、と大勢の役が舞台に登場します。

今回”団三郎”を勤めたことで、私は”十郎”以外の全てのシテとツレの役、また後見、地謡も勤めたことになりました。

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因みにこの1年半の間だけでも、鬼王、五郎、五郎丸、今日の団三郎と4回舞台に立っております。

更に言いますと、明々後日水曜日の夜には千駄ヶ谷の国立能楽堂で辰巳満次郎師がシテの能「夜討曽我」があり、私は副後見を勤めます。

「夜討曽我」の後見はやる事が多く大変なので、心して準備したいと思います。

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こうなると、いつの日か”十郎”を勤めて「夜討曽我」の役をコンプリートしたいものです。

新作能における「演出」の効果

昨日は夕方まで丹波橋で紫明荘組稽古をした後に、電車を何本も乗り継いで大阪南部の高石市に移動しました。

夜に新作能「王昭君」の申合があったのです。

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そしてそのまま高石市に一泊して、今日「王昭君」の本番の舞台がありました。

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最初の謡本の読み合わせから始まって、稽古を重ねるごとに徐々に彩りを加えていった「王昭君」。

それがまた昨日の申合を経ての今日の本番にかけて、ダイナミックに進化を遂げてゆく様を目の当たりにしました。

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本物の丸鏡や琵琶を使った所作、またお囃子方それぞれの技巧を駆使した音や掛け声。

これらの謡本には書かれていない要素によって、舞台の上が日本の貞保親王の邸から、馬の嘶く胡国の草原へ、また王昭君が貞保親王に手ずから琵琶の秘曲「王昭君」を教えるシーンへと鮮やかに変化していきました。

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「演出」というものの大切さと、その効果の大きさを今回の新作能「王昭君」で強く実感させていただき、非常に勉強になりました。

冬の奥州市へ

今日は水道橋での「五雲会」の後に、東北新幹線で岩手に移動しております。

明日は「岩手未来機構」さんの主催による小学生能楽教室があるのです。

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場所は「水沢江刺駅」から近い山の中のお寺とのことです。

水沢江刺といえば、私には去年の初夏のことが思い出されます。

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去年5月終わりの夜能「夜討曽我」シテの後に俄かに喉が枯れてしまい、暫くの間掠れ声が治りませんでした。

その時に松本の「クチーナにし村」さんから蜂蜜をいただいたのです。

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蜂蜜は喉に良いということで、毎日スプーン一杯舐めながら喉を治しました。

その蜂蜜の産地が「水沢江刺駅」のある奥州市の近辺だったのです。

(詳しくは去年6月4日のブログに書いてあります)

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今はおそらく雪に閉ざされている奥州市の森林や草原。

去年の春にそこから蜜蜂達が集めてきてくれた蜂蜜は、喉を癒やす効果を越えて「蜂蜜はこんなに豊穣な味がするのか」と、驚くほどの美味しさでした。

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今回初めて降り立つ「水沢江刺」。

周りの森や山や、今は活動していない蜜蜂達に感謝しながら、明日の能楽教室を頑張りたいと思います。

風邪予防のために

今日は朝から水道橋宝生能楽堂にて「五雲会」の申合があり、私は能「小鍛冶」の地謡を勤めました。

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私の周りではそろそろ風邪やインフルエンザが流行りだしており、今日も体調不良でお休みの楽師がいました。

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私は能楽堂や稽古への行き帰りはマスクで風邪予防しています。

しかし、舞台の上は勿論のこと、楽屋や稽古場でもマスクは外さなくてはなりません。

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これらの場所でもなんとか予防する方法は無いものかと思っていたら、「エアーマスク」というものがあるのを教えてもらいました。

ネームホルダー型の「エアーマスク」を首から下げておくと、屋内の閉じた空間内で自分の周囲を除菌してくれるらしいのです。

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効果の程度は未知数ですが、早速購入してみました。

今シーズンはこれまで全く風邪の気配も無く健康体を維持しているので、何とか「エアーマスク」の力も借りて、このまま乗り切りたいと思っております。

新春の月並能

今日は水道橋宝生能楽堂にて「月並能」が開催されました。

私は能「国栖白頭」の地謡を勤めました。

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能の地謡は昨年12月の月並能以来なので、約1カ月ぶりになります。

期間が長めにあいたのと年が改まったのとで、なんだかとても新鮮な気持ちで地謡座に座らせていただきました。

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以前にも書きましたが、1月の月並能では地謡が”裃”を着用します。

そして舞台の四方の柱の上の方には注連が張り巡らしてあり、いかにも新春らしい清浄な雰囲気でした。

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この先は五雲会や名古屋宝生会、新作能や国立能楽堂公演などが立て続けに控えており、いよいよエンジン全開モードになって参ります。

謎の部品…

今日は近所の大きなホームセンターに行ってきました。

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そして色々見繕った結果、下の写真のようなパーツなどを購入いたしました。

まだ未完成なのですが、勿論能に使う何かです。

ちなみにパイプは1本が約二尺強の長さです。

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この部品が今回最大の収穫で、見つけて思わず「うおー、あった〜!」と1人で喜んでしまいました。こういうのを探していたのです。

皆さまには何のことやらわからないと思いますが。。

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パイプ寸法の微調整や足りないパーツの調達などを明日の田町稽古の前に済ませたら、とりあえずの形は出来上がると思います。

これを使う時が来たら、また皆さまに完成品を披露したいと思います。

以前に「竹生島の船」を稽古用に作ったことがありますが、今回はそれ以来の”作り物”製作になります。

完成が楽しみです…!

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ちょっと短いですが今日はこれにて。

第6回澤風会東京大会に向けて

今年3月9日に東京渋谷のセルリアンタワー能楽堂にて「第6回 澤風会東京大会」を開催いたします。

その番組作りに年明けから取り掛かりました。

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今年は昨年と異なり1日だけの会なので、番組の分量はちょっと少なくなります。

しかし今回も舞囃子が10番ほど出る予定で、昨年能を舞われた方も含めて皆様それぞれ新たな境地の曲に取り組んでおられます。

また仕舞でも、例えば高校生達は「船弁慶キリ」や「野守」と言った難易度の高い曲に挑戦します。

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そして松本の小中学生達も仕舞を舞ってくれる予定です。

「渋谷〜❗️絶対行く〜❤️」

と、なにやら舞台以外の要素で魅かれている節がありますが、勿論しっかり稽古しているので良い仕舞を見せてくれるでしょう。

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更に京都紫明荘組や松本澤風会から、また京大宝生会の現役とOB会の方々も多数ご参加くださる予定です。

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この「第6回澤風会東京大会」が良い舞台になるように、これから本番3月9日まで頑張って稽古して参りたいと思います。

また会のことは折に触れて書かせていただきます。

新作能に吹き込まれる生命

あっと言う間に今年も4日が経過してしまいました。

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年末からずっと東京で過ごしていますが、お正月の東京は何と言っても電車が空いているのが良かったです。三が日の移動中はゆっくり座って本を読むことができました。

そして忘年会シーズンに多かったホームの酔客もお正月には姿を消して、東京も一年中この雰囲気と人口密度ならもっと住みやすいのに…と思ってしまいます。

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今日は水道橋で新作能「王昭君」の稽古がありました。

私は地謡での参加なのですが、一回稽古する度に節や位や囃子の手組が定まっていき、まるで曲に徐々に命が吹き込まれていくように感じます。

これに型が加わって立体的になると、いよいよ曲が生命を持って動き出すわけです。

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新作能に限らず、能は謡本を読んだだけの印象と、実際に能舞台で演じられた時の見え方が全く異なる曲が多い気がします。

今回の新作「王昭君」が舞台の上でどのような能として顕現するのか、楽しみになってまいりました。

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新作能「王昭君」

1月26日(土)13時半開演 於たかいし市民文化会館アプラ大ホール

チケット一般1000円 高校生以下500円

お問合せアプラホール072-267-0018

一番下にあったのは…

昨日書きましたように、今日の私の最大のミッションは「机の上を片付ける」ということでした。

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思えば1年前の年末は、翌3月に控えた「郁雲会40周年・東京澤風会第5回記念大会」の番組作りに大半の時間を費やしておりました。

なので机の上の整理整頓まで全く手が回らなかったのです。

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おそらく2年ぶりとなる本格的な机掃除です。

上にあるものから順々に「要るもの・要らないもの」に仕分けしていきました。

それはまた今年の時間を徐々に遡っていく作業でもありました。

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つい先日の関西宝連番組と経政の絵のチラシ→11月の京大能と狂言の会の番組とサブパンフ→10月の松本澤風会番組と乗鞍高原の地図→澤風会京都大会の番組と大山崎聴竹居のパンフレット…

と遡っていき、更に8月の岡山子供能楽教室と吉備津神社のパンフレット、松本城薪能のチラシや前座発表会番組及び松本市民タイムズの記事、3月の郁雲会澤風会の番組とパーティやお弁当など諸々の書類…

と続いていきました。

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そして机の上の山はまだまだ残っており、去年の関西宝連や京大能狂、松本澤風会、澤風会京都大会…とまた少しずつ遡って行って、遂に一番下にはなんと一昨年平成28年春の「澤風会10周年記念東京大会」の番組が埋もれていたのでした。。

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つまり今日1日で、ほぼ3年前までの自分の足跡を振り返ったことになります。

色々とても懐かしい番組や資料があり、この機会に整理して保存しておこうと思います。

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そして机の上が見違えるように綺麗になり、非常に良い気分です。

明日はいよいよ大晦日です。

たまった本の整理などをして、あとは静かに新年の訪れを待とうと思っております。

足の裏が見えるシーン

先日の五雲会での能「舎利」の数日前に、「舎利では見所に足の裏が見える可能性が高いので、新しい足袋を履きます」

という内容のブログを書きました。

今日はその後日談を。

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能「舎利」の冒頭、舎利殿を表す台が舞台の正先に出されて、更にその上に”三宝”に載せられた舎利珠が据え置かれます。

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そして前シテは中入の直前に舎利珠を取り上げた後、この”三宝”を睨みつけ、高く上げた右足で「グシャリ!」と三宝を踏み潰してから飛び去っていくのです。

舎利殿の天井を蹴破る様子をこの型で表現しているそうですが、初めて見るとちょっと驚くシーンです。

しかし能面を掛けているために、実は踏み潰す瞬間には”三宝”はシテからは見えていないので、綺麗に潰すのがとても難しくもあるのです。

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この”三宝”は、形は神社などでよく見る三宝そのものなのですが、全体が黒い布で覆われています。

この特殊な”三宝”は舎利が出る度に内弟子が手作りします。

私も何度も作ったのですが、真上から踏むと簡単に綺麗に潰れて、尚且つシテの足に刺さったり絡まったりしないように、素材や構造に工夫が凝らされているのです。

中々に手間のかかる作り物です。

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今回も楽屋で見ると、大変丁寧に作られた”三宝”でした。

これは心して踏み潰さないと。

そしていよいよ能「舎利」が始まり、話が進んで前シテが舞台の真ん中で「下に居」をするところまで来ました。

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「下に居」をすると、ちょうど正面に”舎利珠”が見えます。

そしてその先、見所の最前列のど真ん中になんと京大宝生会の若手OB2人が正に「かぶりつく」勢いで観ているのが見えたのです。

普段は脇正面に座っている2人です。これは私のブログを読んで、「足の裏が見えるシーン」を狙って正面最前列に座っているに違いありません。

これは益々失敗出来なくなりました。。

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いよいよ中入前。

私は台に飛び乗り、三宝の右横で「くるくる」と一回転してから素早くしゃがみ込んで”舎利珠”を取り上げました。

そして一度立ち上がり、三宝に向けて顔を切ってから右足を振り上げます。

するとそれを見上げる京大の2人が目を丸くしているのが一瞬だけ見えました。

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「グシャッ!」という手応え(足応え?)があった後、私はすぐに三宝から足を離し、飛び返って台から降りて幕へと走り込みました。

「果たして三宝は上手く潰れただろうか…?」

と気になって、中入してすぐに楽屋で見ていた楽師達に聞いてみると、

「ばっちり潰れてましたよ!」

との答えが返ってきて安心しました。

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そして後日、あの最前列で観てくれた2人に「どうだった?」

と聞いてみたところ、

「はい、足の裏が見えました!」

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…というわけで、”三宝”を丁寧に作ってくれた内弟子さんにも、ブログを読んで観てくれた人達にも面目が立ってホッとしたのでした。