能「鵜飼」に向けて

今日は水道橋宝生能楽堂にて「月並能」の申合がありました。

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その後に来週土曜日開催の「五雲会」の稽古があり、私は能「鵜飼」のシテを勤めるのでその稽古を受けました。

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「鵜飼」という曲は、私が京大宝生会を指導するようになって初めて教えた能なので、とても思い出深いものがあります。

その時の事は去年2018年5月11日のブログに詳しく書きました

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当時数十回は稽古を重ねました。

その時の蓄積と、それから現在までの経験を掛け合わせて、今の私なりの「鵜飼」を舞台に出せればと思っております。

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京大宝生会の「鵜飼」でシテを勤めたOBが、もしかして見に来られるかも…という話もあり、とにかくまだまだ頑張って稽古して、良い舞台にしたいと思います。

話題は豊富なのですが…

今日は午後に国立能楽堂にて能「藤栄」の地謡を謡い、その後宝生能楽堂にて私自身の能「鵜飼」シテと能「草紙洗」ツレ貫之の稽古を受け、さらにその後夜に田町稽古でした。

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田町稽古では、産経新聞の読者投稿欄に先日京都大江能楽堂にて開催された「関西宝連」をご覧になった方の投稿が載っていた話を聞き驚きました。

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更に、今日も自治医科大学から授業を終えて田町に来てくれた青年より、「自治医科大学能楽部」の大学への申請が認められたとの嬉しいニュースもありました。

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色々話題は豊富なのですが、今日は帰宅してからも細かな仕事がまだまだ残っており、短いのですがこれにて失礼いたします。

芦屋が舞台の能「藤栄」

今日は朝に松本を出て新宿に戻り、そのまま千駄ヶ谷の国立能楽堂にて明日開催の能「藤栄」の申合に向かいました。

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この能「藤栄」は能「鉢木」と並んで、最明寺時頼の「世直しシリーズ」のうちの一曲です。

変則的な構成の曲で、シテ、ワキ、ワキツレ、間狂言、子方が複雑に絡んでストーリーが展開します。

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地謡も通称「根白節」という有名な難しい箇所があるなど、中々に手強い曲です。

松本からの特急「あずさ」車内でも小本を広げて、念入りに地謡を浚いながら国立能楽堂に入りました。

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いざ申合が始まってみると、変な話ですが改めてこの曲が”芦屋”を舞台にした話なのだと思い出しました。

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私は芦屋稽古の時に、阪急芦屋川駅から稽古場に向かう途中にある「月若公園」という細長い公園の横を度々通っていました。

実は能「藤栄」の子方の名前が「月若」なのです。

おそらくあの「月若公園」のある辺りから、芦屋川を下って海に出る辺りの土地で能「藤栄」のストーリーが展開されていたのでしょう。

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そう考えると、手強いと思っていた「藤栄」の地謡も、なんだか親しみのあるものに思えて来たのです。

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明日は午後から国立能楽堂での本番です。

月若公園と芦屋の風景を思い出しながら、頑張って地謡を勤めたいと思います。

第14回涌宝会大会に出演して参りました

昨日今日と、名古屋能楽堂にて開催された「涌宝会大会」に出演して参りました。

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20番近くの舞囃子と能「羽衣 盤渉」を初め、実に膨大な量の充実した番組でした。

会主の和久荘太郎さんは、金土日の三日間、申合と本番を殆ど謡い通し。

しかも昨日は番外舞囃子「当麻」、今日も舞囃子「橋弁慶」のシテまで舞われて、いつもながらその無尽蔵なバイタリティには驚かされました。

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盛りだくさんの番組で特に印象に残ったのが、名東高校の学生さん達による舞囃子「氷室」でした。

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シテ、地謡、大鼓、小鼓、太鼓、笛を全て高校生が勤める舞囃子です。

しかも「氷室」という曲は、かなり難易度も高く、大学の能楽部でも滅多に出ない曲なのです。

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その難しい舞囃子を、全ての役が見事に調和して完成させていました。

高校生なので、稽古を始めてから長くても2年程のはずなのに、このハイレベルな舞台は本当に驚くべきことでした。

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京大宝生会で囃子を習っている学生達も、今日の「氷室」のような全員現役学生の本格的な舞囃子に、定期的に挑戦出来たら良いと思いました。

舞台ではシテや地謡も多い彼らなので、そんな挑戦が可能かどうか、折を見て相談してみようかと思います。

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今回もまた大いに刺激を受けた「涌宝会大会」でした。

涌宝会の皆様、和久荘太郎様、誠にありがとうございました。

明日も頑張ります。

今日は舞囃子「当麻」などの地謡をなんとか無事に終えることができました。

諸般の事情によりまして、詳しくは明日まとめて書かせていただきたいと思います。

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明日も地謡など色々頑張ります。

歩きながら謡を覚えること

今週は覚えるべき謡が沢山ありました。

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東北新幹線や東海道新幹線で大方は消化したのですが、最後にボスキャラが一曲残ってしまいました。

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「当麻」です。

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舞囃子の地謡部分なので、ページにすると僅かなのですが、内容がとにかく難しいのです。

仏教用語が頻繁に出てくる曲は他にもあります。しかし当麻では…

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「為。一切世間。説此難信。之法。是為。甚難。」

というように、最早読み方すら判らない言葉が羅列されているのです。。

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新幹線で「当麻」の小本を開いていても、眠気が襲ってくるばかりでちっとも頭に入ってくれません。

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こんな時私は「歩きながら覚える」という手法をとることがあります。

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今日の場合だとシャツの胸ポケットに小本を入れて、片手でキャリーバックをコロコロ引きながら覚えていきます。

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「歩きスマホ」ならぬ「歩き小本」も危ないので、本は見ないで文句を小声で口ずさみながら歩いていき、わからなくなった箇所を信号待ちの間に小本で確認するのです。

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歩いていると眠気も来ないし、気分も変わるので、謡が頭に入りやすい気がします。

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今日は宝生能楽堂→わんや書店→神保町古本屋街→日比谷線秋葉原駅

というルートを辿り、途中古本屋さんに寄ったりしながら90分程かけてなんとか「当麻」を頭に入れる事が出来ました。

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舞囃子「当麻」地謡の本番は明日夕方なので、もう何度か浚い直してから舞台をむかえたいと思います。

金野泰大君の結婚式に出席して参りました

今日は宝生流能楽師の金野泰大君の結婚式と披露宴に出席して参りました。

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金野君は私の後輩で、宝生能楽堂での内弟子生活を5年ほど共にした仲間です。

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飯田橋のホテルのチャペルでの結婚式から参列したのですが、意外にも正式な教会での結婚式は殆ど経験がなく、色々なことが新鮮でした。

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中でも牧師様があの誓約の言葉「貴方は健やかなる時も、病める時も…」

を述べる時の”位取り”には実に感銘を受けました。

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誓約の文節ごとに空く絶妙な”間”によって式場の視線と気持ちが徐々に牧師様に集まります。

そして牧師様は、新郎新婦の「誓います!」という宣誓を聞いて控えめながらしっかりと頷き、何とも言えず幸福そうな笑みを浮かべて、

「アーメン」

と穏やかな調子で祝福をされたのです。

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一連の牧師様の所作を見ることによって、参列した私も自然と幸せな気持ちになりました。

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牧師様は、もちろん信仰に基づいた正式な作法に則って、決まった言葉と動作をされたのだと思われます。

しかしあの絶妙な間と所作は、能の舞台にも是非参考にさせてもらいたいと思いました。

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結婚式の後の披露宴もとても和やかで、心のこもったスピーチなどもあり、最後の新婦さんのお父様へのお手紙朗読では、私も感動して思わず目頭が熱くなりました。

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金野君今日は本当におめでとうございます。

どうか末永くお幸せに!

風に吹かれて…

昨日は全国的に記録的な暑さになりました。

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「関西宝連」が開催された大江能楽堂は、舞台と見所ではエアコンがよく効いて涼しかったのですが、楽屋の廊下はエアコンがありません。

廊下の気温計は午後には31℃を示していました。

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関西宝連の後半には、京大宝生会は素謡「清経」、仕舞「三輪キリ」、舞囃子「船弁慶」「春日龍神」、そして半能「高砂」とほとんど立て続けに出番がありました。

上回生は汗だくで舞台から帰って来て、廊下で更に大汗をかいてからまた舞台に出て行くという可哀想な有様でした。。

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来月末の全宝連の舞台では、熱中症にならないように充分な注意が必要だと思います。

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そして京都は今日も同じくらいの暑さでした。

私はその暑さの中、紫明荘組稽古のために「ゲストハウス月と」に向かいました。

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汗をかきながら「月と」に到着すると、いつもは閉まっている玄関の引戸が全開になっています。

「珍しいな…」と思いながら2階の和室に上がると、なんと2階の窓も全て全開になっていたのです。

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北側の窓から覗くと、向かいのゲストハウス棟の何ヶ所かの窓も同様に全開でした。

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最初少しの間は、「エアコンが恋しいなぁ…」と思ってしまいました。

しかし稽古を始めてみると、実に良い風が和室を通り抜けていくことに気づいたのです。

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和室だけでなく、「月と」全体を爽やかな風が吹き抜けているようでした。

宿泊客が窓辺に椅子を出して、風に吹かれて読書をする姿がとても心地好さそうに見えます。

昔ながらの日本家屋の”自然と共生する力”を改めて実感しました。

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また、窓を開けることで思いもよらぬ効果がありました。

仕舞の稽古をしていると、全開の窓の向こうに丁度”丸太町通”が見えます。

そしてその丸太町通の向こう側の歩道を歩く人々が、結構な確率でこちらを興味深げに眺めていくのです。

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確かに、古民家の窓から扇を持って舞う人が見えるというのは、京都らしい風情ある景色なのでしょう。

中にはわざわざ立ち止まって見ている人までいました。

窓を開けるだけで、良い宣伝効果が得られたわけです。

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夕方になると気温も少し下がって来て、風は一層気持ち良く吹いて来ます。

結局1日エアコンを使わずに、実に健康的な稽古日になりました。

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流石に真夏には難しいと思いますが、これからも「月と」では可能な限り窓を開けて稽古して、日本家屋の良さを味わいたいと思います。

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月の道薪能2019に出演いたしました

今日は熱海サンビーチにて「月の道 薪能」に出演いたしました。

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午後に熱海サンビーチに到着した時には、気温が高くまるで夏のビーチのようでした。

写真右端に橋掛と舞台が見えますが、その向こうの海岸では結構な数の人が波打ち際で水遊びしたり、泳いだりしていました。

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しかし日が落ちると急に冷んやりとして、ちょっと肌寒いくらいの空気になりました。

そしてマリーナに停泊する船の向こう、水平線からは…

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満月が昇ってきたのです。

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最後の演目、薪能「天鼓」は秋の曲です。

地謡に座ってワキ謡「頃は初秋の空なれば…」

と聞いていると、まるで自分が秋の名月の下で舞台にいるような錯覚を覚えたのでした。

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明日から天気が崩れるようなので、昨日今日と外で予定通り薪能が開催されて幸いでした。

令和元年シーズン初の薪能

今日は水道橋宝生能楽堂にて「五雲会」に出演いたしました。

私は正午始めの初番の能「俊成忠度」の地謡を勤めましたが、終わって楽屋での挨拶を済ませるとすぐに水道橋を出ました。

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夜に奈良の「興福寺薪御能」に出演する予定もあったのです。

曲は”三種の神器”のひとつ”草薙の剣”にまつわる能「草薙」。

私はこちらも地謡でした。

私にとっては今年に入って初めての「薪能」です。

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初番の金春流能「羽衣」が終わってから薪に火が入りました。

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そして「草薙」が始まって地謡に座ると、薪の火が靡いて煙の匂いが漂って来ます。

この匂いを嗅ぐと、「ああ、今年もまた薪能シーズンがやって来たなあ」としみじみ実感します。

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煙たいという人もいますが、私はこの薪能特有の煙の匂いはむしろ好きなのです。

ただ、紋付に染み込むので、家に帰って紋付を干すと、翌朝に部屋中が燻されたような香りになるのは少々閉口しますが…。

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そして能「草薙」も無事に終わり、挨拶を済ませるとまたすぐに興福寺を出て、近鉄に飛び乗りました。

一度東京に帰って、明日は改めて今度は熱海の海岸での薪能に出演するのです。

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明日もあの薪の匂いに包まれて、頑張って能「天鼓」の地謡を謡おうと思います。