古裂の持つ力

昨日は松本城での打ち合わせの後に、松本稽古場の立ち上げからお世話になっている骨董屋さんの仕事場にお邪魔して、「古裂」のコレクションを見せていただきました。

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店主は数十年かけて、日本国内のみならず世界中様々な国から古い布や着物を蒐集されたそうです。

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大きな部屋の四方の壁や床や、ありとあらゆる場所にうず高く積まれた古裂。

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「これは越前三国に伝わる”三国刺し”という着物です。漁師の防寒具だったのでしょう」

「これはアフリカのある部族の酋長が着る為の貫頭衣です」

「これは縄文時代に初めて織物が発生した、その原始的な織り方で織られた最も古い布です」

「これはインドのミラーワークの初期のものです」

…次々と広げられる古い着物や布たち。

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どれも、着ていた人使っていた人、また作った人の人生や歴史を色濃く感じさせる、圧倒的な風合いを持っています。

ぶ厚い布に太い糸で刺し子が一面に施されている着物など、おそらく私のような非力な現代人ではひと刺しすら出来ないと思われ、手に取るとその力強い重味と、作り手の想いがひしひしと伝わって来ました。

着る人のことを思いながら、丁寧に作られたのでしょう。

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またそれらの古い布の中には、模様や色の組み合わせがとても美しく、「能装束として舞台で使いたい」と思うような着物がいくつもありました。

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内弟子の頃に、夏の蔵掃除で能面を全部並べて虫干しをすることがありました。

すると、並んだ能面を見ているだけで不思議な疲労感を感じたものです。

古い能面の持つ力に「あてられた」のだと思っていました。

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昨日の古い布たちも、やはり同じ力を持っているらしく、長く見た人はドッと疲れて帰っていくそうです。

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これらの膨大な古裂コレクションを、これから撮影して写真集を作る計画があるそうで、これは本当に楽しみな企画です。

また時間がある時にはお邪魔して、古い布たちのパワーを感じたいと思っております。

初夏の松本城

今朝はある催しの打ち合わせに、松本城に行って参りました。

私にとってお城というと、何となく山の上にあるイメージがあります。

しかし松本城は全くの平地にあるので、坂道を苦労して登らずとも天守閣の近くまで行けるのが有り難いところです。

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松本城管理事務所で打ち合わせを終えて外に出ると、藤棚に藤が綺麗に咲いていました。

花を見ればわかるところを、念のため「フジ」と親切に書いてある辺り、実直な街松本の雰囲気が出ています。

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満開にはもう少しですかね。

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「黒門」の脇にはこんな花が。

「宇宙ツツジ」とは?と近寄ってみると、宇宙飛行士の向井千秋さんと共に宇宙に行ったツツジの種から育てられたツツジという事でした。

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そして黒門の下には、戦国武将のような出で立ちの人が。

「写真撮っていいですか?」とお願いすると、ポーズまで決めてくれました。

こちらは「松本城おもてなし隊」の一人、「松平直政」さん。

おもてなし隊隊員には他にも松本城の歴代藩主である石川家、小笠原家、戸田家、堀田家、水野家の人々(コスプレです。念のため)がいて、城内の色んな場所に出没して一緒に記念撮影などしてくれるそうです。

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今日打ち合わせをした、松本城に関わる「ある催し」については、もう少ししたらオープンにお話出来ます。

宝生流松本澤風会の総力を結集する催しになります。

その催しに絡めて、真夏の松本城に是非たくさんの皆様にいらしていただきたいと思っております。

詳細はいま少しお待ちくださいませ。

女鳥羽川の鯉のぼり

今日は松本稽古でした。

特急あずさで松本駅に着いて、稽古場まで歩く間に川を一本渡ります。

これは「女鳥羽川(めとばがわ)」という印象的な名前の川です。

松本市の東方の山から発して、松本市内中心部を流れ下って梓川と合流する川で、清冽な水がいつも水量豊かに流れています。

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今日もその女鳥羽川にかかる橋を渡ろうとすると、目の端に何やらヒラヒラする物がありました。

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なんと、女鳥羽川をたくさんの鯉のぼりが泳いでいるではありませんか!

最近は鯉のぼりを見る事がめっきり少なくなった気がしますが、これはざっと見ても何十匹もいるようです。

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年中イベントの多い松本のこと、これも何かの恒例行事かと思い、ちょっと調べてみると意外な事がわかりました。

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この鯉のぼりは、近くに住む人形屋さんが個人で飾っているもので、昭和53年から始めて今年で40年目になるというのです。

「観光客に女鳥羽川を知ってほしい」という思いで始めたとのこと。

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更に、女鳥羽川は戦後暫くは汚れた川だったのを、市民の手で掃除や整備が行われて、今でも多くの人の努力で綺麗な流れが保たれていると知りました。

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松本という街は、住んでいる人々に愛されている街だといつも思うのですが、今日の女鳥羽川の鯉のぼりでまたその認識を新たにしました。

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風が止むと元気が無くなる鯉達ですが…

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爽やかな風が吹くと、身を躍らせて正に滝を登っていくような勢いです。

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この美しい川の流れと、毎年人形屋さんの手で飾られる鯉のぼりが、いつまでも見られるように願っております。

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鬼くすべの鏡餅

唐突ですが、下の写真は何だと思いますか?

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題名で答えを言ってしまっておりますが、これは昨日、大山崎宝積寺の追儺式「鬼くすべ」で使われた「鏡餅」なのです。

お正月によく見る鏡餅とは、だいぶ形が違いますね。

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昨日も載せた鬼くすべの写真ですが、写真の上の端に、何やらたくさんぶら下がっている物体があります。

これが、「鏡餅」を竹に挟んで更に紐を付けたものなのです。

本堂の鴨居にぐるりと75個吊り下げられています。

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この特殊な「鏡餅」は、鬼が鏡に映った自らの姿を見て驚いた隙に祓ってしまおうという目的で使われるそうです。

75という数は、聖武天皇が龍神様の御告げを聞いてから75日目に即位したことに由来する数だとか。

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「鏡」という道具は能楽にも様々なシーンで登場します。

能「昭君」で後シテ韓耶将は、鏡に映る鬼のような自分の姿に恥じ入り消えていきます。このあたり、「鬼くすべの鏡餅」と似た構造が見られます。

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また能「野守」では、野守の鬼が「全てを映す鏡」を持って現れます。

この「野守の鏡」は、地獄の閻魔大王が持っている「浄玻璃の鏡」と似ています。

実は大山崎宝積寺には、素晴らしい「閻魔大王坐像」があるのですが、「閻魔大王の浄玻璃の鏡」と「鬼くすべの鏡餅」にも何か関連があるのかもしれません。

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そして昨日の鬼くすべ終了後に、その75個の鏡餅のひとつを私がいただいたのです。

これは大変に有り難いことです。

昨日の煙の香りも鏡餅にしっかり染み込んでいて、顔を寄せると鬼くすべを思い出すことが出来ます。

早速室内に吊り下げて、邪気から護っていただこうと思っております。

今年の煙も凄かった

今日4月18日は、毎年大山崎稽古場のある宝積寺にて「鬼くすべ」という追儺式に参加させていただいております。

昨年4月17日と18日のブログに詳しく書きましたが、今年なんと1295回を迎えるという大変古い伝統を持つ行事です。

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昨年は境内に咲く佐野藤右衛門さんの枝垂れ桜に迎えられましたが、今年は季節の移ろいが早く、満開の白い藤の花に迎えられました。

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宝積寺に到着すると、先ずは食堂に通されて「筍ご飯」をいただきます。

筍の名産地乙訓にあるお寺だけあって、この「筍ご飯」と「筍のお吸い物」は正に絶品なのです。

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幸せな気分になって、御座敷に移動して裃に着替えます。

御座敷では、「七福神さん」や「鬼さん」達も一緒に着替えていて、着替え終わると記念撮影をすることになっています。

七福神さん。

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鬼さん。

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こちらは本物の山伏さん。

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そして我々「大山崎澤宝会」。

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この後に本堂に移動して、いよいよ「鬼くすべ」が始まるのです。

詳しい模様は昨年のブログをお読みいただきたいと思いますが、今年は昨年にも勝る煙の量で目が痛くなりました。。

開始直後はこんな感じなのが…

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やがてこうなります。

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目は痛くなりましたが、今年も蓬の矢で鬼が払われて、「鬼くすべ」は無事終了しました。

「鶴亀」と「高砂」の謡も無事に奉納出来ました。

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払われた鬼さんと記念撮影。

宝積寺の皆様、大山崎澤宝会の皆様、今年もどうもありがとうございました。

いつの間に…!

江古田稽古場で稽古している、今度小学五年生になる男の子。

これまで稽古した仕舞はすべて、いわゆる「荒い物」というジャンルでした。

元気よく、次から次へと派手な型が繰り出されるような仕舞です。

(私だけの呼び方で「ノンストップ仕舞」と言っております)

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先日の郁雲会澤風会では「歌占キリ」を舞ったその子が、今日江古田稽古場に来るなり「新しいノンストップ仕舞を考えよう!」と言って来ました。

しかし私は…

「うーん、今回はノンストップ仕舞じゃなくて、ゆっくりした仕舞にしようと思うんだよね」

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彼も相当な番数の仕舞を経験して来たので、そろそろ”新境地”を開拓してみようかと思ったのです。

「羽衣キリという仕舞にします!」

と厳かに宣言して、早速稽古を始めました。

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とは言ってみたものの、これまでとは全く違う雰囲気の仕舞です。はたしてついて来てくれるのか、不安でもありました。

しかし…

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「東遊びの数々に〜」と舞い始めると、ちゃんとゆっくりした速さで足を運んでくれます。

「一番前で、引分をします」と言ったら、これも「田村キリ」などと違う、ゆったりとした「引分」がしっかり出来ています。

つまり、「柔らかい物」の速さは他の人の舞台を見て何となく覚えていたのでしょう。

また、型の名前も正確に覚えているようです。

私の予想以上に、いつの間に成長してくれていたのですね。

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またその子のお姉ちゃんは、幼稚園から始めてもう10年以上稽古しており、最早「ベテラン」と言っても良いくらいです。

こちらも次の曲を何か…と言いかけたところ、

「先生、実はやりたい曲があるのです」

おお!これも初めてのパターンです。

「小学四年生の時に京都の舞台で○○さんが舞っているのを見て、いつかやりたいと思っていた曲なのです」

なんと、そんなに前からやりたいと思い続けた曲があるとは。

その曲は、本来なら難しい曲なのですが、そこまでの思い入れがあるのならばとOKしました。

夏の「七葉会」で披露されるはずです。

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今日はその姉弟それぞれがまた一段成長したのを実感して、嬉しい驚きを感じたのでした。

東京は夏日

今日は東京でも今年初めての「夏日」だったようです。

このくらい気温が上がると、暑がりの私にとっては既に「真夏」に感じられます。

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夜からの田町稽古の前に、先ずは午後に秋葉原から水道橋まで歩くだけで一汗かきました。

更に水道橋宝生能楽堂で能「雲林院」の稽古をしながら汗だくに。

続けて能「正尊」の切り組の稽古では、汗と冷や汗(最後の死ぬ所が冷や汗物なのです…)を両方かいてしまいました。。

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今からこの調子では、本当の夏が思いやられるな…と思いながら田町稽古場に到着すると、18時半ながら部屋には弱い冷房がついていました。

皆さんも今日は暑かったのですね。ちょっと安心いたしました。

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しかし明日からはまた気温が低めに戻るようです。

暫くは服装に気をつけないといけないですね。

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入学式シーズン

松本稽古場の最年少、6歳の男の子はこの春小学校に入学します。

昨日の稽古で「入学式はいつ?」と聞いたら、「木曜日!」と答えてくれました。

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お母さん「この間の卒園式は、紋付袴で行ったのです」

私「へ〜、それは良いですね。じゃあ入学式も…」

と言いかけて、「ああでも、ランドセルがあるから無理か…」と更に思いかけたところで、

お母さん「さっき家で、紋付袴にランドセルを背負う練習をしてみたのです!」

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なんと。

では紋付袴にランドセルに、もしかして黄色い制帽とかかぶるのでしょうか。

なかなか想像のつかない格好です。。次回の稽古で写真など見るのが楽しみです。

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昨日の稽古では他にも、明日朝に放送のテレビ番組の「継ぐ女神」というコーナーに松本稽古場の会員さんが出るという話でも盛り上がりました。

その映像も次回見せてもらえるかもしれません。

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更に、先日の郁雲会澤風会で桜色の着物で舞囃子「桜川」を舞われた会員さんは、観に来られた方から貰ったという「桜川」という銘柄の日本酒を、これまた次回の稽古に持って来てくださるとのことなのです。

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なんだか次回は色々楽しみなことが多い松本稽古場です。

本筋の稽古の方も、現在まだ水面下で進めている、夏の大きなイベントに向けて頑張って参りたいと思います。

どんなイベントかは、もう少ししたら発表いたします。

桃源郷経由、南国行き⁉︎

今日は先週に続いて、2週連続の松本稽古です。

思えば昨年の今日4月2日も松本稽古で、その時のブログでは甲府盆地の桃の花がまだ咲いておらず残念だったと書いてありました。

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しかし今年は桜がかなり早かったので、桃もおそらく早く咲くはずです。

期待して特急あずさに揺られていると…

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おお!期待に違わず甲府盆地は白い桃や…

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ピンク色の桃の花で一杯でした。

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今年も桃源郷の風景が見られて、大満足して松本へ。

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松本はおそらくまだ肌寒いくらいかと思い、ジャケットにマフラーも持って家を出ました。

松本駅に着いて特急あずさを降りると…

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意外や、むっとするような暖かい空気です。

「フェーン現象かな?」と思ってマフラーをしまい、駅前に出ると驚きました。

駅前の気温計の数字が…

28℃!

これは初夏を通り越して夏の気温です。

まさか今年初めて「夏」を体感するのが松本だとは想像出来ませんでした。

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とは言え、陽が落ちるとぐっと気温が下がるはずです。

油断せずにジャケットとマフラーを持って、稽古に向かおうと思います。

のんびりモードと思いきや

今日は久しぶりの松本稽古でした。

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郁雲会澤風会で舞台に出られた方々と色々思い出話(もう遠い昔のように思えます)をして、新しい仕舞の曲を決めて稽古を始めました。

謡の曲も今日から「嵐山」です。

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何しろ大きな舞台がようやく終わって、暫くは会の予定もありません。

かねて行きたかった、会員さんのされている「鰻屋さん」や「イタリア料理店」などにランチを食べに行く約束をしたりして、なんとなくのんびりとした気分で、余裕を持って稽古出来ました。

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とは言え、私がのんびりしていても会員さん達はやはり熱心です。

「今度の仕舞には、拍子をドン!と強く踏めるような曲がしたいです!」

とか、「桜川と対になる”三井寺”がやってみたいです!」

「○○さんは、秋の松本澤風会で舞囃子をしたら良いですよ!」

「私は秋の京都の澤風会に泊まりがけで行こうと思っています!」

などなど、私が考えなくても次々に新しい曲や楽しみなお話が湧いて出てくるのです。

兼平の子孫かもしれないという会員さんが、澤風会で稽古をしているのが縁でテレビ出演するという話まで出ました。

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本当に松本はおもちゃ箱のような活気溢れる楽しい稽古場だと、改めて思ったのでした。