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鬼くすべの鏡餅

唐突ですが、下の写真は何だと思いますか?

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題名で答えを言ってしまっておりますが、これは昨日、大山崎宝積寺の追儺式「鬼くすべ」で使われた「鏡餅」なのです。

お正月によく見る鏡餅とは、だいぶ形が違いますね。

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昨日も載せた鬼くすべの写真ですが、写真の上の端に、何やらたくさんぶら下がっている物体があります。

これが、「鏡餅」を竹に挟んで更に紐を付けたものなのです。

本堂の鴨居にぐるりと75個吊り下げられています。

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この特殊な「鏡餅」は、鬼が鏡に映った自らの姿を見て驚いた隙に祓ってしまおうという目的で使われるそうです。

75という数は、聖武天皇が龍神様の御告げを聞いてから75日目に即位したことに由来する数だとか。

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「鏡」という道具は能楽にも様々なシーンで登場します。

能「昭君」で後シテ韓耶将は、鏡に映る鬼のような自分の姿に恥じ入り消えていきます。このあたり、「鬼くすべの鏡餅」と似た構造が見られます。

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また能「野守」では、野守の鬼が「全てを映す鏡」を持って現れます。

この「野守の鏡」は、地獄の閻魔大王が持っている「浄玻璃の鏡」と似ています。

実は大山崎宝積寺には、素晴らしい「閻魔大王坐像」があるのですが、「閻魔大王の浄玻璃の鏡」と「鬼くすべの鏡餅」にも何か関連があるのかもしれません。

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そして昨日の鬼くすべ終了後に、その75個の鏡餅のひとつを私がいただいたのです。

これは大変に有り難いことです。

昨日の煙の香りも鏡餅にしっかり染み込んでいて、顔を寄せると鬼くすべを思い出すことが出来ます。

早速室内に吊り下げて、邪気から護っていただこうと思っております。

今年の煙も凄かった

今日4月18日は、毎年大山崎稽古場のある宝積寺にて「鬼くすべ」という追儺式に参加させていただいております。

昨年4月17日と18日のブログに詳しく書きましたが、今年なんと1295回を迎えるという大変古い伝統を持つ行事です。

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昨年は境内に咲く佐野藤右衛門さんの枝垂れ桜に迎えられましたが、今年は季節の移ろいが早く、満開の白い藤の花に迎えられました。

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宝積寺に到着すると、先ずは食堂に通されて「筍ご飯」をいただきます。

筍の名産地乙訓にあるお寺だけあって、この「筍ご飯」と「筍のお吸い物」は正に絶品なのです。

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幸せな気分になって、御座敷に移動して裃に着替えます。

御座敷では、「七福神さん」や「鬼さん」達も一緒に着替えていて、着替え終わると記念撮影をすることになっています。

七福神さん。

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鬼さん。

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こちらは本物の山伏さん。

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そして我々「大山崎澤宝会」。

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この後に本堂に移動して、いよいよ「鬼くすべ」が始まるのです。

詳しい模様は昨年のブログをお読みいただきたいと思いますが、今年は昨年にも勝る煙の量で目が痛くなりました。。

開始直後はこんな感じなのが…

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やがてこうなります。

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目は痛くなりましたが、今年も蓬の矢で鬼が払われて、「鬼くすべ」は無事終了しました。

「鶴亀」と「高砂」の謡も無事に奉納出来ました。

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払われた鬼さんと記念撮影。

宝積寺の皆様、大山崎澤宝会の皆様、今年もどうもありがとうございました。

いつの間に…!

江古田稽古場で稽古している、今度小学五年生になる男の子。

これまで稽古した仕舞はすべて、いわゆる「荒い物」というジャンルでした。

元気よく、次から次へと派手な型が繰り出されるような仕舞です。

(私だけの呼び方で「ノンストップ仕舞」と言っております)

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先日の郁雲会澤風会では「歌占キリ」を舞ったその子が、今日江古田稽古場に来るなり「新しいノンストップ仕舞を考えよう!」と言って来ました。

しかし私は…

「うーん、今回はノンストップ仕舞じゃなくて、ゆっくりした仕舞にしようと思うんだよね」

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彼も相当な番数の仕舞を経験して来たので、そろそろ”新境地”を開拓してみようかと思ったのです。

「羽衣キリという仕舞にします!」

と厳かに宣言して、早速稽古を始めました。

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とは言ってみたものの、これまでとは全く違う雰囲気の仕舞です。はたしてついて来てくれるのか、不安でもありました。

しかし…

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「東遊びの数々に〜」と舞い始めると、ちゃんとゆっくりした速さで足を運んでくれます。

「一番前で、引分をします」と言ったら、これも「田村キリ」などと違う、ゆったりとした「引分」がしっかり出来ています。

つまり、「柔らかい物」の速さは他の人の舞台を見て何となく覚えていたのでしょう。

また、型の名前も正確に覚えているようです。

私の予想以上に、いつの間に成長してくれていたのですね。

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またその子のお姉ちゃんは、幼稚園から始めてもう10年以上稽古しており、最早「ベテラン」と言っても良いくらいです。

こちらも次の曲を何か…と言いかけたところ、

「先生、実はやりたい曲があるのです」

おお!これも初めてのパターンです。

「小学四年生の時に京都の舞台で○○さんが舞っているのを見て、いつかやりたいと思っていた曲なのです」

なんと、そんなに前からやりたいと思い続けた曲があるとは。

その曲は、本来なら難しい曲なのですが、そこまでの思い入れがあるのならばとOKしました。

夏の「七葉会」で披露されるはずです。

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今日はその姉弟それぞれがまた一段成長したのを実感して、嬉しい驚きを感じたのでした。

東京は夏日

今日は東京でも今年初めての「夏日」だったようです。

このくらい気温が上がると、暑がりの私にとっては既に「真夏」に感じられます。

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夜からの田町稽古の前に、先ずは午後に秋葉原から水道橋まで歩くだけで一汗かきました。

更に水道橋宝生能楽堂で能「雲林院」の稽古をしながら汗だくに。

続けて能「正尊」の切り組の稽古では、汗と冷や汗(最後の死ぬ所が冷や汗物なのです…)を両方かいてしまいました。。

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今からこの調子では、本当の夏が思いやられるな…と思いながら田町稽古場に到着すると、18時半ながら部屋には弱い冷房がついていました。

皆さんも今日は暑かったのですね。ちょっと安心いたしました。

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しかし明日からはまた気温が低めに戻るようです。

暫くは服装に気をつけないといけないですね。

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入学式シーズン

松本稽古場の最年少、6歳の男の子はこの春小学校に入学します。

昨日の稽古で「入学式はいつ?」と聞いたら、「木曜日!」と答えてくれました。

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お母さん「この間の卒園式は、紋付袴で行ったのです」

私「へ〜、それは良いですね。じゃあ入学式も…」

と言いかけて、「ああでも、ランドセルがあるから無理か…」と更に思いかけたところで、

お母さん「さっき家で、紋付袴にランドセルを背負う練習をしてみたのです!」

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なんと。

では紋付袴にランドセルに、もしかして黄色い制帽とかかぶるのでしょうか。

なかなか想像のつかない格好です。。次回の稽古で写真など見るのが楽しみです。

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昨日の稽古では他にも、明日朝に放送のテレビ番組の「継ぐ女神」というコーナーに松本稽古場の会員さんが出るという話でも盛り上がりました。

その映像も次回見せてもらえるかもしれません。

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更に、先日の郁雲会澤風会で桜色の着物で舞囃子「桜川」を舞われた会員さんは、観に来られた方から貰ったという「桜川」という銘柄の日本酒を、これまた次回の稽古に持って来てくださるとのことなのです。

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なんだか次回は色々楽しみなことが多い松本稽古場です。

本筋の稽古の方も、現在まだ水面下で進めている、夏の大きなイベントに向けて頑張って参りたいと思います。

どんなイベントかは、もう少ししたら発表いたします。

桃源郷経由、南国行き⁉︎

今日は先週に続いて、2週連続の松本稽古です。

思えば昨年の今日4月2日も松本稽古で、その時のブログでは甲府盆地の桃の花がまだ咲いておらず残念だったと書いてありました。

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しかし今年は桜がかなり早かったので、桃もおそらく早く咲くはずです。

期待して特急あずさに揺られていると…

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おお!期待に違わず甲府盆地は白い桃や…

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ピンク色の桃の花で一杯でした。

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今年も桃源郷の風景が見られて、大満足して松本へ。

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松本はおそらくまだ肌寒いくらいかと思い、ジャケットにマフラーも持って家を出ました。

松本駅に着いて特急あずさを降りると…

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意外や、むっとするような暖かい空気です。

「フェーン現象かな?」と思ってマフラーをしまい、駅前に出ると驚きました。

駅前の気温計の数字が…

28℃!

これは初夏を通り越して夏の気温です。

まさか今年初めて「夏」を体感するのが松本だとは想像出来ませんでした。

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とは言え、陽が落ちるとぐっと気温が下がるはずです。

油断せずにジャケットとマフラーを持って、稽古に向かおうと思います。

のんびりモードと思いきや

今日は久しぶりの松本稽古でした。

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郁雲会澤風会で舞台に出られた方々と色々思い出話(もう遠い昔のように思えます)をして、新しい仕舞の曲を決めて稽古を始めました。

謡の曲も今日から「嵐山」です。

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何しろ大きな舞台がようやく終わって、暫くは会の予定もありません。

かねて行きたかった、会員さんのされている「鰻屋さん」や「イタリア料理店」などにランチを食べに行く約束をしたりして、なんとなくのんびりとした気分で、余裕を持って稽古出来ました。

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とは言え、私がのんびりしていても会員さん達はやはり熱心です。

「今度の仕舞には、拍子をドン!と強く踏めるような曲がしたいです!」

とか、「桜川と対になる”三井寺”がやってみたいです!」

「○○さんは、秋の松本澤風会で舞囃子をしたら良いですよ!」

「私は秋の京都の澤風会に泊まりがけで行こうと思っています!」

などなど、私が考えなくても次々に新しい曲や楽しみなお話が湧いて出てくるのです。

兼平の子孫かもしれないという会員さんが、澤風会で稽古をしているのが縁でテレビ出演するという話まで出ました。

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本当に松本はおもちゃ箱のような活気溢れる楽しい稽古場だと、改めて思ったのでした。

稽古場の一体感

今日は朝から、京都紫明荘組の稽古でした。

稽古場としての「紫明荘」に代わる場所をいろいろと試行錯誤しておりますが、今日は「リハーサル室」という名前の部屋で稽古しました。

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そこは大きさがちょうど能舞台と同じ三間四方くらいで、完全防音の部屋です。

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完全防音なので稽古中は扉を締め切り、会員さん達はリハーサル室の外の椅子が並んだスペースで待っていることになります。

しかしこれが稽古を始めてみると、意外にやり辛いのです。

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これまでの和室の広い空間だと、稽古しながら横目で隣の部屋で談笑している会員さん達が見えます。

そこで、稽古しながら私は「あの方はいらしてから大分待っておられるので、次に仕舞の稽古をしよう」とか、「遠くからいらしている方がそわそわしているので、早い順番にした方が良いか聞いてみよう」などと考えられるのです。

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それが密閉空間での稽古だと、外で何人待っておられるのか、どの順番でいらしたのかなど、いちいち外に出て確認しないとなりません。

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また会員さんにとっても、自分の稽古だけでなく他の人の稽古も見聞き出来る方が勉強にもなりますし、誰かが舞っている仕舞を見て、「いつかあの仕舞がやりたい」と思ったりも出来ます。

更に私は、仕舞の稽古の時には見ている人達に向けても「この型はさっきの仕舞にもありましたね」とか、「”行き掛かり”の足は、他の仕舞でも共通でこのように捻ります」などと解説したりします。

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なのでやはり稽古場は、舞台スペースと待合スペースが繋がっているところに限ると痛感したのです。

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たまに会員さん達の楽しいお喋りが、録音に差し障りがある程に盛り上がってしまう事もありますが、私の好みとしては「同じ時間と空間を全員で共有できる稽古場」というのが一番だと思ったのでした。

ずっと舞台にいること

今回の郁雲会澤風会の2日間では、私は一部の素謡を除いてはほぼ全曲で、地謡もしくは後見で舞台に出ておりました。

皆様これを比較的大変な事だと思われたようで、「さぞかしお疲れでしょう」「お身体は大丈夫ですか?」などと心配してくださいます。

しかし、私にとっては本番の舞台上にいるのはむしろ「喜び」であり、いっそ「ご褒美」のようにも感じられたのです。

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昨日は箇条書きのように、番組のそれぞれを短くご紹介いたしました。

しかし本当はそのひとつひとつに、本番に至るまでの長い長いドラマがあったのです。

嬉しい事もありましたが、大半は苦しく地道な努力の日々でした。いくつかのアクシデントもありました。

それらを乗り越えたクライマックスシーンが郁雲会澤風会の舞台であり、私はそのクライマックスシーンを主役と共に作り上げるという栄誉を与えられた訳なのです。

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これは私には大変光栄で喜ばしいことでした。

更にもう一点、本番の舞台は一発勝負なので、何が起こっても私は注意したり、やり直したりしないでも良いのです。

これも精神的にはむしろ稽古よりも楽な事に感じられました。

なので、2日間出突っ張りでも私には全く苦にならなかったのです。

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…とはいえ、やはり少々疲れはあるようです。

昨日はそうでもなかったのですが、今日の午後になってから、丁度時差ボケのような急激な睡魔に襲われました。

新幹線でスイッチが切れるように寝てしまい、危うく乗り過ごして大変な事になるところでした。。

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明日はようやく一日中何も無い休みなので、ゆっくり骨休めしたいと思っております。

郁雲会澤風会御礼

先週金曜土曜の郁雲会澤風会の2日間では、本当に無数のエピソードが同時進行的に起こっていたことと思います。

数多の物語がめでたく完結して、また多くの物語が次の章に進み、それと同時に未来に繋がるいくつかの新しい物語も始まりました。

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最年少5歳の男の子の初舞台「絃上」。

最高齢91歳の方の仕舞「葛城」。

桜色に美しく染められた着物で舞われた舞囃子「桜川」。

沢山の素謡(京大若手OBの素謡「大会」では、殆どのOBOGが無本で謡ってくれました)。

1人で無本で謡われた独吟「草紙洗」。

砧、忠度、笹之段を始めとする難しい仕舞や、一調「放下僧」独調「桜川」などの難曲に挑戦され、苦心して稽古を積んで本番を迎えられた皆さん。

早朝に京都や北陸や松本を出て来てくださった方々。

金曜朝一で仕舞を舞って、その後は受付などの仕事をよくやってくれた京大宝生会の現役や、若手OBOGのみんな。

初舞台や、稽古を始めて間もない会員さん達がとても堂々と演じられた素謡「橋弁慶」、また「羽衣キリ」などのいくつかの仕舞。

一人で何回も舞台に出てくれた人(素謡2番、仕舞、能のツレ、能の地謡の計5番をこなした人も)。

いつも母親を支えてくださっている郁雲会の皆さま。

毎回ゲスト出演いただく京大宝生東京OB会や、早稲田大学、東京大学OBの方々の重厚な舞と謡。

舞囃子を舞われた7人の会員さんはそれぞれ「楽」や「神楽」などの難易度の高い舞や、位の重い曲、思い入れのある曲に全力投球で挑まれました。

そして4番の能。

先ず金曜日には、松本から何度も東京にいらして稽古をしてくださった初シテの方が見事に舞われた「巻絹」。

土曜日にあった大曲「鷺」、「野宮」、「松風」では、今回もまた舞台上のシテ方、囃子方、ワキ方、狂言方に見所のお客様までも含めて、能楽堂が全部一体となって熱量を増していくような、気迫に満ちた舞台を体感することができました。

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…今思い出しながらつらつらと書いていっても、次々と色んな出来事が思い出されてとても書ききれません。

全てを書いたら1冊の本になるような、濃密な2日間だったと思っております。

宴会で辰巳満次郎師より「今回舞台に出ていて、”ああ、能って素晴らしいなあ。能をやっていて良かったなあ”と改めて思いました」という大変に有り難いお言葉を頂きました。

これはきっと私も含めて、参加してくださった皆様に共通の感覚であったと信じております。

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御礼の言葉もどれだけ尽くしても足りない気がいたしますが、今回の舞台でお世話になりました全ての皆様に、本当に心より御礼申し上げます。

どうもありがとうございました。