いとうせいこうの能楽紀行〜旅する殺生石〜ご紹介

本日10月9日より、「いとうせいこうの能楽紀行〜旅する殺生石〜」という番組が「能LIFE Online」にて動画配信されています。

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「いとうせいこうの能楽紀行」も今回で第4回になり、有り難いことに4回とも私がいとうせいこうさんと共にナビゲーターを勤めております。

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“旅する殺生石”という副題には、複数の意味が込められていると思われます。

「殺生石にゆかりのある土地を旅する」という意味と、

「殺生石になるまでの玉藻前の長い旅路を辿る」という意味です。

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玉藻前の行動範囲はユーラシア大陸から日本まで、そして紀元前1000年頃にはじめて出現してから、その痕跡はなんと3000年後の現代まで残っているのです。

今回の旅ではその時空をまたいだ長大な足跡を辿って、最終的には”殺生石の入手方法”まで紹介してしまいます。

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またこの番組では能楽紀行をご覧いただいた後に、上野能寛くんが演じる能「殺生石」を観ることが出来ます。

皆さま下のURLから「いとうせいこうの能楽紀行〜旅する殺生石〜」をご視聴いただき、スケールの大きな能「殺生石」の世界をどうかお楽しみくださいませ。

よろしくお願いいたします。

https://nohlife.myshopify.com/collections/streaming/products/%E3%81%84%E3%81%A8%E3%81%86%E3%81%9B%E3%81%84%E3%81%93%E3%81%86%E3%81%AE%E8%83%BD%E6%A5%BD%E7%B4%80%E8%A1%8C-%E6%AE%BA%E7%94%9F%E7%9F%B3

大山崎の梅、桜、松

今日は緊急事態宣言が解けてから初めての大山崎稽古でした。

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謡の稽古は今回から新しい曲「鉢木」です。

人数分の謡本を携えて、宝寺に向かうあの天王山の急坂を登っていきました。

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すると坂の途中でちょっと驚く事があったのです。

坂の路面に「大山崎町」と書かれたマンホールがありました。

そのデザインが「鶯、桜、松」だったのです。

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鶯と言えば「梅に鶯」。梅の花を思い起こさせます。

そして今日これから稽古を始めようという「鉢木」という曲では、シテが「梅、桜、松」の鉢の木を薪にして燃やすシーンがハイライトになっているのです。

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何かとても縁起がいい気がして、良い気分で稽古に向かいました。

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それにしても、大山崎町と「梅、桜、松」は何か関係があるのだろうか…。まさか群馬県の佐野と姉妹都市とか…。

稽古を終えて坂を下りながら、何か手掛かりは無いかと探してみました。

すると…

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ありました!

観光用の大きな地図の看板に、「町の花・鳥・木」として「さくら、うぐいす、赤松」と書いてあったのです。

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なんと、ではマンホールの「鶯(梅)、桜、松」のデザインは、鉢木とは全く関係ない偶然の組み合わせだったのですね。

しかし偶然にしては出来過ぎな気がします。

やはり何か縁起がいい気がして、更に良い気分で次の亀岡稽古に向かったのでした。

8年後には…

先日の松本稽古でのこと。

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新宿を昼過ぎ発の特急あずさで松本に到着すると、まだまだ夏の暑さが残っていました。

松本城近くにある大手公民館に到着すると…

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「こんにちは〜!」

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お母さんと男の子の親子が待っていてくれました。

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お母さん「この子は今日ちょうど10歳の誕生日なんです」

おお!それはおめでとうございます!

ちなみに何歳から稽古を始めたのでしたっけ?

お母さん「4歳からです」

なんと、ではもう稽古歴6年目になるのですね。

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男の子は今「経政キリ」を稽古しています。

扇を2本使う難しい仕舞なのですが、凛々しい若武者の表情で謡も型も大人顔負けの出来映えです。

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しかし稽古が終わると、誕生日プレゼントにもらったという超巨大な雷鳥のぬいぐるみ(彼とほとんど同じサイズ!)と戯れて、すっかり少年の表情に戻っていました。

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鳥や虫、植物や石など自然全般が大好きな彼は、最近京大で植物を研究する大学院生と話す機会があって京大に興味を持ったそうです。

私「じゃあ京大に入って宝生会に入部してよ!」

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男の子は「え〜京大?」と言って笑うだけでしたが、8年後には京大宝生会に期待の新人が入部してくれるかもしれません。

その日を夢見て、これからも頑張って稽古を続けていきたいと思います。

東西合同学生zoom稽古

昨日の日曜日は江古田稽古場にて終日リモート稽古でした。

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SkypeやLINEを使って、松本、京都、東京の澤風会会員さん達と1人ずつ謡の稽古をしていきます。

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日が暮れて最後のリモート稽古になりました。

zoomのリンク先にアクセスすると、それまでの個人稽古と違って何やら賑やかな雰囲気です。

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zoom会議室には、8人の大学生が集まってくれていました。

京大宝生会の2回生から大学院生、また日本女子大、國學院大の学生達です。

普段はこれに自治医科大も加えて、東西4大学が合同で「夜討曽我」の謡の稽古をしているのです。

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当初は8月に2回だけ、夏休み特別企画として東西合同zoom稽古をするつもりでした。

しかしやってみると意外にスムーズに稽古できて、それぞれの学校にとって良い刺激になっていると感じたのです。

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そこで9月に入っても東西合同稽古を継続して、昨日で4回目になりました。

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未だに大学ではオンライン授業が主で、友達と皆で賑やかに過ごす事もできない大学生達です。

せめてこのzoom稽古の中で、全国に同じ宝生流を稽古している仲間がいる事を実感してもらえたらと思います。

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そしてそう遠くない未来に、彼らが現実の舞台で思う存分に競演してほしいと願っているのです。

谷中を歩けば…

おとといの院展鑑賞記に、「今は行ける場所がごく限られてしまっている」と書きました。でも裏を返せば「限られてはいるが行ける場所はある」のです。

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その場所のひとつが”徒歩で行けるご近所”です。

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今日は午前中に水道橋宝生能楽堂にて「五雲能」の申合があり、その後に自宅から歩いて行ける「谷中」の界隈を散策して参りました。

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谷中は東京芸大からも近く、芸大生だった頃にも度々散歩した思い出深い街です。

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小さな路地が迷路のように入り組んでおり、その奥には例えば…

小さなお稲荷さんがひっそりとあったり…

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古いお地蔵さんが祀られていたりします。

山手線の内側とは思えないような風景が点在しているのです。

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“現代版・黒塚”みたいな物凄い家を発見。

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味のある石垣と石段、そして猫一匹…

よく見ると陶器の猫でした。

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猫と言えば、今日の谷中では何故か猫にたくさん会いました。

ねこ注意。この写真だけで何匹の猫がいるでしょうか?

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ところがこの電信柱を回り込むと…

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なんとさらに猫だらけでした。

「谷中を歩けば猫にあたる」という感じです。

谷中は猫好きな方には是非おすすめいたします。

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まだまだ歩いていくと…

三ツ辻の角に大きな木が。樹高15m以上はあるでしょう。

その大木の根元に隠れるように…

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なんとも懐かしい佇まいのパン屋さんがありました。

まるで私の子供の頃のような”昭和の風景”です。

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売っている物は割と現代的でした。

あの木はどうやら「ヒマラヤ杉」のようですね。

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散歩の最後にもう一本、ある木を見に行きました。

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知る人ぞ知る、谷中の最北端、つまり台東区最北端に立つ木(枝垂れ桜)です。

写真右下の尖った角までが台東区、ここより北は私の家のある荒川区になります。

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という訳で、ご近所の谷中を散策するだけでも、たくさんの楽しい風景や出来事に遭遇する事ができました。

皆さんもよろしければ谷中を歩いて、写真の場所を探してみてくださいませ。

きっと別の意外な風景ともたくさん出会えると思います。

院展鑑賞記〜2021年秋〜

今日は上野の東京都美術館にて開催中の「院展」を見て参りました。

今年春と昨年秋の院展は鑑賞出来なかったので、1年半ぶりの院展でした。

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250枚を超える絵画の迷宮に久々に足を踏み入れます。

桜の花びらが立体的に浮き出て見える絵に驚き、雪と岩の剱岳に曙光が差す荘厳な風景に圧倒され、幼稚園児達が手を繋いで輪になって木を見上げる姿に思わず微笑みながら迷宮を進んでいきました。

澤風会田町稽古場の会員さんの絵も久々に拝見しました。やはり重厚な色彩の植物がモチーフで、今回はお城の石垣が背景になっているのが新鮮でした。

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現実と非現実、写実と空想の境界線を跨ぎながら絵の世界を彷徨っているうちに、ふいに不思議な感情に襲われました。

それは、これまでの人生の中で「心を揺さぶられる風景や物事」を見た時に沸き起こった強い感動と同じようなもので、コロナ禍以降久しく感じていなかった感覚でした。

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コロナ以前には、強く望めば世界の大抵の場所には行ける可能性がありました。

実際私も、仕事や旅行で日本や海外の様々な街や村、山や海に行き、たくさんの景色や出来事を見てそれを心に刻んできました。

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しかし今では、海外どころか国内でも行ける場所はごく限られています。

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ドイツの古都の何気ない朝を描いた絵や、珊瑚礁の海でウミガメが迫ってくる絵などを見て、実際にそんな風景を見た時の感動が、強烈な懐かしさを伴って蘇ってきたのです。

それと同時に「今はそこには決して行けないのだ」という痛みも感じました。

絵の中でしか会えなくなってしまった風景達。

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しかしいつかまた自由にこの世界を飛び回れる日が、きっと訪れることでしょう。

そしてどこかの街でふとした出来事に心が動いたり、目を見張る自然の絶景に感動したりすることが、再びできるようになると信じています。

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今日は院展の絵画に、忘れそうになっていた大切な感覚を思い出せてもらいました。

ブログ再開のお知らせ

皆様 大変ご無沙汰しております。

私は新型コロナワクチンの2回目接種を終えてから今日で丁度ひと月が経ちました。

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接種後には熱が出て3日間寝込みましたが、新型コロナウイルスの攻撃を防御する最低限の鎧を体内に装備出来た感覚があります。

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昨年以来、まるでずっと呼吸を止めて潜水しているような重苦しさを感じながら生活していました。

ブログ更新をする心の余裕すら無かった状態でした。

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しかしそろそろ、少しずつでも水面に顔を出していこうかと思っております。

なかなか元の世界には戻らないでしょうが、コロナウイルスと折り合いをつけながら出来る事を探っていきたいと思います。

ブログも可能な限り更新して参りますので、またどうかよろしくお願いいたします。

4月夜能「杜若」の動画配信

4月になってからは、昨年同様に稽古も舞台もめっきり減ってしまいました。

しかしそれでも全く活動していない訳ではありません。

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動画配信の企画に、ゴールデンウィーク前後にいくつか参加いたしました。

その内で4月30日に収録された「宝生夜能〜語り部たちの夜〜」について紹介させていただきます。

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今回の演目は能「杜若」シテ高橋憲正です。

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番組の最初には、いとうせいこうさんによる「杜若」の現代語訳を、声優の森田成一さんが朗読します。

森田成一さんは能装束を着けて、途中で”物着”を挟んでの長い朗読でした。

場面毎に繊細に変化する声色や、迫真の表現力に圧倒されます。

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そして朗読の後には、

「いとうせいこう能楽紀行〜東下り編〜」

が続きます。

ここに私が解説者として出演しております。

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「いとうせいこう能楽紀行」も3回目になり、私もその撮影スタイルにやや慣れてまいりました。

ただ今回は、4月30日に生放送で配信が始まるという事で、時間を20分前後にまとめる必要がありました。

舞台の前に大きなデジタル時計が置かれて、常に時間を気にしながら話すのは、また違った緊張感がありました。

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能楽紀行に続いて、いよいよ能「杜若」が演じられます。

そして能「杜若」の後には、業平に因んだ演目として仕舞「隅田川」もご覧いただきます。

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更に演能終了後には、宝生和英家元とシテ高橋憲正、声優森田成一さんの鼎談もあり、非常に充実した内容になっております。

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各地で緊急事態宣言が継続中で、活動が制限される日々が続きます。

能楽堂に足を運んで実際の舞台を観るのが難しい方も、是非この機会に動画配信で能楽を多角的に楽しんでいただければと思います。

どうかよろしくお願いいたします。

https://nohlife.myshopify.com/collections/streaming/products/4-30%E9%87%91%E5%A4%9C%E8%83%BD-%E6%9D%9C%E8%8B%A5-%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E9%85%8D%E4%BF%A1

嬉しい報せ

昨日5月22日は、本来なら大阪香里能楽堂にて「春の関西宝連」という学生自演会が開催されるはずでした。

しかしその舞台は緊急事態宣言中のために来月に延期になってしまいました。

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私の予定も空白になったのですが、水道橋宝生能楽堂の舞台がやはり催し延期のために空いていることがわかりました。

私は来月6月12日の「七宝会」で能「氷室」のシテを勤めるので、その稽古をしに水道橋に向かいました。

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そして夕方稽古を終えて、楽屋でスマホのメールを見てみると、とても嬉しい報せが届いていたのです。

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今年はゴールデンウィーク期間から何度か、「新歓企画・鶴亀謡体験」というのをzoomで開催していました。

その時に参加してくれた新入生の1人が入部を決めてくれたようなのです。

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今年はすでに2回生が2人入部してくれていました。

更に、この春に東大から京大大学院に進学した院生が、”東大宝生会出身”というかつて無い経歴で京大宝生会に加わってくれていたのです。

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そして今回は1回生、しかも待望の男子が入ってくれました。

これで4月以降に4人の新しいメンバーが増えたことになり、京大宝生会は昨年の新入部員ゼロという状態から何とか息を吹き返したと言えます。

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コロナウイルスはまだまだ予断を許さない状況ですが、新しい顔ぶれを加えてまた合宿したり、大きな舞台に立ったりする日を夢見て、今出来る活動を地道に続けていきたいと思います。

2件のコメント

2年ぶりの新歓ワークショップ

今日は京大能楽部BOX舞台にて、京大宝生会の新歓ワークショップを開催いたしました。

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事前に申し込みのあった人に限っての参加、人数制限、全員マスク着用と換気の徹底、またアクリル板の使用など、出来る限りの安全対策を施しての開催でした。

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それでも今の状況で果たして参加者がいるのかどうか…?

始まるまで期待と不安が拮抗した気持ちでドキドキしておりました。

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しかし蓋を開けると、新入生や留学生など10人近い参加者が来てくれて、とても充実した新歓ワークショップをすることが出来たのです。

対面での新歓活動が一切出来なかった去年を思うと、とても大きな成果だと思います。

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今後もおそらくサークル活動には様々な制限がかかると思われます。

それでも何とかして新しい部員に入ってもらい、可能な方法で稽古を続けていきたいと思っております。

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また今日はとても驚く出来事がありました。

新歓ワークショップの開始前、1人の新入生らしい青年がBOXに入って来ました。そして…

「澤田先生、私は○○と申します」

その苗字を聞いて、改めて青年の顔を見てすぐにピンと来ました。

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青年のお母様は、私の京大宝生会時代の同期の女性。

そしてお父様は当時の京大宝生会OBだったのです。

卒業後にめでたく結婚されて、2人のお子さんたちと私の舞台を何度も観に来てくれました。

子供達に最後に会ったのは、私の「道成寺」の披きの時でした。

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そのお子さんが大きくなって今年見事に京大合格し、今日能楽部宝生会の新歓ワークショップに来てくれたという訳なのです。

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時の流れをしみじみ感じると共に、えも言われぬ深い喜びに包まれました。

青年は宝生会への入部はまだ躊躇しているようでしたが、何とか初の”親子二代での宝生会”というのが実現してほしいものです。

新歓ワークショップの成功とともに、とても嬉しい日になりました。