謡いまつがい

昨日、いただいたお菓子を食べる時に「かぼちゃ」「くるみ」味と食べて最後に食べたのが下の味でした。

…「どんもーあ」。新しい植物だろうかと思い、その字で検索までしてしまいました。。

ずっと気になって、布団に入っても考えているうちにハッと気がついて一人赤面しました。

最近はまた、メールで「どうもありがとうございません」と送ろうとして、すんでの所で気がつくということもありました。

自らの言語能力に自信が無くなっている今日此の頃です。

謡本においては、元々が難解な上に、記号がまるで読み仮名のようについているので、言い間違いならぬ謡い間違いが起こりがちです。

私の経験したのは、例えば…

・敦盛…敦盛キリの「盛」の部分の横に「トリ」の記号が書いてあり、「熊谷の次郎直実逃さじと追っかけたり。敦トリも〜!」

・紅葉狩…後ワキ「夢の告げと〜」の「告げ」の横に「ステル」の記号があり、「夢のステ〜!」

また、記号も関係無しの謡まつがいとしては、

・右近…キリの「おさまる都の花盛り〜」を「おさまる都の花飾り〜」

すごい所では、

・右近の同じ所で「おさるの都の花盛り〜!」

というのがありました。

その場では、内心ちょっと笑ってしまったりするのですが、そこで謡本の書き方の難しさや、当たり前に謡っている部分の謡いにくさを再認識できたりするのです。

今日のネタのどれかが自分のことだと思われた方は、大変申し訳ありません。

冒頭の私のネタを、よろしければ何処かでお使いくださいませ。

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四条五条の橋の上

京都はこの週末、桜が満開です。

街中は正に能「熊野」の「四条五条の橋の上           老若男女  貴賎都鄙  色めく花衣〜」の謡の風景を現代に置き換えたような状態で、大変な人出でした。

海外からの観光客が多いのが当時と一番違う所でしょうか。

今日は雨模様になってしまいましたが、昨夜は京大稽古の後で部員達と円山公園まで歩いて花見に行きました。

円山公園では佐野藤右衛門さんの枝垂れ桜が丁度満開になっていました。


細かい雨は降っていたのですが、「桜狩  雨は降り来ぬ  同じくは  濡るとも花の陰に宿らむ」の心で傘は使わずにお花見をしました。

上の和歌が折り込まれた能「右近」は、来週15日に私が能「百万」を舞う五雲会にて、亀井雄二さんが舞われます。

春の曲が揃った今回の五雲会です。能楽堂で春を体感しに、是非お越しくださいませ。

五雲会は水道橋宝生能楽堂にて、4月15日(土)正午始です。

夢の無い話

今日は、とある町のホールでの演能です。

私は切り組みの立衆でした。

開演時間が近付き、鏡の間にあたるスペースで装束を着けることになりました。しかし…

私「すみません、楽屋に忘れ物をしました。。」

あろうことか、ひとつ下の階にある楽屋に胴帯を忘れてしまったのです。普段は決してしない凡ミスです。

「すぐ取って来ます!」一番近くにあった階段で急いで下に降りました。

ところが、楽屋がある筈のそこは駐車場でした。「来る時と違う階段を降りたからかな…」ちょっと焦りながらも、このフロアに楽屋があるのは確かなので、あちこち走りまわって探します。

しかしどうしても楽屋が見つからず、ついに開演時間が来てしまいます。

「どうしよう、舞台に穴をあけてしまう!」と狼狽えながら、胴着一枚の姿で走っている所で目が覚めました。。今朝の事です。

この手の能役者にとっての悪夢は、シテが間近に迫って来るとかなりの高確率で見てしまうのです。

例えば舞った事の無いシテを稽古無しでやる夢や、「猩々の前シテ」を勤める事になっている夢も見ました。

周りの先輩に型を聞いても何故か誰も教えてくれず、いよいよ追い詰められた所でハッと目覚めるパターンです。

内容が酷い分、目が覚めて夢だとわかった時の安堵感はとても大きく、「夢で良かった〜!現実では頑張ろ。」と思うのでした。

夢の無い夢のお話でした。

新たなスタート

今日は澤風会が終わってから初めての江古田稽古でした。

皆さんそれぞれ新しい仕舞を決めて、また次の舞台に向けてスタートを切りました。

最高齢90歳のお弟子さんも元気に次の曲「養老」の仕舞を稽古されました。

そして謡も今日から新しい曲「田村」の鸚鵡返しを始めました。

桜咲く4月の初め、街中には如何にも新入社員、見るからに入学式帰りの大学新入生、と言った人達が溢れています。

こういう春の新鮮な雰囲気の中で、気持ちも新たに稽古を開始するのは、大変に気分が良いものです。

しかも田村の鸚鵡返しで桜が満開の清水寺の風景を謡っていると、「今自分は他の人よりも深く濃厚に春を体感している」と思われました。

日本の四季折々の美しさを、普通よりも鮮烈に濃密に味わえるのは、謡や仕舞の稽古をしている人だけの特権だと思います。

稽古を終えて、「春宵一刻  値千金 」と頭の中で謡いながら、江古田稽古場前の中学校の満開の桜を眺めて帰路につきました。

曲名看板2

今日は緩めの回です。以前載せた曲名看板シリーズその2です。

こう見えても、実は身分の高い超イケメンの店主がやっている居酒屋、かも知れません。

きっと容姿端麗で教養も高い女将がいて、最高級の接待が受けられる宿、のはずです。

あれ、何か一文字足りないような…

  

「島」でした。

今回は以上です。またネタがたまったら第3弾もやりたいと思います。

見学者第1号

昨夜の京大宝生会稽古は現役部員や新OGが引っ切り無しに出入りして、何となく舞台の本番のような華やかなざわつき感がありました。

今週からいよいよ新入生が大学にやって来て、本格的な新歓が始まったのです。

とは言え昨日はまだ京大生協のイベントがあるだけで、その出入りに合わせてビラ撒きをしたものの、BOXまで新入生が見学に来ることは無さそうでした。

ビラ撒きが一段落してようやく通常の稽古に入って暫くした頃、「あれ、K君がいない」誰かが気付きました。

さっきまでいた筈の新3回生K君が何処かに行ってしまいました。

しかし京大においては、急にふらりといなくなる人は決して珍しく無いのでそのまま淡々と稽古を続けていました。すると…

19時半頃になってBOXの扉が開き、K君が顔を出しました。「ああ、帰って来た」と思ったら、K君の背後に見慣れない男の子の姿が…。

K君「新入生です。吉田食堂の前で声をかけて連れて来ました」

なんと!新入生見学者第1号です!

「京都の北部から来た1回生の○○です。理学部です」

ぎこちない自己紹介の後、こちらも現役、OGの順にやはり何と無く照れ臭そうに名前、学部、出身地を名乗りました。

これから1〜2ヶ月の間おそらくこの光景が繰り返されるであろう、しかし記念すべき最初の見学者でした。

京大の場合、見学に来た日に入部する人は少なく、何回か来ているうちに慣れていって入部に至る、というパターンが多いのです。

彼もこれから何度か稽古に来て、是非とも入部してほしいと思います。

しかしふらりといなくなって新入生を連れて来たK君は、謎めいていますが素晴らしいです。

現役と若手OBOGの皆さん、これから新歓どうか頑張ってください!

桜守

能「田村」の前シテは、清水寺の桜の下で自分を「花守」だと言います。

「いつも花の頃は木陰を清め、明け暮れ木陰に」いるので花守と言うのだ、と。

現代においては「桜守」という人々がいて、これは花の時期に限らず、年間を通して桜の成育や手入れ、看病などの世話をする職人さんのことだそうです。

最も著名な桜守は、京都嵯峨野に代々続く造園家の「佐野藤右衛門」さんです。

有名な円山公園の枝垂れ桜も佐野藤右衛門さんの育てたものです。

この佐野藤右衛門さんの枝垂れ桜が、実は大山崎稽古場の宝寺にもあるのです。まだ小さい木ですが、毎年綺麗な花を咲かせます。

今年は花が遅いので、まだ下の写真のように蕾が固い感じです。

しかし二週間後にある珍しい追儺式の「鬼くすべ」の頃には満開になっているかと思われます。

「鬼くすべ」はまた別稿で詳しく書きますが、毎年4月18日の14時頃から宝寺本堂で行われる儀式です。

宝生流の謡の奉納もあります。お時間のある方は是非お越しいただき、桜守が育てたという枝垂れ桜も御堪能いただければと思います。

甲府盆地の桃の花

昨年の4月上旬の事です。松本稽古に向かう為に、いつものように新宿から特急あずさに乗りました。

八王子を過ぎて奥多摩辺りまで来ると、電車はトンネル地帯に入ります。

小一時間ほどトンネルを出たり入ったりした後、広々とした甲府盆地を見下ろす高台に出るのですが、そこで目を見張りました。

多少美化された記憶ではありますが、その時の甲府盆地は満開の桃の花で全体が淡いピンク色に埋め尽くされていたのです。

数年前から通っていた松本稽古ですが、このような美しい甲府盆地を見たのは初めてで、また桃がこんなに綺麗な花だと思った事もそれまでありませんでした。

西王母の誕生日が旧暦3月3日だと先日書きましたが、今の暦だと丁度4月上旬にあたります。

三千年に一度だけ実る桃があるという西王母の園は、おそらくこんな感じなのでは、と思われる夢のような風景でした。

そして今日。また松本稽古がありました。

今年は桜も遅いので、桃もまだだろう、しかし少しだけでも咲いていないかな…と期待しながらトンネルを抜けると…

桃の花は見事に全くありませんでした。。

むしろまだ梅が咲いていて、周りの山々は白く雪を戴いています。

春は名のみの甲府盆地でした。

またいつかあの、西王母の世界のような桃の風景を見てみたいものです。

左と右

昨日の仕舞百番会で、一番多かった間違いが「左と右を逆にしてしまう」というものでした。

例えば「乗り込み拍子」という型があります。

これは比較的長めの距離を摺足で移動して、最後の止まり際に足拍子を左右ひとつずつ踏む、という型です。

この足拍子を左右どちらの足から先に踏むかは、踏む瞬間にどちらの手が上がっているかで決まります。

つまり左手が上がっていたら左足から。右手が上がっていたら右足から先に踏むのです。

これは「手足が連動する」という考え方です。

ところがこの「手足の連動」を実践しようとした時に、「頭では理解しているのに、何故か逆の足にしてしまう」という人が多いのです。

考えてみれば、日常生活で「右と左」をここまで細かく規定される事は先ず無い気がします。

私は稽古の時に「ここは左足から3足出て、かけて右へ行き、5足で右足かけて正向き、左足から出て5足で左止まり」という風に「右と左」の事ばかり毎日繰り返し言っています。

「どっちでも良いじゃない」と思う向きもあるかもしれません。

しかしこれは体重移動などの、身体の動きの理にかなった法則だと私は思います。

「左と右」の「手足の連動」の法則をマスターすれば、日常の動きにも無駄がなくなり、また身体のバランスも良くなって健康にも通じると思うのです。

という訳で、明日からも各稽古場で「そこは右手が上がっているから右足から!」と言った事を口うるさく言うと思いますが、どうか面倒と思わずに正しい動き方を会得していただきたいと思います。

仕舞百番会終了しました

京大宝生会仕舞百番舞う会が先ほど無事に終了しました。

朝8時頃からBOX舞台に部員が集まって来て、全員紋付に着替えて9時に仕舞「巻絹キリ」から始曲。

五番立を延々と繰り返し、50番終わったのが13時半頃。

30分の昼食休憩を挟んで、14時から後半を始めて19時過ぎに仕舞「橋弁慶」で百番を迎えました。

現役とOBOG合わせて22名での舞台でした。

OBOGの中には、一昨日英国から帰国したばかりの人、わざわざ有給休暇を取って来た人もいました。

百番の内で私が舞ったのは7番のみで、あとの93番は全員交代で舞いました。

皆いろんな仕舞を見て、大いに刺激を受けたようです。

また、ちょっと前にやった仕舞を復習して思い出したり、色んな意味で良い成果が上がったと思います。

合宿、澤風会、百番会と、実りの多い春休みを経て、来週からは新歓が始まります。

京大宝生会はまた新しい顔ぶれを加えて、次の舞台に向けて頑張って参ります。