どこかの稽古場で…

今日は午後に江古田で稽古してから、移動して夜に田町稽古でした。

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天気予報通り非常に寒い日になり、携帯のニュースでは松本城の桜に雪が積もっている写真を見ました。

せっかく春だと思って咲いた桜が、寒くて凍えているようでした。。

明日からはまた春に戻るようなので、頑張って咲き続けてほしいものです。

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田町稽古は澤風会郁雲会以来でした。

いつもの会員さん達に加えて、今日は新しい顔ぶれが見えました。

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江古田で稽古していた青年と、京都で稽古していた京大宝生会OGさんです。

それぞれ東京芸大の授業と、会社の研修が終わった後に稽古に駆けつけて来てくれたのです。

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この2人を田町稽古場の和室で稽古するのは、なんだか不思議に新鮮な感覚でした。

OGさんは今回限定の田町稽古でしたが、また次回の田町稽古には違った新しい顔が見られそうです。

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新しい生活になって環境が色々変わっても、どこかの稽古場で稽古を続けてくれる人がいるのは有り難いことです。

そしてその人が移動先の稽古場の人達と仲良くなれば、また新たな化学反応が生まれて面白くなりそうな予感がします。

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外は冬の寒さでしたが、今日の田町稽古では春らしい新鮮な予感を感じることができたのでした。

扇を2本使う仕舞

今日は芦屋稽古から移動しての西荻窪稽古でした。

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西荻窪稽古では毎回沢山の仕舞を稽古いたします。

仕舞の曲目も多彩なのですが、稽古が難しいのは「扇を2本使う仕舞」、通称「二本差し」というカテゴリーのものです。

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同じ「二本差し」でも、例えば”八島”と”鵜之段”と”野守”では2本の扇の使い方が全く異なります。

その違いを言語化して表現するのは困難なのですが、試しにやってみます。

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袴と帯の間に2本の扇を差し、”先に抜く扇を外側”に、”後に抜く扇を内側”に差すところまでは同じですが、その後に…

八島…

①先に抜いた扇を”開いて”右手に持ち、始める。

②途中で扇を左手に持ち替えて盾にする。この時左手で扇の”竹の部分”を持つ。

③後に抜く扇を抜いて太刀にする。右手で”紙の部分”を握って持つ。

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鵜之段…

①先に抜いた扇を”開かずに”右手に持ち、松明にする。

②立ち上がってすぐに、後に抜く扇を抜いて開き、鵜籠にする。両手で”紙の部分”を持つ。

③後に鵜籠の扇から右手だけを離す。

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野守…

①先に抜いた扇を”開かずに”右手に持ち、下ニ居。

②下ニ居の状態で後に抜く扇を抜いて開き、鏡にする。左手で鏡の扇の”紙の部分”を持ってから始める。

③途中、鏡の扇を両手で持つ型が何度かある。

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…すみませんやはり訳がわかりませんね。。

これらの扇の扱い方を全て理解して会得するのは非常に困難なのです。

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しかし、仕舞の稽古がある程度進んだ方は是非この「二本差し」に挑戦していただきたいと思います。

最初苦労はしますが、適切な扇の使い方で舞うととても格好良い仕舞ばかりなのです。

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修羅物では、”経政”、”清経”、”生田敦盛”、”俊成忠度”、”兼平”など、”八島”とは少し違った2本の扇の扱い方をする仕舞がたくさんあり、どれも難しいですがやり甲斐がある曲目です。

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そしてまた、「二本差し」で苦労して稽古した後に扇1本だけの仕舞を稽古すると、前よりも簡単に感じられるかもしれません。。

花まつりの夜桜見物

毎年今頃の時期には色々な土地で桜を見るのですが、「その年一番記憶に残る桜」というのが必ずあります。

過去には大仁稽古に行く途中の「原木の枝垂れ桜」など。

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そして今年はまだ、そんな桜に出会っていませんでした。

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今日は夜から芦屋稽古で、少し早く芦屋駅に到着してしまいました。

どこかで本でも読んで時間を過ごそうかと考えて、「そういえば芦屋川の桜が見頃かもしれない」と思いつきました。

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駅から歩いて数分でもう芦屋川です。

期待した通り桜は丁度満開で、ライトアップもされていました。

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空を見上げれば切れそうな細い月が出ています。

魚は”釣針”と疑い、鳥は”弓”かと驚きそうな月です。

写真ではとても小さくて見えづらいですが、左上の角に写っています。

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桜並木は「業平橋」のところまで続いていました。

そこで「月やあらぬ…」という業平の歌が思い出されましたが、あれは梅が咲いている頃の歌でしたね。

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今日はお釈迦様の誕生を祝う「花まつり」の日でした。

花まつりの夜に満開の夜桜に行き逢うのも何かの縁かもしれません。

今年の「記憶に残る桜」は、今のところ今宵の”芦屋川の夜桜”ということになりそうです。

暮れかけの空の群青色と桜色のコントラストがなんとも綺麗でした。

平原のような日

今日は隙間時間に、年末年始以来の部屋の掃除などしてみました。

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上四半期の仕事で早くも盛大に散らかった諸々を片付けているうちに、掃除のスイッチが入り、これまで手をつけられなかった所も綺麗にしたくなりました。

収納ボックスなども新たに欲しくなり、近所のオリンピックに買いに行ったりして、結局「大掃除」になってしまいました。。

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しかし、大掃除の後の信じられない程片付いた部屋を見ると、また新たな気持ちで稽古や舞台を頑張ろうという気分にもなります。

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今日は合間になかなか美味しい焼売を食べたり、久々に都バスに乗ってのんびり揺られたりして、”仕事の山場”ならぬ”仕事の平原”のような1日を過ごしました。

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明日からまたエンジンをかけて頑張って参りたいと思います。

短いですが今日はこれにて。

耳栓と体内時計

三ノ輪の自宅マンションの大規模改修工事がいよいよ本格化してきました。

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毎朝9時前になると、「ズガガガガ‼️」

というドリルのような音が始まります。

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昔京都で借りていた部屋はマンションの1階で、窓を開けると目の前が叡山電車の線路という物件でした。

朝5時半頃から夜11時過ぎまで、定期的に「ガタンゴトン!」と叡電が通り過ぎていきましたが、慣れると気にならずに寝られるようになりました。

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しかし今回のドリル音はさすがにレベルが違います。

遅くまで寝ていたい時も容赦なく叩き起こされてしまいます。。

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そこで、単純な作戦ですが「耳栓」を買ってみました。

これまでの人生では「耳栓」というものを殆どした事がなかったのですが、これは効果てきめんでした。

工事の音だけでなく、生活音なども全てシャットアウトされるので、むしろ今までよりも熟睡出来るようになりました。

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…それでは目覚ましの音も聴こえず、朝起きられないのでは、と思われるかもしれません。

しかし、私には不思議な特技があるのです。

「目覚ましの鳴る1分前に起きる」

という特技です。

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これは宝生能楽堂の内弟子だった時代に身に付けた習慣です。

同じ部屋に何人も寝ているので、私の目覚ましのアラームで他の人を起こすと申し訳ないと思い、目覚ましの鳴る前に止めて起きることを習慣にしていたのです。

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しかし睡眠時間は出来るだけ長くとりたい、と思いながらこの習慣を続けた結果、目覚ましの鳴るほぼ1分前に目が覚めるようになったのです。

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…という訳で、夏までかかる予定のマンション大規模改修工事中は、耳栓と体内時計の合わせ技で何とか安眠を確保したいと思います。

春の院展2019

今日は午後に時間があったので、日本橋三越で開催中の「春の院展」に行って参りました。

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第1会場に入って最初の絵を見た瞬間に、「ああ、いつもの”院展”の時の感覚だ…」と、何か懐かしい気持になりました。

半年ぶりに親しい人達の楽しい集まりに顔を出したような感覚です。

そして懐かしい顔触れの中に、初めて会う興味深い新顔さん達もちらほらと。

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頭を出来るだけ空白にして、無数の日本画の間を漂っていきます。

順番は無視して、人が誰もいないスペースの絵をボンヤリと見るのが私の好みです。

そうして過ごしていると、脳の普段使わない部分がほぐされていくような心地良さを感じます。

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沖縄の伝説のニライカナイ。

ガジュマルの木を見上げる子供達と、その背後に広がる海。

ジンベエザメ。

ワニ。

海が見える根府川駅。

地球照に照らされて海上に浮かぶ巨大な新月。

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…今回記憶に残った絵は、何故か”海”に関わるものばかりでした。

そういえば、沖縄の海ももう10年近く見ていません。行ってみたいものですが、さすがに中々時間が取れそうにありません。。

せめて「根府川駅」くらい、何かのついでに立ち寄ってみようかと思いながら、今回も夢から覚めたような心持ちで院展会場を後にしたのでした。

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春の院展は4月8日の月曜日まで日本橋三越7階で開催中です。

田町稽古場の森田和彦さんの作品も出展されていますので、皆様週末には是非お出かけくださいませ。

澤風会郁雲会以来の江古田稽古

今日は久しぶりの江古田稽古でした。

3月9日の澤風会郁雲会以来なので、ほぼ1ヶ月ぶりになります。

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前回の稽古からの出来事を思うと、1ヶ月というのはとてつもなく長い時間だなあと思います。

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前回はまだ芸大入試の真っ只中だった青年が、今日は芸大入学式を明後日に控えた立場でやってきてくれました。

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また先日の「京大仕舞100番会」で仕舞を舞って、翌朝早くに東京に職場研修に行くと言って帰っていった若手OGさんは、なんと今日は研修を終えてから江古田稽古に駆けつけてくれました。

研修は大変そうですが、元気そうで安心しました。

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そして激動のひと月を過ごした人がいる一方で、ジパング組を中心にほぼフルメンバーの会員さん達が、変わらず元気に稽古にいらしてくださいました。

こちらも非常にありがたいことでした。

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ここからはまた、月2回ペースで頑張って稽古を続けて参ります。

江古田の皆様どうかよろしくお願いいたします。

短いですが今日はこれにて失礼いたします。

浅草への下町散歩

今日は久しぶりに1日休みでした。

いくつかの目的で浅草方面に行こうと思い、徒歩で三ノ輪から出発しました。

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三ノ輪から浅草へは国際通り一本でもいけるのですが、魅力的な脇道があるとついそちらに行ってしまうのが私の悪い癖です。

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「あしたのジョー」の像が立っている角から脇道に曲がり、くねくねと歩いてかつて「山谷堀」があった跡の公園へ。

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山谷堀公園には「紙洗橋」という由ありげな橋の跡がありました。

「草紙洗」と関係はあるのかな…?

と調べてみると全然違いました。

ここで”浅草紙”という紙を作っていたそうなのです。

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そして紙を山谷堀の水に晒す「冷やかし」という作業中に職人が吉原遊廓を見に行き、結局遊ばずに帰ったことから、買い物せずに店を見るのを「冷やかす」というようになったそうです。

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更に山谷堀近くの「合力稲荷神社」の前を通りかかりました。

そこには江戸時代の日本一の力持ち「三ノ宮卯之助」という人が足で持ち上げたという大きな石が奉納されていました。

写真は撮りませんでしたが、私にはちょっと動かすことすら絶対に無理な大きさでした。

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「三ノ宮卯之助」を調べてみると、「馬に乗った人を更に舟に乗せて、卯之助はその舟ごと持ち上げた」と書いてありました。。

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そして浅草寺横のアーケード街で、演芸用の刀や衣装の専門店をいくつか”冷やかし”、西へ少し歩いて「合羽橋道具街」へ。

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食器や看板など、主に飲食店向けのあらゆるアイテムが揃うこの「合羽橋道具街」ですが、今日の私は「椅子」を探していました。

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コンパクトに折り畳めて、出来るだけ軽量な椅子です。

江古田稽古場で、長時間の正座がしんどい会員さんが使えるものをずっと探していたのです。

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田原町から三ノ輪方面へと道具街を北上していくと、「食器だらけの店」や「包丁だらけの店」、「食品サンプルだらけの店」などが軒を連ねています。

そしてやがて目当ての「椅子だらけの店」を見つけて、無事に下の椅子を2脚購入することが出来ました。

畳むと下のようにコンパクトに。

これで1脚1200円也なのです。

しかも軽量なので、2脚を小脇に抱えて徒歩で三ノ輪まで帰れました。

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という訳で、今日は色々勉強にもなった下町散歩で、目当ての椅子も購入出来て大満足な1日になりました。

椅子は早速明日の江古田稽古に、また小脇に抱えて持って参りたいと思います。

亀岡の花々〜花冷えの中で〜

昨日の松本稽古が終わった後に、何人かの会員さん達と晩御飯を食べました。

そしてお店から出ると…

なんと外は雪が降っていました。

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そういう天気予報だったので暖かめの格好はしていたのですが、それでもやはり寒くて雪のぱらつく中を震えながら宿に急いだのでした。

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明けて今日、松本から亀岡稽古に移動しました。

特急しなのの車窓から見える北アルプスは、雪雲で大半が隠れています。

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新幹線に乗り換えても、伊吹山や比良山系は北アルプスと同じような厚い雲で覆われていました。山頂付近は間違いなく雪でしょう。

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亀岡に到着して、10日前に”蓑虫”の写真を撮った亀山城址のお堀端の桜を見に行ってみました。

現在の桜と蓑虫は下のような様子です。

10日前は蕾だけだったので、かなり開花はしていました。

しかしまだまだ半分以上は蕾のままで、冬のような鉛色の雲の下で、桜も蓑虫も寒くて固まっているような感じでした。

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この寒さでは、稽古場の春の花もまだあまり咲いていないでしょう。

それでも稽古の合間に見てまわると、いくつかの花々を見つけることが出来ました。

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「ボケ」の花です。

果実が瓜に似ていて、果実酒にすることもあるそうです。

「木瓜」と書いて「もけ」とか「もっくわ」と呼ばれたのが、変化して「ぼけ」という呼び名になったとか。

全然ボケてなくて、ハッキリとした綺麗な花なのに、少々可哀想なネーミングだと思います。。

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以前にも写真を載せたことのある「クロモジ」の花と新芽です。

この特徴的な姿で、人の背丈ほどの高さの木に無数に咲いているので中々インパクトがあります。

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しかし今日は、更にインパクトのある外見の花を見つけました。

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小さな黄色の花がたくさん集まって、5㎝程の長さの房状になったものが垂れ下がっています。

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その黄色い房が、さっきの「クロモジ」の倍程もある樹高の木全体に散りばめられていました。

「トサミズキ」の花だそうです。

葉っぱが全く無いので、なにやら他の惑星の生命体のような、ある種奇怪な存在にも見えました。

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もう数日は寒さが続くようです。

それを乗り越えれば、おそらく暖かな春の陽気に包まれるでしょう。

次回の亀岡稽古では、林床に咲く春の花達が見られることを願っております。

“遠く”のカングリ

新しい元号「令和」が発表されました。

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思い返すと、「平成」が発表された1989年1月8日には、私は浪人中で予備校の冬季講習に行っておりました。

帰りの駅前で号外が配られていて、その見出しで新元号「平成」を知ったのです。

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そして私はそれから間も無い平成元年の春に京都へ。

平成8年春に東京芸大へ。

そこからの平成時代は、とにかく修行の日々でした。

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今は全国あちこちを動き回る日々で、昨日は大山崎稽古、今日はこれから松本稽古、明日は亀岡稽古という中で新元号「令和」を三ノ輪の自宅で知りました。

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能「隅田川」のシテ北白川の女は、自身の境遇を伊勢物語の在原業平の東下りになぞらえて、

「思えば限りなく 遠くも来ぬるものかな」

と謡います。

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“遠く”という部分に、宝生流だけが「カングリ」という非常に高い音の特殊な節を使います。

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この”遠く”のカングリを謡う時、私は何とも魂が震えるようなシテの寂しさを痛切に感じてしまいます。

都と隅田川との距離感に加えて、シテが過ごして来た平坦では無かった人生が、このカングリに凝縮されている気がしてしまうのです。

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そして今、松本に向かう車中で「平成という時代」の自らの日々を振り返ると、やはり”遠くのカングリ”を謡う時のように遥かな寂しいような気持ちになってしまいます。

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まもなくやって来る「令和」の時代には、どんな出来事が待っているのでしょうか。

前を向いてこの先を考えると、寂しさは消えて何だか漠然とした希望が湧いて参ります。

進める限り前へ前へと歩んで行きたいと思います。

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先ずは目の前のことから一歩一歩です。

今日これからの松本稽古も全力で頑張ろうと思います。