四つ葉のクローバー

昨日の松本稽古でのこと。

小学2年生の男の子とお母さんは、仕舞「加茂」を稽古しています。

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小学2年生ながら既に稽古歴3年になる男の子は、難しい「加茂」の足拍子(謡に合わせてリズムを変えて22連発!)も何度か繰り返すと出来るようになりました。

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「よく出来ました!」

と挨拶して稽古を終えると、彼が何やら手に持って、私に差し出してくれました。

見れば細い茎の先端に小さな葉っぱが何枚かついています。

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私「おお、これは”四つ葉のクローバー!」

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以前に、京都のヤサカタクシーに「四つ葉タクシー」が1300台のうち4台だけあるという話を書きました。

こちらは本物の「四つ葉のクローバー」です。

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調べると、クローバーに「四つ葉」が出現する可能性は大体10000分の1だそうです。

四つ葉タクシーよりもかなり珍しいのですね。

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しかし男の子のお母さんは、

「私達は”四つ葉のクローバー”を見つけるのが得意なんです。よく見つかる原っぱがあるのですよ!」

男の子も、うんうんと頷いています。

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見つけると幸せになるという「四つ葉のクローバー」。

それをよく見つけるということは、きっと幸運がたくさん訪れる親子なのでしょう。

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親子でクローバーを探したり、折り紙に夢中になったり、その一方でドッヂボールで活躍してちょっと足首を痛くしたり…

松本で伸び伸びと成長する男の子の日々は、確かに眩しいような幸せに彩られているようです。

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私もその幸運のご相伴にあずかろうと、貰った「四つ葉のクローバー」を鞄の中の文庫本に大切に挟んだのでした。

新しい「ダナー」

昨日は仕事が一段落して、午後から時間が空きました。

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かねてより”靴”を新しくしたいと思っていたので、街に買い物に出ることにしました。

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私はもう30年近く、アメリカの「ダナー社」というメーカーの靴を履いています。

元々はアメリカの木こりが履く為に作られたという無骨な靴で、特に靴底が「ビブラムソール」という登山靴にもなる頑丈なものなのです。

京大農学部林学科の頃にこのメーカーを知り、以来ずっと好んで履き続けています。

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前回は3年程前に、ドイツのブレーメン公演に行く直前にやはり「ダナー」の靴を買いました。

それから3年間、その靴を履いて北は北海道から南は九州まで、そしてドイツまでも共に旅をして来ました。

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その前の「ダナー」とは、イスラエルや韓国やアメリカにも行って来ました。

もっと以前の「ダナー」の時には、上高地の河童橋から今は無い岳沢ヒュッテまで山登りもしました。

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そして今回。

北千住の靴店で「ダナー」を探しました。

時代の流れか、昔ほど無骨な外観ではなくなっていましたが、やはり「ビブラムソール」の頑丈そうな茶色の靴を買いました。

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今日は早速足慣らしに長めの距離を歩いてみました。

やはり「ダナー」は私の足に合っているらしく、ずっと前から履いていたかのようにすんなりと足に馴染んで、飛ぶように歩けます。

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「新しい靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる」という素敵な言葉を誰から聞いたのだったか。

おそらく10代目くらいになるこの新しい「ダナー」を履いて、これからまた様々な素敵な場所に行ってみたいと思います。

夜の朝顔市散歩

私は最近よく、上野駅から三ノ輪の自宅まで歩いて帰るようにしています。

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昨夜も横浜での「京大宝生OB会全国大会」に顔を出した帰りに、酔い覚ましも兼ねて上野からブラブラ歩くことにしました。

時刻は21時過ぎ。

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10分ほど歩くともう日比谷線「入谷」駅が近づいて来ます。

昨日はその辺りで向かいから「朝顔」の鉢植えをぶら下げた人達が何人も歩いて来ました。

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ああそうか、「入谷の朝顔市」が今頃だったな、と思い出しました。

内弟子の頃には、先々代家元の奥様が毎年朝顔市にいらして鉢植えを買ってこられたものです。

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しかし実は私自身はその「朝顔市」に行ったことはありませんでした。

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「21時半近いし、もう終わっている頃かな…」

と思いながら歩いて行くと、前方の”言問通り”の辺りが何やら煌びやかに輝いて、大変華やかな雰囲気です。

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能「隅田川」にも出て来る、在原業平の「名にしおはば いざ言問はむ 都鳥 我が思ふ人は ありや無しやと」という和歌を由来とする”言問通り”。

その言問通りの”入谷の鬼子母神前”辺りが、朝顔市の会場になっていたのでした。

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21時半近くでもまだまだ大勢の人が行き交い、中には浴衣姿もちらほら。

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歩道から三段にわたって、朝顔の鉢が無数に並んでいる様は実に壮観でした。

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朝顔の価格表。

“夕顔”はちょっと高級品なのですね。

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そして”言問通り”を挟んで向かいの北側の歩道には、私の大好きな「夜店」が立っていたのです。

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大きな焼きとうもろこしに…

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串焼き。お姉さんは焼きながら何かの串焼きをモグモグ食べていました。

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お好み焼き。

シャッターチャンスを逃したのですが、男の子が”かけ放題”のマヨネーズを嬉しそうにグネグネかけているのが印象的でした。

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他にも懐かしいスマートボールなどなど。

私はこれが結構得意だったのですが、昨日は景品がアイドルの写真のようだったので遠慮しておきました。。

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結局朝顔は買わず夜店も冷やかしただけでしたが、思わぬ江戸情緒に触れることが出来て大満足でした。

いつか朝顔を買って、小学校の夏休みのように育てるのも良いかも、と思いながら、三ノ輪への帰途についたのです。

隙間花壇と天王祭

今日は水道橋宝生能楽堂にて「月並能」が開催されました。

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水道橋に向かおうと三ノ輪の自宅マンションを出て、いつものように「隙間花壇」の前を通り過ぎました。

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マンション大規模改修工事で殆ど枯れてしまい、ひと塊りだけ生き残った「ツツジ」が中央少し上に見えます。

残念ながら花は咲きませんでしたが、来年こそはまた勢いを取り戻してほしいものです。

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…ところがよく見ると、下方から「オシロイバナ」がめきめきと育ってきています。

このままいくと、「ツツジ」の生き残りが「オシロイバナ」に埋まってしまうのではないかと、ちょっと心配になりました。。

今後の経過を見守りたいと思います。

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次に目についたのは…

「ガクアジサイ」でした。

こちらも改修工事の影響か、去年よりも花は遅めです。

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…そしてもう一つ、去年は違う”異変”に気がつきました。

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花の色です。

去年までは確かに毎年青い花でした。

因みに下の写真が去年のアジサイです。

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それが今年は急に赤い花に。

土壌の質が変わったのでしょうか。

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何となく私には、アジサイが「この柵は邪魔だなあ!」と怒っているようにも、また「今年はやけに育ちづらいけれど、頑張って咲くぞ!」と力を入れているようにも見えました。

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そして駅の方へと歩いていくと…

何やら沢山の風船を持った行列が見えて来ました。

親子連れが多いような…。

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そしてその行列の後ろから…

なんと子供達が乗って太鼓を叩いている可愛らしい「山車」がやって来たのです。

今日は”素戔嗚神社の天王祭”の日でもあったのでした。

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去年の天王祭では、大人達の勇壮な「神輿振り」に偶然行き合いました。

今年は可愛い子供山車と出会った訳です。

この子達が将来あの大人神輿を豪快に振りながら練り歩くようになるのだろうと、何か頼もしい気持ちになりつつ、地下鉄日比谷線の駅へと急いだのでした。

歩きながら謡を覚えること

今週は覚えるべき謡が沢山ありました。

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東北新幹線や東海道新幹線で大方は消化したのですが、最後にボスキャラが一曲残ってしまいました。

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「当麻」です。

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舞囃子の地謡部分なので、ページにすると僅かなのですが、内容がとにかく難しいのです。

仏教用語が頻繁に出てくる曲は他にもあります。しかし当麻では…

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「為。一切世間。説此難信。之法。是為。甚難。」

というように、最早読み方すら判らない言葉が羅列されているのです。。

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新幹線で「当麻」の小本を開いていても、眠気が襲ってくるばかりでちっとも頭に入ってくれません。

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こんな時私は「歩きながら覚える」という手法をとることがあります。

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今日の場合だとシャツの胸ポケットに小本を入れて、片手でキャリーバックをコロコロ引きながら覚えていきます。

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「歩きスマホ」ならぬ「歩き小本」も危ないので、本は見ないで文句を小声で口ずさみながら歩いていき、わからなくなった箇所を信号待ちの間に小本で確認するのです。

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歩いていると眠気も来ないし、気分も変わるので、謡が頭に入りやすい気がします。

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今日は宝生能楽堂→わんや書店→神保町古本屋街→日比谷線秋葉原駅

というルートを辿り、途中古本屋さんに寄ったりしながら90分程かけてなんとか「当麻」を頭に入れる事が出来ました。

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舞囃子「当麻」地謡の本番は明日夕方なので、もう何度か浚い直してから舞台をむかえたいと思います。

ねぶたには演歌が似合う

昨日は”肌寒い”青森の様子をブログに書いてから、夜に青森稽古をしました。

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終わってから1人で遅い晩御飯を「鯖の棒寿司」が大変美味しい居酒屋さんで済ませると、時計は23時半になっていました。

雨はすっかり上がっています。

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「そう言えば、”ねぶた”はこんな時間でも作っているのだろうか…」

とふと考えました。

以前にねぶた祭のホームページを見た時に、「5月半ばから”ねぶた小屋”での制作が始まり、最後は徹夜の連続で完成させる」

と書いてあったのを思い出したのです。

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まだ追い込み期では無いと思われますが、ひとつくらいは作っている団体があるかもしれません。

駄目元で、ねぶた制作が行われているアスパム前広場に足を向けてみたのです。

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アスパム前広場には、今年も高さ7〜8mはあろうかという巨大な”ねぶた小屋”がズラリと建ち並んでいました。

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そしてそのうちの4〜5箇所の小屋の前には車が止められており、中には明かりが灯っていたのです。

やはり深夜でも”ねぶた制作”は行われていたのだと、しみじみ感動しました。

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小屋の入り口は閉じられており、中をみることは叶いませんでした。

しかし、ある小屋の前を通りかかった時、中から結構な大音量で「演歌」が聴こえて来たのです。

さすがに曲目はわかりませんが、石川さゆり風の女性演歌歌手の声でした。

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小屋の中で捩り鉢巻きの渋い男達が、演歌をバックに徹夜でねぶた制作をしている有様が思い浮かびました。

「ねぶた制作」、「徹夜」、「演歌」。

この取り合わせは実にしっくり来るなぁと、またもやしみじみと感動してしまったのでした。

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「ねぶた」の語源は「眠たい」の方言という説があるそうです。

夜を徹しての制作作業はそれこそ「ねぶたい」こともあると思われます。

その眠気を演歌を聴いて振り払い、8月初めの本番を目指して制作を続けていくのでしょう。

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演歌の流れていたねぶた小屋の場所は覚えたので、どんなねぶたが制作されていたのか、また来月以降の稽古で是非確認したいと思います。

今シーズン最後の”肌寒さ”

今日は青森稽古でした。

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いつも青森に行くと何かしら面白い物事に出会うので、今回も淡く期待しながら新青森駅に降り立ちました。

やはり東京よりもかなり涼しい気温です。

湿気があり、ちょっと北国の冬の記憶が蘇るような空気感でした。

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新青森から普通電車に乗り換えて青森に向かうのですが、普通電車の中はなんと暖房がついていました。

そして乗り込んだ後にドアを閉めるボタンを押し忘れた人がいると、車内の人がすかさず「寒いじゃないまったく…」

という顔でボタンを押してドアを閉めていました。

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駅にはもう「ねぶた祭」のポスターが貼ってあり、「ちょっと早いけど”ねぶた作り”を覗きに行こうかな…」

と思って青森駅に到着しました。

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しかし外に出ると、どんよりした空から冷たい小雨が降っていたのです。

どうりで湿気があるはずです。

傘を持って来なかったので、ねぶた製作所のあるアスパムの麓まで歩くのはちょっと厳しそうです。。

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青森港前の広場に何か花でも咲いていないかと、雨を避けるように早足で行ってみました。

でも今回は花にも縁が無かったようで、広場は緑一色でした。

写真は「ヒメリンゴ」です。

花はすっかり終わり、よく見ると小さな実が出来かかっていました。

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宿に入ると部屋にはやはり暖房がついており、信じられないことに私はそれを「有り難いなぁ…」

としみじみ思ってしまったのです。

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先週末からの猛暑に参っていたのが嘘のようです。

ねぶたや花には出会えませんでしたが、おそらく今シーズン最後であろう「肌寒さ」を、今回の青森稽古で味わって帰ろうと思います。

金野泰大君の結婚式に出席して参りました

今日は宝生流能楽師の金野泰大君の結婚式と披露宴に出席して参りました。

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金野君は私の後輩で、宝生能楽堂での内弟子生活を5年ほど共にした仲間です。

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飯田橋のホテルのチャペルでの結婚式から参列したのですが、意外にも正式な教会での結婚式は殆ど経験がなく、色々なことが新鮮でした。

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中でも牧師様があの誓約の言葉「貴方は健やかなる時も、病める時も…」

を述べる時の”位取り”には実に感銘を受けました。

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誓約の文節ごとに空く絶妙な”間”によって式場の視線と気持ちが徐々に牧師様に集まります。

そして牧師様は、新郎新婦の「誓います!」という宣誓を聞いて控えめながらしっかりと頷き、何とも言えず幸福そうな笑みを浮かべて、

「アーメン」

と穏やかな調子で祝福をされたのです。

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一連の牧師様の所作を見ることによって、参列した私も自然と幸せな気持ちになりました。

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牧師様は、もちろん信仰に基づいた正式な作法に則って、決まった言葉と動作をされたのだと思われます。

しかしあの絶妙な間と所作は、能の舞台にも是非参考にさせてもらいたいと思いました。

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結婚式の後の披露宴もとても和やかで、心のこもったスピーチなどもあり、最後の新婦さんのお父様へのお手紙朗読では、私も感動して思わず目頭が熱くなりました。

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金野君今日は本当におめでとうございます。

どうか末永くお幸せに!

「ずく」とは如何に…?

今日は芦屋稽古で、謡の稽古曲は「加茂」でした。

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シテ謡で「あざあざしくは申さねども…」

という文句があり、「あざあざしい」とはどういう意味だろうと思って調べてみました。

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するとあっさり「鮮鮮しい。はっきりしている様」

と出てきて、拍子抜けしました。

「鮮やか」の「あざ」だったのですね。

知らない言葉はまだまだ沢山あるものです。

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そう言えば先日の松本稽古の時に、面白い言葉を知りました。

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稽古が終わって何人かで食事をしている時のことです。

そのお店の御主人がわざわざ能登半島に出かけて釣ってきたという「黒鯛の刺身」と、同じくお店の女将さんがわざわざ木曽の山奥で採ってきたという大量の「山菜の天ぷら」が出てきました。

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どちらも大変美味しかったのですが、それを食べた地元松本在住の会員さんが、

「美味しいけど、これを採りにいく’ずく’が無いなあ」

と。

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私「’ずく’ってなんでしょう?」

会員さん「う〜ん、”めんどくさい事を苦にせずやる為のエネルギー”ですかね…」

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また別の会員さんは「そうそう。”あの人は意外と小ずくがあるよね〜”とかも言いますね」

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なるほど。

ずく。

微妙なニュアンスを僅か2文字で表現していて、大変興味深い言葉です。

また、自分で使ってみたくなる言葉でもあります。

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私は本来’ずく’の全く無い人間なのですが、内弟子の頃には’ずく’を全開に出していた気がします。

しかし今はまたせいぜい’小ずく’があるくらいに戻ってしまいました。。

明日からも’小ずく’エネルギーを何とか絞り出して、頑張って参りたいと思います。

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…なんだかちっとも上手く使えていませんね。。

もっと良い文例を考えたいのですが、’ずく’が無くなったので今日はこれにて…。

超高速「奥の細道」

今日は朝に水道橋宝生能楽堂で、土曜日開催の「五雲会」の申合がありました。

私は能「俊成忠度」の地謡を勤めました。

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「俊成忠度」は”和歌”に深く関わる曲です。

そして今日5月16日(旧暦では3月27日)は、和歌ではありませんが”俳句”の松尾芭蕉が、千住大橋のたもとから「奥の細道」の旅へと出発した日だそうなのです。

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全くの偶然ですが、今日私は五雲会申合の後に夕方から仙台稽古の予定でした。

千住大橋ならぬ上野駅から、徒歩ならぬ東北新幹線に乗って超スピードで白河の関を越えて、奥へと旅立ったのです。

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あっという間に仙台に到着すると、長いアーケード街を通って稽古場に向かいました。

すると、こんな光景が目に入りました。

祇園祭の”山鉾”のようですが、これは今週末に行われる「青葉まつり」で巡行する山鉾でした。

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しかしよく見ると、京都の山鉾とはちょっと趣きが違います。

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恵比寿様がドーンと載っているもの。

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巨大な和太鼓が据えられたもの。

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大きな鯛の載った鉾の周囲には、何故か無数の”絵馬”が下がっています。

こうなると、もはや「森見登美彦」の世界のようです。。

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他にもこんな鉾が。

上に載っているのは…

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なんと兜を被った伊達政宗公でした。

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実はこの仙台の「青葉まつり」は、1985年に伊達政宗公の没後350年を記念して復活したお祭りだそうなのです。

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ちょっとシュールな山鉾達を鑑賞しつつ稽古場に到着しました。

俳聖芭蕉ならば、山鉾のことを一首の俳句に詠んだかもしれません。

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しかし全く心得の無い私は、稽古を終えると再び東北新幹線に乗って、超スピードで白河の関を越えて上野へと帰ったのでした。

わずか数時間の”みちのくの旅”でした。