龍田神社への短い旅

今日は奈良の中学校で能楽教室がありました。

今年はこれまで、能楽教室の予定が軒並みキャンセルになっていたので、おそらく今年最初の能楽教室です。

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昼過ぎに奈良の中学校に到着すれば良い予定でした。

しかし私は今回、宿泊付きの割引ツアーを申し込んだため、東京からの新幹線が早朝便になって朝8時半には京都に到着してしまいました。

3時間ほどポッカリと空いています。

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「何か有効な時間の使い方は無いだろうか…」

と新幹線の車内で考えて、

「龍田明神にお参りしようか」

と思いつきました。

先月の五雲会で能「龍田」を舞ったので、その御礼参りをしたいと思ったのです。

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ところが「龍田明神」を検索したら、「龍田神社」と「龍田大社」の二つの神社がヒットしました。

両方とも行く時間はありません。どちらにお参りするべきか…。

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更に色々検索して、「龍田神社」には近鉄の「竜田川」という駅で降りてから「竜田川」沿いに歩き、「龍田大橋」を渡ってから「龍田の古い町並」を抜けて到着する事がわかりました。

という訳で今回は「龍田尽くし」の「龍田神社」を目指すことにいたしました。

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京都から1時間ほどで「竜田川駅」に到着。

小さな無人駅でした。

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辺りの町名は「龍田」です。それだけでも何か嬉しい気持ちになります。

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不動産屋も「タツタ」です。

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更に歩いていくと、いよいよ「竜田川」が見えて来ました。

果たして紅葉が流れていたりするのでしょうか…?

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この続きはまた明日書きたいと思います。

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桜島、御楼門、そしてアサギマダラ

昨日今日と「皓月会50周年記念大会」と「かごしま能」に出演するために鹿児島に来ております。

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せっかく鹿児島に来たので、桜島を見て帰りたいと思って朝早くに路面電車に乗って港の方に行ってみました。

終点の「鹿児島駅前」で降りて少し歩くともう港で、目前には桜島が堂々たる姿を見せていました。

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港からフェリーで20分で桜島に渡れるということで、渡し船好きの私としては「渡ってみたい…」と一瞬思いましたが、流石にそれは我慢して港から出て行くフェリーを見送るだけにしました。

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港を後にして皓月会会場の「県民交流センター」へ。

そして午前中に「皓月会」が無事に終わった後、会場近くの「鶴丸城御楼門」を見学に行きました。

明治期に焼失したこの御楼門ですが、県民の皆さんの願い叶って今年復元されたそうです。

門と言っても見上げるように巨大で立派な建造物でした。

そして御楼門から遠く見晴るかす桜島からは、先程は見られなかった噴煙が上がっているのが見えて「おお…!」と何か感動してしまいました。

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“日本の歴史”と”地球の息吹”が、現代のリアルタイムに共存しているのです。

鹿児島は不思議で、非常に魅力的な街でした。

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実は今日はもうひとつ感動したことがありました。

朝に港から県民交流センターに向かう途中、私の目の前を一匹の「アサギマダラ」がヒラヒラと横切って飛んでいったのです。

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秋になると南の島へ”渡り”をする蝶「アサギマダラ」。

毎年10月初めに京都亀岡稽古場の「藤袴」という花に立ち寄るのを見ていたのですが、今年はコロナ禍でその時期に亀岡稽古に行けず、アサギマダラにも会えずに残念な思いをしていたのです。

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そのアサギマダラに10月最後の日に、まさかこの鹿児島で会えるとは。

なんとか撮影しようと追いかけたのですが、アサギマダラは強い風に乗ってあっという間に空高く飛び去っていきました。

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舞台のことを書きませんでしたが、2日間とも晴天に恵まれて、会員の皆様の温かさと熱意に満ち溢れた素晴らしい舞台になりました。

今の時期にこれだけの大きな催しを成功させるために、石黒実都師はじめ関係者の皆様のご苦労は並々ならぬものだったと拝察いたします。

2日間お世話になりまして、誠にありがとうございました。

7ヶ月ぶりの稽古

昨日は江古田稽古でした。

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江古田稽古場では、旧ジパング倶楽部謡曲教室の会員さん達を母体とした謡の団体稽古を、10年以上ずっと続けています。

しかしコロナウイルスの影響で、今年3月以来7ヶ月にわたって稽古を休止しておりました。

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そして昨日、ようやくその団体謡稽古が再開されたのです。

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7ヶ月前と変わらない皆さんが元気に集合して、久々の再会を喜び合いました。

団体稽古にあたっては、窓開け換気、控えめな発声、また私の謡は録音した音源をスピーカーで流して私自身は説明だけをする、という方法をとりました。

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全力で謡えないのは少々物足りなく感じます。。

それでも「龍田」の後半を1時間みっちりと鸚鵡返しした後は、久しぶりの充実感がありました。

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先日92歳になられたという澤風会最高齢の会員さんも全く変わらずお元気な様子で、仕舞「吉野静」を稽古すると7ヶ月前よりも上達されていてびっくりしました。

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そして江古田稽古から一夜明けて、今日は早朝の飛行機で鹿児島に向かっています。

故石黒孝師のお社中会を石黒実都師が引き継いだ「皓月会50周年記念大会」が2日間にわたって開催され、最後には玄人による「かごしま能」があり、辰巳満次郎師の能「俊寛」などが演じられるのです。

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稽古と舞台の日々が、本当に少しずつですが平常運転に戻りつつあります。

第9回篁風会に出演して参りました

今日は水道橋宝生能楽堂にて「第9回篁風会」に出演して参りました。

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七葉会の仲間でもある藪克徳君のお社中会で、第1回篁風会からずっと呼んでいただいております。

今年はやはりコロナウイルスの影響を受けて、私の澤風会と同様に3部制で間に長めの休憩を挟んでの舞台でした。私は第2部に参加いたしました。

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藪君は東大宝生会を指導しているので、篁風会には毎回東大宝生会の舞や謡が出ます。

そして今回は、その東大から舞囃子が2番も出ていたのが印象的でした。

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最初の舞囃子「加茂」は、実は来たる12月12日に開催される「関東宝生流学生能楽連盟自演会」において能として演じられる予定です。

その後シテを舞う学生が今日は舞囃子バージョンで「加茂」を舞ったわけです。

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もう一番の舞囃子は難曲「梅枝」でした。

この舞囃子は、本来ならば6月に金沢で開催予定だった「全国宝生流学生能楽連盟自演会」で演じられる予定でした。

その全宝連が来年に延期されたために、今日の篁風会での披露になったのです。

この「梅枝」は、型も謡も難しい曲なのですがなんと地謡も東大宝生会の現役学生のみで構成されており、大変高い完成度で驚きました。

全宝連で舞われていたら、全国の学生達にとってもさぞかし良い刺激になっただろうと思います。

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今日はさらに驚きがありました。

東大宝生会に新入生が2人入部したとのことで、今日そのうちの1人が仕舞「熊野クセ」で初舞台を踏んだのです。

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全国的に大学サークルの新歓活動が制限されており、京大宝生会もまだ1人も新入生が入部せずに苦しんでいます。

その中で東大宝生会に入部してくれた貴重な新入生に「何故入部しようと思ったのですか?」と単刀直入に聞いてみました。

すると「先輩方のTwitterを見て入部を決めました」とのことでした。

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やはり現状では、TwitterなどのSNSで地道に情報発信するしか無いようです。

しかしその効果で複数の新入部員が入った大学があるというのは心強いことです。

京大宝生会にもその旨を来週の稽古で伝えようと思います。

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色々な驚きや刺激のあった本日の篁風会でした。

藪克徳君はじめ篁風会の皆様どうもありがとうございました。

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亀岡の花々〜ようやくの再開〜

今日はおよそ3ヶ月ぶりに亀岡稽古に行って参りました。

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亀岡稽古場はすっかり秋の装いです。

毎年会うのを楽しみにしている旅をする蝶「アサギマダラ」が立ち寄る藤袴の花も、既に終わりかけでした。

アサギマダラ達は、ほんの数日前まではこの藤袴に戯れていたそうですが、今はもう南国への旅に出てしまった後でした。

来年はまた会えると良いです。

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女郎花の花も、かろうじて少しだけ咲き残っていました。

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今回初めて気がついたのは、「カラタチ」でした。

鉄条網を拡大したような極太の刺に武装された枝に、ピンポン球をひと回り程大きくしたサイズの美味しそうな橙色の実が成っています。

しかしこの実は酸味が強くて食べられないそうです。。

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かなりインパクトの強い見た目のカラタチでしたが、不思議に今回初めて気がつきました。

やはりまだまだ亀岡稽古場の植物には驚かされる事が多いようです。

ようやく稽古再開できましたので、これからまた亀岡の花木をご紹介していけたらと思います。

五雲会の能「龍田」無事終了いたしました

本日宝生能楽堂にて「五雲会」が開催され、私の能「龍田」もおかげさまで無事に終了いたしました。

あいにくの雨にもかかわらず、300人近いお客様にいらしていただきました。

誠にありがとうございました。

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「龍田」は舞台上にある宮の作り物に中入してその中で着替えるので、一度幕から出ると最後まで舞台にいることになります。

曲が終わって楽屋に戻って時計を見ると、丁度90分が経過していました。

私がこれまで舞った中では長丁場の部類に入る曲です。

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しかし、8月15日の「兼平」、9月6日の「歌占」に比べると気温が低い分だけ消耗も少なく、最後まで冷静に舞えた気がします。

「キラリと光る型」がちゃんと光ったかは自分ではわからないのですが…

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そして自分の「龍田」が終わった後には、紋付に着替えてまた楽屋に降りました。

今日の留めの能「忠信」は、合計10人のシテとツレが出演するので楽屋は大忙しなのです。

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シテ上野能寛君は今日の「忠信」が初シテでしたが、私も10数年前にこの「忠信」で初シテを勤めたのです。

感慨深い気持ちでツレ義経の装束付けなどを手伝いました。

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今日の五雲会で私の今年のシテは全て無事に終わりました。

しかし年内の仕事はまだまだ続きます。

明日からまた新たな気持ちで頑張って参りたいと思います。

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本日お越しくださいました皆様、重ねて心より御礼申し上げます。

ありがとうございました。

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キラリと光る型

明後日10月17日土曜日には、水道橋宝生能楽堂にて「五雲会」が開催されます。

私は初番の能「龍田」のシテを勤めます。

今日はその申合がありました。

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8月の能「兼平」、9月の能「歌占」に続いて、今回の「龍田」が今年最後のシテになります。

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「龍田」という曲は、「兼平」や「歌占」と比べて劇的なストーリー展開や特異な人物設定などは無い曲です。

紅葉の神体である龍田姫が、散り飛ぶ紅葉の中で舞うという”神々しい美しさ”を如何に表現できるかが大切なのだと思います。

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型も基本的なものが多く、ひとつひとつを正確に丁寧に…と心掛けて舞いました。

しかしその中で一箇所、この曲だけの独特の動きをするシーンがあります。

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前場の最後、前シテ龍田明神の巫女が本性を現す場面です。

自らが龍田姫であると明かした巫女は、全身から光を発しますが、その瞬間シテの着ている装束が実際にキラリ✨と光って見えるような型をするのです。

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今日の申合は紋付袴で舞ったので、この型をしても当然まったくキラリ✨とはなりません。

なので明後日の本番前に唐織を着けてから、鏡の間で何度かキラリ✨とやってみて、金糸の織り込まれた唐織がどうしたら良く光るかを研究してみたいと思います。

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五雲会

10月17日土曜日正午始 於宝生能楽堂

能「龍田」シテ澤田宏司

能「半蔀」シテ小倉健太郎

能「忠信」シテ上野能寛(初シテだそうです)

皆様どうかお越しくださいませ。

よろしくお願いいたします。

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zoomでの舞台参加

第7回澤風会・郁雲会の本番まで2週間ほどとなった9月上旬、自治医科大学能楽部の青年からメールが届きました。

残念ながら大学からの外出が許可されず、澤風会への参加が困難になってしまったという内容でした。

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自治医科大学からは青年も含めて数人が参加予定で、中でも困ったことに素謡「土蜘」の後シテ、前ワキ、ツレの役謡が来れなくなってしまったのです。

通常ならば、代役を考えるべき状況でした。

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しかしこの素謡「土蜘」は、コロナウイルスでサークル活動が出来なくなった大学生達が、自治医科大学、日本女子大学、國學院大学の3大学合同で4月から始めたzoom遠隔稽古の成果を発表するものだったのです。

なんとか半年間一緒に稽古してきたメンバーで謡わせてあげたい!

と強く思いました。

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そして考えたのが「稽古がzoomで出来るのだから、舞台にもzoomで参加出来ないだろうか?」ということでした。

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先ずはセルリアン能楽堂に問い合わせて、舞台上でWi-Fiが使えることを確認しました。

あとひとつ大きな問題は「スピーカー」です。

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舞台上では4人の学生が実際に謡います。

その生の声に負けない音量が出せるスピーカーはあるだろうか。色々と調べてみました。

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その結果、20Wという大音量(私がこれまで稽古用に使っていたスピーカーは5W)で、サイズは500mペットボトル程という小型高性能のスピーカーが入手出来たのです。

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本番の3日前には、実際にセルリアン能楽堂の舞台でzoomとスピーカーを使って学生と繋いで試験をして、上々の成果を得ました。

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そしていよいよ本番。

舞台上でzoomを起動すると、画面には自治医科大学の寮の自室で紋付袴をキッチリと着付けて正座している青年の姿が写りました。

こちらはスマホのカメラを笛柱の前から見所方向に向けて、少しでも舞台で謡っている気分が出るようにしました。

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そして素謡「土蜘」のzoom参加の結果は…。

私の不手際で前ワキの謡が一部途切れてしまったのが申し訳なかったのですが、それ以外は音量、音質共に申し分無いものでした。

舞台上のメンバーもそれぞれzoom稽古の成果を存分に発揮してくれて、元気な「土蜘」を披露することができたのです。

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このzoomでの舞台参加は、もちろん今回のような特殊な場合に限られる”裏技”と言えるでしょう。

しかし、不意の怪我や台風などで能楽堂に急に来られなくなった非常時などに、この方法は有効かもしれません。

コロナウイルスの影響で始めたzoom遠隔稽古から派生して、「zoomでの舞台参加」という新たな可能性に辿り着いた今回の舞台でした。

重要な三点セットが…

澤風会のような社中発表会では、舞台もさることながら「お昼のお弁当」、「楽屋のお菓子」、「終了後の宴会」の三点が重要な要素になります。

中には「舞台は宴会のためにある」と豪語する人もいるくらいです。

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…その是非はともかく。

舞台の前の緊張した時間、自分の出番が終わってホッとした時間、そして1日の舞台が無事に終わって心身ともに解放された時間。

それらの時間には、お菓子や御飯を食べながら周りの人達とお喋りするのが何よりの癒しになるものです。

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しかしながら、大変残念なことに今回の第7回東京澤風会・郁雲会では「お昼のお弁当、お菓子、宴会」は全て無しにさせていただきました。

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何かを食べる時には必ずマスクを外さなければならず、そこで誰かとお喋りをすると、これまた必ず飛沫が飛ぶことになってしまうのです。

なので、楽屋には飴玉とチョコレートと言った簡単なお菓子とお茶だけを出して、お昼御飯などは基本的に外で食べていただくように皆様にお願いしたのです。

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終了後もすぐに解散して、私は勿論真っ直ぐに自宅に帰りました。

18時頃には家に戻っていて、普通に晩御飯を食べて早く寝るというのは何だか不思議な感覚でした。

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お弁当をデパ地下などで色々吟味して決めたり、宴会の料理をホテルと相談したりするのは、手間はかかりますが何となく楽しいものです。

今回は叶いませんでしたが、次回以降はまた「お弁当、お菓子、宴会」の三点セットを皆様と楽しめるようにしたいと願っています。

初の試み「3部制番組」

第7回東京澤風会・郁雲会大会の番組は、3月の時点で一度完成して印刷まで済んでおりました。

しかし2度の延期で内容がすっかり変わってしまい、根本的に作り直すことにいたしました。

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団体での素謡が6番減るなど、やはり規模はかなり小さくなってしまいました。

時間を計算すると、約300分。

朝10時始だと、15時には終わってしまうことになります。

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先ずは漠然と、「これを午前と午後の2部制にして、間に換気のための休憩を1時間挟んだらどうだろう」

と考えました。

能楽師も出演者も半分に分ければ、楽屋も三密が避けられるのでは…と思ったのです。

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しかし、何故か番組を2部に分けるのが非常に困難でした。

会員さん達の希望、能楽師の都合などを色々考慮していくと、どこかに矛盾や破綻が生じてしまうのです。。

超難解なパズルに嵌った時のように、番組の下書を睨んで唸る日々が続きました。

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そしてある日、遠隔稽古の帰りに道を歩いている時に突然「2部がだめなら3部制にすれば?」という考えが降ってきたのです。

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思えば依頼しているシテ方能楽師は私以外に9人でした。

3部制ならば各部に3人ずつでちょうど割り切れます。

番組も3分割だと不思議に上手く配分できて、ついに「100分間舞台、40分間換気休憩」を3回繰り返すという構成の「3部制番組」が完成したのでした。

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結果を見てみると、楽屋での三密はかなり避けられたと思います。

それに加えて、見に来てくださったお客様からは、「3部制は時間がわかりやすかった」との声がありました。

3回の仕切り直しで遅れや早まりがリセットされて、時間のズレは殆どありませんでした。

その為に、見たい人の舞台の時間が正確にわかる、という利点もあったようなのです。

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という訳で、苦心の「3部制番組」は何とか上手く機能してくれました。

しかし今回は、番組構成以外にも色々難しい課題があったのです。

それはまた次回の稿で書かせていただきます。