能「敦盛」の女性地謡

来たる3月9日(土)10日(日)の澤風会郁雲会には、3番の能が出ます。

能「野宮」、「敦盛」、「砧」です。

このうち「敦盛」は女性のみの地謡になります。

後列3人は女性能楽師、前列3人が京大宝生会の若手OGです。

前列の1人は京都で働いており、もう1人は京大大学院生、あと1人は東京で働いているという、全くバラバラな経歴の3人です。

それぞれの空いている日程と場所で、やはりバラバラに敦盛能地を稽古する事になります。

大学院生は1月の京都稽古で。

京都で働いている人は、2月の若手OBOG合宿で稽古しました。

そして昨日は神保町で東京のOGが初めて敦盛能地の稽古をしたのです。

来週申合なのに大丈夫かと思われそうですが、実は1月の大学院生の稽古の音源をスマホ経由で共有してもらっていたので、初めての稽古で既に謡えるようになっていました。

それぞれ仕事や研究で大忙しな3人が、なんとかやり繰りして敦盛能地に挑戦してくれます。

大学院生OGさんの稽古をしている時の事。

OGさん「すみません、扇の持ち方はどうすればいいのですか…?」

今回が初めての能地だそうで、この機会に色々な能地の作法なども経験してもらって、また機会があればどんどん能地に入ってもらいたいと思います。

能「敦盛」は、シテやツレはもちろんの事、女性地謡にも是非ご注目くださいませ。

田町組の最多人数記録!

今日は神保町稽古でした。

元の田町稽古場が移動した稽古場です。

田町時代からの5人の会員さんと、最近来てくれるようになった京大若手OBOGの2人の合計7人のレギュラーメンバーが、今日は久しぶりに全員勢揃いしました。

これは嬉しい事です。

そして今日はさらに、山形から来た若手OBと、京都から関東に帰省している若手OGも加わって、なんと総勢9人での謡稽古になりました。

これは田町組の歴史の中でも最多人数です。

謡は澤風会郁雲会で出す「頼政」でした。

最初の地謡のところに来て、9人が謡い出すと私は思わずハッと驚きました。

その地謡の迫力が、もの凄かったのです。

全員が少しも躊躇わずに大声で謡って、しかもそれが実に良く揃っていました。

初めて一緒に謡う人達でも、すぐに声を揃えて謡えるのが宝生流の強みではありますが、それにしても今日の「頼政」は素晴らしい謡でした。

山形の若手OBさんには本番も地謡に入ってもらう事にしましたので、本番もかなりの迫力の謡になると思います。

田町組の「頼政」もまた、澤風会郁雲会の楽しみな番組のひとつになりました。

実習の合間をぬって

一昨日は宝生能楽堂での能稽古の後で、栃木にある自治医大宝生会の稽古に行って参りました。

自治医大はやはり実習や試験が多くて大変そうです。

5年生の1人は年明けから遠い南の島で実習、また1年生と3年生は非常に難しい試験があったりして、中々稽古に来られないのです。

その中でも、5年生の2人は学内での実習の合間をぬって稽古に来てくれています。

先月に一度稽古に行った時には、実習が大変そうなので短い仕舞「安宅」と「猩々」を稽古しました。

ところが2人とも、この短い2番をすぐに出来るようになってしまいました。

さすがに優秀な記憶力です。

なので、ちょっと長めの仕舞「嵐山」を追加で稽古する事にしました。

これは3月9日、10日の「澤風会郁雲会」に向けての稽古でもあります。

一昨日は2人だけの稽古だったので、「嵐山」2回ずつを2セット稽古できました。

先月と今回の稽古で、2人とも「嵐山」をほぼマスターしてくれました。

澤風会郁雲会本番が楽しみです。

今は試験や実習が終わっていない人達も、澤風会郁雲会本番には試験や実習を終えて応援に来てくれると思います。

来月末には第2回目の自治医大宝生会合宿も計画されています。

次の大きな舞台である6月の全宝連京都大会に向けて、そしてその前の4月の新歓に向けて、自治医大宝生会もまた全員揃って盛り上がっていってほしいと思います。

能楽堂稽古で確認する事

来たる3月9日(土)10日(日)、水道橋宝生能楽堂にて

「20周年記念澤風会大会・郁雲会大会」

を開催させていただきます。

9日に能「野宮」、10日に能「敦盛」能「砧」

が演じられ、他にも舞囃子、居囃子、一調、仕舞、素謡、独吟などがたくさん出る予定です。

今日は能「砧」と能「野宮」の稽古を宝生能楽堂でいたしました。

どちらの曲もシテはベテランの会員さんです。

しかしやはり能楽堂での稽古だと普段の江古田稽古場とは色々と勝手が違います。

稽古場と能楽堂で最も異なる要素は、

「橋掛」

だと私は思います。

私が稽古している場所で「橋掛」が真っ直ぐに能楽堂と同じくらいの長さにとれる所は1箇所も無く、普段は四角い舞台をぐるぐる回って橋掛の替わりにしているのです。

なので、今日のような能楽堂稽古では例えば「幕内から橋掛の”三の松”まで行くには何歩くらいかかるか」

と言った江古田では出来ない要素を確認するのが非常に大事です。

他にも、

「宝生能楽堂本舞台の中心線の目印はどこか」

「常座に立った時に前に何が見えるか」

など、型や謡以外にも確認する点は多数あるのです。

今日は限られた時間でとても有効な稽古ができました。

あとは来週の「申合」でまた色々と確認して微調整して、本番に備えたいと思います。

一回生だけで舞囃子が…

昨日は京都観世会館にて「同明会」が開催されました。

宝生流からは能「来殿」、舞囃子「松尾」、舞囃子「西行桜」が出て、他にも観世流金剛流の舞囃子や一調、独調などが盛大に演じられました。

京都の囃子方が主催の「同明会」は、色々珍しい番組が出るので、能楽愛好家にはとても人気がある舞台です。

終演後にロビーに出ていくと、昨日「仕舞百番舞う会」で頑張っていた京大宝生会の現役や若手OBOGもたくさん観に来ていました。

彼らの中には、お囃子を習っている人も何人かいます。

大鼓、小鼓、太鼓、笛の四拍子のうち、京大宝生会関係では小鼓と太鼓がちょっと少なめだったのですが、実は一回生達がお囃子にも興味を持って、最近何人かが習い始めたのです。

6人の一回生のうちの3人が、それぞれ大鼓、小鼓、太鼓の稽古を始めてくれました。

そして笛に興味を持った一回生もいるので、間もなく一回生だけでシテ、地謡に四拍子が揃って舞囃子が出来る事になります。

流石にこの春の新歓には難しいと思いますが、来年以降の新歓では是非とも今の一回生達が自前で舞囃子を出してもらいたいと期待しております。

百番会のテーマ

昨日京大能楽部BOX舞台にて開催された

「2024年京大宝生会仕舞百番舞う会」

今回は私としては「一回生に仕舞を沢山見てもらって、将来やりたい仕舞や、春合宿で習いたい仕舞を選んでもらいたい」

というのを最大の目的と考えておりました。

しかしいざ始めてみると、この”一回生に見てもらって”というのはちょっと的外れなテーマだとわかりました。

一回生達は”見る”というよりは、積極的に”参加”してくれたのです。

彼らは昨年習った仕舞を舞うだけでなく、先輩達の仕舞の地謡にもどんどん入って謡っています。

「班女」などという、一体いつの間に稽古したのかと思うような難しい地謡にも果敢に入っていきます。

一回生の成長ぶりは、私の想像をはるかに超えていました。これは嬉しい驚きでした。

また今回もう一つ私が決めていたのが、

「私自身は100番のうち1番も舞わない」

という事でした。

百番会を初めた頃は私が40番ほども舞っていた記憶がありますが、回を重ねるごとに私の番数は少なくなっていきました。

2019年の百番会ではブログによれば私は9番舞ったようです。

それから5年で若手OBOG達も飛躍的に実力をつけました。

もう彼らだけで100番舞えるだろうと思ったのです。

こちらの方は私の思った通りになりました。

私は地謡を少しだけ謡っただけで、仕舞は1番も舞う事なく100番目の「船弁慶キリ」まで終えることができたのです。

今回の百番会は現役も若手OBOG達も、得たものがとても大きかったと思います。

この経験を自信にして、今後の合宿、新歓、舞台に繋げていってもらいたいと願っています。

昨日参加してくれた皆様本当によく頑張りました。お疲れ様でした。

坊主が屏風に…

明日は宝生能楽堂にて、今週末開催の「同明会」の申合があります。

私は能「来殿」の地謡を勤めます。

この「来殿」という曲は、

シテ…菅丞相(かん・しょうじょう)

ワキ…法性坊の僧正(そうじょう)

です。

また謡の中に出てくるシテの養父の名前が、

菅丞公(かん・しょうこう)

で、ワキ僧正はしばしば上人(しょうにん)と謡われます。

つまり一曲の中に「しょうじょう」、「そうじょう」、「しょうこう」、「しょうにん」

がランダムに出てくるという、間違いやすいトラップだらけの曲なのです。。

さらっていると、普通に”丞相”と”僧正”を間違えるだけでなく、「しょうぞう(肖像)」とか「そうぞう(想像)」など、全然違う単語も出てきたりしてもう大変です。

何となく早口言葉の

「坊主が屏風に上手に坊主の…」

という一節を思い出しました。

ある意味で覚えづらい「来殿」なのですが、先ずは明日の申合をミス無く終えられるように、

丞相、僧正、丞公、上人

の四語と今しばらく格闘したいと思います。

地謡No.3

今日は宝生能楽堂にて開催された宝生会定期公演にて能「巴」の地謡を勤めました。

私の座った位置は”後列の右端”です。

これは地頭、副地頭に次いで上から3番目のポジションにあたります。

実は私はこの”3番目ポジション”が地謡の中で一番好きな位置なのです。

「地謡はどこに座っていようが地頭のつもりで謡うのだ」

という教えも確かにあるのですが、私が3番目ポジションが好きな理由もまた幾つかあります。

第一には、「地頭の隣なので、地頭の微妙な謡の変化が良くわかる」

という事です。

今日の能「巴」は、場面によって地謡の”速い遅い”、”強い弱い”が繊細に変化する曲です。

地頭の意思を素早く受け止めて地謡に正確に反映させるには、やはり地頭の隣が一番なのです。

第二に、「プレッシャーが比較的少ない」

という事です。

同じ地頭の隣でも、やはり副地頭は責任が重くなります。

“3番目ポジション”だと、精神的な重荷が軽い分、落ち着いた気持で地謡に集中できます。

今日も繊細微妙な舞台の変化に気を配りながら、なんとか無事に謡い終えることが出来ました。

ロビーでは何人かの知り合いの方にお会いしたので、機会があれば今日の地謡の感想など伺ってみたいものです。

本日定期公演にお越しいただいた皆様ありがとうございました。

もう春一番…

今日は水道橋宝生能楽堂にて「宝生会定期公演」の申合があり、私は能「巴」の地謡を勤めました。

能「巴」は”粟津が原の合戦”を描いた曲で、謡の中で「頃は睦月の空なれば、雪はむら消えに残るを」とあります。

早春とは言え、まだまだ寒風が吹き荒ぶ野原の風景が浮かぶ謡です。

旧暦睦月ならばちょうど今頃か、もう少し後の頃の出来事のはずです。

しかしながら、今日の東京は寒風どころか「春一番」が吹いて気温は20℃まで上がりました。

私はシャツにカーディガンという軽装で、完全に春の服装でした。

申合の後に九段下の「わんや」に謡本を求めに行くと、わんや社長が出てきて、

「桜が咲きそうな気候ですね…!」

確かにこの陽気では桜も驚いて早咲きしそうな気がします。

さらに沖縄在住の知人からは、

「車の温度計だと外気温は29℃です…」

という便りもあり、桜どころか夏が来てしまいそうです。。

おそらくこの調子では今年の夏も酷暑になる事でしょう。

暑さの苦手な私は、そのつもりで今から色々な暑さ対策を考えておかねばと思ったのでした。