2024年松山城二ノ丸薪能

今日は「松山城二ノ丸薪能」に出演して参りました。

6年前の2018年5月10日のブログに前回の二ノ丸薪能の事を書いておりますので、あれから6年ぶりの松山という事になります。

薪能の舞台はやはり滴るような新緑と重厚な石垣を借景にした、非常に趣きのあるものでした。

舞台の前に天守閣も見に行きました。

司馬遼太郎が、四国最大の城でありながら辺りの風景が優美なために厳しく感じられない、と書いているように、何処となく安心感を与えてくれるような落ち着いた城構えでした。

お城周辺には何故か猫がたくさんいて、薪能の間にも「ニャア」という声が微かに聞こえてきて、それも何か優しい感じがしました。

裃の手伝い

“裃(かみしも)”を着るのは、特別な舞台の時です。

今日は綾部での会の最後に辰巳満次郎師の番外仕舞「三山」があり、そこで裃を着ました。

裃はひとりで着るのがちょっと難しいのです。

字の通り”上”と”下”に分かれています。

先ず”上”を羽織った後に”下”を普通の袴と同じように着るのですが、この時に”上”の背中部分が邪魔になり、誰かが背中部分の布を持ち上げてくれていると助かるのです。

内弟子時代にはこの裃を何とか自分一人で着られるように練習しました。

楽屋の人員が裃の補助で結構削がれてしまうのです。

その頃は補助に来る人を、

「あ、俺は大丈夫だから楽屋の仕事して!」

と断っていたのですが、最近は逆に断らずに手伝ってもらう事が多くなりました。

今日も若手に手伝ってもらいながら裃の着け方を教えたりして、そう言えば私も昔、先輩の裃の補助をしていた時に、

「君、そんなに引っ張ったら格好悪くなるから駄目だよ」

と、逆に邪魔になって怒られて反省したのを思い出しました。

裃を着用する舞台はとても華やかですが、楽屋ではその着付けでまた色々な学びと修練が必要なのです。

伊勢神宮の舞楽

今日は久々に仕事で伊勢神宮に行って参りました。

実はこの書き出しは、丁度6年前の2018年4月29日の「伊勢神宮の舞女さん」というブログの書き出しと全く同じなのです。

その時は、神楽の時に「舞女」さん達が三宝などを神前に御供えする動きに感銘を受けたという事がブログに書いてありました。

今回も同じように神楽を拝見しました。

やはり「舞女」さん達の作法や、「倭舞」という4人での舞は見事でした。

しかし今回の神楽で特に「これはすごい!」と思ったのは、男性が面をつけて舞う「舞楽」でした。

緑色の面に、黄色を基調にした装束だったと思います。

舞楽の知識は何も無いのですが、舞人の足運びや、浮き沈みする動き、面をかけているのを感じさせないスムーズな移動などを見て、この舞人は名手だろうと確信しました。

後で調べると、今日の舞楽は「高麗楽(こまがく)」を伴奏とする「納曽利」という舞楽だったようです。

動画もいくつか見つけたのでまた見てみようと思います。

そして今日改めて気がついた事がありました。

「倭舞」も「納曽利」も、神様に向けて奉納されるので我々参拝者は舞の大半を”後ろ姿”しか見られない事になるのです。

それでも演者の力量によって、後ろ姿だけで「上手いなぁ」と感じさせる事ができるのです。

能楽もその昔は同じように、見所は横と後ろにしか無かったそうです。

その時代の観客は、今日の私のように”後ろ姿”に感銘を受けたのでしょう。

またもう一つ、「倭舞」も「舞楽」も、参拝者がどんなに感動しても”拍手”をする事はありません。

もちろん神様も拍手はされないわけで、あれだけの技芸を見せた舞人達が、喝采を受ける事なく静かに退場していくのもまた神楽の潔さ、美しさだと感じ入ったのでした。

拝見する度に違うところに感銘を受ける伊勢神宮の御神楽です。

またいつか拝見するのを楽しみにしたいと思います。

昭君の「萩箒」と「鏡台」

昨日の「七宝会」にて勤めました能「昭君」は、「作り物」の扱い方でいくつかの難しい点がありました。

昭君には「鏡台」という作り物が出て、また前シテは「萩箒」を持って登場します。

まず「萩箒」ですが、これは萩の枝を1.5m程の長さに束ねた反りのある箒です。

箒の上から20cm位の所を右手で持って、下端は地面スレスレになるようにします。

この「地面スレスレ」をキープするのが意外に難しいのです。

親指と人差し指で萩箒を強めに握り、残りの指の力の緩め加減で角度を調整します。

しかし謡を謡っているとつい指に力が入って、下端が地面から離れてしまったりします。

また同じ持ち物でも「棹」などは軽いのですが萩箒はちょっと重量があります。

これを20分程ずっと持っているので、うまく力を抜いて持たないと指が疲れて先端が震えてくることがあるのです。

更に難関だったのが「鏡台」の移動です。

前シテは中入の直前に、”常座”に置かれた鏡台を自分で持って”正先”に移動させます。

能面をかけていなければ何という事も無い所作です。

しかし能面をかけると、視界いっぱいに”鏡”が来てしまい、何も見えない状況になってしまうのです。

申合では正先からズレてしまい、本番では鏡台を持つ高さや能面の角度などを微調整して、なんとか狭い視界を確保して無事に置くことが出来ました。

こういった難しさは本番の会場の作りにも左右されたりするので、稽古だけでは乗り切るのが困難です。

当日の開場前に舞台を歩いてみて、五感と知恵を総動員して、なんとか打開策を考えます。

それだけに無事に終わった時の安堵感と充足感は一入なのです。

七宝会「昭君」無事終了いたしました

本日は「七宝会第二回公演」にて能「昭君」を何とか無事に勤めさせていただきました。

ご来場頂きました皆様誠にありがとうございました。

本日の諸々を書きたいところなのですが、「昭君」でほぼ完全燃焼しましたので、また明日以降にさせていただきたいと思います。

松本ジャポニスム2024に参加してまいりました

今日は松本四柱神社にて、

「松本ジャポニスム2024」

という催しに参加してまいりました。

数年前に始まったこの松本ジャポニスム、年々盛大になってお客様も安定して増えてきて何よりです。

今年は能楽の舞台が終わった後に、大手公民館にて体験ワークショップも設定しました。

アメリカ、ドイツ、中央アジアからの留学生など期待以上の参加者があり、来月から稽古を始めるかもしれない人も出るなど大成功の企画になりました。

いつもながら松本の皆様には何から何までお力添えをいただき、心より感謝いたします。

おまけです。

舞台の合間に食べた「翁堂」の動物ケーキです。

翁最中などの和菓子だけでなく、翁堂は洋菓子も充実しているのです。

杜若の物着

今日は水道橋宝生能楽堂にて「宝生会定期公演」に出演してまいりました。

私は能「杜若」の地謡を勤めました。

杜若はもう何度も謡っているのですが、この曲には他の曲には無いある特異な点があると思います。”物着”の後に、

「3人がひとつの身体に同居している」

という時間帯があるのです。

能には「物着」という演出がわりあい頻繁に出てきます。

舞台上で後見がシテの装束を着替えさせるのです。

よくあるパターンは、「亡くなった人の形見を身につけて舞う」

というもので、杜若の物着もそれにあたります。

しかし他の曲の物着で着るのは、

「1人の人間の形見」

です。

それが杜若に限っては、

「2人の人間の形見」を身につけるのです。

つまり頭にかぶる冠は「在原業平」の形見、

羽織っている衣は「藤原高子」の形見、

そしてそれらを身につけるのは「杜若の精」。

この姿を演じるシテは、「業平」「高子の妃」「杜若の精」という3つの”人格”を無理なく融合させて美しさを出さなければいけない訳で、非常に難しい役だと思います。

私はまだこの「杜若」を舞ったことは無く、いつか舞ってみたい曲のひとつです。

舞う機会が来たら、この”三位一体”の姿を色々考えながら表現したいと思います。

景清ツレの位取り

今日は宝生能楽堂にて開催の「宝生会特別公演」にて能「景清」のツレを勤めさせていただきました。

「景清」のツレは2人いて、1人は景清の娘である”人丸”、もう1人は男性である”人丸の従者”です

私は”人丸の従者”でした。

最初に”人丸”と”従者”が一緒に謡ういわゆる「同吟」がありますが、この同吟の位取りが非常に難しいものでした。

先ず男性と女性という性別の違う2人が、それぞれのキャラクターを損なわないように謡わなければなりません。

そして「景清」は奥伝の曲なので、それを考慮しつつ、しかしあくまでも「ツレ」なので重くなり過ぎないように。

更に行方不明の父親を探して相模国から日向国まで遥々長旅をするという、精神的にも肉体的にも厳しいシチュエーションなども勘案しなければいけないのです。

申合、本番ともに地謡の先生方などから細かなご注意をいただきました。

課題も残ったツレでしたが、多くの学びもある御役でした。

次は月末4月27日の「七宝会」での能「昭君」シテに向けて、また稽古に励んで参りたいと思います。

橙白会に出演して参りました

今日は水道橋宝生能楽堂にて「橙白会」に出演して参りました。

「橙白会」は辰巳大二郎君の御社中会です。

ご遠方の山形から来られた方が長い舞囃子をされたり、小さな兄妹が仕舞に加えて連吟にもチャレンジしたり、他にも皆さん前回よりも難易度の高い演目に挑戦されていました。

ほかならぬ会主の辰巳大二郎君も一番最後に、

「番外舞囃子天鼓盤渉」

という難曲を舞われました。

通常の「天鼓」は”楽(がく)”という足拍子が非常に多い舞を舞いますが、これが

「盤渉楽(ばんしきがく)」になると笛の調子が高くなり、唱歌も複雑になって足拍子を正確に踏むのが中々大変なのです。

それを会主として一日中働いた最後に舞うのはすごいと思いました。

明日はまた水道橋宝生能楽堂にて、

「宝生会特別公演」が開催されます。

私は能「景清」のツレを勤めますので、今日は早めに休みたいと思います。

辰巳大二郎さん始め橙白会の皆様どうもありがとうございました。

令和6年第2回七宝会のお知らせ

来る4月27日(土)15時より、「第2回七宝会」

が開催されます。

場所は「枚方市総合文化芸術センター本館・関西医大小ホール」です。

能「清経音取」シテ宝生和英

狂言「蝸牛」善竹隆司

能「昭君」シテ澤田宏司

という番組で、宝生和英御宗家が久々に七宝会にてシテを舞われます。

また私もシテを勤めさせていただきます。

能「清経」は、「音取」という小書(特殊演出)で演じられます。

これは笛の特殊な演奏に導かれるように、シテ清経が橋掛を時間をかけて歩んで舞台へ向かいます。滅多に観られない小書です。

また能「昭君」も上演頻度の低い珍しい曲です。

皆様この機会に是非特殊演出や希曲を観に七宝会にお越しくださいませ。

どうかよろしくお願いいたします。