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「3月のカレンダー」の話

ホームページを開設して1年と少し。

その間にこのホームページを通じていくつかの貴重な出会いがありました。

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「岩手未来機構」の皆さんとの御縁もそのひとつです。

岩手未来機構の皆さんは、国内外から様々な芸術家を東北に招き、芸術活動を通じた復興支援をされています。

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これまで二度の会合を開いてお話を色々伺いましたが、中でも特に印象深いお話がありました。

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ホセマリア・シシリアさんというスペインの現代アート作家が、震災から1年後に岩手の小学校でワークショップをされた時のことです。

そこでシシリアさんは2011年3月のカレンダーを取り出して、子供達に「3月11日までにあった出来事を書き込んでごらんなさい」と言ったそうなのです。

周りの大人はハッとして心配になったのですが、子供達はカレンダーに書き込みを始めました。

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そしてその内容は、大人達の予想とは違うものでした。

誕生日にお母さんと料理を作ったこと、もうすぐ弟が生まれることなど、楽しかった思い出がたくさん書かれていたというのです。

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「あの時のことを全て忘れたり、記憶に蓋をして目を背ける必要は無い。楽しかった思い出や、大切にしていた事はちゃんと心に刻んで、一緒に未来へ歩いていけば良いんだよ。」

という尊い大切な考えを、遥かスペインから来た偉大な芸術家が子供達に教えてくれたというのです。

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シシリアさんはまた、「死者と生者」、「過去の人と現在の人」が同じ空間の中に同居して、会話を交わすという能楽の世界観にも深く共鳴してくださっているそうです。

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「私には能楽しか出来ない」と1年前のブログに書きました。

しかし岩手未来機構の皆さんと出会い、その素晴らしい活動のお話を伺う中で、私にも「能楽」を通じて復興の為に何かお手伝いが出来るかもしれないと、微かな方向性が見えて来た気がします。

さらに話し合いを重ねて、年内にはそれをひとつの形に具体化したいと考えております。

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最後になりましたが昨年同様、被災された皆さまに1日も早く平穏な日々が戻って来ますように、心よりお祈り申し上げます。

ようやく味わうお弁当

私は「駅弁」というのは高価なものだと思っているので、新幹線に乗る時には大抵、駅のコンビニでおにぎりを買う程度で済ませるようにしております。

しかし今日は、新幹線のテーブルの上にやけに豪華なお弁当が。

左側にあるのは美濃吉の「鳥照り焼き弁当」で、実は先日の郁雲会澤風会の申合において能楽師用に用意したお弁当なのです。

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先月このお弁当を、東京駅大丸デパ地下の「ほっぺたうん」で40個ほどまとめて注文したところ、ポイントが一気に貯まって「次回ご来店時に2000円分の商品と引き換え可能」なカードを貰ったのです。

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普段私はこの「ポイントカード」というものを煩わしく思い、殆ど使わずに家に放置してしまいます。

しかし今回はやはり特別です。

本日水道橋にて月並能申合を終えて、関西への移動の前に「ほっぺたうん」に立ち寄りました。

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カウンターの中には、先日の注文の時に色々お世話になった店員さんが。

「こんにちは。先日はありがとうございました。お弁当を引き換えに来ました。」

「あら!この前はどうもありがとうございました!お弁当大丈夫でしたかしら?」

「はい、大変好評でした。またどうかお願いします。」

という会話を交わして、件の「鳥照り焼き弁当」に加えて「お料理小箱」もいただいて、丁度2000円也。

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写真は、新幹線でそれらを広げていただく直前の一枚だった訳です。

申合の時には自分では全くお弁当を食べる暇がなかったので、ようやく味わうことができました。

上品な味の出汁巻、煮こごりがまぶしてある鳥照り焼き、その下のご飯には海苔が敷いてありました。大変美味しいお弁当でした。

お料理小箱も茶碗蒸しまでついてとても豪華で、ゆっくり美味しくいただきました。

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食後には文庫本が2冊。

至福の移動時間なのです。

ずっと舞台にいること

今回の郁雲会澤風会の2日間では、私は一部の素謡を除いてはほぼ全曲で、地謡もしくは後見で舞台に出ておりました。

皆様これを比較的大変な事だと思われたようで、「さぞかしお疲れでしょう」「お身体は大丈夫ですか?」などと心配してくださいます。

しかし、私にとっては本番の舞台上にいるのはむしろ「喜び」であり、いっそ「ご褒美」のようにも感じられたのです。

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昨日は箇条書きのように、番組のそれぞれを短くご紹介いたしました。

しかし本当はそのひとつひとつに、本番に至るまでの長い長いドラマがあったのです。

嬉しい事もありましたが、大半は苦しく地道な努力の日々でした。いくつかのアクシデントもありました。

それらを乗り越えたクライマックスシーンが郁雲会澤風会の舞台であり、私はそのクライマックスシーンを主役と共に作り上げるという栄誉を与えられた訳なのです。

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これは私には大変光栄で喜ばしいことでした。

更にもう一点、本番の舞台は一発勝負なので、何が起こっても私は注意したり、やり直したりしないでも良いのです。

これも精神的にはむしろ稽古よりも楽な事に感じられました。

なので、2日間出突っ張りでも私には全く苦にならなかったのです。

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…とはいえ、やはり少々疲れはあるようです。

昨日はそうでもなかったのですが、今日の午後になってから、丁度時差ボケのような急激な睡魔に襲われました。

新幹線でスイッチが切れるように寝てしまい、危うく乗り過ごして大変な事になるところでした。。

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明日はようやく一日中何も無い休みなので、ゆっくり骨休めしたいと思っております。

郁雲会澤風会御礼

先週金曜土曜の郁雲会澤風会の2日間では、本当に無数のエピソードが同時進行的に起こっていたことと思います。

数多の物語がめでたく完結して、また多くの物語が次の章に進み、それと同時に未来に繋がるいくつかの新しい物語も始まりました。

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最年少5歳の男の子の初舞台「絃上」。

最高齢91歳の方の仕舞「葛城」。

桜色に美しく染められた着物で舞われた舞囃子「桜川」。

沢山の素謡(京大若手OBの素謡「大会」では、殆どのOBOGが無本で謡ってくれました)。

1人で無本で謡われた独吟「草紙洗」。

砧、忠度、笹之段を始めとする難しい仕舞や、一調「放下僧」独調「桜川」などの難曲に挑戦され、苦心して稽古を積んで本番を迎えられた皆さん。

早朝に京都や北陸や松本を出て来てくださった方々。

金曜朝一で仕舞を舞って、その後は受付などの仕事をよくやってくれた京大宝生会の現役や、若手OBOGのみんな。

初舞台や、稽古を始めて間もない会員さん達がとても堂々と演じられた素謡「橋弁慶」、また「羽衣キリ」などのいくつかの仕舞。

一人で何回も舞台に出てくれた人(素謡2番、仕舞、能のツレ、能の地謡の計5番をこなした人も)。

いつも母親を支えてくださっている郁雲会の皆さま。

毎回ゲスト出演いただく京大宝生東京OB会や、早稲田大学、東京大学OBの方々の重厚な舞と謡。

舞囃子を舞われた7人の会員さんはそれぞれ「楽」や「神楽」などの難易度の高い舞や、位の重い曲、思い入れのある曲に全力投球で挑まれました。

そして4番の能。

先ず金曜日には、松本から何度も東京にいらして稽古をしてくださった初シテの方が見事に舞われた「巻絹」。

土曜日にあった大曲「鷺」、「野宮」、「松風」では、今回もまた舞台上のシテ方、囃子方、ワキ方、狂言方に見所のお客様までも含めて、能楽堂が全部一体となって熱量を増していくような、気迫に満ちた舞台を体感することができました。

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…今思い出しながらつらつらと書いていっても、次々と色んな出来事が思い出されてとても書ききれません。

全てを書いたら1冊の本になるような、濃密な2日間だったと思っております。

宴会で辰巳満次郎師より「今回舞台に出ていて、”ああ、能って素晴らしいなあ。能をやっていて良かったなあ”と改めて思いました」という大変に有り難いお言葉を頂きました。

これはきっと私も含めて、参加してくださった皆様に共通の感覚であったと信じております。

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御礼の言葉もどれだけ尽くしても足りない気がいたしますが、今回の舞台でお世話になりました全ての皆様に、本当に心より御礼申し上げます。

どうもありがとうございました。

崇宝会に出演して参りました

昨日の日曜日は朝から渋谷セルリアン能楽堂にて、郁雲会澤風会でも大変お世話になりました山内崇生師主宰の「崇宝会」に出演して参りました。

今年が第24回で、来年は25周年記念大会が盛大に開催されるということです。

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連日の短い更新で申し訳ございません。

昨日でようやく仕事の山場を越えましたので、また落ち着いたら通常のペースで書かせていただきたいと思います。

郁雲会澤風会初日終了いたしました。

おかげさまで郁雲会澤風会初日を無事に終えることが出来ました。

本日御出演いただきました皆様、また応援にいらしてくださった沢山の皆様、本当にありがとうございました。

また明日の2日目もどうかよろしくお願いいたします。

宝生坂に満月が昇りました。

いよいよ明日は…

明日に迫った郁雲会澤風会の前の、本当に最後の稽古を江古田でやって参りました。

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外に出ると、晴れ渡った夜空には大きな月が。

いよいよ明日は満月で、これまで長い時間かけて稽古してきた皆さんの舞台も、きっと満月のようにピッタリと丸く完成することでしょう。

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帰り道の夜風に混じって沈丁花の香りがしました。

秋の金木犀と春の沈丁花は、その季節の訪れをはっきりと知らせてくれて、私はどちらも好きな花です。

今日は早めに休んで、明日明後日は全力で頑張りたいと思います。

水道橋宝生能楽堂にて朝10時開始です。

皆さまどうかよろしくお願いいたします。

澤田宏司

もうひと頑張り

今日は朝10時から渋谷のセルリアン能楽堂にて、日曜日開催の崇宝会の申合→12時に終わって水道橋宝生能楽堂に移動して、郁雲会澤風会の会員さん達10人ほどと明後日の会の準備作業→16時に終えて、会の楽屋に出すお菓子を買いに行く→17時から秋葉原の行きつけの床屋で散髪→17時45分に散髪を終えて山手線で田町に移動→18時10分〜21時前まで仕上げの田町稽古。

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…というスケジュールで今に至ります。現在帰りの地下鉄です。

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そんなに動いた記憶も無いのですが、「万歩計アプリ」では1万2千歩くらい歩いたことになっています。

今日は帰ってからも、会に向けた作業が色々残っています。

会まであと2日、少しでも良い2日間になるように、私ももうひと頑張りしたいと思います。

萬融会新年会

今日は亀井雄二さんの社中会「萬融会」の新年会に出演して参りました。

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桑田佳祐は昔の唄の中で「互いにギター鳴らすだけで わかりあえてた奴もいた」と唄っています。

私にも「となりで謡を謡うだけでわかりあえる」ような仲間が何人かいて、亀井雄二さんはその一人なのです。

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彼は東京芸大で私のひとつ下の学年であり、初対面の時には彼はまだ高校生でした。

それ以来、芸大の4年間→内弟子生活8年間と計12年間を毎日一緒に過ごしました。

その期間、喜怒哀楽を殆どすべて共有して修行したのです。

そして内弟子を卒業した後も、同じ楽屋で働く同僚であり、また「七葉会」のメンバーとして毎年夏にひとつの舞台を作り上げる仲間としてやって参りました。

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更にまた「萬融会」は、宝生能楽堂の「謡曲仕舞教室」の卒業生の皆さんと、「慶應大学宝生会」の学生やOBOGが核になって構成されているという点でも、私の「澤風会」と似ている気がして親近感を感じます。

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初対面の時には高校生だった亀井雄二さんが、内弟子を経て独立して立派な会を主宰して、今日の新年会場に到着すると楽屋には奥様と可愛いお嬢さんもいらして…というのは、何か不思議な気持ちになります。

そしてこれからもお互いの人生をずっと共に能楽師仲間として過ごしていくのです。

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萬融会と澤風会、また亀井雄二さんと私が、これからも切磋琢磨して成長していけるように、私も頑張って参りたいと思います。

申合の囃子の速さ

今日の江古田稽古では、一昨日の郁雲会澤風会申合で能や舞囃子を舞った人達が、早速その時に録音した音源を使って稽古をしました。

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申合の時には、基本的に囃子方は「正しい速さ」をキープして打つことになっています。

つまり、シテが間に合っていなくてもそのまま淡々と打ち続けて、足拍子のタイミングなどが合わない時には私がその場で素早く直したりするわけです。

極端な話、型が多少抜けたり間違えたりしたとしても、そのまま流して打っていただいて、全部終わってから私が直した方が良いのです。

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何故かというと、申合でシテに合わせて緩急を変えて打ってしまうと、その音源で稽古出来なくなってしまうからです。

今回の申合でも概ねそのように正しい速さで打っていただけたので、適切な速さの音源が録れたと思います。

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なので申合で早すぎたり遅すぎたりした人、型を間違えてしまった人も、申合音源であと1週間稽古して、それに合わせられるようになれば良いわけです。

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江古田稽古もあと残り1回になりました。

皆さん順調に手順を踏んで稽古されているので、次の稽古で最後の仕上げをすれば、当日は安心して舞台に臨んでいただけると思っております。