隙間花壇〜応援したい花々〜

今日は朝から渋谷のセルリアン能楽堂にて「尚月会」の申合でした。

「尚月会」は七葉会の仲間である東川尚史君のお社中会で、今回が5周年記念になるそうで誠におめでたいことです。

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舞囃子がたくさん出て、京都女子大宝生会OGでもある奥様も、舞囃子「船弁慶」で元気一杯に長刀を振り回していました。

日曜日の本番は、仕舞や素謡も多く出るので更に賑やかな舞台になることでしょう。

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その申合への行き掛けに「隙間花壇」をのぞいてみると、隙間花壇では今年初めてとなる「梅」が開花していました。

隙間花壇は陽の当たる時間が限られているので、開花の時期が遅く、枝振りも小さめな梅です。

しかしその分、懸命に咲いているように見えて応援したくなるのです。

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難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花

という、能「難波」のシテ王仁の詠んだ有名な歌が思い出されました。

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そして今年の隙間花壇で応援したいと言えば「ツツジ」です。

前回見た時よりも、若い芽が着実に育っていました。

この分ならば2年ぶりの「ツツジの花」が見られそうです。

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能「難波」の中には、「梅は春になるとどの花よりも1番早く咲くので、”花の兄”とも言われる」という謡も出てきます。

隙間花壇においても、”花の兄”である梅がいち早く咲いてくれた訳です。

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その梅を皮切りにして、今年もこれから様々な花たちが「隙間」を彩っていくことでしょう。

松本城本丸御殿に能舞台が…

昨日の松本稽古で、ある会員さんがとても興味深いものを見せてくださいました。

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松本城の古い絵図がたくさん載っている図録です。

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その中の1枚、今から300年程前の江戸時代の絵図は松本城の「本丸御殿」の見取り図でした。

そしてその見取り図を詳細に見ていくと、なんとどうやら当時の松本城本丸御殿には「能舞台」があったようなのです。

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と言っても「能舞台」という記述はどこにもありません。

しかし、「大広間」と「次の間」という広いスペースがあり、そのすぐ隣に「鏡の間」という小部屋が描かれてあったのです。

更に「鏡の間」の隣には「楽師の間」という部屋も。

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鏡の間から大広間までは、長い廊下で繋がっています。

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つまり恐らくは、「大広間」の畳を一部剥がすと、板の間の「能舞台」が出現したのだと思われるのです。

そして廊下が”橋掛り”に、次の間が”見所”になったのではないでしょうか。

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江戸時代の一時期、松本城では確かに能楽が演じられていたのです。

流儀は何流だったのか、どの程度の規模でどんな曲が演じられたのか…

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想像するととてもわくわくします。

古文書などに資料が残っていないか、何とか調べてみたいものです。

伏見龍馬会新年会

今日は京都北文化会館にて紫明荘組稽古でした。

その稽古を終えて、夕方から伏見に移動いたしました。

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今日は「伏見龍馬会」という団体の新年会にお呼ばれして、全国から集まった会員の皆様の前で30分程、仕舞と謡を披露させていただいたのです。

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そもそも「伏見龍馬会」との御縁は、紫明荘組稽古から始まりました。

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昨年、紫明荘組の新人会員さんのご紹介で、四条木屋町下ルにある素敵なギャラリーをお借りして稽古したことがありました。(2019年6月11日ブログ参照)

その稽古の最中に、偶々ギャラリーの見学にいらした方が「伏見龍馬会」の会長さんだったのです。

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稽古後数日して、「伏見龍馬会新年会でひとさし舞っていただきたい」との御連絡をいただきました。

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今日の新年会会場は伏見の銘酒「英勲酒造」縁の、築150年という大変趣深い日本建築の”京風フレンチ”のお店でした。

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私の他に、”新内枝幸太夫”と仰る新内浄瑠璃のお師匠様の美声の披露もあり、大変楽しく勉強になる時間を過ごさせていただきました。

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稽古から始まった御縁が繋がって、今日はまた新しい出会いもありました。

この先またこの御縁が繋がっていくと、とても嬉しく有り難く思います。

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伏見龍馬会の皆様、本日は誠にありがとうございました。

独吟の効用

昨日は午前中のNHKラジオ録音の後に、午後から江古田個人稽古、さらに夜に田町稽古でした。

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田町稽古場では3月7日の澤風会郁雲会で、初めての試みとして「独吟」を出す会員さんが3人います。

それぞれ「氷室」、「鞍馬天狗」、「八島」の一部分、時間にして5分前後の謡を、舞台の中央近くに正座して1人で謡うのです。

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昨年末に稽古場で「独吟発表会」のようなものをしたのがきっかけになり、今度は是非能楽堂で独吟を、と私がおすすめしました。

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昨日の時点でもう暗記して、無本で稽古した人もいて、皆さんやる気満々でした。

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そしてこの「独吟」への挑戦は、思わぬ別の効果を生むことがわかりました。

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素謡「須磨源氏」の稽古の時に、皆さんの声がこれまでより明らかに大きくて、余裕と自信を持って謡われていたのです。

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「無本」で「独り」で謡う独吟に比べたら、「本を見て」「皆で」謡う素謡には余裕を持って臨めるようになった、ということなのでしょう。

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今回素謡だけの参加の方も、次回以降独吟に挑戦されたら良いかもしれないなぁと思いました。

独吟の大きな効果を感じた昨日の田町稽古でした。

ラジオ録音初めての…

今日は朝から渋谷のNHKでラジオ録音に出演して参りました。

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ラジオ録音では、いつも一曲を最初から最後まで通して録音します。

しかし短めの曲の場合、全曲録音しても放送時間に足りないことがあります。

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そのような時には、足りない時間の分だけ別の曲の一部分を追加で録音することになっています。

そして今日も、一曲録音したところ放送時間に5分ほど足りないことがわかりました。

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そこで別の曲のキリの部分を追加録音したのですが、私はその追加録音でシテを謡わせていただいたのです。

長いことNHK録音に出演して参りましたが、ほとんどが地謡での参加でシテは今日が初めての経験でした。

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わずか5分ほどですが、大変嬉しい録音になりました。

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そのラジオの放送日なのですが、実は3月の澤風会郁雲会の翌日の日曜日なのです。

しかも早朝6時からです。。

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私はまず間違いなく澤風会郁雲会で力尽きて寝ていると思われますが、起きられる方はどうか聴いていただければと思います。

よろしくお願いいたします。

第2回橙白会に出演して参りました

今日は矢来能楽堂にて、辰巳大二郎さんのお社中会「橙白会」に出演して参りました。

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昨年が第1回で今回は2回目の開催でした。

皆さん謡も舞もしっかりと稽古されていて、それぞれ昨年よりも着実に上達されていました。

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澤風会の田町稽古場の会員さんも、橙白会にお友達がいらっしゃるようで、朝からずっと見所で応援されていたようです。

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大二郎さんは来月には能「道成寺」を披くことになっており、その稽古や準備でも忙しい中を、今回のような盛大な会を主宰するのは大変なことだったと思います。

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橙白会の会員さん達は、今度はその「道成寺」を見所で応援されることでしょう。

橙白会の今後のますますの御発展と、大二郎さんの道成寺の成功をお祈りしております。

「安全な死に方」とは…?

今日は水道橋宝生能楽堂にて開催された「月並能」に出演して参りました。

私は能「錦戸」の立衆を勤めました。

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この立衆は、ワキ錦戸太郎の配下の武士で、シテ泉三郎と切り組んで討死する役です。

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切り組みの討死の仕方には、色々なバリエーションがあります。

①直立した状態からそのまま後ろに倒れる「仏倒れ」

②舞台から橋掛りへ向かって欄干を飛び越える「欄干越え」

③手を使わずに前転する「でんぐり返し」

④その場で飛び上がり平臥をする「平臥」

などです。

①が一番危険で、下に行くほど危険度は低くなります。

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そして今日の私の討死の仕方は…

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頭上に差しかざした太刀でシテの太刀を何度か受けて、押されて三足ほど下がって片膝をつく。

というものでした。

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膝にも足にも頭にも負担の全くかからない、いわば「最も安全な死に方」だったのです。

なんだか申し訳ないと思いながら片膝をついて、すぐに切戸に引いて帰りました。。

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来たる4月の「五雲会」で勤める能「兼平」では、ちゃんと(?)飛び上がり平臥をして、「自害の手本」となるような華やかな最期を遂げたいと思います。

サードマンと彼方のアストラ

今日は松本から移動して、夕方から矢来能楽堂にて辰巳大二郎君の「橙白会」の申合でした。

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松本からの特急あずさでは、専ら読書に専念いたしました。

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と言ってもいつものように比較的読みやすい内容の文庫本です。

今日は新潮文庫の「サードマン」という本でした。

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探検家が海や山で遭難した時に、自分以外の不思議な”存在”が現れて生還に導いてくれたという「サードマン現象」を科学的見地から研究した本です。

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サードマン現象そのものよりも、それが現れるまでの遭難の凄まじい状況に圧倒されました。

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ヒマラヤの8000m峰での滑落事故、南極大陸での壮絶な越冬、また大海原に放り出された小さな救命艇での絶望的な漂流…

私ならばきっと”サードマン”が現れる前に音を上げてしまうでしょう。。

しかし、極限状況を強かに生き延びた人々の話に勇気をもらえた気がいたしました。

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特急あずさ車内では、最近スマホで雑誌や本が読めるサービスが始まったのでそれも利用してみました。

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と言っても漫画です。。

以前から一度読みたいと思っていた

「彼方のアストラ」

という漫画の1、2巻を読んでみました。

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私の好きな漫画家の星野之宣さんの作品に通じるような、宇宙SF漫画でした。

そう言えばこの作品も、宇宙での”遭難”を描いています。

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今日の特急あずさの旅は、様々な遭難エピソードを終始ドキドキしながら読んで過ごしました。

新宿駅に無事に到着したのが何か奇跡のように有り難く思えたのでした。

立春の舞台

今日は水道橋宝生能楽堂にて「立春能」に出演いたしました。

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能「巴」、「吉野静」、「加茂物狂」、「鵜飼」と4番出て、私は留の「鵜飼」の地謡を勤めました。

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「鵜飼」は、数ある能の中でも地謡の謡出しが最も遅い曲だと思われます。

正午から始まった「立春能」の舞台で、私が留の「鵜飼」の地謡を謡い始めたのは17時頃でした。

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長く待った分、気合が充填されています。

そして「鵜飼」の地謡は、始まるといきなり「鵜之段」なので、一気に高いテンションで謡に入りました。

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そして中入の後も、”早笛”で後シテの閻魔大王が出てきて、最後まで力強い型やシテ謡が続きます。

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今日はシテの気持ちが非常に入っており、それに伴いやはり地謡もハイテンションで終始して、謡った時間は短いながらも謡い終えると全力を使い果たした感がありました。

私にとって今月最初の舞台で、また「立春」の名に相応しい、どこか爽快感のある「鵜飼」だったと思います。

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明日からまたしばらくは稽古の日々になります。

新型肺炎の心配などもありますが、気をつけつつ頑張って参りたいと思います。

悪夢にうなされずに済む方法

今日は朝から水道橋宝生能楽堂にて、日曜日開催の「立春能」の申合がありました。

私は能「鵜飼」の地謡でした。

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立春能申合に行くために起床する、その直前の夢の中でのお話です。

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以前にも書きましたが、私がたまに見てうなされる悪夢があります。

「やったことの無い曲のシテを舞うことになっており、鏡の間で幕が上がるのを待っている」

というシチュエーションの夢です。

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知らない型や謡を舞台上でどうやって誤魔化そうかと必死で考えるうちに目が覚めて、ホッと安堵するのが常のパターンでした。

しかし今日はちょっと違う展開になったのです。

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シチュエーションは常と同じで、今回は”勝修羅”の格好で”平太”の面までかけて鏡の間に座っていました。

一度も稽古しておらず、謡も型も全く頭に入っておりません。

「ああ、いつも見る悪夢と同じ状況だなぁ。ついに悪夢が現実になってしまうのか…」

と嘆いていたのです。

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しかし今日の私はそこでハッと気付きました。

「待てよ、今の状況ももしかしたら夢なのでは…」

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そして良く考えてみると、確実に夢だということがわかったのです。

夢の中で、

「なんだ夢か。良かった良かった。」

と安心して舞台に出て行ったあたりでアラームが鳴って目が覚めました。

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…というわけで今後はこのパターンの悪夢を見ても、夢の中で夢かどうか確認する事で、うなされずに熟睡出来そうです。