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zoomでの舞台参加

第7回澤風会・郁雲会の本番まで2週間ほどとなった9月上旬、自治医科大学能楽部の青年からメールが届きました。

残念ながら大学からの外出が許可されず、澤風会への参加が困難になってしまったという内容でした。

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自治医科大学からは青年も含めて数人が参加予定で、中でも困ったことに素謡「土蜘」の後シテ、前ワキ、ツレの役謡が来れなくなってしまったのです。

通常ならば、代役を考えるべき状況でした。

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しかしこの素謡「土蜘」は、コロナウイルスでサークル活動が出来なくなった大学生達が、自治医科大学、日本女子大学、國學院大学の3大学合同で4月から始めたzoom遠隔稽古の成果を発表するものだったのです。

なんとか半年間一緒に稽古してきたメンバーで謡わせてあげたい!

と強く思いました。

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そして考えたのが「稽古がzoomで出来るのだから、舞台にもzoomで参加出来ないだろうか?」ということでした。

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先ずはセルリアン能楽堂に問い合わせて、舞台上でWi-Fiが使えることを確認しました。

あとひとつ大きな問題は「スピーカー」です。

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舞台上では4人の学生が実際に謡います。

その生の声に負けない音量が出せるスピーカーはあるだろうか。色々と調べてみました。

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その結果、20Wという大音量(私がこれまで稽古用に使っていたスピーカーは5W)で、サイズは500mペットボトル程という小型高性能のスピーカーが入手出来たのです。

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本番の3日前には、実際にセルリアン能楽堂の舞台でzoomとスピーカーを使って学生と繋いで試験をして、上々の成果を得ました。

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そしていよいよ本番。

舞台上でzoomを起動すると、画面には自治医科大学の寮の自室で紋付袴をキッチリと着付けて正座している青年の姿が写りました。

こちらはスマホのカメラを笛柱の前から見所方向に向けて、少しでも舞台で謡っている気分が出るようにしました。

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そして素謡「土蜘」のzoom参加の結果は…。

私の不手際で前ワキの謡が一部途切れてしまったのが申し訳なかったのですが、それ以外は音量、音質共に申し分無いものでした。

舞台上のメンバーもそれぞれzoom稽古の成果を存分に発揮してくれて、元気な「土蜘」を披露することができたのです。

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このzoomでの舞台参加は、もちろん今回のような特殊な場合に限られる”裏技”と言えるでしょう。

しかし、不意の怪我や台風などで能楽堂に急に来られなくなった非常時などに、この方法は有効かもしれません。

コロナウイルスの影響で始めたzoom遠隔稽古から派生して、「zoomでの舞台参加」という新たな可能性に辿り着いた今回の舞台でした。

全宝連があるはずだった日

今日6月27日と明日28日には、金沢の石川県立能楽堂にて「全国宝生流学生能楽連盟自演会」が開催される予定でした。

しかし残念ながらコロナウイルスの影響で開催見合わせになってしまいました。

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全国から舞囃子もたくさん出る予定だったので、間違い無くとても熱い舞台が繰り広げられたはずなのです。

誠に無念の極みです。

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しかしながらこのような状況でも、京大宝生会の学生達は出来る稽古に地道に取り組んでいます。

昨日もzoom稽古をいたしました。

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交代で声を出しての鸚鵡返しで、1人最低ひとつは改善すべき点を指摘するようにしています。

今回は特に2回生がいくつか大事な節を覚えてくれました。

皆着実に進歩しています。

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さらについ先日には部長から、

「活動再開したら見学したいという新入生がいます。zoom稽古でも見学してもらって良いでしょうか?」

という内容のメールが来ました。

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きっと全国の宝生流の学生達も同様に、今出来る活動を懸命に模索して頑張っているのでしょう。

その努力が報われる日が早く来るように、そしてたくさんの学生達が一堂に会しての賑やかな舞台がまた戻ってくるように心から願っています。

私も出来ることを地道に続けて参りたいと思います。

炎を絶やさないために

昨日は昼から夜にかけて、学生関係のzoom稽古を3団体続けていたしました。

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最初は京大宝生会若手OBOGの皆さん。

炎に例えれば、長い時間をかけて燃え続けて、燠火のように安定した強い火力を持っている彼らです。

今回は新しい課題曲「難波」の初め〜クリまでを鸚鵡返ししました。

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次の団体は京大宝生会の現役達。

こちらは炎で例えると、今まさに元気よく燃え盛る大きなキャンプファイヤーのようです。

前回に続いて「兼平」を、今回は最後まで鸚鵡返しし終えました。

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そして最後は、自治医科大と日本女子大の合同稽古でした。

そこに、澤風会で幼稚園から稽古を続けて今春もう大学生になった女の子も加わって、賑やかな団体稽古になりました。

彼らはようやく灯されたばかりの、小さく若い炎のようです。

「土蜘」を一番最初から、ゆっくり解説しながら鸚鵡返ししました。

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大きさや形はそれぞれ異なりますが、これら学生関係の団体はどれもとても大切な炎なのだと思います。

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今はその炎に向けて、不恰好なあおぎ方で遠くから風を吹かせることくらいしか出来ません。

しかし今回の大変な災厄に負けずにずっと燃え続けていけるように、なんとか少しずつでも新しい薪をくべて、新鮮な空気を送っていきたいと思っております。

目指せ最多人数更新

今日は午後から江古田で個人稽古の稽古始め、その後に田町に移動しての稽古始めでした。

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江古田では主に舞囃子の稽古をみっちりとして、夕方に終えて急いで田町稽古場へ。

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稽古場の引き戸をカラカラと開けると、中からはガヤガヤと、いつもよりもなんだか賑やかな声が聞こえてきました。

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田町の謡は団体稽古なのですが、今日から新しい方がまた1人稽古を始める事になったのです。

団体稽古は合計で7人になりました。

これは田町稽古場を始めてからの最多人数に並ぶ数字なのです。

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一時は人が少なくなって、稽古場存続が危ぶまれたこともある田町稽古場ですが、ここ2年ほどで着実に人が増えて参りました。

団体稽古の後も、元気の良い韓国人留学生さんや、自治医大の青年なども来てくれました。

結局稽古場が閉まる合図の”蛍の光”が流れるまで、密度の濃い稽古をすることができました。

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例年よりも活気を増して稽古を開始した田町稽古場です。

この勢いで、今年は最多人数を更新できればと思っております。

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初めての関宝連

今日は水道橋宝生能楽堂にて「関東宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されました。

私は初舞台の「日本女子大学」と「自治医科大学」の付き添いとして参加いたしました。

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全くキャラの異なるこの2校。

パワフルでどこか豪快な自治医大と、

折り目正しくお淑やかな日本女子大です。

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しかし今日はこの2校が協力し合い、また東大宝生会の皆さんのお力もお借りして、初舞台の仕舞と素謡を全て無事に終えることができました。

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私は「関宝連」のことをもう遥か昔から知っていましたが、まさか自分自身が参加することになろうとは…!

つい1年前までは思いもよらないことでした。

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今日一日で、関西とはまた違う関宝連の雰囲気を体感してとても興味深く思いました。

そして京大宝生会からも大勢が観に来てくれて、関宝連の学生さんと楽しく交流していたようです。

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今回はお客様の人数が前回から倍増していたということで、とても賑やかだった関宝連。

来春には日本女子大と自治医大ともに新入生を増やして、関宝連をますます賑やかに出来ればと思います。

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そして京大宝生会など関西の学生達との繋がりもますます密になっていくと、色々と面白いことになりそうです。

新しい縁がたくさん結ばれて、未来への予感に満ちた関宝連の一日でした。

これから始まる歴史

少し時間を遡って、今週月曜日のことです。

京大宝生会が火曜日に能「竹生島」などの熱演でまた部の歴史に大きな一歩を記した、その前夜のこと。

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私は栃木県の自治医科大学に稽古に行きました。

彼らの初舞台である「関東宝生流学生能楽連盟自演会(関宝連)」がいよいよ来週末12月7日に迫って来たのです。

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内容は仕舞「鶴亀」「葛城クセ」と素謡「鶴亀」で、出入りの作法などを含めて時間をかけて丁寧に稽古いたしました。

何しろ、

「当日の着物はどうしましょう?」

「帯もありません…」

「そもそも、部の正式名称を考えないといけないのです。何か良い案はありますでしょうか…?」

まだまだ万事がこういう感じなのです。

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手探りで初舞台へと進んでいる彼らですが、謡と仕舞はとても良い仕上がりになって来ました。

同じように手探りで稽古している日本女子大の2人を含めて、当日は良い初舞台をお目にかけられることと思います。

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長い歴史を刻む部があれば、これから新しい歴史を始める部もあります。

12月7日土曜日、宝生能楽堂にて正午開始の

「関東宝生流学生能楽連盟自演会」。

もちろん自治医科大学と日本女子大の初舞台以外にも、舞囃子、仕舞、素謡など見応えのある番組になっております。

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新たな歴史の始まりを少しでも多くの皆様に御覧いただきたく思います。

どうかよろしくお願いいたします。

自治医科大学での能楽教室

今日は栃木県の「自治医科大学」にて能楽教室を開催いたしました。

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金春流を習っている哲学の先生、更にその師匠である金春流シテ方の先生、大鼓打ちさん、元京大宝生会で現自治医科大学能楽部部長の青年、そして私という異色の組み合わせでした。

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しかしその内容はバラエティに富んでおり、宝生流仕舞「清経クセ」「殺生石」、金春流仕舞「半蔀クセ」、小鼓独調「船弁慶クセ」、大鼓独調「駒之段」、金春流舞囃子「松虫」に加えて、楽器の説明と型の体験をいたしました。

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参加者はそれほど多くなかったのですが、全員が能楽教室終了後も残って大鼓の楽器体験などをしてくれました。

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そして更にそのうちの何人かは、仕舞と謡の稽古までしてくれたのです。

来月の稽古にも来てくれそうな手ごたえを感じました。

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自治医科大学における初めての能楽教室は、幸いに大成功と言って良い結果でした。

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自治医科大学能楽部としては、次の大きなイベントは「関東宝生流学生能楽連盟自演会」への初参加となります。

その舞台に向けての稽古もしっかりと出来て、今日は密度の濃い1日になりました。

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自治医科大学の皆様どうもありがとうございました。

静御前と記念撮影…!

去年長野県の小学校を回った「巡回公演」に参加しましたが、今年もまた参加することになりました。

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今日はその初日で、埼玉県栗橋の小学校で能「黒塚」のシテを勤めました。

元気一杯の小学生600人のパワーに圧倒されながらも、なんとか無事に舞台を終えることができました。

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そして今日の楽屋で、ちょっと驚くことを聞いたのです。

金野泰大君が「行き掛けに”静御前のお墓”にお参りしてきました!」

と話していたのです。

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「え、栗橋に静御前のお墓があるの⁈」

と聞くと、

金野君「はい、この辺りで亡くなったそうで、栗橋駅のすぐ近くにお墓がありました!」

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それは是非にも行ってみなければと、公演が終わってから何人かの若手楽師とお墓参りに行きました。

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確かに栗橋駅からほど近い所に「静御前の墓」の看板が立っています。

例によってお墓そのものの撮影は遠慮しますが、静御前らしい慎ましやかな墓碑でした。

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ただ、その横には少々派手な立て看が…

僭越ながら静御前と記念撮影を。

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町には下のようなポスターがそこら中に貼ってあります。

“静御前パレード”、”合唱静を偲ぶ”など、色々とても魅力的な催しで是非見に来たいと思いました。

しかし残念ながら、今年の10月19日は五雲会で能「葵上」のシテを勤める日なのです。。

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来年以降、いつかなんとしても「静御前まつり」に来てみたいものです。

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今日はこれから「自治医科大学能楽部」の稽古に行って参ります。

そして明日はまた違う学校での「巡回公演」で能「黒塚」のシテを勤めます。

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色々書くことは盛りだくさんですが、今日はこれにて。

龍神様に届いたから…?

昨日は竹生島能合宿を昼過ぎに終えて、京都から14時過ぎの新幹線で田町稽古に直行しました。

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京都駅で京大宝生会と別れた時、京都は凄い雷雨でした。

「皆は無事に家に帰れるだろうか…」

と心配しながら東京方面に向かいましたが、間も無く品川で新幹線を降りるという頃に急に外が暗くなって来ました。

稲光も光り始めています。

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どうやら東京も雷雨になりそうです。

本降りになる前に急いで稽古場に行こうと思い、やや慌てて山手線に乗り換えました。

そして乗ってすぐに、

「次は大崎…」

というアナウンスに打ちのめされました。

「逆方向に乗ってしまった。。」

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そして大崎から引き返す山手線に乗る頃から、大粒の雨が窓に当たり始めたのです。

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田町は「ゴロゴロ、ピカッ、ドカーン」というまるで漫画の擬音のような雷鳴が轟き渡って、滝のような雨です。

この夏初めてというくらいに、土砂降りの雨に降られてしまいました。。

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折り畳み傘で何とか稽古場に到着すると、すぐに自治医大の青年がやって来ました。

私「雨大丈夫だった?」

すると…

青年「ええ、もう止んでますよ」

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え?そんな馬鹿な…と思い外を見ると、確かにもう嘘のように雨は止んでいたのです。

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龍神は雨を呼ぶ、と聞いたことがあります。

京都と東京で遭遇した雷雨は、竹生島詣でをして能「竹生島」を奉納した京大宝生会の願いが龍神様に届いた証拠かもしれない…

と前向きに捉えて、田町稽古に突入していったのでした。

合宿明けなのに…

今日は午後に江古田の個人稽古、その後田町稽古に移動しました。

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田町稽古場では、田町の会員さん達と並んで自治医科大学の青年が座って待っていました。

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彼とは一昨日の朝まで京大合宿で一緒にいたのです。

「合宿その後無事に終わったの?」

と聞いてみると…

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「はい!無事に終わりました」

謡い納めも滞りなく…?

「はい!14時頃まで謡っていました」

それはお疲れ様でした。

「その後BOXに戻って、稽古しました!」

え?

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確かに一昨日は月曜日で、夕方から宝生会の稽古日ではありました。しかし4泊5日謡い通し舞い通しの合宿明けです。。

ちょっと稽古して解散したのでしょうか?

「いえ、みんな普通に夜まで稽古していましたね。僕は夜行バスの時間があって20時頃にBOXを出ましたが、まだまだ稽古する感じでした」

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なんと。。

驚きを通り越してちょっと呆然としてしまいました。

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日曜日の晩は、全員の鸚鵡返しが終わったのが確か午前0時半頃でした。

それから打ち上げで、明け方まで起きていた部員もいるはずなのです。

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声も枯れ果て、膝は長時間の正座で限界に来ているに違いない彼らが、更に京大に戻って夜遅くまで稽古とは。

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20年以上稽古していても、京大宝生会のパワフルさには驚かされることばかりです。

このパワーを良い舞台に繋げられるように、私も彼らに負けずに全力でサポートしたいと改めて思いました。