自治医大の自由な稽古

今日は久しぶりの自治医大宝生会の稽古でした。

先月の「全宝連」以来の稽古で、当初の予定では8月にある夏合宿に向けて、とりあえず仕舞と謡の曲を決めて、少し稽古を始めてみようかという話でした。

しかし稽古の中で、「実は10月の文化祭で何か仕舞を出したいのです」という話が出て、見栄えが良くストーリーもわかりやすいものを、と考えて「経政キリ」はどうかという話になりました。

まだクラブとして若い自治医大宝生会では、経政キリのように扇を2本使う「二本差し」という仕舞は未経験の部員が殆どです。

そこで今日は、1年生から6年生までとにかく全員で「経政キリ」をみっちりと稽古することにしました。

一本の扇は刀に、もう一本は盾に、という二本差しの基本がやはり難しいようで、皆それぞれ苦労して扇を扱っていました。

しかしなんとか頑張って、数時間の稽古で全員が一応ひと通り経政キリが舞えるようになりました。

自治医大宝生会はこのように、歴史が若い分、自由な稽古形態がとれます。

夏合宿では、今度は全員で「中之舞」をマスターするという稽古もしてみたいと思っております。

お祭りを終えて

全宝連京都大会から1週間と少し経ちました。

あの舞台では、みんな春先からの稽古の成果を遺憾なく発揮してくれました。

そしてそれからの1週間の間に早くも、京大と自治医大から「夏合宿のご案内」というメールが届きました。

京大からは、「秋の京大能楽部自演会の舞囃子のご相談」というメールも来て、既にシテと候補曲も決まっているようでした。

お祭りのような大きな舞台を終えて、この先は合宿と稽古で地力をつけて、また次の大きな舞台へのチャレンジが始まるのです。

…しかし、学生さん達はその前に大変な実習や前期試験などが待っているはずです。

とりあえず学業のヤマを越えて無事に夏休みが迎えられるように祈っております。

自治医大宝生会の京都観光

先週の全宝連京都大会、初日の6月29日は舞台終了から夜のレセプションまでに3時間ほどの自由時間がありました。

そこで、自治医大宝生会の部員達と短い京都観光をしようと思い立ちました。

彼らのうちの何人かは初めての京都だったのです。

自治医大のある栃木県にゆかりのある場所や、今回仕舞が出る「敦盛」などの謡蹟は組み入れたい…と考えて、コースを決めました。

金剛能楽堂を出発して先ずは北上。

今出川通から市バス203に乗って東へ。

途中「鴨川デルタ」や「百万遍交差点」などの名所(?)を見つつ、「銀閣寺道」で下車。

最初の目的地「東北院」を目指して歩き始めました。

神楽岡通で見つけた和菓子屋で、ちょうど6月30日の”夏越の祓”に食べる和菓子「水無月」を購入して皆で食べました。

自治医大は食欲旺盛で、鮎の形をした和菓子「若鮎」も追加で食べていました。

東北院では外から「軒端の梅」を眺めて、すぐに次の目的地「真如堂」へ。

ここでは「殺生石」から作られたという「鎌倉地蔵」を見ました。

鎌倉地蔵を彫ったのは能「殺生石」のワキである「玄翁上人」です。

京都から空を飛んで那須野に逃げた「玉藻前」が殺生石になり、それが玄翁上人の手でお地蔵さんになって再び京都に戻って、そのお地蔵さんを那須野の近くから来た自治医大宝生会が眺める…

というなんとも不思議なご縁でした。

その後は金戒光明寺に下って、「平敦盛」と「熊谷直実」の供養塔が向き合って建っているところにお参りして、一応の行程を終えました。

途中で比叡山が見えたので「あれが比叡山だよ」と言うと、部員の1人が何故か高めのテンションで、

「あれが比叡山ですか❗️愛宕山はどこですか⁉️」

と言うので、また途中で愛宕山が見えた所で「あれが愛宕山だよ」と言うと、

「あれが愛宕山ですか❗️

あれをイメージして舞います‼️」

そうでした。その部員は「花月キリ」の仕舞を舞うことになっていたのです。

実物の比叡山や愛宕山を見られてテンションが上がっていたのですね。

その後は丸太町通に出て再び市バスに乗って、レセプション会場ちかくの烏丸丸太町に向かいました。

途中で「京大病院」が見えたので「あれが京大病院だよ」と言うと、今度は全員が

「あれが京大病院ですか‼️」

とハイテンションになって、さすが医大生、と感心しました。

舞台を”言語化”して観るということ

先週土曜日の全宝連京都大会レセプションの時のお話です。

宝生和英家元は昼間の国立能楽堂での舞台の後すぐに京都に駆けつけてくださり、レセプションの冒頭でスピーチをしてくださいました。

その中で家元は、

「他の学生達の舞台を見るのはとても大事です。他人の芸の長所と短所を”言語化”して、それを自分の芸に活かすのです。私も常にそうしています」

と仰いました。

「長所短所を言語化する」

という考え方は初めて聞いたので、すぐには腑に落ちませんでした。

しかしよくよく考えてみると「成る程!」と目から鱗が落ちる思いがいたしました。

例えば、

「この人は運びの最中に下を向いている」

とか、

「今の飛び返りはとてもキレが良かった」

というのを、普段の私は感覚的にしか捉えていなくて、「何となく上手い」としか認識していませんでした。

それを”言語化”して改めて認識し直す事によって、

「運びの最中に下を向かないように気をつけよう」

とか、

「キレのある飛び返りを研究してみよう」

と具体的に自分の芸に活かす事ができるのです。

今後は私も他人の舞台を観て気付いた事は一度”言語化”して、自分の芸の改善に努めていきたいと思います。

家元の貴重なお言葉は学生達にもきっと響いたことでしょう。

有り難い事でした。

全宝連京都大会が盛大に開催されました

昨日一昨日と京都金剛能楽堂にて、

「全宝連京都大会」

が盛大に開催されました。

コロナ禍の時には開催見送りやオンラインでの開催、また開催されても学校毎に固められた番組で、学生同志の交流が制限されていました。

しかし今回からは、番組も色々な大学がランダムに配置され、また初日終了後には京都ガーデンパレスホテルにて、全国の学生と、宝生和英御宗家始めシテ方能楽師も参加した「レセプション」も開催されました。

完全にコロナ以前に戻った雰囲気の2日間で、特にレセプションでの学生達の楽しそうな様子は、見ているこちらも思わず笑顔になってしまうほどでした。

そしてもちろん、2日間にわたる舞台は非常に熱気溢れるもので、見所も学生やOBOG、また学生のご家族などで終日賑やかでした。

舞台でも楽屋でも、またレセプションやその前後にも、本当に多くの素敵なエピソードが生まれた「全宝連京都大会」でした。

また個別のエピソードも改めて書かせていただきます。

今回の全宝連に関わったすべての皆様、特に運営を担って大会を成功させた全宝連委員の皆様に心より御礼申し上げます。

全宝連での得難い経験

いよいよ明後日から「全宝連京都大会」が2日間にわたって開催されます。

私が全宝連委員長を勤めたのは確か平成3年の全宝連京都大会で、会場は四条室町上ルの旧金剛能楽堂、レセプション会場はコープイン京都でした。

今は金剛能楽堂は御所の西に移り、コープイン京都も無くなりました。

あれから幾星霜、コロナ禍も乗り越えて、また京都に全宝連が帰ってくるのは実に感慨深いです。

と言っても私が委員長を勤めた時は、私自身は2日間ほぼずっと玄関に座って、全国から来る皆さんや、能楽師の先生方をお迎えしたり、色んなトラブルへの対応に終始していました。

自分が出る時以外の舞台は全く見られなかったので、舞台の記憶は殆ど無いのです。

正直しんどい仕事でした。

しかし、例えば目上の人への手紙の書き方、口のきき方、フォーマルなレセプションでの挨拶の仕方などは、この全宝連委員長の時に初めて経験しました。

そしてその経験が今の私の日常にも確実に活かされているのです。

今回も神戸大の委員長さんを始め、全宝連委員や関西の大学の学生は、これから本番終了まで、間違いなく大変な数日間になる事でしょう。

でもその大変な経験は、将来きっと自分を助けてくれる、得難い経験になるというのもまた、間違いない事なのです。

全宝連京都大会が実り多い舞台になるように、私も全力でお手伝いしたいと思います。

全宝連京都大会のお知らせ

今週末の6月29(土)30日(日)に京都金剛能楽堂にて、

「全国宝生流学生能楽連盟自演会京都大会」

が開催されます。

東京、名古屋、金沢、関西を中心に、宝生流を稽古する全国の学生達が一堂に会する盛大な催しです。

29日10時半〜15時まで学生自演会

30日は10時〜13時まで学生自演会、15時から鑑賞能があります。

学生自演会は入場無料、鑑賞能は有料の催しになります。

鑑賞能は宝生和英御宗家による

能「鞍馬天狗 白頭」

ほか、各大学を指導する能楽師による仕舞が多数演じられます。

番組は下の通りです。

詳細情報、また鑑賞能チケットの購入は下のリンクをご覧くださいませ。

鑑賞能チケットは当日受付でもご購入いただけます。

学生達の熱い舞台と、その後の盛りだくさんな内容の鑑賞能を観に、週末は是非京都金剛能楽堂にお越しくださいませ。

よろしくお願いいたします。

https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=10193

https://zenporen2024.peatix.com/?lang=ja

自治医大の集中力

今日は自治医大宝生会の稽古に行って参りました。

先日の「関宝連」は、6年生の地元実習の関係で、本番2日前に1度だけしか稽古できずに本番を迎えました。

しかも私自身が関西で舞台があり、仲間の若手楽師に自治医大の事をお願いして関西に向かったのです。

今日自治医大に到着すると、真っ先にその関宝連の様子を聞いてみました。

すると笑顔で「いや〜絶対無理だと思っていたのに、本番はノーミスで出来ました〜!」

おお!さすが普段から集中力が求められる医大生です。

1度だけの稽古の音源や映像で、本番直前までみっちりと自主練したようです。

そして今日は、来週末に迫った「全宝連京都大会」に向けての稽古です。

関宝連前は差し迫った本番のための必要最低限のことしか言えなかったのですが、今回はまだ時間もあるので、より細かな稽古ができました。

自治医大はこれでもう全宝連本番を迎えるわけですが、彼らは今回もここから集中して自主稽古をしてくれるはずです。

6月30日の全宝連本番は、今度こそは私も行けるので、金剛能楽堂での彼らの奮闘をしっかりとサポートしたいと思います。

明後日の舞台のために

今日は自治医大稽古に行ってきました。

5月の1ヶ月間は、6年生が地元研修でそれぞれの出身地に戻っており、また入院していた部員が先日無事退院したりして、今日は本当に久しぶりに大勢が揃っての稽古でした。

更に嬉しい事に、新入生が1人入部していました。

秋田出身の6年生が、同じ秋田出身の新入生に声をかけたら入ってくれたそうなのです。

早速「紅葉狩」の仕舞を稽古しました。

嬉しいニュースが多かったのですが、実は自治医大能楽部としては中々に大変な状況なのでした。

「関東宝生流学生能楽連盟自演会(関宝連)」

の舞台が明後日に迫っているのです。

このひと月の間は部員が全国に散らばってほとんど稽古出来ず、仕舞のシテと地謡との合わせも勿論出来ていません。

今日1日の突貫工事で、明後日の舞台に備えないといけないのです。

とりあえず仕舞は、私と一緒に地謡を謡いながら2回稽古して、更に今度は部員だけで地謡を謡ってもう2回。

合計4回稽古しました。

素謡「桜川」も、一度謡ってもらって、とにかく直せるところを出来るだけ修正して稽古を終えました。

部員達は、「これから晩御飯行って、その後帰って稽古しよう」

「明日は実習が早く終わるはずだから、後はずっと稽古しよう」

と明後日までの限られた時間を有効に使う相談をしていました。

日々の実習や授業が本当に過酷な彼らにとって、仕舞や謡まで覚えるのは大変な事だと思います。

なんとか明後日の「関宝連」を無事乗り切って、月末にある「全宝連京都大会」では、より稽古を積んで舞台に臨めるように、私も頑張ってお手伝いしたいと思います。

医大生と能楽

自治医大宝生会の学生さんと話していた時の事です。

6年生で実際に病棟で実習があり、色々な事情を抱えた患者さん達をたくさん見て、しんどくなった事があったそうです。

その時に、能の事を思い出して、

「医師は”ワキ方”に徹すれば良いのだ」

と考えて気持ちが救われたというのです。

ワキ方は、まずシテに話しかけます。

そして、シテの出身地を聞いたり、外見上の特徴を指摘してその理由を尋ねたりします。

するとシテは詳しい身の上話をワキに語ります。

身の上話や悩み事を聞くと、大抵はそれに対して何かアドバイスを与えたりするでしょう。

しかし能楽に置けるワキはそれを聞いても、すぐにシテに影響を与える立場にはならず、最後の方までひたすら聞き役に徹します。

自治の学生さん曰く、

「ワキとシテの間には一本線が引かれていると思います。

一方でシテとツレは同じ立ち位置で繋がっていると思います」

なるほど確かに。

ワキがお医者さん、シテが患者さんで、ツレが患者さんの御家族とします。

医師がワキに徹すれば、過度にシテツレに干渉する事なく、適切な関係を保てるでしょう。

その同じ学生さんは3月の澤風会郁雲会で能「砧」などの舞台を観て、

「このシテの心情は現代の患者さん達と変わらないなあ」

と、そこにも何か救いを感じたそうです。

病棟での実習は命との向き合いの日々で、本当に大変な事ばかりだと思います。

能楽がそういう人の気持ちの助けになるならば、それは私のような能楽師にとって何よりの喜びです。

自治医大宝生会では、普通の稽古とはまた違った意味で、気持ちを込めて大切に稽古させてもらいたいと思ったのでした。