明後日の舞台のために

今日は自治医大稽古に行ってきました。

5月の1ヶ月間は、6年生が地元研修でそれぞれの出身地に戻っており、また入院していた部員が先日無事退院したりして、今日は本当に久しぶりに大勢が揃っての稽古でした。

更に嬉しい事に、新入生が1人入部していました。

秋田出身の6年生が、同じ秋田出身の新入生に声をかけたら入ってくれたそうなのです。

早速「紅葉狩」の仕舞を稽古しました。

嬉しいニュースが多かったのですが、実は自治医大能楽部としては中々に大変な状況なのでした。

「関東宝生流学生能楽連盟自演会(関宝連)」

の舞台が明後日に迫っているのです。

このひと月の間は部員が全国に散らばってほとんど稽古出来ず、仕舞のシテと地謡との合わせも勿論出来ていません。

今日1日の突貫工事で、明後日の舞台に備えないといけないのです。

とりあえず仕舞は、私と一緒に地謡を謡いながら2回稽古して、更に今度は部員だけで地謡を謡ってもう2回。

合計4回稽古しました。

素謡「桜川」も、一度謡ってもらって、とにかく直せるところを出来るだけ修正して稽古を終えました。

部員達は、「これから晩御飯行って、その後帰って稽古しよう」

「明日は実習が早く終わるはずだから、後はずっと稽古しよう」

と明後日までの限られた時間を有効に使う相談をしていました。

日々の実習や授業が本当に過酷な彼らにとって、仕舞や謡まで覚えるのは大変な事だと思います。

なんとか明後日の「関宝連」を無事乗り切って、月末にある「全宝連京都大会」では、より稽古を積んで舞台に臨めるように、私も頑張ってお手伝いしたいと思います。

医大生と能楽

自治医大宝生会の学生さんと話していた時の事です。

6年生で実際に病棟で実習があり、色々な事情を抱えた患者さん達をたくさん見て、しんどくなった事があったそうです。

その時に、能の事を思い出して、

「医師は”ワキ方”に徹すれば良いのだ」

と考えて気持ちが救われたというのです。

ワキ方は、まずシテに話しかけます。

そして、シテの出身地を聞いたり、外見上の特徴を指摘してその理由を尋ねたりします。

するとシテは詳しい身の上話をワキに語ります。

身の上話や悩み事を聞くと、大抵はそれに対して何かアドバイスを与えたりするでしょう。

しかし能楽に置けるワキはそれを聞いても、すぐにシテに影響を与える立場にはならず、最後の方までひたすら聞き役に徹します。

自治の学生さん曰く、

「ワキとシテの間には一本線が引かれていると思います。

一方でシテとツレは同じ立ち位置で繋がっていると思います」

なるほど確かに。

ワキがお医者さん、シテが患者さんで、ツレが患者さんの御家族とします。

医師がワキに徹すれば、過度にシテツレに干渉する事なく、適切な関係を保てるでしょう。

その同じ学生さんは3月の澤風会郁雲会で能「砧」などの舞台を観て、

「このシテの心情は現代の患者さん達と変わらないなあ」

と、そこにも何か救いを感じたそうです。

病棟での実習は命との向き合いの日々で、本当に大変な事ばかりだと思います。

能楽がそういう人の気持ちの助けになるならば、それは私のような能楽師にとって何よりの喜びです。

自治医大宝生会では、普通の稽古とはまた違った意味で、気持ちを込めて大切に稽古させてもらいたいと思ったのでした。

自治医大も新歓スタートです

今日は自治医大稽古に行って参りました。

自治医大も新歓の季節です。

全寮制の学校なので、新歓の呼び込みも寮の共用スペース「大ラウンジ」という所で行いました。

先ず寮の玄関に入ったところで驚きました。

広いエントランスが「家電」の大きな段ボールで埋め尽くされているのです。

聞けば全部が新入生用の新しい家電製品だそうです。

新生活が始まる高揚感を感じる光景でした。

呼び込みを学生部員達に任せて、私は紋付に着替えて正座して謡を謡っていました。

すると…

「こんにちは…」

という声と、部員の

「お〜!」

という喜びの声が聞こえてきました。

先日に一度見学に来てくれたという新入生が再び来てくれたようなのです!

早速サークル棟に移動して、稽古を体験してもらいました。

鹿児島から来たという新入生は、高校時代は演劇部だったという事で仕舞も謡も中々筋が良いです。

ひと通り体験稽古をした後は、部室で能の写真などを見ながら色々お話しをしました。

「能はなぜ幽霊と生きている人が普通に話せるのですか?」

などと能の核心に迫る質問もしてくれたりして、興味を持ってくれたようです。

私は今は稽古を終えて東京に戻る途中ですが、今ごろ部員達が新入生と楽しく晩御飯を食べに行っているはずです。

次回月末に稽古に行く時に、今日の新入生が入部していてほしいと願っています。

筑波山”下山”記

自治医大合宿は下のような素敵な雰囲気の古民家ゲストハウスで行われました。

午前中に稽古を終えて、昼頃に宿をチェックアウトして、合宿は無事終了いたしました。

そしてその後は全員予定が無い事が判明したので、日が暮れるまでの間に「筑波山」に行ってみようという話になったのです。

山麓の「筑波山神社」に到着したのが13時半頃。

登山にはちょっと遅いので、ケーブルカーを使って一気に山頂に行く事にしました。

ケーブルカーは10分足らずで筑波山山頂駅に到着します。

山頂駅は男体山と女体山の中間部にあり、我々は「女体山」経由で、巨石や奇岩の多いという「白雲橋コース」を通って下山することにしました。

山頂からは黄砂に霞んではいましたが、関東平野や霞ヶ浦が見えて絶景でした。

またちょうど時期が良く「カタクリ」が咲いているのも見られました。

道は中々の急坂です。

しかし途中ですれ違った登山者の中には高齢の女性や小さな子供、また小型犬を連れた人までいて、皆さん健脚でびっくりしました。

そして山道の途中に確かに様々な巨石奇岩が点在していました。

「ガマ石」や…

「裏面大黒」など、個性的な名前が付けられています。

ここは何と「高天原」と呼ばれており、この先には神々が座す天上世界があるというのです。

またこの山にも「弁慶」に関係する場所がありました。

これは「弁慶七戻り」で、巨岩が落ちそうで恐れた弁慶が七回後戻りしたという伝説があるそうです。

弁慶は修行でここまで来たのでしょうか…

急だった山道も、ようやく緩やかになって来ました。

そして程なく、無事に麓の鳥居まで降りて来る事ができました。

今回は時間の制約があって、登山というより筑波山”下山”でした。

また機会があれば、次回はちゃんと”登山”して、男体山にも登頂してみたいです。

自治医大合宿は筑波山観光まで付いて、大変盛りだくさんなものになりました。

自治医大宝生会の皆さんありがとうございました。

自炊もしながら

昨日から筑波山の近くにある古民家ゲストハウスで自治医大能楽部宝生会の合宿をしております。

筑波山を間近で見るのは初めてなのですが、何となく比叡山に似た姿だと思いました。

ゲストハウスの周りは見事な日本建築の大きな農家が多く、栗や梨が名産品だそうです。

京大合宿所の民宿きつねと違って、今回のゲストハウスではご飯は自炊になります。

昨夜は秋田出身の部員が「きりたんぽ鍋」を作ってくれました。

比内地鶏の出汁で、非常に美味しかったです。

そして今朝は、京大からゲスト参加のOBが腕を振るって、大変豪華な朝ごはんになりました。

焼き鮭、焼きウインナー、空豆とベーコンのオムレツ、味噌汁、昨夜のきりたんぽ鍋の出汁で作った雑炊、などです。

食べる話ばかりですが、稽古もちゃんとしています。

謡は「三笑」、仕舞は「花月キリ」「巻絹クセ」「忠度」などを一通り稽古しました。

これから授業が始まるととても忙しくなる自治医大生ですが、実習や授業の合間をぬって、次の関宝連や全宝連に向けて頑張ってもらいたいと思います。

学生仕舞の地謡は…

澤風会郁雲会の1日目には、京大宝生会と自治医大宝生会の現役部員の仕舞がありました。

そのうち京大宝生会現役の仕舞は、番組に地謡をあえて書きませんでした。

それは現役が交代で地謡に入って、お互いに謡い合う事にしていたからです。

一応私が地頭には入りましたが、謡ってみると皆とても大きな声で、彼らだけでも充分に謡えるだろうと思われました。

途中で切戸口には、次の出番の京大若手OBが集まって来ました。

私「せっかくなので地謡一緒に謡う?」

と若手OBに声を掛けて、最後の現役仕舞は5人の賑やかな地謡になりました。

一方、自治医大宝生会の仕舞は普通に能楽師で地謡を謡うつもりでおりました。今回は4年生2人だけの出演予定だったのです。

しかし楽屋に入って来た自治医大宝生会達は…

自治医大宝生会4人「「こんにちは‼︎」」

おお、仕舞を舞う4年生の他に、試験を終えた1年生と3年生も久しぶりに顔を見せてくれましたか!

しかも全員が舞台に出られる格好をしています。1年生と3年生に、

「もしかして仕舞の地謡に…」

と聞くと、

自治医大「「はい出ます‼︎」」

なんと!それは嬉しい事です。

というわけで、自治医大の仕舞2番は私以外の能楽師はお休みいただき、京大と同じく私と学生達で元気良く地謡を謡ったのでした。

今月中には京大も自治医大も合宿がある予定です。

またみっちりと稽古して、次の「全宝連京都大会」やその前の新歓に向けて頑張ってもらいたいと思います。

二十周年記念澤風会大会・郁雲会大会無事終了いたしました。

おかげさまで「二十周年記念澤風会大会・郁雲会大会」は昨日無事終了いたしました。

御出演いただきました皆様、見所で応援してくださった皆様、裏方で色々とお手伝いしてただいた方々に心より御礼申し上げます。

舞台は私の期待以上の熱気あふれるものでした。

これまで、番組に書いてありながら当日出られない方はいらっしゃいました。

しかし今回は番組に名前がある人は全員が無事に参加できて、逆に番組に載っていないけれど当日地謡に参加という人が何人もいらしたのです。

そんな皆様の熱量に今回も背中を押されて、2日間の会を走り抜ける事ができました。

特筆すべき事は無数にあるので、次回以降に思い出したものから書いて参りたいと思います。

実習の合間をぬって

一昨日は宝生能楽堂での能稽古の後で、栃木にある自治医大宝生会の稽古に行って参りました。

自治医大はやはり実習や試験が多くて大変そうです。

5年生の1人は年明けから遠い南の島で実習、また1年生と3年生は非常に難しい試験があったりして、中々稽古に来られないのです。

その中でも、5年生の2人は学内での実習の合間をぬって稽古に来てくれています。

先月に一度稽古に行った時には、実習が大変そうなので短い仕舞「安宅」と「猩々」を稽古しました。

ところが2人とも、この短い2番をすぐに出来るようになってしまいました。

さすがに優秀な記憶力です。

なので、ちょっと長めの仕舞「嵐山」を追加で稽古する事にしました。

これは3月9日、10日の「澤風会郁雲会」に向けての稽古でもあります。

一昨日は2人だけの稽古だったので、「嵐山」2回ずつを2セット稽古できました。

先月と今回の稽古で、2人とも「嵐山」をほぼマスターしてくれました。

澤風会郁雲会本番が楽しみです。

今は試験や実習が終わっていない人達も、澤風会郁雲会本番には試験や実習を終えて応援に来てくれると思います。

来月末には第2回目の自治医大宝生会合宿も計画されています。

次の大きな舞台である6月の全宝連京都大会に向けて、そしてその前の4月の新歓に向けて、自治医大宝生会もまた全員揃って盛り上がっていってほしいと思います。

2022年あけましておめでとうございます

皆様 2022年あけましておめでとうございます。

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昨年はコロナ禍が収まらない中でも3月に京都、10月に松本で澤風会を開催する事ができました。

学生の活動も全宝連は映像配信になりましたが、関宝連と関西宝連、そして京大の自演会は何とか有観客で開催されました。

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今年は先ず3月の5日(土)6日(日)に水道橋宝生能楽堂にて「東京澤風会・郁雲会大会」を開催いたします。

東京での澤風会は1年半ぶりで、能「井筒」、能「葵上」、能「夜討曽我」を始め舞囃子も多く出る予定です。

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そして9月24日(土)には京都大江能楽堂にて「澤風会京都大会」、10月には「松本澤風会大会」を開催予定です。

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私の演能予定としては、

①1月15日(土)五雲能にて能「巴」

於宝生能楽堂

②4月23日(土)七宝会にて能「羽衣盤渉」

於枚方市総合文化芸術センター

③5月27日夜能にて能「小鍛冶白頭」

於宝生能楽堂

の3番が予定されております。

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コロナの先行きはまだ不透明ですが、気をつけながら何とか頑張って稽古して参りたいと思います。

皆様本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。