挑戦の関宝連

少し前になりますが、12月12日土曜日に水道橋宝生能楽堂にて「関東宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されました。

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例年は年2回開催のところ、6月が中止になったため今年唯一の関宝連になりました。

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私は関宝連においては、日本女子大2人、自治医科大6人、そして江古田稽古場でずっと稽古してきて今年國學院大に入学した学生1人を教えています。

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ところが残念ながら自治医科大は、感染拡大防止で学外に出られないために今回参加が叶いませんでした。

つまり、京大宝生会出身の自治医科大の青年が来られなくなった訳で、「地頭がいない」という危機的状況になってしまったのです。

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しかし日本女子大の2人と國學院の1人は非常な頑張りを見せてくれました。

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素謡「竹生島」では日本女子大がシテとツレを、國學院がワキを勤めました。

そして通常よりもかなり距離を取って3人が横一列に並びます。

常座、正中、ワキ座、という感じの距離感でした。

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距離が離れると謡を合わせるのが難しくなってしまいますが、3人の地謡は声が良く揃っていました。

更に、回数を重ねたzoom謡稽古によって個々の声量が格段に大きくなっていて嬉しい驚きでした。

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この3人はそれぞれ「紅葉狩」「竹生島」「玉葛」の仕舞も舞って、こちらも少ない稽古回数ながら急成長のあとを見せてくれました。

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そして地謡も。

國學院大4年生の舞囃子「船弁慶」では、江古田で稽古してきた國學院1年生が初めての”舞囃子地謡”に挑戦したのです。

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その船弁慶の地謡は、4年生1人と1年生1人の合計2人だけです。

しかも1年生は初舞囃子地謡。これはかなり困難なチャレンジです。

本番ギリギリまで、國學院宝生会指導者の佐野玄宜さんと一緒に稽古舞台で稽古をしました。

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舞囃子船弁慶の本番は、私は能「加茂」の装束付けをしていて見られませんでしたが、佐野玄宜さんによれば無事終わったという事で安堵しました。

玄宜さん「終わって帰ってきたら、シテも地謡も座り込んで放心状態でしたよ(笑)」

それはそうでしょう…。

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このように今回の関宝連は、それぞれの学生が高いハードルに挑んでそれを何とかクリアするという、非常に貴重な経験を積む事が出来ました。

コロナの影響を逆手にとって、皆が一気に大きく成長してくれたのです。

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そして今回参加が叶わなかった自治医科大宝生会も、勿論zoom謡稽古は続けています。

今年は新しく2人部員が増えて、合計6人になったとのこと。

その自治医科大が戻ってきたら、次回以降の関宝連ではより強力な布陣で目を見張るような舞台をお見せ出来ると思います。

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一方で関西では京大宝生会が、もがきながらも懸命に活動を続けています。

全国の大学の中でもおそらく最も厳しいサークル活動制限が敷かれている中での京大宝生会の不屈の苦闘の様子は、また数日後に書きたいと思います。

2020年最後の松本稽古

前回のブログから1か月あいてしまいました。

今日は今年最後の松本稽古でした。

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松本稽古は去年までは月2回でしたが、現在は月1回のペースです。

1か月来ないと、季節はすっかり変わって冬になっていました。

昨日から今朝にかけての雪と冷え込みで、周りの山々は白く凍りついたように見えます。

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天気予報では、夕方に稽古開始する頃の気温が1℃、夜には氷点下になるようでした。

実際、19時半頃に稽古を終えて最終電車に乗るために松本駅に向かうと、駅前の気温計の表示は…

0℃でした。

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この寒さで窓を開けるのはキツいのですが、感染防止を優先して2箇所の窓を開けて稽古しました。

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第三波が猛威をふるっている状況ではありますが、今日は合計7人が入れ替わりで稽古に来てくれて、今年最多人数になりました。

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またこんな時期にもかかわらず、新しい方が見学に来てくださったのです。

能楽の身体や顔の動きを研究している研究者の方だそうで、今後色々興味深いお話がきけそうです。

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そして更に驚くことに、たまたま稽古場にいた会員さんご夫婦の息子さんと、その方が同級生だということがわかったのです。

松本はこんな風に不思議に縁が繋がることが多い稽古場です。

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松本稽古場を開いて10年目の今年は大変な1年になりましたが、最後の稽古で沢山の方々とお会いすることが出来ました。

またこの先に繋がる出会いもあり、なんとなく温かい気持ちになって稽古場の大手公民館を後にしたのでした。

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あれから1年

最近では月に1回松本稽古に行っております。

今日も昼過ぎの特急あずさで松本稽古に向かいました。

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小春日和の暖かな日で、夕方到着した松本駅前の気温計でも20℃ありました。

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松本市街はちょうど紅葉の盛りを迎えていました。

稽古場近くの「四柱神社」を通りかかると…

夕陽に照らされた紅葉が目に入りました。

陽が残っているうちにと境内に入ってみます。

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今年はお花見も紅葉狩も1人ですが、それでもこうやって綺麗な紅葉が見られるのは幸せなことだと思いました。

たっぷりと目の保養をして稽古場へ。

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会員さん達とお話ししていると、実はちょうど1年前に松本澤風会を開催したのだという話になりました。

「凡蔵」という和食屋さんの2階の大広間を使っての盛り沢山な舞台、そのまま凡蔵で大宴会。

そして翌日は大勢で安曇野の山中にある会員さんの素敵な御宅にお邪魔して、雄大な北アルプスを眺めながら豊かで楽しい時間を過ごしたのでした。

明日であれから1年になるというのです。

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あの頃は現在の困難な状況など欠片も想像できませんでした。

逆に、1年後にはこの苦境が夢だったように世の中が回復していることを信じて、また松本で盛大に舞台が出来るように地道に稽古を続けていこうと思います。

7ヶ月ぶりの稽古

昨日は江古田稽古でした。

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江古田稽古場では、旧ジパング倶楽部謡曲教室の会員さん達を母体とした謡の団体稽古を、10年以上ずっと続けています。

しかしコロナウイルスの影響で、今年3月以来7ヶ月にわたって稽古を休止しておりました。

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そして昨日、ようやくその団体謡稽古が再開されたのです。

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7ヶ月前と変わらない皆さんが元気に集合して、久々の再会を喜び合いました。

団体稽古にあたっては、窓開け換気、控えめな発声、また私の謡は録音した音源をスピーカーで流して私自身は説明だけをする、という方法をとりました。

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全力で謡えないのは少々物足りなく感じます。。

それでも「龍田」の後半を1時間みっちりと鸚鵡返しした後は、久しぶりの充実感がありました。

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先日92歳になられたという澤風会最高齢の会員さんも全く変わらずお元気な様子で、仕舞「吉野静」を稽古すると7ヶ月前よりも上達されていてびっくりしました。

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そして江古田稽古から一夜明けて、今日は早朝の飛行機で鹿児島に向かっています。

故石黒孝師のお社中会を石黒実都師が引き継いだ「皓月会50周年記念大会」が2日間にわたって開催され、最後には玄人による「かごしま能」があり、辰巳満次郎師の能「俊寛」などが演じられるのです。

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稽古と舞台の日々が、本当に少しずつですが平常運転に戻りつつあります。

「竹生島合宿」から1年

去年の今日9月11日、京大宝生会は能「竹生島」に向けた合宿を琵琶湖畔で行っていました。

今頃の時間はその合宿のメインイベントである「竹生島クルーズ」を終えて、大満足で帰港していたと思われます。

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能の効用のひとつに、

「行かずして名所を知る」

というものがあると、先日の「いとうせいこう能楽紀行」の折にいとうさんとお話しいたしました。

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しかし去年の「竹生島合宿」はその逆で、京大宝生会は、

「名所に行って能を知る」

という体験をしたのです。

あの「竹生島合宿」によって、能「竹生島」への理解が飛躍的に深まり、舞台へのイメージも果てしなく膨らんでいきました。

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また違うパターンもあります。

もう4年半ほど前になりますが、「澤風会15周年東京大会」という舞台で、松本澤風会の3人の会員さんで能「竹生島」を演じていただきました。

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3月にその舞台が無事終わった後のゴールデンウィークに、その竹生島を演じた前シテ、後シテ、ツレの3人で「竹生島クルーズ」に出掛けたそうなのです。つまり、

「能で知った名所を旅する」

という体験で、これは普通の旅行では決して得られない感動があったことと思います。

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このように「能と旅」という2つの要素の組み合わせには色々なバリエーションがあり、それぞれ異なる楽しさがあると思うのです。

今はまだ自由自在に旅行出来る環境ではありませんが、状況は徐々に改善されています。

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再び自由に旅に出られるようになったら、また能楽に関わる場所を色々訪れてみたいです。

京大宝生会とも、また充実した「能合宿」に行ってみたいと思います。

桃源郷から

2017年4月10日に「桃源郷へ」という題名でブログを書きました。

もう3年以上前のことになります。

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松本稽古に行く途中の甲府盆地の”桃の花”があまりに綺麗で、桃源郷のように見えたのです。

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その甲府盆地にある「御坂果実郷」というところから、先日見事な”桃の実”が届きました。

私の掌に余るくらいの大ぶりな桃で、冷やして食べると甘くて何とも美味でした。

そして桃の実がこんなに良く香るということを久しぶりに思い出しました。

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この桃は「がんばれ観光農園!」というキャンペーンの商品で、京大宝生会の大先輩が注文して私のところに送ってくださったものです。

コロナウイルスの影響でお客さんが激減してしまった観光農園を力付けようという企画だそうです。

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今年は桃の花が咲く前からずっと、松本稽古に行けておりません。

あの「桃源郷」のような甲府盆地の風景は残念ながら見られませんでした。

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しかし今回その甲府盆地から送られてきた桃の実から、「桃源郷」の香りと味を楽しむことができたのです。

今月下旬には、久しぶりに特急あずさに乗って松本稽古に行く予定にしております。

甲府盆地を通る時、「御坂果実郷」の辺りの景色を眺めながら、この桃源郷から送られてきた桃の味を思い出すことでしょう。

七葉會 十周年記念公演のお知らせ

宝生流若手能楽師7人が集まっての合同社中会「七葉会」。

本年8月8日、9日には「七葉会10周年記念大会」を予定しておりましたが、情勢を鑑みて来年に延期させていただくことになりました。

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そしてその上で七葉会同人7人で、今我々に何か出来ることは無いか話し合いました。

その結果8月9日に「七葉會」という名前で7人による演能会を開催させていただく運びになりました。

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宝生能楽堂にて13時半〜16時半頃まで開催。

舞囃子6番に半能「橋弁慶」、仕舞、連吟などが演じられます。

私は舞囃子「井筒」と、「橋弁慶」の地謡などを勤めます。

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チケットは全席自由4000円(学生2000円)で7月9日朝10時より「能LIFE Online」にて、先着100名様限定で販売いたします。

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チケットご購入にあたっては、

①購入手続きの前に先ず「能LIFE Online」(http://nohlife.com )に登録をお願いします。

②その上で発売日以降にやはり「能LIFE Online」( http://nohlife.com )より購入手続きにお進みください。

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少々手間のかかる購入方法になります。

しかしながら、コロナウイルスが収まらない状況下での舞台開催にあたっては、万が一の場合にはお客様全員と連絡をとる必要があります。

「能LIFE Online」に事前にご登録いただくことでお客様により安全に舞台をご覧いただけると考えてこの方法をとらせていただきました。

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このような状況下の舞台で何かとご不便をおかけいたしますが、様々な安全対策をして開催させていただきますので、どうかよろしくお願いいたします。

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チラシ表面

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チラシ裏面

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※なお、七葉会各会の社中の皆様につきましては、チケットに関してはそれぞれの先生にお尋ねくださいませ。

七葉会の話し合い

一昨日の土曜日には、水道橋宝生能楽堂にて「五雲会」が無事に開催されました。

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見所の座席の半数には、「全国宝生流学生能楽連盟」の学生達から募集した「能に出て来る和歌」が貼られて、地謡は顔の下半分を覆面でおおい、切戸は換気のために開け放してあり…

等々、これまでの舞台とはいくつかの点で異なる様子でした。

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それでも200人近いお客様にいらしていただき、華やいだ見所を前にして勤める舞台は本当に久しぶりで、「ようやく帰って来たなあ…」としみじみと嬉しく思いました。

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その五雲会終了後に、「七葉会」のメンバー7人がこちらも数ヶ月ぶりに顔を揃えて会合を開きました。

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8月に予定していた「七葉会10周年記念大会」は、残念ながら来年に延期することになりました。

7人が主宰する各会とも、稽古がほとんど出来ない状況が未だ続いているのです。

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しかし、七葉会として今年全く何もせずに終わってしまって良いのか、何か出来ることは無いだろうか…と7人で相談しました。

その結果、

「七葉会10周年記念公演」

という形で、我々7人の若手楽師を中心とした玄人による能楽公演を開催することにいたしました。

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日時は8月9日(日)13時半開演予定。

場所は宝生能楽堂です。

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夜までかけて話し合い、番組もほぼ決まりました。

仕舞、連吟、舞囃子、半能と盛り沢山の番組です。

早急にチラシなどを作成いたしますので、番組詳細はまた追ってお知らせいたします。

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七葉会のそれぞれの会員の皆様と、世の中の人々に、少しでも元気をお届け出来るような熱い舞台にしたい。

その意気込みで7人とも張り切って準備を進めて参ります。

どうか続報を今少しお待ちくださいませ。

「コロナ後」を考える月に

6月に入りました。

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緊急事態宣言は解除されたとは言え、東京ではまだ連日2桁の感染者が出ており、決して気を緩める事が出来ない状況です。

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しかしながら、そろそろ先の事も考えていくべき時期だと思います。

先ずは延期している「第7回澤風会郁雲会大会」の開催日程を発表させていただきます。

9月21日(敬老の日)

に渋谷のセルリアン能楽堂にて、今度こそは何としても開催する所存です。

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そして澤風会の稽古は、今月いっぱいは様子を見て、7月より再開しようと考えております。

いきなりコロナ以前の頻度と密度には戻さずに、時間と空間に余裕を持って、”三密”を避けて稽古できるように心がけたいと思っております。

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そして通常稽古と並行して「遠隔稽古」も週末を中心に続けて参ります。

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6月は、「コロナ後」のことを色々と考える月にしたいと思います。

遠く離れたご縁でも…

遠隔稽古を始めてから、これまでにもう40人以上の方々と画面を通じてお会いして稽古することが出来ました。

そして昨日一昨日の遠隔稽古では思いがけず嬉しいことがあったのです。

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松本の会員さんとSkypeで遠隔稽古した時のこと。

安曇野に住むその会員さんが、最近安曇野のマーケットで別の澤風会会員さんと偶然出会ったそうです。

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その出会った会員さんは松本澤風会草創期から稽古されているベテランで、能のシテもなさったことがあります。

転居されて松本から少し遠くなり、暫く稽古はお休みされていました。

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そして安曇野の会員さんより私の遠隔稽古のことを聞いたそのベテラン会員さんが、昨日早速私に遠隔稽古希望のメールをくださったのです。

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話はとんとん拍子に進んで、次の週末に久々に稽古できることになりました。

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住む場所を選ばずに稽古できる遠隔稽古は、遠く離れた縁を逆に繋いでくれることもあるのですね。嬉しい驚きでした。

この遠隔稽古は、コロナウイルス禍が収束した後もずっと続けていきたいと思っております。

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暫く稽古していない、遠くに住む京大宝生会OBOGさんなども、もし遠隔稽古に興味があればいつでも問い合わせメールをもらえたらと思います。