先日の「第15回澤風会大会」では能「鶴亀」と能「小督」の2番の能が出ました。
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そのうちの能「鶴亀」のシテを勤めた京大若手OBは、今回が初シテでした。
彼は卒業して10年にもならない本当の若手なのですが、この度”教授嘱託免状”をとる事になり、その披露の意味の演能でもあったのです。
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数ある能の中で何故「鶴亀」を選んだのか。
実は彼は、京大宝生会に入部してすぐの”初舞台”が大江能楽堂で開催された「京宝連」での素謡「鶴亀」でした。
更に彼は同じく大江能楽堂での「澤風会」における初舞台も仕舞「鶴亀」だったそうなのです。
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そして今回は能の初シテとして、やはり大江能楽堂で能「鶴亀」を舞う事になったわけです。
初舞台から10年と少しの間、たゆまずに稽古を続けた成果のひとつの集大成としての能「鶴亀」を、彼は堂々と演じてくれました。
若いながら風格のある重厚な皇帝でした。
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またこの能「鶴亀」には曲名にもある”鶴”と”亀”が登場します。
子方が演じる事が多いこの鶴と亀ですが、今回は京大宝生会を今年卒業する4回生の2人に舞ってもらう事にしました。
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この1年はコロナ禍の影響で、学生自演会が軒並み中止や延期になってしまいました。
京大宝生会の最高学年として、2人は本来ならば難しい曲に挑戦したり、沢山の地頭を経験したり出来た筈なのに、結果的に無観客の「冬の関西宝連」だけしか舞台に立てなかったのです。
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現役時代の最後にせめて、お客様の前で華やかな舞台に立ってほしいと鶴亀のオファーを出したところ、2人は快諾してくれました。
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実は京大宝生会の2人にお願いしたのは別の意味もありました。
京大能楽部BOX舞台には能「鶴亀」で使うのと同じサイズの「一畳台」があり、四隅の柱になる棒も完備されています。
そこで稽古すれば、能面をかけての「相舞」も合わせやすいと考えたのです。
ところが…
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今年に入って早々に発令された緊急事態宣言により、京大能楽部BOX舞台が使用禁止になってしまったのです。。
コロナウイルスはとことん意地が悪いと、やり場の無い憤りを感じてしまいました。
しかし鶴亀の2人はその逆境にもめげずに頑張ってくれました。
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自分で公民館などを借りて自主練をして、卒論や卒業研究の合間に澤風会稽古にも頻繁に通ってくれたのです。
大江能楽堂での申合、また当日朝の最後の合わせを経て、相舞のシンクロ率は急速に上がっていきました。
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そして本番では、鶴と亀の相舞もその後の座る場所も、すべて完璧な舞台を見せてくれました。
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シテにとっては初舞台から今までの10年あまりの稽古の集大成でもあり、また鶴と亀の4年間の現役生活の集大成でもあった今回の能「鶴亀」。
この能もまた記憶に残る素晴らしい舞台になりました。