大山崎の梅、桜、松

今日は緊急事態宣言が解けてから初めての大山崎稽古でした。

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謡の稽古は今回から新しい曲「鉢木」です。

人数分の謡本を携えて、宝寺に向かうあの天王山の急坂を登っていきました。

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すると坂の途中でちょっと驚く事があったのです。

坂の路面に「大山崎町」と書かれたマンホールがありました。

そのデザインが「鶯、桜、松」だったのです。

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鶯と言えば「梅に鶯」。梅の花を思い起こさせます。

そして今日これから稽古を始めようという「鉢木」という曲では、シテが「梅、桜、松」の鉢の木を薪にして燃やすシーンがハイライトになっているのです。

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何かとても縁起がいい気がして、良い気分で稽古に向かいました。

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それにしても、大山崎町と「梅、桜、松」は何か関係があるのだろうか…。まさか群馬県の佐野と姉妹都市とか…。

稽古を終えて坂を下りながら、何か手掛かりは無いかと探してみました。

すると…

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ありました!

観光用の大きな地図の看板に、「町の花・鳥・木」として「さくら、うぐいす、赤松」と書いてあったのです。

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なんと、ではマンホールの「鶯(梅)、桜、松」のデザインは、鉢木とは全く関係ない偶然の組み合わせだったのですね。

しかし偶然にしては出来過ぎな気がします。

やはり何か縁起がいい気がして、更に良い気分で次の亀岡稽古に向かったのでした。

8年後には…

先日の松本稽古でのこと。

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新宿を昼過ぎ発の特急あずさで松本に到着すると、まだまだ夏の暑さが残っていました。

松本城近くにある大手公民館に到着すると…

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「こんにちは〜!」

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お母さんと男の子の親子が待っていてくれました。

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お母さん「この子は今日ちょうど10歳の誕生日なんです」

おお!それはおめでとうございます!

ちなみに何歳から稽古を始めたのでしたっけ?

お母さん「4歳からです」

なんと、ではもう稽古歴6年目になるのですね。

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男の子は今「経政キリ」を稽古しています。

扇を2本使う難しい仕舞なのですが、凛々しい若武者の表情で謡も型も大人顔負けの出来映えです。

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しかし稽古が終わると、誕生日プレゼントにもらったという超巨大な雷鳥のぬいぐるみ(彼とほとんど同じサイズ!)と戯れて、すっかり少年の表情に戻っていました。

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鳥や虫、植物や石など自然全般が大好きな彼は、最近京大で植物を研究する大学院生と話す機会があって京大に興味を持ったそうです。

私「じゃあ京大に入って宝生会に入部してよ!」

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男の子は「え〜京大?」と言って笑うだけでしたが、8年後には京大宝生会に期待の新人が入部してくれるかもしれません。

その日を夢見て、これからも頑張って稽古を続けていきたいと思います。

東西合同学生zoom稽古

昨日の日曜日は江古田稽古場にて終日リモート稽古でした。

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SkypeやLINEを使って、松本、京都、東京の澤風会会員さん達と1人ずつ謡の稽古をしていきます。

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日が暮れて最後のリモート稽古になりました。

zoomのリンク先にアクセスすると、それまでの個人稽古と違って何やら賑やかな雰囲気です。

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zoom会議室には、8人の大学生が集まってくれていました。

京大宝生会の2回生から大学院生、また日本女子大、國學院大の学生達です。

普段はこれに自治医科大も加えて、東西4大学が合同で「夜討曽我」の謡の稽古をしているのです。

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当初は8月に2回だけ、夏休み特別企画として東西合同zoom稽古をするつもりでした。

しかしやってみると意外にスムーズに稽古できて、それぞれの学校にとって良い刺激になっていると感じたのです。

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そこで9月に入っても東西合同稽古を継続して、昨日で4回目になりました。

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未だに大学ではオンライン授業が主で、友達と皆で賑やかに過ごす事もできない大学生達です。

せめてこのzoom稽古の中で、全国に同じ宝生流を稽古している仲間がいる事を実感してもらえたらと思います。

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そしてそう遠くない未来に、彼らが現実の舞台で思う存分に競演してほしいと願っているのです。

新人アナウンサーは…

昨日は水道橋宝生能楽堂にて「月浪能特別公演」が開催されました。

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宝生能楽堂の定例公演では、開演前などにアナウンスが流れます。

携帯電話の電源をお切りいただくことや、様々なコロナウイルス対策など重要な内容のアナウンスです。

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そして昨日、そのアナウンスの声が初めて聴く人のものになっていました。

年度がわりで人も入れ替わったのかな…

と思いながら聴いていたのですが、途中で

「何か聴いたことのある声だな…」

と気が付いたのです。

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放送マイクのある事務所に行ってみると…

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やはりマイクの前に立っていたのは良く知っている顔でした。

幼稚園の時からずっと私が稽古をつけている、大学生の女の子だったのです。

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彼女がまだ幼稚園の時に、この宝生能楽堂で開講された謡曲仕舞教室に自分の意思で(!)入門してきました。

それ以来小学生の頃までは、毎回必ず着物を着て(!)稽古に通ってくれました。

その後も江古田稽古場で中学、高校と稽古を続けて、昨年大学に入学してからは「関東宝生流学生能楽連盟」の一員としても活躍してくれているのです。

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その大学生が新年度からの宝生能楽堂定例公演手伝いのアルバイトに入ることになった、というのは前もって聞いていました。

しかし、バイト初日にアナウンスを任されるとは…

しかも長い原稿を淀みなくスラスラと読んでいて驚きました。

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幼稚園から慣れ親しんだ宝生能楽堂で、おそらく能楽公演も少しは観ることができるであろうこのアルバイトは、正に彼女のために打って付けだと思います。

これから事務所の皆さんや先輩に色々と教わって、長く続けてもらいたいと願っています。

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私にとっては、定例公演のアナウンスを聴くのも楽しみのひとつになりました。

集大成の能「鶴亀」

先日の「第15回澤風会大会」では能「鶴亀」と能「小督」の2番の能が出ました。

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そのうちの能「鶴亀」のシテを勤めた京大若手OBは、今回が初シテでした。

彼は卒業して10年にもならない本当の若手なのですが、この度”教授嘱託免状”をとる事になり、その披露の意味の演能でもあったのです。

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数ある能の中で何故「鶴亀」を選んだのか。

実は彼は、京大宝生会に入部してすぐの”初舞台”が大江能楽堂で開催された「京宝連」での素謡「鶴亀」でした。

更に彼は同じく大江能楽堂での「澤風会」における初舞台も仕舞「鶴亀」だったそうなのです。

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そして今回は能の初シテとして、やはり大江能楽堂で能「鶴亀」を舞う事になったわけです。

初舞台から10年と少しの間、たゆまずに稽古を続けた成果のひとつの集大成としての能「鶴亀」を、彼は堂々と演じてくれました。

若いながら風格のある重厚な皇帝でした。

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またこの能「鶴亀」には曲名にもある”鶴”と”亀”が登場します。

子方が演じる事が多いこの鶴と亀ですが、今回は京大宝生会を今年卒業する4回生の2人に舞ってもらう事にしました。

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この1年はコロナ禍の影響で、学生自演会が軒並み中止や延期になってしまいました。

京大宝生会の最高学年として、2人は本来ならば難しい曲に挑戦したり、沢山の地頭を経験したり出来た筈なのに、結果的に無観客の「冬の関西宝連」だけしか舞台に立てなかったのです。

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現役時代の最後にせめて、お客様の前で華やかな舞台に立ってほしいと鶴亀のオファーを出したところ、2人は快諾してくれました。

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実は京大宝生会の2人にお願いしたのは別の意味もありました。

京大能楽部BOX舞台には能「鶴亀」で使うのと同じサイズの「一畳台」があり、四隅の柱になる棒も完備されています。

そこで稽古すれば、能面をかけての「相舞」も合わせやすいと考えたのです。

ところが…

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今年に入って早々に発令された緊急事態宣言により、京大能楽部BOX舞台が使用禁止になってしまったのです。。

コロナウイルスはとことん意地が悪いと、やり場の無い憤りを感じてしまいました。

しかし鶴亀の2人はその逆境にもめげずに頑張ってくれました。

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自分で公民館などを借りて自主練をして、卒論や卒業研究の合間に澤風会稽古にも頻繁に通ってくれたのです。

大江能楽堂での申合、また当日朝の最後の合わせを経て、相舞のシンクロ率は急速に上がっていきました。

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そして本番では、鶴と亀の相舞もその後の座る場所も、すべて完璧な舞台を見せてくれました。

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シテにとっては初舞台から今までの10年あまりの稽古の集大成でもあり、また鶴と亀の4年間の現役生活の集大成でもあった今回の能「鶴亀」。

この能もまた記憶に残る素晴らしい舞台になりました。

第15回澤風会大会が無事終了いたしました

今から8日前のことになりますが、3月7日日曜日に京都大江能楽堂にて「第15回澤風会大会」を開催させていただきました。

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元々は昨年9月に開催予定でしたが、コロナ禍の影響により半年延期しての開催でした。

今回も様々な感染防止対策を施しましたが、開催から1週間以上が平穏に過ぎてひとまず安堵しております。

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このような大変な時期にもかかわらず、能「鶴亀」と能「小督」という2番の能、また舞囃子、仕舞、素謡に独調という盛り沢山の番組になりました。

能「鶴亀」シテと能「小督」前シテの京大宝生会若手OBはこの度めでたく嘱託免状をいただくことになり、その嘱託披露のための能でもありました。

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今回は大々的に宣伝はいたしませんでしたが、ご家族やお知り合いの方々にたくさんいらしていただき、見所は程よく華やいだ雰囲気でした。

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ご出演いただきましたシテ方と、囃子方、ワキ方、狂言方の三役の先生方、また応援にいらしてくださった見所の皆様、そして毎回感染防止に心を配りながら稽古に励んだ会員の方々に感謝の気持ちは尽きません。

誠にありがとうございました。

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舞台のいつもの緊張感に加えて、コロナ対策の緊迫感もあり、一生忘れられない舞台となりました。

舞台上ではそれぞれが稽古の成果を遺憾なく発揮して、今回もまた熱い舞台でした。

詳しい模様は何度かに分けて書かせていただきたいと思います。

いよいよ明日から

お正月三が日も今日で終わりです。

正月休みが早くも終わってしまいます。。

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年末年始の休み期間は当然ながら遠出はせずに、もっぱら部屋の収納スペースを増やす作業に没頭しておりました。

新しい本棚とスチールラックを南千住のホームセンターで購入して、自力で運び、組み立てて、積んでいた本や溜まった書類、番組、謡本などを収納すると、部屋が見違えるほど広くなりました。

型付け類も分類して収納し、見やすくなりました。

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そして明日からいよいよ仕事始めです。

と言っても、「遠隔稽古」での仕事始めになります。このような年はもちろん初めてのことです。

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休みを人とほとんど会わずに静かに過ごして、仕事を始めてもスマホ画面を通じての遠隔稽古、というのはなんだか不思議な感じがします。

しかし、今年はそのような生活に一層慣れていかなければならないと思います。

遠隔稽古を通じての久々の再会、というようなこともきっとあることでしょう。

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新しい年の、新しい生活スタイルでの仕事始め。

片付いてスッキリした部屋で、気持ちも新たにまた稽古に舞台に頑張って参りたいと思います。

挑戦の関宝連

少し前になりますが、12月12日土曜日に水道橋宝生能楽堂にて「関東宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されました。

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例年は年2回開催のところ、6月が中止になったため今年唯一の関宝連になりました。

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私は関宝連においては、日本女子大2人、自治医科大6人、そして江古田稽古場でずっと稽古してきて今年國學院大に入学した学生1人を教えています。

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ところが残念ながら自治医科大は、感染拡大防止で学外に出られないために今回参加が叶いませんでした。

つまり、京大宝生会出身の自治医科大の青年が来られなくなった訳で、「地頭がいない」という危機的状況になってしまったのです。

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しかし日本女子大の2人と國學院の1人は非常な頑張りを見せてくれました。

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素謡「竹生島」では日本女子大がシテとツレを、國學院がワキを勤めました。

そして通常よりもかなり距離を取って3人が横一列に並びます。

常座、正中、ワキ座、という感じの距離感でした。

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距離が離れると謡を合わせるのが難しくなってしまいますが、3人の地謡は声が良く揃っていました。

更に、回数を重ねたzoom謡稽古によって個々の声量が格段に大きくなっていて嬉しい驚きでした。

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この3人はそれぞれ「紅葉狩」「竹生島」「玉葛」の仕舞も舞って、こちらも少ない稽古回数ながら急成長のあとを見せてくれました。

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そして地謡も。

國學院大4年生の舞囃子「船弁慶」では、江古田で稽古してきた國學院1年生が初めての”舞囃子地謡”に挑戦したのです。

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その船弁慶の地謡は、4年生1人と1年生1人の合計2人だけです。

しかも1年生は初舞囃子地謡。これはかなり困難なチャレンジです。

本番ギリギリまで、國學院宝生会指導者の佐野玄宜さんと一緒に稽古舞台で稽古をしました。

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舞囃子船弁慶の本番は、私は能「加茂」の装束付けをしていて見られませんでしたが、佐野玄宜さんによれば無事終わったという事で安堵しました。

玄宜さん「終わって帰ってきたら、シテも地謡も座り込んで放心状態でしたよ(笑)」

それはそうでしょう…。

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このように今回の関宝連は、それぞれの学生が高いハードルに挑んでそれを何とかクリアするという、非常に貴重な経験を積む事が出来ました。

コロナの影響を逆手にとって、皆が一気に大きく成長してくれたのです。

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そして今回参加が叶わなかった自治医科大宝生会も、勿論zoom謡稽古は続けています。

今年は新しく2人部員が増えて、合計6人になったとのこと。

その自治医科大が戻ってきたら、次回以降の関宝連ではより強力な布陣で目を見張るような舞台をお見せ出来ると思います。

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一方で関西では京大宝生会が、もがきながらも懸命に活動を続けています。

全国の大学の中でもおそらく最も厳しいサークル活動制限が敷かれている中での京大宝生会の不屈の苦闘の様子は、また数日後に書きたいと思います。

2020年最後の松本稽古

前回のブログから1か月あいてしまいました。

今日は今年最後の松本稽古でした。

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松本稽古は去年までは月2回でしたが、現在は月1回のペースです。

1か月来ないと、季節はすっかり変わって冬になっていました。

昨日から今朝にかけての雪と冷え込みで、周りの山々は白く凍りついたように見えます。

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天気予報では、夕方に稽古開始する頃の気温が1℃、夜には氷点下になるようでした。

実際、19時半頃に稽古を終えて最終電車に乗るために松本駅に向かうと、駅前の気温計の表示は…

0℃でした。

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この寒さで窓を開けるのはキツいのですが、感染防止を優先して2箇所の窓を開けて稽古しました。

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第三波が猛威をふるっている状況ではありますが、今日は合計7人が入れ替わりで稽古に来てくれて、今年最多人数になりました。

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またこんな時期にもかかわらず、新しい方が見学に来てくださったのです。

能楽の身体や顔の動きを研究している研究者の方だそうで、今後色々興味深いお話がきけそうです。

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そして更に驚くことに、たまたま稽古場にいた会員さんご夫婦の息子さんと、その方が同級生だということがわかったのです。

松本はこんな風に不思議に縁が繋がることが多い稽古場です。

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松本稽古場を開いて10年目の今年は大変な1年になりましたが、最後の稽古で沢山の方々とお会いすることが出来ました。

またこの先に繋がる出会いもあり、なんとなく温かい気持ちになって稽古場の大手公民館を後にしたのでした。

1件のコメント

あれから1年

最近では月に1回松本稽古に行っております。

今日も昼過ぎの特急あずさで松本稽古に向かいました。

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小春日和の暖かな日で、夕方到着した松本駅前の気温計でも20℃ありました。

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松本市街はちょうど紅葉の盛りを迎えていました。

稽古場近くの「四柱神社」を通りかかると…

夕陽に照らされた紅葉が目に入りました。

陽が残っているうちにと境内に入ってみます。

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今年はお花見も紅葉狩も1人ですが、それでもこうやって綺麗な紅葉が見られるのは幸せなことだと思いました。

たっぷりと目の保養をして稽古場へ。

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会員さん達とお話ししていると、実はちょうど1年前に松本澤風会を開催したのだという話になりました。

「凡蔵」という和食屋さんの2階の大広間を使っての盛り沢山な舞台、そのまま凡蔵で大宴会。

そして翌日は大勢で安曇野の山中にある会員さんの素敵な御宅にお邪魔して、雄大な北アルプスを眺めながら豊かで楽しい時間を過ごしたのでした。

明日であれから1年になるというのです。

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あの頃は現在の困難な状況など欠片も想像できませんでした。

逆に、1年後にはこの苦境が夢だったように世の中が回復していることを信じて、また松本で盛大に舞台が出来るように地道に稽古を続けていこうと思います。