先生と生徒の共演「敦盛」

今回の澤風会郁雲会では3番の能が演じられました。

そのうち能「敦盛」のエピソードを書きたいと思います。

能「敦盛」で初シテを勤められた会員さんは、自由が丘でモンテッソーリ教育の幼児教室をひらいておられます。

その教室の数名の生徒さんと卒業生が、澤風会で能の稽古もしてくれているのです。

今回の選曲にあたって私は、せっかくなので教室の卒業生達と一緒に舞台に立てるような曲が良いと思い、「敦盛」を選んだのです。

ツレ草刈男の候補者3人は自由が丘幼児教室の卒業生で、それぞれ3〜4年ほど澤風会で稽古しています。

シテもツレも問題無く敦盛を勤めてくれると思いましたが、稽古を始めてみると中々すんなりとはいかない事もありました。

シテの会員さんはただでさえ教室がお忙しい上に、コロナやインフルエンザの影響で稽古に来れない事も度々でした。

ツレ3人は中高生で、学校の試験が本当に引っ切り無しにあり、稽古日が試験期間にかかると稽古お休みになってしまうのです。

シテツレが全員揃っての稽古は結局ほんの数回しか出来ませんでした。

それでも感染症と試験の合間を縫って何とか稽古を重ねて、2月末に宝生能楽堂で4人揃っての仕上げの稽古もしました。

申合の日の午前中に学年末試験が終わるというツレもいて、本当にギリギリのスケジュールでした。

その中でも結束力を高めようと、シテツレ4人に須磨寺の「敦盛御守」を渡したりしました。

私も含めて当日は皆「敦盛御守」を懐に忍ばせて本番を迎えたのです。

色々な苦労を経ての「敦盛」本番。

冒頭にシテツレが舞台に立ち並んで、

「草刈り笛の声添えて〜」

と大きな声で謡い始めた時には、後見座でジーンと感動してしまいました。

ツレの舞台は前半で無事終わり、後半はシテだけの舞台になります。

長絹の袖を返したり、太刀を抜いて斬りかかったり、色々難しい型もありましたが、シテは若武者らしい敦盛を溌剌と演じてくださいました。

シテもツレも、まだまだ伸び盛りの人達なので、今回の経験を今後の舞台に活かしてより高みを目指してもらいたいと願っております。

二十周年記念澤風会大会・郁雲会大会無事終了いたしました。

おかげさまで「二十周年記念澤風会大会・郁雲会大会」は昨日無事終了いたしました。

御出演いただきました皆様、見所で応援してくださった皆様、裏方で色々とお手伝いしてただいた方々に心より御礼申し上げます。

舞台は私の期待以上の熱気あふれるものでした。

これまで、番組に書いてありながら当日出られない方はいらっしゃいました。

しかし今回は番組に名前がある人は全員が無事に参加できて、逆に番組に載っていないけれど当日地謡に参加という人が何人もいらしたのです。

そんな皆様の熱量に今回も背中を押されて、2日間の会を走り抜ける事ができました。

特筆すべき事は無数にあるので、次回以降に思い出したものから書いて参りたいと思います。

最後の1ミリ

少し前のサッカーワールドカップで、

「三笘の1ミリ」

という言葉が話題になりました。

日本代表の三笘選手の最後の1ミリまで諦めない姿勢が、強豪スペインからの大金星を生んだのです。

能は勝敗がつくものではありませんが、やはり舞台に向けて最後まで前向きに稽古する姿勢は共通していると思います。

今日は澤風会郁雲会の前日ですが、江古田で夜の20時半までガッツリと稽古させていただきました。

特に最後は京大若手OBOG達で、直した分だけすぐに良くなるので、非常に充実した稽古になりました。

おそらく今日稽古された皆さんは、それが「最後の1ミリ」となって、舞台上で効果を発揮してくれると思います。

いよいよ明日明後日が本番です。

「二十周年記念澤風会大会・郁雲会大会」

宝生能楽堂にて明日9日11時半始、明後日10日は10時始です。

皆様どうかよろしくお願いいたします。

謎の”コンコン!”

色々な土地の宿に泊まる事が多いので、やはり色々な経験をします。

今朝は少し不思議な事がありました。

昨夜は松本稽古を夜に終えて、最終の特急しなので名古屋まで移動して泊まりました。

先日ブログで書いた時と同じパターンです。

宿も先日と同じ所で、新幹線改札口から程近い格安ビジネスホテルです。

フロントから部屋まで、昭和の雰囲気が色濃く漂う中々に渋い宿です。

食事は車内で済ませたので、部屋に入るとさっさとシャワーを浴びてベッドに入りました。

名古屋まで移動しておけば、明朝は比較的ゆっくり寝ていられるなと、ホッとしてすぐに眠りについたのです。

明け方頃にふと目が覚めました。

外は薄明るく、時計を見ると6時半頃でした。

なんで起きたのだろうか…と半分寝ている頭で考えていると、

“コンコンコン!”

と何かを打つ音が聴こえて来たのです。

隣ではないけれど、割と近くの部屋からと思われます。

表現が難しいのですが、金槌で釘を打つ程の煩さではなく、木槌でテーブルを軽く叩いているくらいの音量です。

最初は、「こんな早朝に何か修理でもしているのかな…?」

と不審に思いながらも、再び眠りに入っていこうとしました。

ところが、1〜2分くらい経つとまた、

“コンコンコン!コンコンコンコン!”

と来て起こされてしまうのです。

その”音”は、それからずっと1〜2分おきに聴こえて来ました。

ある時は”コン!”と短く、その次には”コンコンコンコンコンコン!”と長めに鳴ったりします。

一旦静かになって、うとうとし始めるタイミングを見計らうようにまた突然”コンコン”と来るので、完全に安眠を妨害されてしまいました。

最終的に私は、ティッシュペーパーで耳栓をして、テレビをつけて音を流しながら何とか眠ろうとしました。

しかしあの”コンコン!”がまたいつ鳴り出すかと気になって、結局その後は寝られずに寝不足気味で京都稽古に向かったのでした。

私は霊感はほとんどないし、今回もその音以外には全く異常はありませんでした。

時間も夜中ではなく明るくなってからの事なので、その時は全然怖いとは感じなかったのですが、後から考えると不可思議な音でした。

これからは、鞄に耳栓を忍ばせておいた方が良いだろうか…と思いつつ、京都稽古から帰る新幹線で今からゆっくり寝て睡眠時間を取り戻すつもりです。

能「敦盛」の女性地謡

来たる3月9日(土)10日(日)の澤風会郁雲会には、3番の能が出ます。

能「野宮」、「敦盛」、「砧」です。

このうち「敦盛」は女性のみの地謡になります。

後列3人は女性能楽師、前列3人が京大宝生会の若手OGです。

前列の1人は京都で働いており、もう1人は京大大学院生、あと1人は東京で働いているという、全くバラバラな経歴の3人です。

それぞれの空いている日程と場所で、やはりバラバラに敦盛能地を稽古する事になります。

大学院生は1月の京都稽古で。

京都で働いている人は、2月の若手OBOG合宿で稽古しました。

そして昨日は神保町で東京のOGが初めて敦盛能地の稽古をしたのです。

来週申合なのに大丈夫かと思われそうですが、実は1月の大学院生の稽古の音源をスマホ経由で共有してもらっていたので、初めての稽古で既に謡えるようになっていました。

それぞれ仕事や研究で大忙しな3人が、なんとかやり繰りして敦盛能地に挑戦してくれます。

大学院生OGさんの稽古をしている時の事。

OGさん「すみません、扇の持ち方はどうすればいいのですか…?」

今回が初めての能地だそうで、この機会に色々な能地の作法なども経験してもらって、また機会があればどんどん能地に入ってもらいたいと思います。

能「敦盛」は、シテやツレはもちろんの事、女性地謡にも是非ご注目くださいませ。

田町組の最多人数記録!

今日は神保町稽古でした。

元の田町稽古場が移動した稽古場です。

田町時代からの5人の会員さんと、最近来てくれるようになった京大若手OBOGの2人の合計7人のレギュラーメンバーが、今日は久しぶりに全員勢揃いしました。

これは嬉しい事です。

そして今日はさらに、山形から来た若手OBと、京都から関東に帰省している若手OGも加わって、なんと総勢9人での謡稽古になりました。

これは田町組の歴史の中でも最多人数です。

謡は澤風会郁雲会で出す「頼政」でした。

最初の地謡のところに来て、9人が謡い出すと私は思わずハッと驚きました。

その地謡の迫力が、もの凄かったのです。

全員が少しも躊躇わずに大声で謡って、しかもそれが実に良く揃っていました。

初めて一緒に謡う人達でも、すぐに声を揃えて謡えるのが宝生流の強みではありますが、それにしても今日の「頼政」は素晴らしい謡でした。

山形の若手OBさんには本番も地謡に入ってもらう事にしましたので、本番もかなりの迫力の謡になると思います。

田町組の「頼政」もまた、澤風会郁雲会の楽しみな番組のひとつになりました。

イグルーの達人

今日は冷たい北風が強く吹く中、松本稽古に行って参りました。

松本もやはり寒く、気温も前回より大幅に下がりました。

松本駅から見える北アルプスの山々も、半ば雪雲に覆われていました。

きっと山の上は非常に厳しい寒さなのでしょう。

そして稽古場には、久しぶりに「イグルー作り日本一」の方がいらしてくださいました。

前回まではイグルー講習会の講師でお休みだったのです。

稽古が終わって晩御飯をご一緒しながら、イグルーのお話を色々伺ってみました。

「○○岳のリフトを降りて3分くらいの所に、イグルー作りに最適な場所があるのですよ」

「先ず私が3〜40分で見本のイグルーを作って、それから参加者の皆さんに2〜3時間かけてイグルー作りをしてもらいます」

なるほど、やはり初心者だと2〜3時間かかるのですね。

イグルーに向いている雪は3000m近くの高所にあるそうです。それだけで私には未知の世界です。

先程の松本駅から見えた北アルプス山上のような厳しい環境でも、イグルーの中では快適に過ごせるそうです。

イグルーの世界はやはりとても魅力的です。

「この間は、1人用の小さなイグルーを12人で12個作りました。それを全部トンネルで繋げて、自由に行き来できるようにしたのです」

おお、なんだか子供の頃の”秘密基地あそひ”みたいでワクワクします。

イグルー講習会には何人くらいの受講者が来られるのか聞いてみると、

「多くて30人ほどですかね」

では私もいつかそこに参加したいものです。と言うと、

「いや先生ならマンツーマンで教えますよ」

…何か非常に厳しいイグルー講習会になりそうですが、機会があれば2〜3時間かけて作ったイグルーの中で寛いでみたいと思っています。

晩御飯を終えて松本駅前の宿に戻る途中、駅の気温計は氷点下でした。

イグルーの恋しくなる寒さです…

能楽堂稽古で確認する事

来たる3月9日(土)10日(日)、水道橋宝生能楽堂にて

「20周年記念澤風会大会・郁雲会大会」

を開催させていただきます。

9日に能「野宮」、10日に能「敦盛」能「砧」

が演じられ、他にも舞囃子、居囃子、一調、仕舞、素謡、独吟などがたくさん出る予定です。

今日は能「砧」と能「野宮」の稽古を宝生能楽堂でいたしました。

どちらの曲もシテはベテランの会員さんです。

しかしやはり能楽堂での稽古だと普段の江古田稽古場とは色々と勝手が違います。

稽古場と能楽堂で最も異なる要素は、

「橋掛」

だと私は思います。

私が稽古している場所で「橋掛」が真っ直ぐに能楽堂と同じくらいの長さにとれる所は1箇所も無く、普段は四角い舞台をぐるぐる回って橋掛の替わりにしているのです。

なので、今日のような能楽堂稽古では例えば「幕内から橋掛の”三の松”まで行くには何歩くらいかかるか」

と言った江古田では出来ない要素を確認するのが非常に大事です。

他にも、

「宝生能楽堂本舞台の中心線の目印はどこか」

「常座に立った時に前に何が見えるか」

など、型や謡以外にも確認する点は多数あるのです。

今日は限られた時間でとても有効な稽古ができました。

あとは来週の「申合」でまた色々と確認して微調整して、本番に備えたいと思います。

車内ごはんの裏技

昨夜は松本稽古を終えてから最終20時31分発の特急しなのに乗って名古屋まで行って泊まりました。

今朝の大山崎稽古に間に合うためには名古屋まで行っておく必要があったのです。

名古屋に着いてから晩御飯だととても遅くなるので、特急の中で晩御飯を済ませようと思いました。

松本駅近くのバスターミナルの地下に大きなスーパーマーケットがあり、昨夜のような時にはそこで食料を買い込む事にしています。

20時を過ぎてお惣菜はとても安くなっています。

しかし逆上して無差別に買うと大変な事になるので、私なりの一応の基準で素早く買い物をしていきます。

先ずは栄養バランスです。揚げ物は大抵安いのですが、そこは控え目にして野菜物を多めにします。昨日は”エビと青菜の中華炒め”とか。

また地元の物があればひとつは混ぜてみたいです。

昨日だと”鯉の煮付”とか。

そして地味に重要なのが、

「セロテープで蓋が止められている」

という事なのです。

なんの事かと思われるでしょう。

しかし、中央本線のようなカーブが多い路線だと、テーブルに並べたお惣菜類がカーブ毎に左右に振られて、最悪落ちてしまうのです。

なので、蓋からセロテープを慎重に外して輪っかにして、それでお惣菜をテーブルに固定する訳です。

この”技”に気づいてから、特急や新幹線車内の晩御飯が非常に快適になりました。

松本は地酒も非常に美味しいので、昨夜は15分程で素早く吟味したお惣菜を肴に、純米酒の小瓶と共に至福の車内ごはんをいただいたのでした。