猛暑とゲリラ豪雨

今日は午前中から京都丹波橋にて紫明荘組稽古、夕方に京大に移動して夜まで稽古でした。

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紫明荘組稽古は今日は10人で、能「羽衣」を始め舞囃子、仕舞、独吟、素謡など、9月21日開催の「澤風会大会」に向けた稽古をいたしました。

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京大宝生会は、大学院試や帰省でお休みの人をのぞいたやはり10人ほどが来てくれました。

それぞれ仕舞を稽古した後に、能「竹生島」の地謡の稽古などをしました。

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特別な出来事が無くて、淡々と真面目に稽古して終わる1日もあります。

今日はそんな日だったのですが、特筆することがあるとしたら「暑さ」と「ゲリラ豪雨」でしょうか。

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丹波橋から京大までは、通常ならば京阪電車一本で「神宮丸太町」で下車して、歩いて10分で到着します。

ところが今日の京都は最高気温39℃。

京阪電車を待つホームでの僅か3分ほどで、あまりの暑さに心身ともに疲弊してしまいました。。

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結局電車で終点の「出町柳」まで行き、そこから市バスで京大BOX近くまで戻るというやや贅沢な方法をとりました。

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そしてBOX舞台で稽古を始めて終盤に差し掛かった頃、今度はスマホに「京都市に大雨警報」の緊急速報が入りました。

BOXは地下なので外の様子がわからないのですが、雨雲レーダーで見ると確かに強い雨の赤い表示がちょうど左京区上空辺りにかかっています。

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最後にやって来た部員は、かわいそうにその雨に降られてしまったようで、カバンがびしょ濡れになっていました。

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この京都の「猛暑」と「にわか雨」は、おそらく9月くらいまでずっと続くのでしょう。

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この先ひと月ほどは、体調管理に気をつけて何とか夏を乗り切っていきたいと思います。

ハイツ加茂の屋上から

今日は終日江古田稽古でした。

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先週くらいまでは涼しかった東京も、今日は関西と同じくらいの暑さと湿気です。

江古田駅から稽古場まで歩く数分の間は、まるで遠赤外線で炙られているような気分でした。。

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稽古場に到着して最初に稽古した方は、謡の個人稽古で曲は「加茂」でした。

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前シテの出からの謡は、旧暦水無月頃、つまりちょうど今頃の加茂川辺の情景を謡っています。

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「御手洗の声も涼しき夏陰や 糺の森の梢より 初音ふりゆくほととぎす…」

と稽古していると、一瞬ふと脳内に浮かんできた記憶がありました。

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10年ほど前に出町柳近くの「ハイツ加茂」という5階建マンションの一室を借りていた頃のことです。

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最近ではマンションの屋上は閉鎖されていることが多いですが、ハイツ加茂は広い屋上に自由に上がる事が出来ました。

屋上からは、大文字山、比叡山、京都タワーなどが見渡せたのですが、中でも西側の景色が好きでした。

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西側のすぐ眼下には”高野川”が流れており、その向こうに広大な”糺の森”が一望できたのです。

“糺の森”の木々は非常に樹高が高く、何やらただならぬ力を秘めているようでした。

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そして今日脳内に蘇ったのは、夏の夜に小さなゴザとビールを持って屋上に上がり、星や川や、黒いシルエットになった”糺の森”を眺めながら過ごした記憶だったのです。

その時の風景には、夜なのに何故か先ほどの「御手洗の…」という加茂の謡が似合うような気がしたものです。

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「それにしてもあのビールは美味しかったなあ…」

とぼんやり思ったところで我に返りました。

まだ稽古開始から20分しか経っていません。

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夜まで頑張らねば!とハイツ加茂の屋上の記憶を振り払って、再び稽古に没入していったのでした。

夏の風の中で

今日は京都の「ゲストハウス月と」にて、紫明荘組稽古をいたしました。

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暑い中をいらしていただいた方には申し訳なかったのですが、今日も頑張って一日中エアコンをつけずに稽古しました。

少し身体が慣れると暑さはほとんど感じなくなって、夏の風が心地よく、夕方にはちょっと涼しいくらいでした。

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京大若手OBOGもたくさん来てくれたのですが、そのうちの一人は昼前に来てすぐに舞囃子「絃上」の稽古をすると、

「今日はこれで失礼します」

といそいそと帰り支度を始めました。

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いつもゆっくりしていくのに、珍しいなと思ったところで、

「これから浜松の例の稽古会に初参加してきます」

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おお!そうでした。

彼は浜松で働いているのですが、少し前に

「浜松で流派を超えた能楽愛好家の稽古会があるそうです。声をかけていただいたのですが参加しても良いでしょうか?」

と尋ねられて、勿論大賛成だと答えていたのです。

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彼は熱心なOBで、御囃子もたくさん習っています。

稽古会などには積極的に参加して、少しでも舞台経験を積むと将来のためになると思います。

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他にも、最近「観世流大鼓」の稽古を始めて、今月ついに「初舞台」を無事に終えたOB、OGも来てくれました。

また金沢からはるばる来てくれたOGなど、今日は夕方まで密度の濃い稽古が出来ました。

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浜松の稽古会も無事に終わったでしょうか。

また話を聞くのが楽しみです。

四つ葉のクローバー

昨日の松本稽古でのこと。

小学2年生の男の子とお母さんは、仕舞「加茂」を稽古しています。

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小学2年生ながら既に稽古歴3年になる男の子は、難しい「加茂」の足拍子(謡に合わせてリズムを変えて22連発!)も何度か繰り返すと出来るようになりました。

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「よく出来ました!」

と挨拶して稽古を終えると、彼が何やら手に持って、私に差し出してくれました。

見れば細い茎の先端に小さな葉っぱが何枚かついています。

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私「おお、これは”四つ葉のクローバー!」

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以前に、京都のヤサカタクシーに「四つ葉タクシー」が1300台のうち4台だけあるという話を書きました。

こちらは本物の「四つ葉のクローバー」です。

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調べると、クローバーに「四つ葉」が出現する可能性は大体10000分の1だそうです。

四つ葉タクシーよりもかなり珍しいのですね。

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しかし男の子のお母さんは、

「私達は”四つ葉のクローバー”を見つけるのが得意なんです。よく見つかる原っぱがあるのですよ!」

男の子も、うんうんと頷いています。

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見つけると幸せになるという「四つ葉のクローバー」。

それをよく見つけるということは、きっと幸運がたくさん訪れる親子なのでしょう。

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親子でクローバーを探したり、折り紙に夢中になったり、その一方でドッヂボールで活躍してちょっと足首を痛くしたり…

松本で伸び伸びと成長する男の子の日々は、確かに眩しいような幸せに彩られているようです。

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私もその幸運のご相伴にあずかろうと、貰った「四つ葉のクローバー」を鞄の中の文庫本に大切に挟んだのでした。

理想的な稽古時間

今日は松本稽古でした。

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有り難いことにこの半年で人数が増えた松本稽古場ですが、今日は久しぶりに静かな稽古日になりました。

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13時半から稽古を始めて、夜に終えるまでにいらしたのがベテラン組お1人、新人さんお2人、仕舞のみの親子の合計5人。

ゆっくりと稽古いたしました。

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一方でおとといの紫明荘組稽古などは、同じくらいの時間で15人いらして、人が多過ぎてお1人あたりの稽古時間が短くなってしまったのです。

その日の参加人数ばかりは、稽古を始めてみないとわからないのが悩みどころです。

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私の理想とする稽古時間は、お1人あたり仕舞2〜3回、謡20〜30分なのです。

それが一昨日の紫明荘組稽古では仕舞1〜2回、謡15分前後になってしまいました。

かたや今日の松本稽古ではお1人仕舞3回、謡1時間くらい稽古したことになります。

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紫明荘組で短い稽古だった方は、また今日の松本のような時にゆっくりと稽古させていただきたいと思います。

どうかご容赦くださいませ。

4曲の強者達

今日は午後に江古田で何人かの個人稽古をして、夕方から田町稽古に移動して夜まで稽古しました。

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江古田から田町までの移動中は、普段は文庫本を読んでいます。

しかし今日私は電車に乗るとすかさず”小本入れ”を取り出しました。

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今月の18日〜28日の間に、「忠信」「藤戸」「昭君」「新作能 王昭君」という4番の能の地謡を謡うことになっているのです。

最近ではこの4番の小本を常に持ち歩き、時間があれば見るようにしています。

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短い曲ながら、戦闘シーンの謡で似た言葉が多く出てきて、謡が飛んだり、抜けたり、ループしたりする危険性のある「忠信」。

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強弱、緩急、心持などに繊細な気遣いが求められる、難易度の高い名曲「藤戸」。

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構成がかなり特殊で、また数年に一度しか出ない希曲であり、地謡の量の多い「昭君」。

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一度しか上演されておらず、従って地謡の経験も一回だけの新作能「王昭君」。

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何れ劣らぬ手強い武芸者が4人並んでいるようです。。

これから今月末までは、この強者達4曲を同時に相手にして、厳しい鍛錬を積んで参りたいと思います。

日本女子大初稽古

今日は昼から江古田稽古でした。

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団体稽古を夕方に終えて、個人稽古の時間になってしばらく経った17時頃。

「お邪魔いたします」

と礼儀正しい声が聞こえてきました。

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稽古場に入って来たのは、日本女子大の新入生2人。

これまで日本女子大の和室で母親が稽古していたのですが、今日は初めて私が江古田稽古場で稽古することになったのです。

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記念すべき(?)初稽古は、「羽衣」の謡から始まりました。

ワキ「我三保の松原に上がり…」から、地謡「天人の五衰も目の前に見えてあさましや…」まで。

弱吟の8つの音の説明なども含めて、30分ほど稽古しました。

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2人ともちゃんと声が出ており、しかも素直な声質に聞こえました。

そして稽古が終わると2人仲良く足が痺れて立てないというのも、お約束でした。。

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少し足の痺れを直して、今度は仕舞「羽衣キリ」に取り掛かりました。

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今度は1人ずつのシテ謡です。

自分だけでは謡えません…というので一緒に謡ったのですが、聞いていた限りではちゃんと力の入った、やはり素直で大らかな謡でした。

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型も一緒にやれば完全について来れるレベルまで達していました。

私の経験からすると、この先半年も稽古すれば全宝連の学生達と比べても遜色無いほど上達するのは間違いないと思われます。

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2人は稽古後に母親と、夏休み中の稽古日程なども相談していました。

日本女子大の学風で非常に真面目な彼女達が、この先どのように稽古を重ねていくのか、そしてどんな舞台を見せてくれるのか。

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今日の初稽古を経て、非常に楽しみになって参りました。

合掌マスター…?

全宝連の心地良い興奮が冷めやらぬまま、私は通常の稽古の日々に戻りました。

昨日は松本稽古でした。

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仕舞の稽古でちょっと面白いことがありました。

「敦盛キリ」と「女郎花キリ」と「花筐クルイ」の仕舞を順番に稽古した時のことです。

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これらの仕舞には、ある共通した型がありました。

「合掌」です。

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現代日本人が普通に「合掌」する時は、両手のひらを合わせますが、能の型の「合掌」は少しやり方が異なります。

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①扇を握っている右手を開いて、指を完全に伸ばして揃えます。

②同時に扇をひっくり返して持ちます。(紙と竹の境目付近を親指の付け根で挟み、要の部分が中指の先付近にあたるようにします)

③左手も右手と同様に開きます。

④両手のひらが上を向くようにして持ち上げていき、小指と薬指が触れるように身体の正面で合わせます。

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…というのが大まかな手順なのですが、この中の②の「扇をひっくり返して持つ」という箇所で、3人の方々が全く同じように苦労されていたのです。

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私は稽古の時には「親指と人差し指で扇を固定して持ち、残りの3本の指を扇の内側に握り込み、その3本を伸ばしていくと扇がひっくり返ります」

と教えるようにしています。

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ところがそのやり方でやっているのに、何故か結果的に全然違う持ち方になっており、ご本人も私も思わず笑ってしまう、というのが3回続いた訳です。。

昨日はその後も皆さんで顔をつき合わせて扇を何度もひっくり返している姿を横目で見て、微笑ましく思いながら続きの稽古をしておりました。

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…しかし、実は「合掌」にはさらに難しい段階が存在するのです。

それは、

「能面をかけて合掌する」

というやり方です。

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能面をかけていると、合掌する時の自分の指先が全く見えません。

つまり目をつぶって合掌するのと同じです。

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すると不思議なことに、持ち上げた両手の指先が前後や上下にずれてしまい、なかなかぴったり合ってくれません。。

確実に両手が合うには、経験と集中力が必要なのです。

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…というわけで、上記①〜④の合掌が出来るようになった方は、今度は目を閉じての合掌に挑戦してみてください。

それが出来るようになれば、立派な「合掌マスター」と言えると思います。

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次回の松本稽古で「合掌マスター」にお会いするのを楽しみにしております。

子供達との夏休み

京都紫明荘組の稽古場として、最近毎月「ゲストハウス 月と」さんを使わせていただいております。

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築100年以上の京町家を改装したこのゲストハウスで、夏休みに地域の子供達を主な対象とする「寺子屋」形式のイベントが開催されることになりました。

そしてなんとその「寺子屋」の先生として、私にも参加のオファーが届いたのです。

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寺子屋の先生というと、非常に厳格であり、また何でも知っている博学の人、というのが私のイメージです。

そのイメージとは対照的に何ごともいい加減な私などに、何故白羽の矢を立ててくださったのか実に不思議です。。

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しかし歴史ある京町家で、地元の子供達に能楽を体験してもらうというのは貴重な機会です。

せめて1日だけでも真面目な寺子屋の先生になったつもりで頑張ります。

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今年の夏は、大阪の枚方市と岡山の吉備津神社でも子供向けの仕舞教室があります。

京都の寺子屋と合わせると、ひと夏で60〜70人の子供達に能楽を教えることになるのです。

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子供達の夏休みの記憶に「能を経験して楽しかった!」ということが残るように、各地の教室を精一杯頑張りたいと思います。

急坂登りと仕舞稽古

今日は午前中に大山崎稽古でした。

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JR京都線の踏切を渡った所に天王山の登り口があり、そこから稽古場の「宝積寺」まで続く坂道は、私の知っている中では一番急で長い坂道です。

昔内弟子の頃に、タレントが坂道を全力疾走で登るという深夜番組を何度か見ましたが、宝積寺への急坂は、常人ではとても走っては登れないと思います。

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それほど急な坂道を、大山崎澤宝会のある御高齢の会員さんは、毎回歩いて登って稽古に来てくださいます。

数年前に膝を悪くされたという事なのですが、杖をつきながらも確りとした足取りでゆっくりと登って来られるのです。

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そして、仕舞の稽古も「膝がまだ治らず、座れなくてすみません」と仰りながら、休まず毎回参加されています。

今日も仕舞「女郎花クセ」と「松虫キリ」の2番を、他の3人の会員さんと並んで頑張って舞っておられました。

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この2番のうちのどちらかを、9月21日の澤風会京都大会の舞台で舞っていただきたいと思っています。

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膝への負担を出来るだけ軽くするように、私も気をつけてお稽古して参りますので、どうかこの先もずっと、毎年大江能楽堂での澤風会大会で仕舞を舞っていただきたいと願っております。