本格能楽漫画「シテの花」

10月から週間少年サンデー誌において、

「シテの花」

という漫画が始まりました。

実はこの漫画、宝生和英宗家が監修された本格的な「能楽漫画」なのです。

今週発売の第4話まで、私は全部読ませていただきました。

宝生流の装束や能面が細部まで精密に描かれていて、大変高い画力だと感じました。

しかしそれ以上に感心したことがあります。

能楽堂における「楽屋」、「鏡の間」、「幕際」といった、お客様から見えない場所での能楽師の作法や働き方が忠実に再現されているのです。

例えば能「清経」を終えて幕に入ったシテが、楽屋に戻ってワキ方、囃子方、地謡と挨拶を交わすところ。

またその後に装束を脱ぐ時のシテ若宗家と内弟子(多分)のやり取りなど、実際の空気感に近いので、まるで楽屋にいるような気分になりました。

主人公が師匠の稽古場で初めて謡「鶴亀」の稽古をして、難解な謡本に四苦八苦するシーンなども同様で、京大宝生会の新入生が初めて稽古するのを見ているみたいでハラハラしながら読みました。

作者さんは、能楽にまつわるたくさんの事柄を、とても丁寧に取材されたのだと拝察いたします。

高校生の主人公は、この後に東京芸大に入学したり、卒業すると内弟子になったりするのでしょうか…。

その頃の自分を思い出しながら、主人公の能楽師への道のりを楽しみに見守って参りたいと思います。

鉄輪の”負のエネルギー”…?

今日は午前中に水道橋宝生能楽堂にて定期公演の能「忠度」地謡を勤めて、その後すぐに奈良に移動して、夜に興福寺薪御能の能「鉄輪」地謡を勤めました。

この「鉄輪」はとても恐ろしく、シテからは強い「負のエネルギー」のようなモノが放射されているのを感じます。

その負のエネルギーはあまりに純度が高いので、それがかえって”美しさ”にまで昇華して、観る人を魅了するのだと思うのです。

この鉄輪の”負のエネルギー”がちょっと実感できる出来事がありました。

私は普段から「袖珍小謡本」という4分の1サイズの小さな謡本を持ち歩いています。

宝生流の全ての曲が一番ずつ分冊になっている本で、「和綴じ」です。

この「和綴じ」に使われている糸は非常に丈夫で、滅多な事では切れたりしません。

ところが何故か「鉄輪」の小本の糸が、購入して割と早い時期に切れてしまったのです。

ちなみにもう1冊、和綴じの糸が早くに切れてしまったのが「通小町」なのです。

こちらもやはり”負のエネルギー”が強い曲です。

私の小本はもう25年以上使っておりますが、そのうちで、糸が切れたのはこの「鉄輪」と「通小町」の2冊だけなのです。

単なる偶然なのでしょうけれど、私は「鉄輪」の小本の切れた糸を見るたびに、何となく”負のエネルギー”を感じて薄ら寒くなってしまうのです。

ウィスコンシン州と言えば

一昨日のブログで書いた留学生さんが、その後めでたく京大宝生会に入部してくれたと聞きました!

アメリカのウィスコンシン州の出身だそうです。

ウィスコンシン州と聞いて私が真っ先に思い浮かべたのが、

「大きな森の小さな家」(ローラ・インガルス・ワイルダー作)

という小学生の頃に愛読していた本です。

ウィスコンシンの大きな森の中で暮らすインガルス一家の物語で、西部開拓時代のアメリカの自然や生活が生き生きと描かれた名著です。

私はその後の何冊かの続編も全部読みました。

しかし、留学生さんにその本の話をしてもあまり良く知らないようでした。

考えてみれば「大きな森…」は今から150年ほど前のお話で、日本で言えば明治時代頃のことなのです。

留学生さんには今のウィスコンシンの話を色々と聞いてみたいと思います。

そしてせっかくなので「大きな森…」の本もどこかで探して読み直してみたいものです。

遠くアメリカはウィスコンシン州と繋がったご縁を大切に、留学生さんには楽しく京都の生活を送ってもらいたいと願っております。

800年前の原本…!

私は古本屋を覗くのが大好きです。

最近見つけて愛読しているのは、「田中光常」という動物写真家の「自然・動物・わが愛」という40年ほど前に発行された文庫版写真集です。

田中光常さんは、私が尊敬するアラスカの動物写真家の故星野道夫さんの師匠だった人です。

今は絶滅してしまった動物達の写真もあり、やはり古本は素晴らしいと悦に入っておりました。

しかし今日のニュースで、なんと「藤原定家直筆の古今和歌集注釈書」が京都の冷泉家で発見されたというのを読みました。

“藤原定家”と言えば能「定家」はもちろんのこと多くの謡に登場する人物であり、1162年生まれで1241年に亡くなっています。

つまり”約800年前の原本”が見つかったわけで、私が40年前の古本で喜んでいるのとは全くもってスケールが違うお話です。

発見した人の喜びはいかばかりだったでしょうか…。

と言っても、私は藤原定家については謡の中の事しか知りません。

せいぜいが京都にある「藤原定家墓所」に御参りに行ったことがあるくらいです。

この機会に藤原定家と古今和歌集注釈書についてもう少し勉強してみたいと思いました。

しかし今日はもう遅いので、明日以降に…

1か月が経ちました

1月16日にこのブログを再開してから1か月が経ちました。

なんとか途切れずに書き続けております。

今回ブログ再開の告知などは全くしていないにも関わらず、何人かの方に、

「ブログ再開されたのですね、いつも読んでいます」

と温かいお言葉をいただきました。

何よりの励みになります。ありがとうございます。

今後も私の小さな日常の出来事をポツポツと書いて参りたいと思います。

またいくつかあった”シリーズ”もぼちぼち再開するつもりです。

「亀岡の花々」シリーズは、間もなく春の花が咲き始めたら再開します。

「隙間花壇」は実はコロナ禍の間に雰囲気が大分変わって、洋風のお洒落な花壇になっております。私としては以前の自然な感じが良かったのですが、こちらも一度今の姿をご紹介したいと思います。

「読んだ本の話」も書いていきたいです。

相変わらず”遅読”で”並行読み”です。

今は、

①戸川幸夫(イリオモテヤマネコを発見した動物文学作家)著のシートンの伝記

②新田次郎著「孤高の人」

③椎名誠の「怪しい雑魚釣り隊シリーズ」

などを読んでおります。

中でも新田次郎「孤高の人」は久しぶりに本にグイグイと引き込まれていく感覚を味わっております。

このように、能楽には全然関わらない内容も多いブログではありますが、頑張って書いて参りますのでどうか今後ともよろしくお願いいたします。

サードマンと彼方のアストラ

今日は松本から移動して、夕方から矢来能楽堂にて辰巳大二郎君の「橙白会」の申合でした。

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松本からの特急あずさでは、専ら読書に専念いたしました。

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と言ってもいつものように比較的読みやすい内容の文庫本です。

今日は新潮文庫の「サードマン」という本でした。

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探検家が海や山で遭難した時に、自分以外の不思議な”存在”が現れて生還に導いてくれたという「サードマン現象」を科学的見地から研究した本です。

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サードマン現象そのものよりも、それが現れるまでの遭難の凄まじい状況に圧倒されました。

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ヒマラヤの8000m峰での滑落事故、南極大陸での壮絶な越冬、また大海原に放り出された小さな救命艇での絶望的な漂流…

私ならばきっと”サードマン”が現れる前に音を上げてしまうでしょう。。

しかし、極限状況を強かに生き延びた人々の話に勇気をもらえた気がいたしました。

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特急あずさ車内では、最近スマホで雑誌や本が読めるサービスが始まったのでそれも利用してみました。

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と言っても漫画です。。

以前から一度読みたいと思っていた

「彼方のアストラ」

という漫画の1、2巻を読んでみました。

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私の好きな漫画家の星野之宣さんの作品に通じるような、宇宙SF漫画でした。

そう言えばこの作品も、宇宙での”遭難”を描いています。

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今日の特急あずさの旅は、様々な遭難エピソードを終始ドキドキしながら読んで過ごしました。

新宿駅に無事に到着したのが何か奇跡のように有り難く思えたのでした。

星野道夫さんの「旅をする木」

昨日は散歩の最後に、私の大好きな場所の一つである図書館「ゆいの森あらかわ」に行きました。

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書架の中にアラスカの写真家、星野道夫さんの著書「旅をする木」を見つけたので、テラス席に出て適当な頁を開いてみました。

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カリブーの大移動を撮影するために小型セスナ機でアラスカの原野に向かった星野さん。

しかし帰りの離陸に失敗して、パイロットと2人で原野に取り残されてしまいます。

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深刻な事態にもかかわらず、星野さんとパイロットは「じっとしていても勿体無いので、カリブーを探しに行こう」と飛行機を置いて近くの山に登って行くのです。

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そして山を越えた先にはワタスゲの咲く大平原が広がり、その白夜の平原の真ん中で、星野さんとパイロットは夢のようなカリブーの大群と遭遇したのでした。

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星野さんは「もし離陸に成功していたらこの場にはいられなかった」と思います。

そしてパイロットもしみじみと「ギフト(贈り物)だな…」と呟いたのでした。

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星野道夫さんのアラスカのお話はどこか現実を離れたような幻想的で優しい空気感があり、読むととても心が癒されます。

散歩の終わりに、この「旅をする木」という本に出会えたのもまた、私にとっては運命のギフトのようでした。

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昨日はほかにも気持ちが暖かくなる出来事があり、葵上の疲れはすっかり回復しました。

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今日は早朝から元気に京都大山崎稽古に向かいました。

そして旅のお供の文庫本には、開高健さんのアラスカの釣りの本を選びました。

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しばらくの間アラスカの大自然の話に浸りつつ、各地の稽古を頑張って参りたいと思います。

タイムトラベルものの能

今読んでいる本は、いわゆる「タイムトラベルもの」のSFです。

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ある機械を使うと、任意の過去へと移動することができます。

しかしその代償として、二度と元の時代には帰れず、遡った時間を二乗した年数を加えた未来へと弾き跳ばされてしまう、という設定です。

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つまり10年前に移動すると、帰りは約100年先に跳ばされてしまうことになります。

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一方私は今日は、青森稽古のために午後から東北新幹線で移動しました。

桜のほぼ散り終わった上野→正に満開の福島→まだ蕾の岩手と、SF本をめくりながらの移動だったので、自分も時間を遡っているような気分になりました。

ただし私は、せいぜい2019年春の盛りから、1ヶ月ほど前の季節への旅です。

そして明日の午後には、ちゃんと元の東京に戻っていられるはずです。

手軽で安全な東北への擬似タイムトラベルなのでした。

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ちなみに能楽でも、何となく「タイムトラベル」を思わせる曲がいくつかあります。

例えば能「野宮」。

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ワキ旅僧が嵯峨野の”野宮の旧跡”にやって来ると、何故か”黒木の鳥居”は古びておらずに昔と変わらない綺麗な状態でした。

これは、旅僧を取り囲む”場”が過去へと遡ったとも考えられると思います。

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「野宮」の最後は曖昧に終わるので、ワキ旅僧が元の世界に帰れたのかわかりません。

もしかして僧が未来に跳ばされて、2019年の野宮神社に現れたりしたら。

物凄い数の修学旅行生や外国人観光客に囲まれて、さぞかし困惑するでしょう。。

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それはそれで面白いストーリーになりそうだと、やはりSFに影響された思考で思ったのでした。

小本を探して

以前にブログで書いたことがありますが、私は仕事が一段落すると、それまでの期間に使っていた”小本”こと「袖珍一番本」を一気に片付ける習慣があります。

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今回も松本澤風会が終わったタイミングで、何十冊もたまっていた小本をずらりと並べて片付けようとしました。

するとなんと「梅枝」の小本だけが、どこを探しても無いということに気がついたのです。

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私の小本は、東京芸大を受験すると決めた頃に、小川芳先生に頼んで購入していただいたものです。

以来約25年の間、181番が1冊も欠けることはありませんでした。

いつかは失くなる本も出てくるだろうと思っていましたが、ついにその日が来た訳です。

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小本はバラ売りしていないので、古本を探すしかありません。

今日は水道橋宝生能楽堂で、藪克徳くんのお社中会「篁風会」の申合だったので、それが終わってから神保町の謡曲専門の古書店「高山本店」に足を伸ばしました。

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私の小本は表紙が深緑色の”昭和本”というタイプです。

しかし他のタイプも色々あるので、全く同じもので無くても仕方ないと思いつつ探し始めました。

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高山本店には、何故か古書店でよく行き合う小鼓方の田邊さんもいて、一緒に探してくれました。

しかし、「梅枝」は稀曲ということもあり、なかなか見つかりません。

田邊さん「梅枝の小本はさすがに無いですね…。」

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私もまあ無理かな…と思いかけた時。

目の隅に、見慣れた深緑色が見えたのです。

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よく見るとなんと大量の深緑色の小本が、ダンボールに入ってバラ売りになっていました。

喜び勇んで100冊以上ある小本を調べていくと…

私「ありました梅枝!」

田邊さん「おお〜!おめでとうございます!」

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という訳で、新品同様の小本「梅枝」を、再び入手できたのです。

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気を良くして更に店内を見ていると、これまた探していた「図解仕舞集第八巻」を発見。

この本は絶版で、やはり古本を探すしか無かったのです。

今日は探し物が見つかる日だったようです。

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今の時代、謡はスマホやタブレットに入れて覚える事も可能です。

その利点も確かにあると思うのですが、やはり私は”紙の本”を手繰って覚える方が良く頭に入る気がするのです。

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今回私の手元に来てくれた小本「梅枝」は、早速来月の仕事で活躍してもらうことになります。

この「梅枝」を含めて、今後は小本をもう失くさないように、大切に使おうと改めて思いました。

ゆいの森あらかわ〜前半戦のリセット〜

よく人に「お休みはあるのですか?」

と聞かれます。

まとまった休みは一年を通じて全くとれないのですが、実は昨日と今日は珍しく連休でした。

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昨日はゆっくり寝て、溜まっていた雑用を色々済ませているだけで1日過ぎてしまいました。

そして今日、満を持して私は「何もせずにボーッとする」ために家を出たのです。

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誰に何と言われようと、私は無目的にブラブラ歩いて、見つけた気持ち良い場所で缶コーヒーなど飲みながら文庫本を広げて過ごす時間が一番好きなのです。

しかも広げた本よりも、辺りの景色や空などを眺めている時間が大半だったりします。

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先ほど外に出て驚きました。

乾いた風が強く吹いて気温も低く、空は高く晴れて、今年始めて「秋」を感じたのです。

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非常に快適な気分で、さてどの方向に歩き出そうかと考えました。

以前から気になっていた、「ゆいの森あらかわ」という近所の新しい図書館がふと思い浮かびました。

ホールや「吉村昭記念文学館」などが併設された複合施設で、沢木耕太郎さんが東北新幹線の車内誌にここの事を書いておられたのを思い出したのです。

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家から15分ほど歩くと「ゆいの森あらかわ」に到着しました。

真新しい綺麗な外観です。ちょっと無機質な感じもしますが、中に入ると…

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広いフロアに様々なタイプの椅子や机が並んでいます。

本の置き方も自由な感じで、とてもユニークで楽しい読書スペースでした。

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2階に上がると「吉村昭記念文学館」があります。

中には吉村昭さんの書斎が復元されており、椅子に座って文豪気分を味わうことも出来ました。

吉村昭さんの本は羆を描いたものを2冊読んだだけなのですが、東日暮里出身だとは全く知りませんでした。

よく見ると左隅に六角凧があります。吉村さんは凧が大好きだったようです。しかも更によくよく見ると、「曽我五郎」を描いた凧でした。

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さてその後、色々な本棚などを眺めながら

段々と上にあがり、最上階5階にある”森のテラス”に出ました。

このテラスは、沢山の植物が植えられていて空が広く、さながら”空中庭園”の趣きです。

風が通る椅子に座って、しばし文庫本を読んでボーッとしました。

至福の時間でした。

ちなみに文庫本は、高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」。

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ゆいの森あらかわは、都電荒川線のすぐ横にあります。

帰りにちょうど都電が通りました。

この踏切の向こうには、これまた私の好きな御近所スポット「荒川自然公園」があります。

こちらもそのうちにご紹介したいと思います。

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今日は能楽と全く関わらない1日でした。

明日からはまた稽古と舞台を頑張って参ります。

前半戦のリセットのような1日でした。