これから始まる歴史

少し時間を遡って、今週月曜日のことです。

京大宝生会が火曜日に能「竹生島」などの熱演でまた部の歴史に大きな一歩を記した、その前夜のこと。

.

私は栃木県の自治医科大学に稽古に行きました。

彼らの初舞台である「関東宝生流学生能楽連盟自演会(関宝連)」がいよいよ来週末12月7日に迫って来たのです。

.

内容は仕舞「鶴亀」「葛城クセ」と素謡「鶴亀」で、出入りの作法などを含めて時間をかけて丁寧に稽古いたしました。

何しろ、

「当日の着物はどうしましょう?」

「帯もありません…」

「そもそも、部の正式名称を考えないといけないのです。何か良い案はありますでしょうか…?」

まだまだ万事がこういう感じなのです。

.

手探りで初舞台へと進んでいる彼らですが、謡と仕舞はとても良い仕上がりになって来ました。

同じように手探りで稽古している日本女子大の2人を含めて、当日は良い初舞台をお目にかけられることと思います。

.

.

長い歴史を刻む部があれば、これから新しい歴史を始める部もあります。

12月7日土曜日、宝生能楽堂にて正午開始の

「関東宝生流学生能楽連盟自演会」。

もちろん自治医科大学と日本女子大の初舞台以外にも、舞囃子、仕舞、素謡など見応えのある番組になっております。

.

新たな歴史の始まりを少しでも多くの皆様に御覧いただきたく思います。

どうかよろしくお願いいたします。

見えない力に支えられて

昨日の京大宝生会の能「竹生島」では、舞台上の現役達は力一杯に頑張って素晴らしい能を演じてくれました。

.

その成功は、実は見えないところで沢山の人達のサポートに支えられていたのです。

.

.

「竹生島」は最初の作り物を出すのに4人必要です。

まずその作り物を運ぶ「台持ち」としてOBのK嶋君が来てくれました。

.

更に「竹生島」は”幕上げ”の回数が多く、また今回シテが高身長なこともあり中々難しかったのですが、この幕上げをOBのK崎君と、一回生が1人手伝ってくれました。

おかげで舞台が滞りなく進行しました。

.

.

そして…

舞台を無事に終えて私が楽屋を出て帰ろうとした時、背後から「あのう…」と声をかけられました。

「澤田先生ですよね?いつも○○がお世話になっています。私○○の母親です」

.

今回は見所がほとんど一杯になる程の多くの方々にいらしていただきました。

その中には先程のお母様のように、部員達のご家族が大勢いらっしゃったことと思います。

ご家族の応援は何よりの心の支えになったことでしょう。

.

.

また東京や神戸や名古屋などご遠方からも沢山の皆様にいらしていただき、その応援もまた舞台の現役達に更なる力を与えてくれたのだと思います。

.

.

「竹生島」ではありませんが、番外仕舞の地謡も何人かの若手OBが駆けつけて、力を合わせて謡ってくれました。

.

.

見える力と、”見えないけれど確かに存在した力”が合わさって、昨日の舞台が成功したのです。

その見えない力を与えてくださった皆様に、改めて御礼申し上げます。

「竹生島」に力を与えてくださってどうもありがとうございました。

4件のコメント

あの時の竹生島

今日は京大能楽部自演会が滞りなく開催され、京大宝生会の能「竹生島」もおかげさまで無事に終了いたしました。

.

.

昼過ぎに「竹生島」がいよいよ始まり、私は後見座で祈るような気持ちでシテツレの同吟を聴いておりました。

.

やがて地謡が始まります。

最初低い調子で謡い始めますが、「ところは海の上」という部分で”下の下”という調子から”上”という高い調子に急に変わり、そこで船が広い湖上に出たことを表現します。

.

しかし今日そこで私は「ハッ」と驚きました。

地謡の調子が、申合とも稽古とも微妙に違うのです。

今日はよりキッパリと、強い調子の謡に聴こえました。

.

そしてその謡は、春の長閑な湖ではなく、もっと熱い風が吹いて強烈な日差しが照りつける夏の湖面を想像させたのです。

.

.

.

.

そうです。

それはあの9月始めに皆で行った「竹生島合宿」の時の琵琶湖でした。

.

「我々は今、”あの時の竹生島”への船旅を再び辿っているのだ…」

と思い、舞台上で震えるように胸が熱くなりました。

.

そこから先は、天女も龍神も”あの時の竹生島”で舞っているように感じられました。

舞台が進んでいくにつれて、「最後まで無事に終わってほしい」という気持ちと「終わってほしくない、もっとこの旅を続けたい…」という想いが同時に湧いて来ました。

こんな気分になったことはこれまで一度もありませんでした。

.

この先能「竹生島」に関わることは何度となくあるでしょう。

しかし今回の京大宝生会の「竹生島」のような経験は二度と出来ないと思います。

今日の「竹生島」を私は生涯忘れることはないでしょう。

.

お世話になった先生方、見所で応援してくださった沢山の皆様、誠にありがとうございました。

稽古の結晶の輝き

明日、京大能楽部自演会「能と狂言の会」が京都観世会館にて開催されます。

京大宝生会の能「竹生島」もいよいよ本番を迎えます。

.

これまで何十年もの間、繰り返して現役達に言い続けてきたことがあります。

.

「ちゃんと稽古を積んできた舞台は、必ず見所にその努力と想いが伝わる」ということです。

そういう舞台では、もしも何ヶ所かの失敗があろうとも、その稽古の結晶の輝きには何の影響も無いのです。

.

.

そして今回も、我々京大宝生会は能「竹生島」に向けて、個々人の持つ最大限の力をひとつに合わせて、其々の想いを持って懸命に稽古して参りました。

その結晶は既に眩しい輝きを放っています。

明日の舞台でその輝きは間違いなくお客様に伝わることでしょう。

.

.

なので現役達は明日の本番ではどうかあまり気負わずに、緊張し過ぎずに、稽古と同じように冷静な心持ちで臨んでほしいです

そして一期一会の「竹生島」の舞台を五感で存分に味わって楽しんでほしいのです。

このメンバーでひとつの舞台を作るのはこれで最後、という気持ちよりも、このメンバーで「竹生島」を作れた喜びを舞台上で感じてくれたらと思います。

.

.

京大宝生会が120%の本気を出して作り上げた稽古の結晶「竹生島」を、皆様どうか御覧くださいませ。

.

京都大学能楽部自演会「能と狂言の会」

京都観世会館にて明日11月26日午前10時始曲。

能「竹生島」午後12時35分開始予定です。

どうかよろしくお願いいたします。

ジャケットとマフラーの出番は…

一昨日の京大「竹生島」申合の時のこと。

.

申合の舞台上では、色々バタバタと動いたり考えたりしてとても暑いと感じていました。

そして終わって着替えて外に出ると、夕方の冷んやりした空気に包まれて大変心地良い気分になりました。

.

.

京都駅行きの殺人的に混雑した市バスでまた暑い思いをして、ようやく帰りの新幹線に乗ってホッとした時。

なにやら身が軽すぎることに気がついたのです。。

.

私はその時薄手の長袖シャツ1枚で、行きに身に付けていた筈のジャケットもマフラーも京都観世会館に置いてきてしまっていたのです。

それでも全く寒さを感じなかったのは、申合で心身ともにフル回転していたからだと思われます。

.

.

今日は改めて観世会館にそのジャケットとマフラーを受け取りに伺いました。

事務所の方に「帰りお寒くなかったですか?」

と聞かれて、

「いや〜、むしろ暑いくらいだったのです…」

と答えて呆れられてしまいました。

.

しかも、今日は天気が良かったので観世会館からブラブラ歩き始めたところ、そのまま京都駅まで歩いてしまい結局また暑くなってしまったのです。

そして受け取ったジャケットとマフラーは鞄に押し込まれたまま、身に付けることはありませんでした。。

.

.

これから夜遅くまで芦屋稽古なので、終わった後の帰り道でようやくジャケットとマフラーの出番となりそうです。

能「竹生島」申合が終わりました

今日は京都大学能楽部自演会「能と狂言の会」の申合がありました。

京大宝生会の能「竹生島」がいよいよ申合を迎えたのです。

.

本番用の大ぶりな船と宮の作り物。

初めて身に付ける能装束。

宝生流の謡本と微妙に異なるワキの言葉。

御囃子の手組と地謡との何ヶ所かのズレ。

思ったよりも長い橋掛り。

.

などなど、本番前に修正すべき点の最終チェックが色々と出来て、得るものの多い申合になりました。

.

.

1週間後の11月26日火曜日。

京都観世会館にて、京都大学能楽部自演会「能と狂言の会」の本番が開催されます。

宝生流能「竹生島」は12時半頃からの予定です。

.

京大宝生会の竹生島へと向かう旅は、遂に終盤に差し掛かりました。

私の稽古は本番までにあと1回。

今日の申合を踏まえて、本番が少しでも良い舞台になるようにギリギリまで改善したいと思います。

新しい月の生まれる頃に

今日は朝からずっと電車で移動しています。

.

日が落ちて暗くなってくるとともに、東の低い山脈から濃い黄色をした巨大な月が上って来ました。

今年見た中で一番大きく見える満月な気がします。

.

.

ちょうど1週間前には、亀岡で冷え冷えとした半月を眺めました。

.

そしてあと1週間後、この満月が半分になる頃には京大宝生会の能「竹生島」の申合がある予定です。

更にその1週間後、この月が消えてまた新しい月が生まれる頃に「竹生島」は本番の舞台を迎えるのです。

.

.

私が「竹生島」の稽古を出来るのは、おそらくあと3回ほどでしょう。

全身全霊をかけて残りの稽古をして、なんとかこの能を成功させたい。

.

右手の車窓の空にかかる巨大な満月を、今祈るような気持ちで眺めています。

京阪神巽会など

今日は朝から香里能楽堂にて京阪神巽会でした。

昨日は朝に水道橋で月並能申合、その後香里能楽堂に移動して巽会申合、更にその後に京大宝生会の能竹生島の稽古を満次郎師にしていただきました。

.

書くべきことは山積しており、大変心苦しいのですが本日はこれにて失礼いたします。

1件のコメント

あまねく会・東京巽会に出演して参りました

今日は朝から水道橋宝生能楽堂にて「あまねく会・東京巽会大会」に出演して参りました。

.

毎年京大宝生OB会からも多くの舞囃子や仕舞、独吟などが出る舞台です。

今日特に感銘を受けたのは、舞囃子「春日龍神」でした。

.

.

この舞囃子のシテは、第1回京宝連にも参加され、卒業してから60年経つという大・大先輩でした。

そして春日龍神には、「三回廻り返し」の後に「抜き足」など、とても激しい型が連続しています。

更にシテ謡や足拍子も非常に複雑です。

.

.

その難曲を、大先輩はひとつひとつの型や謡を実に正確に、そして大きく軽快な動きで最後まで舞われたのです。

地謡座で謡っていて、思わず拍手をしたくなってしまいました。

.

.

今日はもうひとつ嬉しいことがありました。

去年まで亀岡稽古場で稽古をなさっていて、その後東京に引っ越された方が、東京で再び稽古を始められて今日久しぶりに舞台でお会い出来たのです。

しかもお仲間を増やして3人での参加でした。

.

.

色々な方の元気な舞台を見て、私も頑張ろうと思いました。

あまねく会・東京巽会関係者の皆様、どうもありがとうございました。

鏡板の前で

今日は夕方から京大宝生会稽古でした。

そして今日の稽古は私にとってある特別な意味を持っておりました。

.

渡辺三郎先生のお嬢様とお孫さん一家が、京大能楽部BOXの「鏡板」を見るために、遥々東京からいらっしゃる事になっていたのです。

.

.

京大能楽部BOXの鏡板は、元々は東京練馬の渡辺三郎先生の御自宅舞台にあったものでした。

それが4年前に京大に移設された経緯は、拙ブログ「二枚の鏡板の話」に詳しく書かせていただきました。

.

私は小学生の時に初めてこの鏡板の前で渡辺先生の稽古を受けました。

その頃にはお嬢様とお孫さんもひとつ屋根の下で暮らしておられて、お孫さんと私は順番に稽古を受けた後に一緒に遊んだりもしました。

.

.

それから幾星霜を経て、練馬舞台から遠く離れた京大能楽部BOXであの鏡板を前に再会することになるとは、これもまた実に不思議な運命を感じます。

鏡板の前で記念撮影をして、京大宝生会の稽古を少しご覧いただきました。

渡辺先生の写真をお持ち下さったので、渡辺先生にも稽古をご覧いただきました。

.

舞っている現役はそのプレッシャーを感じたようで、まるで本番のように緊張していたのがまた良かったです。

先生もきっと「最近の若者達も頑張っているじゃないか」と満足されたことと思います。

.

.

渡辺先生のご家族に鏡板の今をご覧いただくという長年の願いが叶って、心から嬉しく思いました。

.

.

京大稽古を終えて私は東京に蜻蛉返りです。

実は今週末にアメリカ人尺八奏者との舞台が控えており、今週は連日その稽古もあるのです。

.

今日は他にも見学者が訪れたり、書くことが色々多いのですが、それらはまた明日にさせていただきたいと思います。