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亀岡の花々〜百花の王〜

今年は桜が早く咲きましたが、他の花もだいたい2週間くらい早く咲いているようです。

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なので、おそらく亀岡稽古場にある牡丹園がもう満開を迎えているのではと、楽しみにして亀岡に向かいました。

すると期待通り、色とりどりの牡丹が咲き乱れています!

牡丹には様々な別称があり、「百花王」、「百花の王」などとも呼ばれるそうです。

「百獣の王」である獅子とは組み合わせが良いとされており、能「石橋」でも大きな牡丹の花が咲き乱れる舞台上で、獅子が豪快に舞うのです。

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牡丹園には色々な種類の牡丹の花が咲いていました。暫しお楽しみくださいませ。

真紅の牡丹。

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純白の牡丹。

宝生流の通常の「石橋」では、上のような紅白の牡丹が舞台に出されます。

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そして「連獅子」という小書が付くと、このような桃色の牡丹が追加で出されるのです。

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その他にも様々な牡丹が。

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どれも舞台に出したくなるような綺麗な花ばかりでした。

今日は他にも、いくつか花を見つけました。

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アヤメのような花が咲いていましたが、これは「いちはつ」というそうです。

アヤメの仲間の中でも一番最初に咲くことから、「一初」と名付けられたのです。

昔は茅葺き屋根の上にこの「いちはつ」をたくさん植える風習があったという事ですが、その風景はさぞかし美しく、農村に初夏の訪れを告げていたことでしょう。

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黄色と橙色が混じった小さな花が、低木一杯にびっしりと咲いている奇妙な木を見つけました。

これはその名も「むれすずめ」という植物で、細い枝に雀が鈴なりに止まっているように見えることに由来する名前だそうです。

上手いこと名付けるものだと感心いたしました。

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こちらは白く小さな花が無数に咲いて、清楚な美しさを感じます。

「ひめうつぎ(姫卯木)」という名前で、これも成る程というネーミングでした。

旧暦四月を「卯月」というのは、「卯の花(卯木の花)が咲く頃の月」という意味です。

「卯の花」という言葉は、「杜若」や「歌占」、「雲雀山」など多くの能に登場しますので、謡本をお持ちの方は是非探してみてください。

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これらの花々を見ている間、周りには誰もおらず貸し切り状態で、実に贅沢で静かなひと時を過ごしました。

亀岡の花々〜コノハナザクラ 〜

亀岡稽古場の敷地内には数多くの珍しい植物がありますが、その中でも最も稀少なのが、この場所で1953年に発見されたという「コノハナザクラ 」ではないでしょうか。

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コノハナザクラはヤマザクラの変種で、花は八重、ひとつの花に雌しべが2本あるのが特徴です。

平成に入って三重県で数本が発見されるまでは、野生のものは亀岡にある原木の只1本だけだったのです。

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能「桜川」のシテの故郷では「木花咲耶姫」を信仰しており、御神体が桜の木だったと言います。

その木花咲耶姫に由来する名前の「コノハナザクラ 」は、正に能「桜川」に出てくる御神木の桜に相応しい木だと言えるのではないでしょうか。

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例年だとこの時期が見頃である「コノハナザクラ 」ですが、今年はやはり早く咲いたそうです。

もう花は残っていないかと思いながら、稽古の合間に原木があるお堀の近くまで行ってみました。

すると…

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幸いなことに、まだ少しだけ咲き残っていました。

これが「コノハナザクラ 」です。

花だけが満開になるソメイヨシノと違って、花と青葉が同時に見られるヤマザクラは、何か自然な美しさを感じて、私は実はこちらの方が好みです。

この原木は本当に貴重なので、根の保護の為に近くには寄れません。少し離れて、「この先も末永く花を咲かせてください」と祈りました。

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今日は本当は他にも沢山の花々が見られたのです。

写真だけ載せておきたいと思います。

美人の代名詞「立てば芍薬」の一種「ケヤマシャクヤク」

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能「胡蝶」で「八重山吹も…」と謡われる「ヤマブキ」が正に七重八重に重なって咲いていました。

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「石楠花」の花がもう満開でした。

唱歌「夏の思い出」のイメージがあるので、石楠花を見ると水芭蕉と並んで「夏の尾瀬」を思い出してしまいます。

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なんと水辺にはその「水芭蕉」も咲いていました。

本当に夏の尾瀬のようでした。

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そしてつい先月には新芽だった「牡丹」が、もうこんなに蕾を膨らませていました。

次回の稽古では花が見られるかもしれません。

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それにしても前回からほんの10日ほどで花がガラリと入れ替わっていて、驚かされました。

春は正に「百花繚乱」の季節なのですね。

亀岡の花々〜春の使者達〜

「スプリング・エフェメラル」という言葉を初めて知りました。

日本語では「春の妖精」とも呼ばれる一群の花々のことをさす言葉です。

春先のほんの数週間だけ広葉樹林の林床を華やかに彩り、初夏にはもう跡形も無くなってしまうという儚い花達なのだそうです。

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今日の亀岡稽古ではその「春の妖精」に沢山出会うことが出来ました。

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先ずはカタクリです。

今日は天気が良かったので、花がよく開いて反り返っていました。

「片栗粉」はこのカタクリから作ると思っていましたが、採れる量が少ないために近年はジャガイモやサツマイモのデンプンで作られているそうです。

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キクザキイチゲ。漢字で書くと「菊咲一華」。

漢字の方が綺麗な名前だと感じます。

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また下の花は近い仲間の…

ユキワリイチゲ(雪割一華)。

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そしてムラサキケマン。

これらの花々は全て「スプリング・エフェメラル」に属するそうです。

年間の大半を暗い地中で過ごす彼ら(彼女ら?)は、ようやく地上に出られた喜びを競って表現するかのように、美しく可憐な花を咲かせているように見えました。

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「春の妖精」に近い表現で、日本でも古くから、「雪割草」と呼ばれるいくつかの花々があります。

このスハマソウもそのひとつです。

因みに先ほどの「菊咲一華」や「雪割一華」を「雪割草」と呼ぶ地方もあるそうです。

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ミツマタも満開になりました。

和紙の原料となるこの植物は「サキクサ」とも呼ばれます。

その意味は、「春になると他の花に先駆けて咲く」からとも、またこの花が縁起の良い花とされていたので「幸草」と称されたからとも言われるようです。

「三枝(さえぐさ)」さんという苗字の語源もこの「サキクサ」だそうです。

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新芽を取り囲むように小さな花が沢山咲いている変わった木がありました。

「クロモジ」です。

こちらは「楊枝」の原料になるので有名ですね。こんな花だとは知りませんでした。

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今日は他にも、

トキワイカリソウ

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トサミズキ

などなど、調べるのが追いつかないほどの多くの花々が咲いていました。

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桜も満開になり、まさに春爛漫という風情でした。

亀岡の花々〜春の訪れ〜

今日は松本から亀岡に移動しての稽古でした。

朝の松本はまだまだ冬の冷え込みだったのですが、特急しなので名古屋に着くと外はポカポカ陽気でした。

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亀岡も晴天で暖かく、この分ならば何か春の植物が見られるかも…とちょっと期待して稽古場に向かいました。

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先ず目についたのは、鮮やかな黄色でした。

去年の3月1日のブログにも載せた、「福寿草」です。

去年は曇り空の下で花は閉じていたのですが、今日は陽射しを浴びて大きく開いていました。「春が来た〜!」と喜んでいるようです。

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すぐ隣には…

「節分草」がありました。

福寿草と比べると如何にも控え目に咲いている可憐な花は、現在は乱獲と環境破壊によって希少なものになっているそうです。

そう思って見ると、何処と無くさびしそうにも見えます。。

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陽の当たる広場には「蕗の薹」が顔を覗かせていました。

私はこの天ぷらが大好きなのです。

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もちろん梅も、木によっては満開になっていました。

花はこのくらいだったのですが、もうひとつ目を引いた植物がありました。

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牡丹園の牡丹に新芽が出ていたのです。

あの牡丹の花の大きく艶やかなイメージそのままに、なんとも力強く勢いのある芽吹きに目を奪われました。

春のパワーが漲って、それが限界を超えて吹きこぼれて来たような姿でした。

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次に亀岡に行くのは来月下旬になります。

その頃はきっと、すっかり春になって沢山の花々が見られるだろうと、今から楽しみにしています。

亀岡の花々〜木の実の段〜

今日は暦の上では「立冬」だそうですね。

冬の気配を感じる筈の日ですが、亀岡稽古に行ってみると日中は暖かく、小春日和でした。

この時期になるとさすがに花は殆ど咲いていませんが、かわりに色々な「木の実」が見られました。

遠目にも鮮やかな赤色の中に、黒い実が点々とあってなかなかインパクトがあります。

これは「ベニバナヤマシャクヤク」の実です。

花は「芍薬」の名前の通りにピンク色の楚々とした風情なのですが、実の方は何か妖艶な美しさでした。

赤い実の「ヤブサンザシ」です。

名前の由来はこの実が「サンザシ」の実に似ているからで、全く違う植物だそうです。

美味しそうに見えるこの実なのですが、食用になるのは「サンザシ」の実の方で、残念ながら「ヤブサンザシ」の実は食べられないらしいです。

「ハクサンボク」です。

こちらの実も何となく食べられそうですが、これはホワイトリカーに漬けて果実酒に出来るそうです。

因みに「赤い実」は、鳥に食べてもらい易いように目立つ色をしているが、じつはそんなに美味しくなくて、目立たない色の実の方が美味しい、という説を聞いたことがあります。

次はそのような地味な色の実を紹介します。

これは「シロヤマブキ」。

こちらは前に花も紹介した「ヤブラン」です。

「ヤブラン」の実は、実際食べて美味しいと書いている人がいました。「シロヤマブキ」の方は調べてもわからなかったので、おそらくアウトなのでしょう。

どちらも「草木染め」の材料になるようです。同じ黒い実でも、染めると「シロヤマブキ」は薄緑色、「ヤブラン」は紫系の色になるようで、実の色と全く違う色になるのが草木染めの面白いところです。

石の隙間に本当にひっそりと、小さな花が咲いていました。

これは「キチジョウソウ(吉祥草)」だそうです。

この花が咲くと良いことがあるということなので、最後に見られて何か嬉しい気分になりました。

能「通小町」には、小野小町の霊であるツレが様々な木の実を歌うように紹介する内容の箇所があり、「木の実の段」とも呼ばれます。

私の紹介ではそれこそ「花」がありませんが、これにて「亀岡版・木の実の段」をお終いにさせていただこうと思います。

亀岡の花々  〜夏の名残り〜

今日は亀岡稽古でしたが、夏の最後の抵抗なのか今日の京都は30℃近くまで気温が上がり、亀岡稽古場ではなんと蝉が鳴いていました。

しかしこの暑さならば、もしかしてまだ可能性があるかも…と思ってフジバカマを見てみると…

やはりアサギマダラがまだいてくれました!

3匹飛んでいたうちの2匹が写真に写っています。

今週末の雨の前に、南の島に旅立つと思われるので、ギリギリで会うことが出来て良かったです。

そして他に何か花が咲いていないか探してみると…

先ずはよく見るノコンギクがありました。

「野菊の墓」の野菊はこの花だと言われているそうです。

野菊に続いて、こちらは「野牡丹」だそうです。

何となく南国風の花だなと思ったら、やはり中南米原産の「紫紺野牡丹」でした。

今日の夏の暑さにぴったりの花です。

これは「サンインヒキオコシ」という花です。

「ヒキオコシ」という名前の由来は、弘法大師が行き倒れの行者を見つけて、この植物を絞って汁を飲ませたところすぐに元気になった、という故事から来ているそうです。

しかしその汁は「一度飲んだら忘れられないほど苦い」そうで、正に「良薬は口に苦し」ということなのでしょう。

林床に変わった花が咲いていました。

調べると「シモバシラ」という名前だそうで、確かに霜柱が立っているのに似ているな、上手いこと名付けるなと思ったら、実はもっと驚きの由来がありました。

この花が散った後の枯れた茎に、冬になると霜柱が立つそうなのです。

地下に張った根が水分を茎に吸い上げて、それが凍るのだとか。

これは冬の亀岡稽古の楽しみが増えました。また「シモバシラ」の「霜柱」が撮れたら、報告いたします。

最後はこちらです。

「コムラサキ」の実です。

コムラサキは園芸店では「紫式部」として売られているそうです。

このブログで6月17日に、半蔀の謡蹟を訪ねた時に「紫式部の墓」に咲いていた小さな紫色の花。

今あそこを訪ねたら、きっと上のような実がなっていると思われます。時間があれば行ってみたいところです。

6月17日はとても暑い日でした。

今日もまた暑い日でしたが、この暑さは夏の名残りです。

アサギマダラと紫式部の実を見て、何かこの夏が完結したような気分になりました。

旅をする蝶

月曜日の京都謡蹟散策の解散後に、私は亀岡稽古に参りました。

実はその日の亀岡稽古では、密かに楽しみにしていることがありました。

8月27日のブログに写真を載せた「フジバカマ」を覚えていらっしゃるでしょうか?

この花です。

秋の七草のひとつでもあるフジバカマには、実は10月初旬にある特別な来訪者があるのです。

「アサギマダラ」という蝶です。

私がこの蝶と初めて出会ったのは、中学校の「科学部」の夏合宿で訪れた山梨県の本栖湖畔でした。

都内では見たことの無い綺麗で大きな蝶が、私のすぐ近くで逃げもせずに植物と戯れていました。

しかしその時には、このアサギマダラに非常に特殊な習性があることは知りませんでした。

アサギマダラは「渡り」をする蝶なのです。

春から夏には主に本州の高原地帯に住み、秋になると南へと移動を始めます。

そして本州から九州へ、更になんと大海原を越えて南西諸島まで渡っていくのです。

中には遥か台湾まで2000キロ以上の渡りをする個体もいるとか。

途中は海上に浮かんで休み、栄養補給はしないということです。

なので、海上に出る前に食餌を済ませる必要があるのですが、アサギマダラが蜜を吸う植物は何種類かに限られます。

このうちのひとつが「フジバカマ」なのです。

私は昨年のちょうど今頃の亀岡稽古の時、フジバカマに飛来した沢山のアサギマダラと出会うことが出来て感動いたしました。

今年も出来れば、長い長い「渡り」の途中に亀岡に立ち寄った彼らと会いたいと、密かに願っていた訳です。

ところが、月曜日は本降りの雨。

フジバカマにはアサギマダラどころか、虫の影さえ一匹も見当たりません。

「今年は会えなかったか。また来年だな…」

と残念に思いながら稽古を終えて、帰りがけにお弟子さんにその話をした所、なんと「昨日フジバカマにアサギマダラが来ていて、写真を撮っていた方がいますよ」とのこと。

更に帰りの新幹線でその写真がメールで送られて来たのです。

この先遥か南西諸島を目指す長い旅の途中で、今年も亀岡のフジバカマに立ち寄ってくれたアサギマダラです。

直接は会えませんでしたが、今も飛び続けている筈の彼らの旅の無事を祈りながら、しみじみと写真に見入ったのでした。

来年はどうか顔を見られますように。

亀岡の花々〜夏から秋へ〜

昨日の亀岡稽古で、今年始めてツクツクボウシの声を聞きました。

空気も少し乾いて、暑さも僅かですが和らいで、いよいよ秋が近づいてきたと思いました。

亀岡には夏から秋への移ろいを感じさせる花々が咲いていました。

スズムシバナです。

ややこしいのですが、ランの仲間に「スズムシソウ」があり、そちらは鈴虫に形の似た花を咲かせるそうです。

こちらのスズムシバナは、鈴虫が鳴き始める頃に咲くので名付けられたということ。

オシロイバナと逆に、朝咲いて夕方には萎れてしまうので、写真を撮った時もちょっと元気が無い感じでした。

またこのスズムシバナは「キツネノマゴ科」に属するそうで、またしても新美南吉風な名前に興味が湧いて調べてみたのですが、「キツネノマゴ」の名前の由来は残念ながらはっきりしませんでした。

ヤブランです。

夏から秋に咲く花ですが、こちらは「キジカクシ科」だそうで、やはりメルヘンチックな科に属しているのですね。


ナデシコに似た花が咲いているなと思いましたが、これは「オグラセンノウ」というやはりナデシコの仲間でした。

なんと絶滅危惧種だそうです。

シーズン終わりの最後のひと花が見られてラッキーでした。

もう萩が咲いていると思ったら、これは「ヌスビトハギ」だそうです。萩よりも花の時期が少し早いのです。

この植物、花が終わると下のようになります。

この種子の形に見覚えはありませんか?

草原を歩いた後に、この種が服に大量に付いてしまって、取るのに苦労することがあります。

このような種を持つ植物を総称して「ひっつき虫」というそうです。なんだか今日は可愛らしい名前が多いのです。

秋の七草、オミナエシです。

ようやく能関係の花を見つけました。

能「女郎花(おみなめし)」では、この花を「花の色は蒸せる粟のごとし」と謡っていますが、確かに小さくて黄色い花は粟の粒に似ているように見えます。

ちなみに仲間の「オトコエシ」は白い花です。

こちらも秋の七草、フジバカマです。

能「善知鳥」に「間遠に織れる藤袴」という謡がありますが、こちらは本当の衣類の袴を指していると思われます。

フジバカマという植物には、実は特別な話のネタがあるのですが、それはまた回を改めて書きたいと思います。

今日はこの辺で失礼いたします。