京大「能と狂言の会」申合→京大稽古へ

今日は昼間に京大能楽部自演会「能と狂言の会」の申合がありました。

今回宝生会からは舞囃子「花月」が出ます。

.

授業や実験、実習などで忙しい部員達がなんとか集まっての申合でしたが、苦心の甲斐あって有意義な申合になりました。

あとはこの申合で明らかになった問題点を微調整して、本番に臨むだけです。

.

.

その後、夕方からは京大BOXに宝生会の稽古に行きました。

舞囃子以外にも、沢山の仕舞が出るのです。

.

上回生は、学校や就活なども忙しい上に仕舞の難易度が高く、更に他の人の仕舞の地謡が大量にあるので非常に大変だと思います。

しかしその大変さを表に全く出さずに明るく稽古しているので、とても立派だといつも感心しています。

.

そういえば先月の稽古で、急に上手になったと感じた部員がいて、「ちょっと見ない間に上達したねえ」と感じたままを近くの部員に言ったところ、その部員がしみじみと「彼女はすごく稽古してましたから…」と言ったのです。

私の知らないところで、皆それぞれ大変な日常を過ごしつつ、とても努力して稽古しているのでしょう。

.

.

そして彼らは相変わらず、ちゃんと楽しいイベントもやっているようです。

一昨日のハロウィンには、4回生O君の下宿で「仮装無しのハロウィンパーティ」をやってアイルランド料理やお菓子などを大量に作ったそうです。

今日の稽古の帰りがけに、なんと私にもお裾分けがありました。

コウモリやカボチャや猫などの形に焼いたクッキーです。

新幹線で有り難くいただきたいと思います。

.

.

とにかく何事においても頑張っている京大宝生会。

彼らの稽古における努力の成果が披露される自演会「能と狂言の会」は、京都金剛能楽堂にて11月12日(月)朝9時始曲です。

皆様どうかご来場くださいませ。

よろしくお願いいたします。

新しい化学反応

今日から11月です。

今月は京都紫明荘組の稽古からスタートしました。

場所は今日で2回目の、熊野神社の近くの古民家ゲストハウス「月と」さんです。

.

前回の稽古中に、スタッフの方が稽古の様子を覗きに来てくださったのですが、今回「月と」さんに到着して驚きました。

前回の稽古のレイアウトと全く同じになるように、机などを並べ替えてくださっていたのです。

こういった心配りは実に嬉しいものです。

.

今日はもうひとつ嬉しいことがありました。

新しい方が稽古を始められたのです。

.

現代詩の創作と朗読をされている会員さんのお知り合いで、大阪でアーティストをされている方です。

どのような作品を創られているのかまだ伺っていないのですが、芸術家らしくとても個性的な雰囲気の方でした。

またこの稽古場に面白い出会いの化学反応が起きるのではないかと期待しております。

.

.

今日は他にも、1階のカフェのお客さんが2人、早速見学に来てくれました。

中国とアメリカから京大に来ている留学生ということで、邯鄲の舞囃子の稽古を見て「辺りがこれまで見たことの無い空気になって、驚きました。一生心に残ると思います。」と目を輝かせて言ってくれたのです。

これもまた嬉しいことでした。

.

.

この稽古場は、建物や調度品の数々がとても趣き深く、またカフェやゲストハウスとの交流もありそうで、これまでとはまた違った面白い経験が色々出来そうなのです。

紅葉、撮影失敗…

昨日のブログで、いわて沼宮内辺りの紅葉を今日の帰りがけに見るのが楽しみ、と書きました。

そして今朝のこと。

.

朝方の青森はまだ昨夜来の雨が残っていて、どんよりした空模様でした。

しかし新幹線に乗って八戸を過ぎる頃には、徐々に青空が見えて来ました。

.

紅葉も期待通りなかなか綺麗です。

車窓から紅葉の写真を撮ってブログに載せようと、私はスマホをずっとカメラ機能にして、シャッターチャンスを探していました。

…ところが、そのチャンスが中々巡って来ないのです。

.

「お、綺麗だな」と思ってカメラを向けた途端に、新幹線はトンネルに入ってしまいます。

東北新幹線の岩手県内はトンネルだらけなのです。

.

そして当然ながら、新幹線なので超スピードです。

新青森〜盛岡間は比較的遅めとは言え、調べたら平均時速260キロだそうです。

綺麗な紅葉はあっという間に背後へ飛び去っていきます。

.

.

なんとか苦労して撮影を試みましたが、例えば…

窓枠が写ったり…。

.

.

車内が反射したり…。

.

.

遠くて色が良くわからなかったり…。

.

.

という訳で、結局失敗作ばかりを載せることになってしまいました。。

本当はもっとずっと綺麗だったのです。

美しい景色は、記憶に留めるのが一番ということでしょうかね…。

陸奥への道行

昨夜は最終近い新幹線で京都から東京に戻りました。

そして今日は午後に家を出て、東北新幹線で青森稽古に移動しています。

.

三ノ輪の自宅を出ると、午後の陽射しが強くてまるで初夏の陽気です。夏の最後の抵抗なのでしょうか。

しかしこれから向かう青森はきっと肌寒かろうと思うので、鞄にはジャケットとマフラーを詰めておきました。

.

新幹線が北上するにつれて、車窓の秋が深まっていきます。

しかし仙台辺りまでは、紅葉にはまだ早い感じでした。

.

.

盛岡の手前までくると、夕暮れが迫って来ました。

秋の夕暮れは、気温が急激に下がっていくのが車窓から見ても想像出来るようで、実に寂しさを掻き立てる風景でした。

.

やがて盛岡を過ぎて、いわて沼宮内の辺り、時間にして16時45分くらいにはほぼ真っ暗になりました。

能「黒塚」の中でワキ阿闍梨祐慶が、秋の日暮れに陸奥安達ヶ原で一軒の灯を見つけて、女主人に宿を頼むという情景が頭に浮かんできます。

そして寒く侘しい秋の夜を、一人過ごしてやがて鬼女になった女主人の心持ちも、朧気ながら解りそうな気がしました。

.

しかし暗くて撮影は不可能でしたが、最後の日の名残りで見透かしてみると、いわて沼宮内辺りの紅葉はとても綺麗そうでした。

明日午前中の帰り道を楽しみにしたいと思います。

.

.

.

驚いたことに新幹線が新青森駅に到着してホームに出ると、”肌寒い”などとんでもない、本格的な冬の寒さでした。

在来線の乗り換えホームで、慌てて鞄からジャケットとマフラーを引っ張り出して着込み、ようやくホッとしました。

そして青森は雨です。

おそらくこの雨は”秋と冬の境い目”の雨なのです。

北海道ではこの雨が雪になっているのでしょう。

.

夏から冬を一気に縦断した、東北新幹線での道行でした。

これから青森稽古に行って参ります。

亀岡の花々〜秋の彩り〜

今日は亀岡稽古でした。

行きの新幹線から、白い雪を被った富士山が見えました。

毎年恒例の写真です。

.

.

亀岡稽古場では秋の花もめっきり少なくなって、一見すると殆ど彩りがないように見えました。

しかし少し歩いてみると、所々に鮮やかな色を見つけました。

縁起物の「センリョウ(千両)」。

.

.

実が黄色い「キミノセンリョウ」。

.

.

今年も綺麗に色づいた「紫式部」。

.

.

これらの赤、黄、紫は”実”でしたが、”花”の彩りもいくつか見つけました。

こちらは「山薄荷(ヤマハッカ)」の仲間だそうです。小さな青紫色の花がたくさん咲いていました。

.

.

そして今日一番綺麗だと思った花がこれです。

ユキノシタ属の「センダイソウ」という名前だそうです。

仲間には「大文字草」や「人字草」という、花の形を漢字に例えた花があります。

白とオレンジ色と黄緑色がそれぞれ控え目に存在を主張しており、それらの小さな花がたくさん集まって、美しいバランスを保って咲いているのです。

来年もまた見てみたい花でした。

.

.

他にもいくつか。

これは「ツワブキ」の珍しい”多弁型”です。

漢字で書いた”石蕗”は、初冬の季語になっているそうです。

.

.

今回最も貴重な花がこちら。

温室の中で見つけた「マツムラソウ」です。

絶滅危惧種で、原産地の石垣島では自生地はただ一ヶ所しか残されていないのです。

今回会えて良かったです。

.

.

次の亀岡稽古は11月半ばになるので、亀岡の花々に会えるのは今年は今日で最後かもしれませんね。

能「望月」の早替わり

一曲の能の中でシテが装束を着替える場合、

①いったん中入して楽屋で着替える。

②舞台上の作り物の中で着替える。

③舞台上で後見が着付ける(物着と言われます)

の3つのパターンがあります。

.

しかしごく稀に、

④舞台上でシテが自分で着替える。

という場合があるのです。

.

今日の「別会能」の最後にあった能「望月」が、その珍しい曲のひとつでした。

.

後シテは「獅子舞」を舞う装束で登場しますが、僅かな手順でその外見がクルリと変わるような装束の工夫がしてあります。

その早替わりの場面は何度か観ましたが、見慣れてもなお新鮮な驚きがあります。

.

もちろんその分シテの負担が大きく、楽屋で色々と特殊なやり方でシテ自ら着付けをしなければならないのです。

.

今日の「望月」のシテは宝生和英家元でした。

非常に鮮やかな早替わりに、今回もまた”ハッ”と新鮮な驚きを感じたのでした。

第7回篁風会に出演して参りました

今日は宝生能楽堂にて、「篁風会」に出演して参りました。

東京芸大時代からの仲間である藪克徳さんのお社中会です。

.

会は朝9時から始まって、きっちり夜8時まで。なんと11時間の長丁場でした。

私の最初の出番は朝10時頃でしたが、最後は能「船弁慶」の地謡に座って、附祝言「五雲」まで、きっちりと謡い切りました。

.

「篁風会」は今回で第7回を迎えるそうです。

これだけの規模の会を、その規模を維持しつつ7回も続けることは、並大抵の努力では出来ないことだと思います。

.

藪克徳さんは今回も、殆どの番組の地謡を自ら謡われていました。

申合時のお弟子さんの録音用カセットテープまで、全て曲名を書いて用意するという几帳面さで、当日の楽屋と舞台のことも非常に細やかに気を配っているのがわかりました。

.

彼は熱意と几帳面さを併せ持つ、稀有な存在だと思います。

篁風会が今後益々盛んになることをお祈りしております。

藪さん、篁風会の皆様、今回もどうもありがとうございました。

能「張良」の極私的見どころ

明後日10月28日の日曜日には、水道橋宝生能楽堂にて「別会能」が開催されます。

私は能「張良」の地謡で、先ほどその申合がありました。

.

漢の高祖の臣下である”張良”が、”黄石公”という不思議な老人から兵法の奥義を授かる、というストーリー。

これは能「鞍馬天狗」にも出てくるお話です。しかし能「張良」は、大天狗が語る話とはかなり異なる展開になっています。

また、他の曲には見られない独特の演出がいくつかあり、とても面白い曲だと思います。

.

①シテは”黄石公”なのですが、むしろワキ張良の方が動きや謡が多く、曲の中心になっています。”ワキ”が主役のようになっているのは、ある意味で能楽らしいと言えます。

②前シテの老翁は、おそらくシテとして最も短い舞台滞在時間と思われるます。(厳密には”橋掛り滞在時間”ですが。。)

③後シテ黄石公が沓を川に落とす場面で、後見がとても重要な働きをします。この働きの結果次第で、ワキの動きが全く変わるのです。

④そのワキ張良が川に落ちた沓を拾い上げようとする動きが、非常に難しいものです。体操やフィギュアスケートの選手ばりの動きを、能装束を身に着けてやってしまうワキは本当にすごいと思います。

.

.

他にも能「定家」や、宝生和英家元による能「望月」など、稀曲・秘曲が揃った今回の「別会能」。

宝生能楽堂にて明後日10月28日正午始です。

皆様是非お越しくださいませ。

小本を探して

以前にブログで書いたことがありますが、私は仕事が一段落すると、それまでの期間に使っていた”小本”こと「袖珍一番本」を一気に片付ける習慣があります。

.

今回も松本澤風会が終わったタイミングで、何十冊もたまっていた小本をずらりと並べて片付けようとしました。

するとなんと「梅枝」の小本だけが、どこを探しても無いということに気がついたのです。

.

.

私の小本は、東京芸大を受験すると決めた頃に、小川芳先生に頼んで購入していただいたものです。

以来約25年の間、181番が1冊も欠けることはありませんでした。

いつかは失くなる本も出てくるだろうと思っていましたが、ついにその日が来た訳です。

.

小本はバラ売りしていないので、古本を探すしかありません。

今日は水道橋宝生能楽堂で、藪克徳くんのお社中会「篁風会」の申合だったので、それが終わってから神保町の謡曲専門の古書店「高山本店」に足を伸ばしました。

.

私の小本は表紙が深緑色の”昭和本”というタイプです。

しかし他のタイプも色々あるので、全く同じもので無くても仕方ないと思いつつ探し始めました。

.

.

高山本店には、何故か古書店でよく行き合う小鼓方の田邊さんもいて、一緒に探してくれました。

しかし、「梅枝」は稀曲ということもあり、なかなか見つかりません。

田邊さん「梅枝の小本はさすがに無いですね…。」

.

私もまあ無理かな…と思いかけた時。

目の隅に、見慣れた深緑色が見えたのです。

.

.

よく見るとなんと大量の深緑色の小本が、ダンボールに入ってバラ売りになっていました。

喜び勇んで100冊以上ある小本を調べていくと…

私「ありました梅枝!」

田邊さん「おお〜!おめでとうございます!」

.

.

という訳で、新品同様の小本「梅枝」を、再び入手できたのです。

.

.

気を良くして更に店内を見ていると、これまた探していた「図解仕舞集第八巻」を発見。

この本は絶版で、やはり古本を探すしか無かったのです。

今日は探し物が見つかる日だったようです。

.

.

今の時代、謡はスマホやタブレットに入れて覚える事も可能です。

その利点も確かにあると思うのですが、やはり私は”紙の本”を手繰って覚える方が良く頭に入る気がするのです。

.

今回私の手元に来てくれた小本「梅枝」は、早速来月の仕事で活躍してもらうことになります。

この「梅枝」を含めて、今後は小本をもう失くさないように、大切に使おうと改めて思いました。

氷室と野守と鵜飼の共通性

今年の澤風会の舞台がおかげさまで3月の水道橋、8月の七葉会、10月の京都、先日の松本と全部無事に終わって、しばらくはゆったりと通常運転です。

.

今日は夕方から田町稽古でした。

謡は「氷室」を稽古しています。

.

後シテ氷室神が氷を持って現れる場面で、その氷を「萬境を映す鏡の如く」という謡で表現しています。

この”萬境を映す鏡”とは、すなわち能「野守」のシテが持つ”野守の鏡”のことです。

.

.

前から不思議に思っていることがありました。

能「氷室」と「野守」の後シテは、同じ「小べしみ」という面を掛けており、装束もほぼ同じです。

更に持ち物である「氷」と「鏡」が似通っています。

.

.

そしてもう1番、能「鵜飼」の後シテ閻魔大王もまた、能面「小べしみ」を掛けて上の2番と似た装束なのです。

「野守」の後シテは、曲の最後に「奈落の底」へと帰って行きます。

“奈落の底”は閻魔大王のいる”地獄”と同じか、若しくは近い場所だと思われます。

.

.

①「氷室神」の持ち物”氷”と「野守の鬼」の持ち物”鏡”の類似性。

②「野守の鬼」と「閻魔大王」が同じ”奈落の底”に存在すること。

③3曲の後シテの能面と装束が似通っていること。

以上の①②③を考え合わせると、これら3曲の後シテは近い属性を持っているように思えるのですが、今のところ何も根拠が見つかりません。

「神」と「鬼神」と「閻魔大王」は、全く別個の存在とも思えますが、果たして…?

何かご存知の方は、ヒントでも良いので教えていただけると有り難く存じます。

.

わかったことがあれば、またご報告させていただきます。