魂のこもった卒業仕舞

2019年冬の「関西宝生流学生能楽連盟自演会」は、おかげさまで無事に終了いたしました。

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例によって書きたい事は山積しています。

やはり先ずは京大宝生会のことを書かせていただきます。

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今日最初の出番は素謡「杜若」、最後の出番は仕舞「蟬丸」でした。

それら全ての舞台において、京大宝生会は非常な緊張感を持続しつつ、稽古したことを稽古した通りに発揮してくれました。

私の視点ではほぼミスは無かったと思います。

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番組を見るだけではわからないのですが、彼らは「自分の仕舞」、「誰かの仕舞の地謡、地頭」、「受付や”めくり”などの運営業務」、「素謡の役」、「素謡の地頭」…

と言った複数の要素を一日中、目まぐるしくこなしているのです。

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特に終盤の3、4回生ゾーンでは、難曲のシテと地謡が交替でやって来ます。

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同じように舞台を勤める身として見ると、それらの働きは”超人的”と言って良いのだと思います。

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その激務の最後に行われた、今回で現役を引退する4回生の「卒業仕舞」。

それはそれぞれの4年間の重みが集約されているような舞台で、見ていて心が震えました。

魂のこもった舞台でした。

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この人達を稽古出来たことは幸せだった。

もし叶うならば、この先もこの人達と稽古していきたい。

そう心から思いました。

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関西宝連の続報はまた書かせていただきます。

今日はこれにて失礼いたします。

服装に例えると…

最近ブログの更新が出来ない日が多かったので、今日はもう一度書かせていただきます。

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昨日の京大稽古で、「杜若」の謡を聴きました。

私は仕舞の稽古担当なので、あくまでも「聴くだけ」で、目立った点だけをアドバイスするというスタンスです。

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「杜若」という曲は、三番目物なので全体に綺麗に、淑やかな雰囲気で謡うべきだと思います。

しかしながら、その心持ちだけでは全部同じ謡になってしまい、抑揚が無くなってなんとなく「眠たい謡」になってしまいます。

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昨日気になったのは「クリ、サシ、クセ」と続く謡の「クリ」の部分でした。

優雅にゆったりと謡っていたのですが、その直前の「イロエ前」の謡と、直後の「サシ」の謡との差があまり無いように聞こえました。

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三番目なので例えば女性の服装に例えると、綺麗な服は一杯ありますが、その「綺麗さ」にはまた多くのバリエーションがあると思うのです。

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「クリ」の謡は春夏に着る、明るい彩りで模様もあるちょっと華やかな服。

「サシ」は秋冬に身につける少し落ち着いた色使いの服。

「クセ」は派手すぎない上品な和服。

というイメージでしょうか…。

そして「イロエ前」と「序之舞前」の謡は繊細な、例えれば”フォーマルなドレス”という雰囲気だと思います。

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…かえってわかりにくいかも知れませんが、明日の京大の「杜若」では、「色々な種類の綺麗さ」を舞台上で表現してもらえたらと思います。

2019年最後の五雲会

昨日は京大稽古の後に最終の新幹線で東京へ。

そして今日は午後から水道橋宝生能楽堂にて開催された「五雲会」に出勤いたしました。

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私は能「融」の地謡を勤めました。

いつもながら、この「融」という曲の完成度の高さには感銘を受けます。

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特に”田子”という潮を汲む桶を扱うシテの所作と、その”田子”の舞台上での形態変化は、何度見ても目を奪われてしまいます。

いつか演じてみたい曲です。

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この「融」の地謡で、今年の私の宝生能楽堂での舞台は全て無事に終わりました。

ちょっと気が早いのですが、来年まで会わない楽師達に「良いお年をお迎えください!」

と挨拶して能楽堂を後にしました。

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そしてその足で東京駅に向かい、京都への新幹線に乗りました。

明日は朝から香里能楽堂にて「関西宝生流学生能楽連盟自演会」です。

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関西宝連の学生さん達は今頃、ドキドキしながら明日の準備をしていることでしょう。

どうか良い舞台になりますように。

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私も京都に着いたら早く休んで明日に備えたいと思います。

今年を締め括る関西宝連

今日は昼間に「ゲストハウス月と」にて紫明荘組稽古、夕方から京大宝生会稽古でした。

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京大宝生会は、明後日15日に香里能楽堂にて開催の「関西宝連」前の最後の稽古になります。

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明後日の「関西宝連」は今年の締め括りの舞台です。

思えば今年は、5月の「第120回記念京宝連大会」、6月の「全宝連京都大会」、そして能「竹生島」を出した11月の「京大能楽部 能と狂言の会」と、例年よりも大きな舞台が続いた年でした。

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その最後を飾る舞台、そして卒業生にとっては現役最後の舞台でもあります。

少しでも良い仕舞と謡になるように、終電ギリギリまで稽古しました。

現役達はまだ稽古を続けていることでしょう。

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明後日は、阪神宝連から能「加茂」が出ます。

甲南女子大学と神戸大学が前と後の役を交代で勤めますが、神戸大学としてはおよそ50年ぶりの演能だそうです。

甲南女子大学は、おそらく初めての演能になるのだろうと思います。

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その記念すべき能「加茂」が成功するように、そして京大宝生会の皆が良い舞台を勤められるように、明後日は朝からしっかりとサポートしたいと思います。

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「関西宝生流学生能楽連盟自演会」

12月15日朝10時始曲 於香里能楽堂。

能「加茂」は一番最初に演じられます。

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皆様是非お越しくださいませ。どうかよろしくお願いいたします。

学生能のクラウドファンディング

先日の関宝連の時のブログには何通かのコメントをいただきました。

その中に、名古屋の学生能のための「クラウドファンディング」に関してのコメントがありました。

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クラウドファンディングという言葉は知っていましたが、意味はあまり理解しておりませんでした。

「寄付の新しい形かな?」

という程度です。

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とりあえずその名古屋の学生さんのクラウドファンディングのページにアクセスしてみました。

https://readyfor.jp/projects/gakuseinoh

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1000円〜30000円までの何段階かの金額で支援をお願いする、というもので、最初はやはり「寄付」みたいだなぁと思いました。

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しかし、金額毎に多岐にわたるコースを詳しく見てみると、様々な「御礼」を用意していることがわかりました。例えば…

・学生手作りの能解説本をプレゼント。

・学生連盟オリジナルグッズのプレゼント。

・特別席チケットプレゼント。

などに加えて最高級コースではなんと…

・学生連盟所有の着物を着ての記念写真撮影。学生が行ける所なら全国どこでも伺います!

という項目までありました。

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北海道や沖縄から撮影依頼されたら、採算取れないのでは…

と若干心配もしてしまいましたが、私には名古屋の学生さん達の「心意気」が大変好ましく感じられました。

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ただ寄付を募るのではなく、「学生能」という立場で出来る最大限の御礼を、皆で考えて用意したのでしょう。

その意気に感じて、私もほんの僅かながら支援をさせていただきました。(もちろん撮影は無しのコースです)

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今回のクラウドファンディングが成功すれば、全国の学生能にとっても良いモデルケースになるに違いありません。

クラウドファンディングのやり方、苦労した点、また問題点など、名古屋の学生さんに詳しく聞いてみたいと思いました。

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しかし先ずは、来年2月8日に名古屋能楽堂で開催される「学生能・狂言の会」での能「羽衣」が良い舞台になるようにお祈りしております。

田町稽古場プチ発表会

今日は田町稽古場での忘年会がありました。

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例年は普通に稽古した後に忘年会なのですが、今年は初めての試みとして忘年会前に「プチ発表会」を開催いたしました。

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稽古場の和室を舞台に見立てて、1人ずつ5分程度の「独吟」もしくは「仕舞」を発表するのです。

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番組は、

独吟「草薙」、「氷室」、「紅葉狩」、「箙」、「海人」

仕舞「笹之段」

でした。

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普段稽古している和室で、稽古と同じ曲を僅か5分ほど発表する会です。

それなのに、皆さん大変な緊張感を持って臨まれているのが切実に伝わって来ました。

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この発表会のために稽古を積んで、無本で謡われた方も何人かおられました。

この「プチ発表会」のおかげで一人ひとりの実力がまたグンと上がったと感じられて、とても良い1年の締め括りとなりました。

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その後の田町駅前での忘年会は、「プチ発表会」の緊張感から開放されたこともあってか、皆さん実に楽しく盛り上がりました。

この田町稽古場プチ発表会は、今後も出来れば年に数回開催したいと思います。

松本リスタート

昨日は松本稽古でした。

先月の「松本澤風会」以来の稽古になります。

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いつも会が終わった直後の稽古の時には、

「果たして皆さん、また来てくださるだろうか…」

とちょっと不安になったりします。

会で燃え尽きて、お休みになってしまう人がいるかも…などと考えてしまうのです。

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しかし松本稽古場に関しては、それは全くの杞憂でした。

昨日もほぼいつも通りのメンバーで、中でも先日の会で”初舞台”を踏まれた6人が全員揃って元気にいらしてくださったのが有り難いことでした。

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そして全員が新しい仕舞を決めて、それぞれの仕舞を私が舞って録画してもらいました。

10番くらい謡いながら舞って、正にてんてこ舞いの状態でした。

しかし皆さん、実にやる気に満ち溢れた視線と姿勢で私の舞をじっと見つめておられます。

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その”やる気”がまた有り難いことだと思い、稽古にも一層熱が入ってちょっと暑いくらいでした。

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そう言えば、松本も今冬は暖かいようです。

稽古場への行き掛けに、松本駅前の居酒屋さんでこんな光景を目にしました。

完全屋外の「こたつ席」。これは初めて目にするタイプの席です。

「こういう席でおでんと熱燗なども良いかも知れないな…」などと一瞬思いました。

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とは言え本当に寒さが厳しいと、いくら何でも耐えられないでしょう。

これも今年の暖冬を物語っているのだろう…と思って通り過ぎたのでした。

酉年生まれというだけで…

昨日は宝生能楽堂にて開催の「月並能」で能「頼政」の地謡を勤めました。

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そして終了後に、在京の「酉年生まれ」能楽師の食事会に参加いたしました。

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これまで「午年生まれ」と「亥年生まれ」の能楽師の集まりはありましたが、酉年の会は今回が初めての開催です。

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シテ方、大鼓方、小鼓方、太鼓方、狂言方など10数名が四ツ谷のお店に集まりました。

魚料理がものすごく美味しいお店でした(鳥は共喰いになるので避けたのですが、途中結局”地鶏炭火焼”が出て来ました。。もちろん美味しくいただきました)

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同じ酉年生まれの能楽師がこんなにたくさんいらしたとは、嬉しい驚きでした。

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また酉年というだけで妙な親近感が湧いてくるのが不思議です。

初めてお話する観世流シテ方の先生などとも、すぐに打ち解けて色々なお話を伺うことができました。

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私は能楽師同志の集まりにはこれまで殆ど縁が無かったのですが、この「酉年の会」には次回以降も是非参加させていただきたいと思います。

酉年楽師の皆様、特に幹事の方どうもありがとうございました。

4件のコメント

初めての関宝連

今日は水道橋宝生能楽堂にて「関東宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されました。

私は初舞台の「日本女子大学」と「自治医科大学」の付き添いとして参加いたしました。

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全くキャラの異なるこの2校。

パワフルでどこか豪快な自治医大と、

折り目正しくお淑やかな日本女子大です。

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しかし今日はこの2校が協力し合い、また東大宝生会の皆さんのお力もお借りして、初舞台の仕舞と素謡を全て無事に終えることができました。

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私は「関宝連」のことをもう遥か昔から知っていましたが、まさか自分自身が参加することになろうとは…!

つい1年前までは思いもよらないことでした。

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今日一日で、関西とはまた違う関宝連の雰囲気を体感してとても興味深く思いました。

そして京大宝生会からも大勢が観に来てくれて、関宝連の学生さんと楽しく交流していたようです。

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今回はお客様の人数が前回から倍増していたということで、とても賑やかだった関宝連。

来春には日本女子大と自治医大ともに新入生を増やして、関宝連をますます賑やかに出来ればと思います。

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そして京大宝生会など関西の学生達との繋がりもますます密になっていくと、色々と面白いことになりそうです。

新しい縁がたくさん結ばれて、未来への予感に満ちた関宝連の一日でした。

ひたすらに歩くこと

今日は夜に渋谷のセルリアン能楽堂にて「渋谷能 第七夜」に出演いたしました。

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今回はシテ方五流が舞囃子を一番ずつ出すという大変面白い企画でした。

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金春流「高砂 舞序破急ノ伝」

観世流「屋島」

金剛流「雪 雪踏之拍子」

宝生流「安宅」

喜多流「猩々乱」

というラインナップです。

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異流合同の舞台は度々あります。

しかし今回演目を舞囃子だけに絞ることで、流儀間の違いがより鮮明に見えた気がいたします。

ワキ謡を誰が謡うか、というのにも流儀の主張が感じられたりして、色々大変興味深く拝見いたしました。

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「安宅」の地謡では、やはり同世代の他の流儀に負けないようにと気合いが入りました。

お客様の感想など聞いてみたいものです。

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話題は全くガラリと変わってしまうのですが、私は先日の「満次郎の会」で今年最後のツレが終わって以来、ひたすらに歩いております。

今日は水道橋宝生能楽堂から渋谷セルリアン能楽堂まで歩いてみました。

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来年春に能「兼平」のシテがあるので、それまでに”勝修羅”のような強い身体になりたいと思うのです。

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それならば効率的に筋トレをするべきなのでしょう。

しかし私は、「歩く」という単純な行為がとても好きなのです。

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知らない道を歩きながら、無心になったり色々なことを考えたりします。

今週はこれまでに京都と東京の街を合計80㎞ほど歩いて、たくさんの風景に出会いました。

これから春まで、色々な土地をひたすらに歩いて身体を鍛えたいと思っております。