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ダイヤと砥石

「3月9日」という歌があって、確かPVの冒頭が卒業式のシーンでした。

卒業式というと私は東京芸大の卒業式を思い出します。

と言っても話は卒業式では無く、入学式における学長の言葉から始まるのです。

ややこしい話ですみません。

東京芸大入学式の時に学長は、短い祝辞に続いて少々意外なお話をされました。

「諸君の中で本当に才能あるダイヤモンドは1%です。ではその他の99%はどうすれば良いかと言うと、4年間そのダイヤモンドを磨く為の石になってください。」

新入生の間で小さなどよめきが起きました。

私も「うーむ」と唸ったと思われます。

聞いたままの話だと、卒業生のうちの1%しかモノにならない事になってしまいます。

では例えばお互いに切磋琢磨させる為に仰ったのだろうか…?

その場では答えが出ませんでした。4年間経ったら何かわかるのだろうか?学長の話はそれからの4年間ずっと頭の片隅にありました。

そして卒業式。

壇上で何か賞を貰っている人達を見ながら、「あの人達がダイヤモンドだったのだろうか。」と考えて見ました。客席に座っている我々は全員砥石だったのだろうか?

しかしやはり確実にそうとは言えない気もして、結局モヤモヤしていたのが東京芸大卒業式の思い出なのです。

特にオチのある話では無くて恐縮なのですが、自分は砥石なのかダイヤ成分もちょっとはあるのか、という命題はその後も今に至るまで私の中の何処かに残っています。

死後に評価される画家なども多いので、答えは生きている内には出ないのかもしれません。

しかし卒業式シーズンになると、このダイヤと砥石の命題はあの卒業式の時のモヤモヤ感と共に浮かび上がってくるのです。

合宿

京大宝生会の合宿が今日まで京都大原で行われ、私は仕舞の指導で参加いたしました。

6日間で謡5曲の鸚鵡返しと、仕舞を1人2番覚えるのがノルマです。

特に謡の鸚鵡返しが大変で、昨日も最後の人が終わったのは深夜1時過ぎの事でした。

朝から晩までひたすら稽古で、上回生が下回生に鸚鵡返しをするのですが、ありがたいことにOBOGも沢山応援に来てくれました。

皆声を枯らして、長時間の正座での膝の痛みに耐えながらの合宿です。

しかも現役達は、大原から午後に京大に戻ってからおそらく今も、稽古した5曲を役を決めて謡う「謡納(うたいおさめ)」をやっている筈です。

厳しい合宿ですが、皆明るく乗り切ってくれました。

この成果は5月と6月の学生自演会で発揮されることになります。

舞台出演予定をご覧いただき、どうか自演会にいらしていただければと思います。

花粉症…。

昨日今日と、杉に囲まれた所におりました。

私はアトピー体質で、花粉症もあります。

しかも薬というものを滅多に飲まず、花粉症対策もマスクくらいしかしていません。

なのでこの季節に杉の近くに行くと、くしゃみが止まらない事もあります。

しかし常々不思議に思うことがあるのですが、舞台上でくしゃみをしたくなった事が一度も無いのです。

また舞台でくしゃみをした人も今まで見た事が無い気がします。

これはどういう身体のメカニズムなのでしょうか?おわかりの方がいらしたら教えていただきたいです。

今日は短くてすみませんがこの辺で。

稽古を再開すること

昨日の崇寶会で、初めてお会いすると思われる若い会員さんが2人いました。

どうも学生上がりみたいなのですが、失礼ながらちょっと見覚えがない感じです。。

舞台の後の宴会でのお2人の挨拶を聞いて謎が解けました。

やはり同志社さんと京女さんの宝生会出身の人達だったのです。

しかし、1人は大学時代に2年間だけ宝生会に在籍して一度やめていたそうで、もう1人も卒業後は実家に帰って稽古はしていなかったそうです。

それが最近また稽古を再開して、復帰後の初舞台が昨日だったようなのです。

これはとても素晴らしい事だと思います。

稽古を途切れなくずっと続けるのはなかなか難しい事です。色々な事情で一度やめてしまう人の方が多いくらいです。

それでも何年か経ってまた再開して貰えたら、それも稽古を続けている事になると思うのです。

不思議な事に、中断期間があってから再び稽古する人は、以前よりも癖が無くなって良い謡や型になっている事もあります。

しばらく稽古から遠ざかっている方も、この春を機に再び初めてみては如何でしょうか?

我々能楽師にとって、それは本当に有り難く嬉しいことなのです。

足が遠のいている方も、どうか本当にいつでもお気軽に、稽古場に再び顔を見せてくださいませ。

大歓迎いたします!

崇寶会に行って参りました

今日は渋谷のセルリアン能楽堂にて、山内崇生先生の御社中会の第23回崇寶会が催されました。

初舞台の方から大ベテランの方まで、皆さん賑やかに精一杯舞台を勤められました。

第23回というのは、私の澤風会からすると遥かな先の話です。

先輩の会に参加させていただくと、運営や会員の皆さんの様子など、色々ととても参考になって有り難いです。

私の会の第4回澤風会東京大会はこの3月25日の朝10時より、神楽坂の矢来能楽堂にて催させていただきます。

今日の会を参考にして、良い舞台になるように頑張りたいと思います。また番組などアップさせていただきます。

つくしとスギナ茶

一昨日の木曜日に行った亀岡で、今年初めてつくしを見つけました。

ちょっとわかりにくいですが、中央付近に2本だけ生えています。まだこれから沢山出てくるそうです。

私が子供の頃には、郷里の三重県久居の田圃の畦道に山ほどつくしが生えていて、家族で採りに行ったものです。

各々が大きな袋一杯に採って帰って、広げた新聞紙の上で袴をとる作業を皆でしました。

本当に山のようにあったつくしが、煮ると嘘みたいに小さくなってしまうのが不思議でした。

一方、今日は松本稽古でしたが、稽古場でお弟子さん手作りのスギナ茶が出ました。

スギナ茶は、ミネラル豊富でデトックス効果もあるお茶だそうです。

スギナとつくしは同じ根から生える植物です。木曜日と土曜日でつくしとスギナ両方に出会うのも珍しいと思い、この植物を調べてみる事にしました。

するとちょっと意外な事がわかりました。

スギナは「トクサ綱トクサ目トクサ科トクサ属の植物の1種」だそうなのです。

「木賊(とくさ)」は難曲で知られる能です。しかし季節は秋の曲なのです。

つくしは春の代名詞になっているのに、木賊に限りなく近い種なのですね。

ちなみに狂言には春の曲で「土筆」という微笑ましい内容の曲があります。

子供の頃に食べて以来久しく忘れていましたが、あの苦い味のつくしを久々に食べてみたくなりました。

幼稚園能楽教室

今日は千葉県柏の幼稚園で能楽教室をやって来ました。この幼稚園ではもう7、8年前から続く教室です。

幼稚園というと、能楽教室を開催する年齢としては最年少です。1時間集中力を切らさずにやってくれるか、ちょっとドキドキしながら教室に向かうと…

「あ〜❗️侍だ‼️」「でもチョンマゲしてない〜❗️」好奇心のカタマリの子供達48人に出迎えられました。

始めてみると今年の子供達はとても優秀でした。

例えば悲しみを表す型「くもる」をやってみると、ちゃんとゆっくりと上体を倒して、笑わずにじっと止まって(意外と途中で笑ってしまう子供が多いのです)、またゆっくりと上体を起こして終わってくれるのです。

質問コーナーでは、いつも何故か出る「好きな果物はなんですか?」という質問に続いて、「どうして扇を挿しているのですか?」と言ったなかなか高度な質問も出ました。

また能面を顔にあてる体験では、「視界が狭くて見えにくいでしょう?」と聞くと意外な事に「見える〜!」「見えるよ〜!」と言う子供が多かったのです。

今年の子供達は能楽師向けかもしれないです。

最初と最後には正座して、正式な礼もきちんと出来ました。

一番最初に能楽教室を体験した子供達はもう中学二年生になるそうです。

この先の日本を背負っていく子供達に、少しでも素晴らしい日本文化を身につけていってほしいものです。

桃の節句と西王母

明日3月3日は桃の節句、雛祭りの日ですね。

桃の節句は能とどう関わりがあるのかを、ちょっと調べてみました。

桃が出てくる能と言えば「西王母」です。

実は西王母の誕生日が3月3日だそうなのです。

古代中国では3月3日に、御祓をした人型を川に流し、また邪気を祓う桃の枝を飾ったそうです。

この行事が日本に伝来して宮中行事の「曲水の宴」になり、奈良時代以降やはり3月3日に行われました。

西王母のキリの部分に「曲水の宴」という文句もあります。

3月3日を「桃の節句」と言うのは、西王母と深く関わりがあると思われます。

また現在のように雛人形を飾るようになったのは江戸時代以降との事です。

七段飾りのある御宅は少なくなってしまったと思いますが、三段目に飾る「五人囃子」とは能楽を演ずる楽師の事なのです。

並び方は能舞台における囃子方、地謡方の並びと同じです。五人囃子は西王母を演奏しているのかもしれないですね。

明日は雛人形の前で、「手まずさえぎる曲水の宴かや♪」と西王母を謡うのも良いかもしれません。

ただし能楽愛好家の女子限定ですが…。

3月になりました。

今日から弥生、3月です。

つい先日行った亀岡では、福寿草が咲いていました。

この時は曇り空で花が閉じていましたが、日が差すとみるみる花が開くそうです。

もう春だなあと思っていたら、今日行った北の町では…
駅前にこんな雪だるま(?)の力作が!

私の首丈までの大きさです。雪だるまというより、むしろ大阪のビリケンさんに近い気がします。。
こちらは高さ30センチの可愛い正統派。

東北はまだまだ冬なのでした。

日本は広いです。

マナーモード

私は乗り物の中でも良く寝られるのが特技のひとつです。

ところが昨日の早朝に乗った新幹線で仮眠していると、誰かの携帯の着信音で目が覚めました。

iPhoneの、ちょっと祭り囃子風のコミカルな着信音です(わかりますかね?)。

ずいぶん長く鳴ってから切れました。やれやれと思っていると、なんとこれが数分置きに断続的に繰り返されるのです。

持ち主は私の斜め前にいる茶髪の中年男性で、何故なのか決して電話に出ようとしません。見かねた近くの人が「マナーモードにしてよ」と言っても、これまた何故か無視しています。

ついに京都まで一睡も出来ませんでした。。

これも困った事でしたが、能楽堂での着信音はもっと深刻です。

5年前の事ですが、私の道成寺の披きの時に、乱拍子の最中に着信音が鳴りました。

乱拍子は無音の空白の時間が大切なので、これは全く参りました。

それ以来、自分がシテで無くても例えば石橋の「露ノ手」の所などでは「ここで携帯が鳴ったらどうしよう…」とドキドキしてしまいます。

ひとつの舞台はシテの稽古の積み重ねと、ワキ方、囃子方、狂言方、後見、地謡のそれぞれの力の発揮と、楽屋での見えない沢山の作業によって成り立っています。

それらの繊細な努力が、携帯着信音ひとつで崩れ去ってしまうことがあるのです。

これは能楽師にとっては実に怖ろしい事なのです。

お気に入りのメロディを着信音にするのは素敵な事だと思いますが、どうか能楽堂ではマナーモードにしていただくように、くれぐれもお願い申し上げます。

あと新幹線でも。