奇妙な孤島の物語
最近読んだ本の中で、不思議な話がありました。
1979年2月にハワイ沖で、乗組員5名の小さなボートが嵐のために行方不明になりました。
10年近く後、その「サラ・ジョー号」の残骸が3600キロも離れたマーシャル諸島の無人の環礁で発見され、しかも残骸の横には簡易なお墓があって、乗組員の1人スコット・モーマンが埋葬されていたというのです。他の4人の行方は杳として知れませんでした。
とても想像力を掻き立てられる話です。
「奇妙な孤島の物語」という題名の本なのですが、驚くのはこの本の作者は一度も行ったことのない50の孤島の話を書いていて、それぞれが上の様な不思議な余韻を残すエピソードなのです。
この本の持つ雰囲気が能楽に通じると私は思いました。
・自らが体験したのでは無い話を、主に伝聞を基に物語にしている。
・全てを説明せずに、読者に想像力を働かせる余地を多分に残している。
・歴史に埋もれて忘れ去られた人物や、名も無い市井の人々に光を当てて、そこにも壮大な物語があることを教えてくれる。
普段は文庫本しか読まないわたしですが、この大判ハードカバーの本は毎日少しずつ大事に読んでいます。
ニュージーランド沖の無人島で、ペンギンの大群に囲まれて行方不明になった兵士は、その後どうなったのか。
10数人の男だけが暮らす、インド洋に浮かぶ絶海の孤島の観測所で、それでも彼等が感じている自由とは一体どんなものなのか。
そしてサラ・ジョー号の4000キロ近くにわたる漂流の旅路と、5人の乗組員の運命。
今夜も能を観るように「奇妙な孤島の物語」を少しだけ読んで、一生行かないであろう海の彼方の孤島のドラマを想像しながら、休もうと思います。