自治医大宝生会の謡納

昨日は下野の自治医大キャンパスでの自治医大宝生会の「謡納」に行ってまいりました。

試験や実習で多忙な日々を送る自治医大生、12月は特に忙しかったようで、今月初旬に宝生能楽堂で開催された「関宝連」にも出演が叶いませんでした。

その代わりの舞台という意味もある今回の謡納です。

番組は、学生達の仕舞「高砂」「竹生島」「花月キリ」「箙」「殺生石」

と、素謡「鶴亀」「加茂」。

そして最後に番外仕舞「右近」鶴田航己と「葵上」澤田宏司。

もちろん附祝言もありです。

こんな感じのホッコリとした予定表を送ってもらい、私と鶴田航己君は午後から参加しました。

15時頃に自治医大に到着すると、先ずは普通の仕舞稽古です。

何しろ師匠稽古は夏合宿以来という人もいるので、謡納本番前の突貫工事的な稽古でした。

しかし学生達は稽古動画などでできる限りの自主稽古をしてきてくれたので、非常に飲み込みが早く順調に稽古が進みました。

予定を少し遅らせて、16時半からいよいよ謡納スタート。

今回は私と鶴田航己君も仕舞地に入り、皆今年習った仕舞を頑張って披露していきます。

今年3月の東京澤風会、6月の金沢全宝連、11月の松本澤風会などの舞台の有様が思い出されて、とても感慨深い仕舞でした。

続いての素謡は学生だけで謡ってもらいました。

今年入部した新人2人がシテワキを勤めた「鶴亀」と、上回生3人がシテワキツレを勤めた「加茂」。

どちらも良く声がでており、特に「加茂」の上回生3人はそれぞれが以前聴いた時よりも明らかに大きな声になっており驚きました。

まさに今年1年の活動の成果を体感できた自治医大宝生会の「謡納」でした。

そして番外仕舞の後に全員で「千秋楽」を謡って締めました。

仕舞「高砂」が出ているので、本来なら千秋楽ではない祝言を謡う決まりです。

しかし「千秋楽」をまだ知らない学生がいたので、この機会に覚えてほしいと謡納の前に稽古したのです。

無事に謡納を終えた自治医大宝生会ですが、もう一つ大切な予定がありました。

6月の全宝連金沢大会の後に「全宝連打ち上げ」と称して宴会をした小山駅近くの「遠囲屋」という居酒屋さんで、謡納の打ち上げをすることになっていたのです。

これは全宝連打ち上げの時に店主のトーイさんと約束したことで、皆で自治医大から小山に移動して盛大に宴会しました。

謡納、宴会ともに素晴らしい内容で、これを今後毎年の行事として続けていってもらいたいと思います。

自治医大宝生会の皆さん今年も1年お疲れ様でした。ありがとうございました。

広範囲に離れても

夏にスマホを新しくしたところ、ブログに写真がアップできなくなってしまいました。

何度か試行錯誤してもどうにもならず、困ったなあと思っているうちにカレンダーは早くも12月…。

このままブログが滞ってしまうのも心苦しいので、当面は写真なしの文章だけのブログにさせていただきたく思います。

今年も実に盛りだくさんの出来事がありました。

思いつくままにいくつか書いて参ります。

先ず今年は、「遠くに離れても稽古を続けてくれる人」が多い年でした。

春に自治医科大学宝生会から3人の学生が卒業して、それぞれ秋田、群馬、鳥取で研修医としての多忙な新生活を始めました。

普通に考えれば、全国に散らばった3人が稽古を続けるのは非常に困難です。

それでも、彼らは何とか稽古を続けたいと言ってくれました。

そこで「zoom」を使ってのリモート稽古を提案してみました。

3人の予定が合いそうな週末の夜に、月に一度、1時間ほどzoomに集まって謡の稽古をするのです。

4月から早速始めて、全員揃わない月もありますが今のところ月1回のペースを維持して稽古できています。

仕舞も自治医大宝生会の合宿の時などに集中して稽古して、来年3月の澤風会郁雲会を目指してくれています。

リモート画面上ではありますが、3人が全国から集まって少し近況なども話しながら稽古するのはとても楽しい時間です。

また東京神保町稽古場で稽古していた国家公務員の京大若手OGさんは、夏に青森に転勤になりました。

やはり稽古は難しいと思われましたが、私は一応青森に月に一度稽古に行っておりました。

また青森には私の同期の京大ベテランOGさんもいて、その人が色々手配してくれたおかげでこちらも月1回のペースで稽古が継続できそうです。

更に、神保町稽古場で昨年まで稽古していて、今はオランダで暮らしている京大若手OBさんがいます。

京大宝生会同士で結婚して、奥さんと一緒にオランダにいるのです。

その彼がこの9月に一時帰国した際に、1人の見学者を連れてきてくれました。

何と奥さんの高校時代の同級生だというのです。

驚いて奥さんの方にメールして聞いてみたところ、オランダから早速返信が来ました。

「彼女は中学生の時に”古典芸能への招待”を見ていたそうで、また元弓道部員で体幹も強いので是非にと稽古に誘ってみたのです」

なるほど。

オランダの若手OBOG夫婦は来春帰国予定だそうで、帰国したら一緒に稽古したり舞台で共演するのを楽しみにしているとの事でした。

秋田、群馬、鳥取、青森、さらにオランダ。

これだけ広範囲に散らばった人達と、縁が切れずに稽古を続けていけるのは本当に嬉しくありがたいことです。

こういった縁の繋がりを大切にしていきたいと思います。

全宝連金沢大会が無事終了いたしました

昨日一昨日と石川県立能楽堂にて開催された「全国宝生流学生能楽連盟自演会金沢大会」は、期待した通りの、いえ期待以上の熱く充実した素晴らしい舞台でした。

書くことが無限にあってまだ頭の整理がつかないのですが、思いついたことから書いて参ります。

京大宝生会は初日に仕舞8番と素謡「巴」、

2日目に新入部員の仕舞1番と舞囃子「胡蝶」

でした。

初日の素謡「巴」は、入ったばかりの新入部員3人を加えた総勢10人での舞台でした。

4回生がいない状況でしたが、2.3回生が新入部員を本当によく稽古しており、新入部員達も大きな声を出してちゃんと戦力になっていました。

往年の京大宝生会の素謡の声量が完全に復活したと感じられて、謡の質と共に過去の先輩達の「巴」と肩を並べる良い素謡でした。

2日目の舞囃子「胡蝶」は、当日朝に申合で数時間後に本番というハードなスケジュールでした。

しかしシテも地謡も実に落ち着いており、稽古でやった事が細部まできちんと発揮されていて安心して観ていられました。

自治医大は上級生2人、新入部員2人での参加でした。

上級生の仕舞「加茂」「殺生石」は共に地謡が1人だけという大変な状況でしたが、どちらの地謡も1人という事を全く感じさせない声量と気迫で、観ていて胸が熱くなりました。

また京大、自治医大併せて3人が仕舞の初舞台でした。

3人とも本番ギリギリまで、先輩達と型や作法の確認をしていて、こちらにも緊張感がヒシヒシと伝わってきました。

その甲斐あって、本番はほぼ無事に終わって申し分ない初舞台でした。

また今回の全宝連では、全国の学生達全体のレベルが非常に向上していると感じました。

仕舞地は5人ほどで大迫力で謡う学校があり、また少人数でも気合いの入った地謡もありました。

京都女子大の仕舞「羽衣」は、去年入部して京女宝生会を復活させた先輩がシテで、その地謡を今年入ったばかりの1回生が3人で力を合わせて懸命に謡っていてこれも胸が熱くなる舞台でした。

全国で何人か突出して上手いと思うシテもいて、全宝連は今上昇気流に乗りつつあると思います。

来年は東京大会が宝生能楽堂で開催される予定です。

それぞれの学校に帰ってまた1年間研鑽を積んで、来年は更にレベルの高い熱い舞台が見られることでしょう。

最後に金沢大会の運営に携わった実行委員の皆様、細やかな運営のおかげさまで2日間円滑に舞台が進行したことを心より感謝申し上げます。

9年ぶりの全宝連金沢大会

明日6月28日と明後日29日、金沢の石川県立能楽堂にて「全国宝生流学生能楽連盟自演会」が開催されます。

全宝連が9年ぶりに金沢に戻ってくるのです。

前回の金沢大会は2016年。

その後に東京、名古屋、京都と巡って2020年に金沢に戻るはずの全宝連は、コロナ禍で中止になりました。

翌2021年に、全国から集めた動画を配信する形で「オンライン全宝連」が金沢大会として開催されたのです。

前回2016年に金沢大会に参加した京大宝生会の学生達は、今や全国のみならず全世界に散ってそれぞれ研修医や僧侶や、公務員や会社員となって人生を歩んでいます。

この9年の間に、京大宝生会もコロナ禍で部員が激減して存続の危機に直面しました。

しかしそれを乗り越えて新しいメンバーが増えて、今回も10人ほどの部員が仕舞、素謡、舞囃子で賑やかに参加します。

今日京大能楽部BOXで最後の仕上げ稽古をして、明日の早朝に皆で金沢に向けて出発することでしょう。

そして2016年には存在すらしなかった「自治医科大学能楽部宝生会」は、今年入った新入部員も含めて4人で初めての金沢にやってきます。

前にも書きましたが、2016年に京大1回生として金沢大会に参加した1人の青年が、その後自治医大に転学してたった1人で立ち上げたのが自治医大宝生会なのです。

この9年間の激動の時期を経て、全国からまた学生達が石川県立能楽堂に集まってくるのは実に感慨深いです。

明日明後日の全宝連金沢大会が良い舞台になるように、私も精一杯のサポートをしたいと思います。

自治医大宝生会の未来

今日は自治医大能楽部宝生会の稽古に行って参りました。

今日の稽古場所は部室棟のエレベーターホールです。

そこに縦長のシートを3枚敷いて舞台にするのが自治医大流です。

足袋を履いて早速稽古の準備をしていると…

新入生「あ、どうもこんにちは」

私「おお!こんにちは。澤田と申します。よろしくお願いします!」

そうなのです。自治医大宝生会にはつい先日、1年生と5年生の2人の新入部員が入部したのです。

先ほど挨拶した人は1年生で、間も無く5年生もやってきました。

彼らとの初めての稽古になります。

先ずは先輩達も一緒になって、

構え、運び、サシ、巻きザシ、仕掛け、ヒラキ、左右、カザシと基本の型を稽古して行きます。

その後で1年生は「紅葉狩」、5年生は「鶴亀」の仕舞を稽古しました。

2人とも素直な型で、中々に良い筋をしています。

引き続き謡も「鶴亀」を稽古しました。

こちらも、難しい発音の「ノム」という謡かたなども2人ともすんなりとこなしていて、やはり良い資質を持っていると感じました。

先輩達3人も、今週末に開催される「関宝連」を控えて仕舞「嵐山」「加茂」「殺生石」と、素謡「加茂」をみっちりと稽古しました。

6年前に京大宝生会から自治医大に転学したたった1人の青年が、入学してすぐに立ち上げた自治医大能楽部宝生会。

その青年を含めた6年生達が3月に卒業して、この先は「第二世代」が自治医大宝生会の新しい歴史を作っていくのです。

今日は新人2人を含めた5人の部員を稽古しました。

それぞれが直向きに稽古に取り組んでおり、また私が直した部分を一生懸命に修正している姿を見て、自治医大宝生会の未来には希望が持てると確信しました。

今後何十年も続く宝生会になるように、私も精一杯頑張って稽古をしていきたいと思います。

自治医大の新歓スタートしました

今日は自治医大宝生会の新歓でした。

自治医大宝生会はこの3月に3人がめでたく卒業して、地元の秋田、群馬、鳥取でそれぞれ研修医として働き始めました。

残った現役は3人です。

新歓でできるだけ多くの新しい部員を獲得したいところです。

今日は寮内の和室に仕舞扇や能面を並べて、私がその前で謡をひたすら謡い、和室の前を通る関心を持っていそうな新入生を部員が勧誘する、という作戦でいきました。

すると謡い始めてすぐに、2人の新入生が和室に入ってきたのです。

これは幸先が良いです!

体育会系の男の子2人で、最初は能面に興味があるという話でした。

能面の解説から始めてなんとか型の体験に持っていき、「構えの手の握りは、小指に力を入れて親指は力を抜くようにします。これは剣道の竹刀を握る時も言われる事ですね」

と言ったら、ひとりの男の子の目がパッと輝いたのです。

「自分は野球をやるのですが、バットの握りも同じなのです!」

そこからは2人とも能楽に引き込まれたようで、私が高砂の仕舞を舞うと熱心に見入っていました。

新入生「今は色々本当に忙しくて、サークルを決める余裕がないのです。でも落ち着いたらまた見に来たいです!」

はい、是非是非!

今日は入部には至りませんでしたが、昨日の食事会にも何人か来てくれたようで、今年の新歓は良いスタートです。

自治医大宝生会は例年部員が入るのはゆっくりなので、焦らず着実に新歓活動を進めたいと思います。

最初の関宝連、最後の関宝連

一昨日の金曜日には自治医大稽古に行って参りました。

来週23日に宝生能楽堂にて開催される

「関東宝生流学生能楽連盟自演会(関宝連)」

に向けての仕上げの稽古です。

3週間にわたる卒業のための長い試験を終えたばかりでやや疲弊気味の6年生、実習や解剖などで遅くまで来られない下級生など、やはり自治医大の皆さんは医師を目指しての過酷な日々を送っているようでした。

しかしその中でも、自主稽古はきちんとしてくれていたようです。

今回の関宝連が初舞台となる1年生の仕舞「鶴亀」を稽古してみると、前回よりも格段に上手くなっていました。地謡との合わせもバッチリです。

「鶴亀だいぶ稽古したんだね!」

と言うと、シテも地謡も

「はい!」

と胸を張って即答でした。

また6年生にとっては最後の関宝連になります。

仕舞「歌占キリ」と「紅葉狩」。

こちらは先輩らしく、高い完成度で仕上がっていました。

他にも4年生の仕舞「東北クセ」と、2年生が初めて”地頭”を勤める全体連吟「鶴亀」など、3時間ほどかけてゆっくりじっくり稽古しました。

自治医大稽古では、途中で医学部特有の話題で盛り上がったりするので面白くて勉強になります。

今回は「肺から出る血管を覚えるための体操」という話で盛り上がっていました。。

初舞台の1年生から最後の関宝連の6年生まで、忙しい中でも一体感を持って楽しく稽古している自治医大能楽部宝生会です。

来週の関宝連の舞台に期待したいと思います。

稽古を終えて外に出て驚きました。

かつて見た事の無いほど濃い”夜霧”であたりが煙っていたのです。

写真では今ひとつ伝わりませんが、実際のグラウンドの光景は、濃い夜霧に照明があたってとても幻想的でした。

2024年夏の自治医大合宿

皆様 お久しぶりでございます。

猛暑と仕事の山場が続いて、ブログをお休みしておりました。

松本城薪能の能経政シテや、七葉会などのいくつかの大きな舞台がおかげさまで無事に終わりました。

そして今週は自治医大宝生会の夏合宿に行って参りました。

場所は奥日光の中禅寺湖畔にある自治医大の研修施設です。

研修施設に到着すると…

なんと熊さんのポスターがお出迎えです。。

最近は全国的に熊の出没が増えているようです。

幸い合宿中に遭遇することはありませんでした。

春の自治医大合宿では何人かの部員が体調不良でお休みだったのですが、今回は新入生も含めたフルメンバーが参加してくれました。

京大若手OBの2人も参加して、私を含めて総勢9人という過去最多人数の賑やかな合宿になりました。

謡「黒塚」と、各自一番ずつの仕舞、そして自治医大にとっての”初舞囃子”を目指して全員揃って「中之舞」を稽古しました。

新入生には少々情報量の多い合宿でしたが、

「夏の成果は秋に出る!」

という受験勉強のような格言を言って励ましながら、なんとか全員が目標の稽古をクリア出来ました。

最終日には中禅寺湖から更に奥の「湯ノ湖」や「戦場ヶ原」まで足を伸ばして観光しました。

上は部員が撮影した「湯ノ滝」です。

実に涼やかです。

実際に真夏の奥日光は涼しくて、なんと2泊3日の間はエアコン無しで過ごせたのです。

稽古、食事、観光ともに誠に充実した合宿でした。

2024年夏の素晴らしい思い出として、部員達の心に刻まれた事でしょう。

もちろん私の心にも。

自治医大の自由な稽古

今日は久しぶりの自治医大宝生会の稽古でした。

先月の「全宝連」以来の稽古で、当初の予定では8月にある夏合宿に向けて、とりあえず仕舞と謡の曲を決めて、少し稽古を始めてみようかという話でした。

しかし稽古の中で、「実は10月の文化祭で何か仕舞を出したいのです」という話が出て、見栄えが良くストーリーもわかりやすいものを、と考えて「経政キリ」はどうかという話になりました。

まだクラブとして若い自治医大宝生会では、経政キリのように扇を2本使う「二本差し」という仕舞は未経験の部員が殆どです。

そこで今日は、1年生から6年生までとにかく全員で「経政キリ」をみっちりと稽古することにしました。

一本の扇は刀に、もう一本は盾に、という二本差しの基本がやはり難しいようで、皆それぞれ苦労して扇を扱っていました。

しかしなんとか頑張って、数時間の稽古で全員が一応ひと通り経政キリが舞えるようになりました。

自治医大宝生会はこのように、歴史が若い分、自由な稽古形態がとれます。

夏合宿では、今度は全員で「中之舞」をマスターするという稽古もしてみたいと思っております。

お祭りを終えて

全宝連京都大会から1週間と少し経ちました。

あの舞台では、みんな春先からの稽古の成果を遺憾なく発揮してくれました。

そしてそれからの1週間の間に早くも、京大と自治医大から「夏合宿のご案内」というメールが届きました。

京大からは、「秋の京大能楽部自演会の舞囃子のご相談」というメールも来て、既にシテと候補曲も決まっているようでした。

お祭りのような大きな舞台を終えて、この先は合宿と稽古で地力をつけて、また次の大きな舞台へのチャレンジが始まるのです。

…しかし、学生さん達はその前に大変な実習や前期試験などが待っているはずです。

とりあえず学業のヤマを越えて無事に夏休みが迎えられるように祈っております。