サンタンカの見える部屋で

私の92歳になる父親は、先月に少し体調を崩して、今は三重県久居の実家からほど近い介護施設で過ごしています。

昨日も久居まで会いに行って参りました。

実家の膨大な父親の蔵書の中から、リクエストのあった本を持っていくようにしています。

昨日は岩波文庫の「唐詩選・上中下」

の3冊を持っていきました。

父親の部屋に着くと、ベッドから降りて車椅子に座っており、傍らのテーブルには数枚のスケッチが置いてありました。

野菜や花などの小さなスケッチです。

「唐詩選」を手渡すと、「これは楽しみだねえ」と喜んでくれました。

父親は日々読書やスケッチをして静かに過ごしているようでした。

よく陽の当たる部屋で、窓の外にオレンジ色の綺麗な花がたくさん咲いているのが見えます。

これは中国原産の「サンタンカ(山丹花)」という花だそうで、中国の伝説からその名がとられたようです。

沖縄でよく咲いているらしく、そういえば窓の外が何となく南国風に感じられました。

すでにサンタンカもスケッチしたようで、次に行く時には駅前の花屋で何本か、スケッチ用の花を見繕って行こうかと思います。

3日分歩きました

普段から歩ける限りは徒歩で移動するのを心がけています。

今はちょうど暑くも寒くもないので、歩くには絶好の季節です。

しかし一昨日の松本、昨日の青森と強い雨に降られてほとんど歩けませんでした。。

今朝は青森の宿を出ると雨が止んでいたので、3日分を取り戻そうと、思い切って青森駅から新青森駅まで歩いてみました。

およそ1時間の距離です。

新青森から仙台に移動して、仙台駅から稽古場の東北大学近くの公民館までも往復歩いたので、月曜火曜を足したよりも長く歩けて大満足でした。

途中で紫色の綺麗な花を見かけて、ラベンダーかと思って調べたらどうも違うようでした。

人の家のお庭に咲いていたので写真も撮れず…

色々調べて近そうなのが、

「セイヨウジュウニヒトエ」

という花でした。

確かに紫色の派手な見た目は、「十二単衣」を西洋風にした感じでした。

今度見かけたら何とか写真を撮ってみたいものです。

明日からは暫し東京なので、初夏の都内をどんどん歩こうと思います。

「ほおり」と「ホーリー」

昔「井筒」の謡を初めて辰巳孝先生に稽古していただいた時の事です。

シテ謡の出だし「暁ごとの閼伽の水」

で、「閼伽(あか)」はなんの事か知ってるかい?

と先生に聞かれたのです。

もちろん当時は知らず、「いえ、わかりません」と即答しました。

すると先生は、

「閼伽は元々は”アクア”と同じ語源だよ。だから”閼伽の水”というのは本当はおかしいんだ。”水の水”になってしまうからね」

と仰いました。

謡本の中の言葉とラテン語が同じ語源とは新鮮な驚きでした。

その後も「鳥居」の語源がストーンヘンジの三角柱”トリリトン”であるという説を歴史ミステリーの本で読んだりしました。

今では、意外な語源に繋がっていそうな日本語を見つけると、つい色々と語源を想像して楽しんでしまいます。

今日これを書いたのは、昨日松本稽古場で「三輪」の謡稽古をした時に、やはりそんな言葉があったからです。

「三輪」後場の最初の地謡に、

「ただ祝子が着すなる」

という言葉が出てきます。

“祝子”は”ほおりこ”と読み、「神職」を意味するそうです。

そして「holy」という英語は、名詞だと「聖人、聖者」を意味するのです。

“ほうり”と”ホーリー”

もちろん全く関係ない言葉なのでしょうけれど、響きと意味がこれほど似ていると、もしかしたら同じ語源かも…

あるいは、「神聖なる存在」を「ホーリ」と呼びたくなる、何らかの理由があるのだろうか…

などと想像して、ひとり楽しい気分になってしまうのです。

免許更新に行って参りました

今月は誕生月で、5年ぶりに免許更新に行って参りました。

内弟子を出てから運転することがめっきり減っております。

今では1年のうちで松本澤風会翌日の観光ドライブだけしか運転しない年があるくらいです。

以前は江東運転免許試験場に更新に行って、かなり時間がかかったと記憶しています。

しかし前回から近所の下谷警察署で更新できるようになり、また今回から事前予約制になったので待ち時間がほぼ無くなりました。

14時10分からの予約で、視力検査、写真撮影、講習など諸々終えて新しい免許を受け取るまでに1時間もかかりませんでした。

講習の時には講師の方から、

「5年後の講習はおそらくウェブ講習になるので、こうやって皆さんで映像をみるのは最後だと思います」

と言われて、こういう風に時間が短縮されていくのは大変良い事だと思いました。

運転回数は減りましたが、5年後もゴールド免許で更新できるように安全運転を心掛けて参ります。

大仁稽古場への坂道

今日は伊豆の大仁稽古でした。

大仁稽古場へは、伊豆箱根鉄道の「田京」という駅を降りて、東へ向かって山を登って行きます。

中々の急坂です。

途中で振り返ると…

伊豆長岡の「葛城山」が見えます。

ロープウェイもあるこの山は、御釈迦様が寝ているようにも見える事から「寝釈迦山」とも呼ばれるとか。

坂道自体は車道ですが、道の両側は緑に覆われており、鶯の囀りや蛙の合唱を聴きながら登っていくのは「放下僧クセ」のような風情でとても良い気分です。

遠くには薄っすらと富士山の影も見えます。

この急坂を10分程登ると稽古場の公民館があります。

急坂の先の稽古場と言えば「大山崎稽古場」の「宝寺」に向かう坂道が思い出されます。

(2017年2月20日のブログにこの坂道の事を詳しく書きました)

しかし実は宝寺は現在本堂などの改修工事中で、もう1年以上あの長くて急な坂道を登っていないのです。

何かちょっと寂しい気がして、早くまたあの急坂を登って大山崎稽古に行きたいと願っております。

外国人旅行者向けの古着物屋さん

昨日は午後に京都で時間があり、大きめのトートバッグが必要だったので探す事にしました。

寺町か新京極あたりにカバン屋さんがあるかと思い行ってみました。

するとカバン屋さんよりも先に目についたのが「古着物屋さん」でした。

以前は無かった場所に、男性用の着物もたくさん揃っているお店が何軒も出来ているのです。

男性用の古着物は意外に珍しいので、嬉しくなって覗いてみました。

3000円くらいの良いのがあれば、買ってみても…と思って安そうな着物の値札を見て仰天しました。

「10000円」

なんと、それは高過ぎるでしょう…

他の店でも、やはりいかにも安そうな古着物が

「3枚15000円」

とかで売られていました。

良くみれば、店の中にいるのは外国人ばかりです。

「そうか、インバウンドの外国人旅行者向けの古着物屋なのか」

と納得しました。

しかしこの高額な値段設定は驚きました。

心配になったのは、昔からある安い古着物屋さんまで、外国人向けに値上げしていないかという事です。

昨日は時間がありませんでしたが、今度は昔からのお店を覗いてみようかと思います。

ちょっと値札を見るのが怖いですが…

稽古の栄養補給

私は稽古中には、可能な限り飲食はしないのが好みです。

食べ物は食べた後に思考力が低下して、身体も重くなって、舞や謡がしんどくなるような気がするのです。

飲み物はほぼコーヒーだけです。コーヒーは少しずつ飲むとその度に頭が冴える気がします。

しかし稀に稽古中に栄養補給したくなる時もあります。

今日は昼過ぎの12時半頃から夜の21時まで、延べ40人以上の仕舞、舞囃子、謡の稽古をぶっ通しでしました。

夕方頃に燃料切れの感じになり、出されていた食べ物の中から「ゼリー状の栄養補給飲料」をいただきました。

色々と強烈な栄養素が入っていたようで、しばらくすると身体が燃焼している感じがして、残りの稽古を乗り切る事が出来ました。

しかし、私が稽古中にあまり食べないのは、「稽古が終わって帰宅してから食べるご飯を美味しくいただくため」という理由もあるのです。

今日も稽古を終えて三ノ輪の自宅に帰ると、ゼリー飲料の燃料もちょうど切れていて、晩御飯をしみじみと美味しくいただく事が出来ました。

特に先日松本稽古でいただいた小田原の「金目鯛の揚蒲鉾」が最高の美味しさでした。

明日の舞台を頑張るための万全の栄養補給になりました。

明日も頑張ります!

昭君の偽似顔絵

今何ヶ所かの稽古場で「昭君」の謡を稽古しております。

王昭君は似顔絵師に賄賂を渡さなかったために酷い顔に描かれてしまい、匈奴の国に送られる事になります。

しかし本当の昭君は中国4大美人(西施、貂蝉、楊貴妃、王昭君)のひとりとされる絶世の美女です。

私は非常に無粋なことなのですが、この昭君が酷い顔に描かれたという「偽の似顔絵」が見たいと思い、色々と探してみました。

昭君の謡の中に「今頃は昭君は、あの”偽の似顔絵”のように憔悴した面持ちになっているだろう」という文句があり、その”憔悴した面持ち”がどのようなものか確認してみたかったのです。

…結果的には、昭君の”憔悴した似顔絵”は全く見つかりませんでした。

昭君は例外なく超絶美人に描かれていたのです。

これは昭君が人々に愛されていたという事なのでしょう。

しかし、やはり”偽の似顔絵”も、できる事ならば見てみたいものです。

もしそれらしい絵をご存じの方は教えてくださいませ。

どうかよろしくお願いいたします。

採れたてアスパラガスと老舗お味噌

昨日は松本稽古でした。

北アルプスの麓でハーブ作りなどをされている松本澤風会会員さんご夫婦が、今回は「アスパラガス」を持って来てくださいました。

大人の指程の太さのとても立派なアスパラガスが10本ほど。

私「これはどちらで採れたものですか?」

会員さん「うちで採れたものですよ。少し茹でてそのまま食べてください」

なんと、自家栽培の採れたてアスパラガスとは大変美味しそうです。

東京に帰ってから早速食べてみることにしました。

シンプルにアスパラガス、味噌、マヨネーズです。

実はちょっと調べたら、「アスパラガスは茹でても良いけれど、電子レンジ500Wで2〜3分チンすれば栄養素が逃げずに全部食べられる」とあったのでその通りにしてみました。

そして写真右手の”味噌”。

これはただのお味噌ではないのです。

やはり松本澤風会の会員さんに、松本城下で天保3年(1832年)創業の老舗味噌屋「萬年屋」の若おかみさんがいらっしゃいます。

この「萬年屋」のお味噌は、現代では省略されている「味噌玉造り」という工程を守り続けており、それが深い味わいを出しているという大変美味しいお味噌なのです。

この製法はなんと1300年前から続くものだそうです。

能楽がまだ黎明期だった頃から、現代まで綿々と受け継がれた製法。何かとても親近感を覚えます。

私も一度食べたらその深い味に他のお味噌が物足りなくなり、定期的に購入しております。

採れたての自家製アスパラガスと、昔から変わらない伝統製法で作られた老舗のお味噌の組み合わせです。

もちろん最高の味わいで、大地の恵みを余すところ無くいただいて大満足でした。

昨日はまた「小田原の蒲鉾」も頂戴して、こちらは今夜のお楽しみにしたいと思います。

稽古曲の記録手帳

一昨日の亀岡稽古の時のことです。

亀岡稽古場では、今月初めに大きな舞台が無事に終わりました。

なので一昨日は皆さん新しい仕舞を考える回でした。

まだ初めて年数が少ない方はすぐに曲を思い付くのですが、ベテランの方は曲選びが難しいのです。。

長く稽古されている方の前で、

「うーん、何にしましょうか。もう大抵の仕舞はやったことがあるのでは…」

と困った声で言ってみたところ、その方が

「あの、私これまで稽古した曲は全部手帳に書いてあるのですがご覧になりますか?」

おお、それは大変ありがたいです!

是非、と言って手帳を見せていただきました。

手帳の2ページにわたって几帳面な字で最初に稽古した曲から最新の曲までが網羅されています。

その方とのこれまでの稽古の記憶も蘇って来て、とても懐かしい気持ちになりました。

ザッと見てみると、意外に稽古していなかった曲があることがすぐにわかりました。

「”井筒”はまだ稽古されていないのですね?」

「はい!」

「それは意外でした。では井筒にしましょう!」

とすぐに曲を決めることができました。

私自身が全く几帳面で無いのでお願いできた義理では無いのですが、このようにご自分の稽古曲を記録しておいてくださると大変有り難いとしみじみ思ったのでした。