たった1500m…?

昨日のブログで「中国では春節には30億人が大移動します」と書いたら、「13億人の間違いでは?」とのお問合せをいただきました。

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すみません説明が足りませんでした。

「延べ人数で30億人」が確かに大移動するそうです。

しかしやはりこれはある意味で不可解な数字です。

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仮に中国の全人口が電車で往復しても26億人の筈なのです。

1人で何度も移動する人もいるという事でしょうか…?

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因みに能楽で中国を舞台とした曲の中には、やはり荒唐無稽としか言いようの無い表現がよく出て来ます。

その最たるものは能「咸陽宮」だと思います。

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「そもそもこの咸陽宮と申すは、都の周り一万八千三百余里」と謡われていますが、キロに直すと約8万km。

これは地球2周分になってしまいます。

「内裏は地より三里高く」。つまり標高差12000m。言うまでもなく、地上最高峰エベレストは標高8848mです。

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それは幾ら何でも盛り過ぎだろうと思っていたら、実は中国の一里は500mなのですね。

なんだそれなら高さはたった1500mじゃないかと一瞬思ったのですが、考えたらスカイツリーの高さが634mでした。やはり咸陽宮、あり得ない高さです。。

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しかし春節の延べ30億人大移動が現実の事である以上、能楽における荒唐無稽な描写もあながち否定できないような気がして参りました。。

旧正月の神事

今日から2月になりました。

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日本の旧正月、中国で言うところの春節が近づいたということで、中国では帰省ラッシュが始まったそうです。

中国の帰省ラッシュは、鉄道で「30億人」が移動すると聞きました。

30億人の大移動。全く想像が追いつかない数字です。。

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「旧正月」の日付は毎年変わるようで、何回聞いても覚えられないのですが、アジアの多くの国々などではこちらの旧正月の方を盛大にお祝いするのですね。

1月1日は世界共通のお正月だと、子供の頃は疑いも無く思っていたのですが、正に「井の中の蛙大海を知らず」だった訳です。

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そして日本でも明治維新前までは旧暦で正月を祝っていたのです。

前にもちらっと書きましたが、能楽の中にも「旧正月」が重要な要素となる曲があります。

北九州門司にある、関門海峡に面した「和布刈神社」において、旧暦大晦日から旧正月の未明にかけて行われる秘密の神事を描いた「和布刈」という曲です。

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この曲は現在では新暦に合わせて12月に演じられることが多い曲です。

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しかし現在も続いている「和布刈の神事」は、実は毎年旧正月の未明に行われているのです。

今年の和布刈の神事は2月15日夜から2月16日未明にかけて行われるそうです。

なので、本当は2月の舞台で演じられても良い曲だと思います。

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因みに、読み方が難しい曲のひとつです。

和布刈。どうか調べてみてください。

どうしても解らない方は、お問合せフォームでお問合せくださいませ。

スーパー・ブルー・ブラッドムーン

今日は「皆既月食」が見られる日です。

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携帯ニュースでは今回の皆既月食を「スーパー・ブルー・ブラッドムーン」という、何かの必殺技みたいな名前で呼んでいました。

また大袈裟な呼び方を…と思ったら、これは正式に使われている呼称だそうです。

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ただし、3つの呼称が重なっているのです。

・スーパームーン:地球に接近して大きく見える月。

・ブルームーン:満月のこと。

・ブラッドムーン:皆既月食で赤くなった月。

そして今日の皆既月食は、実に35年ぶりにこの3つの条件を全て満たしているそうなのです。

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東京は夜には雲が出るという予報でしたが、先ほど田町稽古を終えて外に出てぐるりと夜空を見渡すと、見事な満月が輝いていました。

時間は20時45分。まさにこれから月食が始まる時間です。

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一旦地下鉄に乗り、三ノ輪で皆既月食を見ようと思いました。

雲が出ないように祈って三ノ輪で地上に出ると…

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見えました!三ノ輪は雲ひとつない夜空でした。

写真には上手く写りませんが、左下から欠けて来ています。

しばし寒さに耐えて見ていると、ついに21時50分過ぎに皆既月食になりました。

これまたわかりづらい写真ですが…

先程の写真よりも赤っぽいのはおわかりかと思います。

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能楽に「月」はよく出て来ます。

というより、「月」という単語が一切出てこない曲を探す方が難しいくらい、頻繁に出てくるのです。

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現代のように明かりに溢れた夜ではなく、中世の夜は真っ暗闇だった筈で、月の明かりはとても貴重なものだったのでしょう。

それが、満月の夜に1時間足らずで急に月が暗赤色になって、辺りが暗くなるなどという現象は、当時はおそらく非常に恐ろしい事件だったと思われます。

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これだけ「月」がよく出てくる能楽に、「月食」を示すような内容が無いのは、おそらく月食は不吉な現象と見られていて能楽の題材には適さないと思われたからではないでしょうか?

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現代の私はと言えば、35年ぶりという天体ショーを見られて大満足で、「自分は今、太陽と月を結んだ直線上に丁度いるのだなあ」などと感慨にふけっているのでした。

1㎞を30分かけて歩くこと

東京に33年振りの低温注意報が発令されたと携帯ニュースで読みました。

33年前というと私が中学生の頃で、実はその年の寒かった冬には思い出があるのです。

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確かその冬の東京には今年どころではない大雪が降って、積雪が40㎝くらいになったことがありました。

道路一面が厚い雪で覆われて、車はチェーン、自転車は走行不能です。

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私の中学校の校庭も勿論一面の銀世界になりました。

毎日昼休みには校庭で遊ぶのが楽しみだったのですが、その日の4時間目が終わると校内放送がありました。

「今日は東京地方では珍しい大雪で、校庭に40㎝ほど積もっています。」

声は、理科の菊地先生の声でした。私の所属する科学部の顧問の先生でもあります。

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私はそこまで放送を聞いて、当然「今日は昼休みに校庭に出るのは禁止します。」と続くと思いました。

ところが続けて菊地先生は、「このような機会は滅多にありません。皆さん是非校庭に出て遊びましょう!」と仰ったのです。

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一瞬教室が静まりました。皆私と同様に、言葉の意味を咀嚼するのに少し時間がかかったのです。

やがて皆一斉に「おお〜‼︎」と歓声を上げて、校庭に飛び出して雪合戦や雪だるま作りを始めました。

後にも先にも、都内であれ程の雪遊びをした経験はありません。

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菊地先生には、色々な大切なことを教えていただきました。

毎年夏に本栖湖畔であった合宿では、我々科学部は昆虫採集や山野草の標本作り、野鳥観察などをする為に毎日野原を歩きました。

その時に菊地先生は「1㎞30分のペースで歩こう」と指示されたのです。

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これは相当にゆっくりしたペースです。

しかし、辺りの自然を観察して何か目についたものを皆に知らせ、一緒に観察するには丁度良い速さだったのです。

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私が今でも道を歩く時に、つい辺りを見回して面白い物事を探してしまうのは、この頃に身についた習慣だと思われます。

1㎞を30分かけてのんびり歩くことは、めっきり少なくなりましたが…。

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今日は全く能楽に関係無いお話でした。

偶にはこんな日もあると御容赦くださいませ。

ムーミン雪だるま

今朝携帯でニュースを見ると、「京大センター試験会場にムーミン多数出現」という謎の見出しが。

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??と思って本文を見ると、昨日のセンター試験で地理の問題に「ムーミン」が出て話題になり、おそらくそれを知った京大生が昨夜のうちに試験会場前に雪で「ムーミン雪だるま」を多数作っておいた、ということのようです。

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…。

いかにも京大生がやりそうなことです。

「面白いけど、アホやなぁ…」とか、「暇やなぁ、寒いのに…」と言った月並みな感想しか出てこなかったのですが、ふと考えてみると、「多数のムーミン雪だるま」が出現可能な程、昨夜雪が降ったのですね。

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昨日香里能楽堂で七宝会を終えて、17時半くらいに能楽堂を出た段階では全く雪は降っていなかったので、夜に入って急に強く降ったのでしょう。

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受験生の皆さんは、今年も雪の中で大変だったと思います。

無事にセンター試験が終わっていると良いです。

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因みに私は、京大受験の時は共通一次試験、東京芸大受験の時にセンター試験を受けました。

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センター試験の時は、住民票を左京区にしていた為か、幸運にも京大が試験会場でした。

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朝早く起きて先ず「高砂」を待謡から謡って気合を入れてから、自転車で京大に向かった記憶があります。

なのでその年は雪では無かったのでしょう。

会場の教養学部A号館の教室に入ると、試験官が見覚えのある教官で、一瞬怪訝そうに見られたのも覚えています。

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毎年のことなのですが、昨日今日とセンター試験を受けた受験生の中には、この春に京大宝生会に入部してくれる人がいる筈なのです。

どうか二次試験も良いコンディションで迎えられるように祈っております。

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そして無事京大に入学して、宝生会に入部してくれたあかつきには、「ムーミン雪だるま」の話など出来ると良いと思います。

昨日の反省…

昨夜のブログで「金沢では冬に稲妻が光る」と書いたら、その直後のニュースで「金沢でテレビ塔に落雷があり、放送が中断した」ということを聞いて本当に驚きました。

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去年の冬に、青森の雪の大変さを知らなかった自分の無知を恥ずかしく思う、という内容のブログを書きました。

今回はまた北陸の冬の落雷の恐ろしさを知り、その後おそらく夜を徹して命懸けで修復にあたられたであろう関係者の御苦労を思い、「冬の稲妻が見てみたい」などと書いた己の無知を反省いたしました。

復旧作業が無事終わるよう祈っております。

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全く別の話題になってしまうのですが、今日の江古田稽古の終わりに母親から嬉しいニュースを聞きました。

何と日本女子大の母親の謡曲仕舞教室に、本日午後に学生が2人も入会したとのことなのです。

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早速「羽衣キリ」の仕舞を稽古したそうです。

とは言え、実はお2人とも四年生らしく、すぐに卒業してしまうということです。

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しかし彼女たちは3月2、3日の郁雲会も観に来てくれるそうなので、京大宝生会と日本女子大の学生との邂逅という楽しみが増えました。

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とても良い流れが来ているのは間違いないので、この春の新歓で三年生以下の学生が入ってくれる可能性は充分にあります。

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また今後の経過をご報告させていただきます。

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今日はまとまりが無くて恐縮ですが、これにて失礼いたします。

成人式の頃

今日は成人の日だったのですね。

しかし私は終日京都の稽古だったので、新成人らしい格好の人を見ること無く終わりました。

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私の成人式は遠い昔の話ですが、かすかに覚えております。

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練馬区民だった私は、「豊島園」という遊園地での成人式でした。

江古田駅から豊島園行きの西武池袋線に乗ると、如何にも新成人らしい若者たちが沢山乗っています。

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不意に「澤田くん!」と声をかけられて振り向くと、全然知らないキラキラした女性がいました。

こんなキラキラした知り合いがいたかな?と一瞬怪訝な顔をすると、女性は「開三中の○○です。覚えてる?」

なんと、振袖姿の中学校の同級生だったのです。

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同級生の女子はそれから豊島園でも何人か見かけましたが、ほぼ例外無く一目ではわからない程に綺麗に着飾っていました。

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一方で男子は、「おお!お前全っ然変わらんなあ。ちょっとは成長しろよ!」と声を掛け合う程に、代わり映えのしない奴らばかりでした。。無論私も含めて。

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成人式の頃は、私は大学一回生でした。

京大宝生会にもまだそこまでハマっておらず、将来は森や自然に関わる仕事がしたいと漠然と考えておりました。

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椎名誠さんや、カヌーイストの野田知佑さんの本を読んでは、1人で山を歩いたりキャンプをすることに最大の喜びを感じていました。

あれから色々な事があって、思えば遠くへ来たものです。

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今日成人式を迎えた皆さん、本当におめでとうございます。

人生を強引に京大宝生会四年間に例えてみると、新成人の皆さんはまだ一回生が終わった辺りですかね。

これまで稽古したのは基礎的な型や謡で、これからいよいよ自分のやりたい曲を、どんなに難しくても頑張って稽古していくのでしょう。

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…そう考えると、私は現在三回生の半ばくらいに相当します。

良い最上級生になれるかどうかは、今頃の稽古にかかっている訳ですね。

新成人の皆さんに負けないように、頑張らなくては。

「アルファ能」は出来るか?

少し前に「アルファ碁」という囲碁のコンピュータプログラムが、人間の最強棋士に勝ったというニュースがありました。

そして今日見たニュースでは、そのプログラムの進化版「アルファ碁ゼロ」が出現したそうです。

「アルファ碁」は過去の棋士の対局データを参考にして強くなるソフトでしたが、「アルファ碁ゼロ」の方はなんと、「先人の知恵」を一切排除して、「自己対局」を500万回繰り返して学習し、結果「アルファ碁」との100番の対局に全勝してしまったというのです。

これは色々考えさせられるニュースでした。

昔から綿々と続いて来た対局の積み重ね、その棋譜を勉強することで新しい戦法を磨いて来た歴史、そう言ったものが「アルファ碁ゼロ」の前では全く無意味なことになってしまうのです。

これが他の様々な分野に応用されていくと、やがて人間の居場所は無くなってしまうのでは、というSFのような心配をしてしまいます。

しかし「能楽」に関して考えてみると、「自己対局のみによる最強化」というのは不可能ではないでしょうか。

正しい型付、正確な地拍子、美しく聴こえる謡の声の周波数、といったものをインプットして、「あとは自分ひとりで稽古しといてね」と放っておいても、「味のある舞台」というものは出来ないのではないかと思います。

同じ時代にたまたま居合わせた手練れ同士が、舞台上で時には互いに自己主張し、時には相手の間合にあわせて、微妙な均衡の元に創り上げる熱い舞台。

そういったものには、まだ人工知能の入り込む余地は無いのではないでしょうか。

また個人的には囲碁や将棋においても、やはり生身の人間同士の対局にはその棋士の「人生」や「人となり」が反映されて、そこに勝敗を超えた面白味がある気がします。

「能楽師」には個性が強烈な人が多くて、たまに往生する時もありますが、その「人間臭さ」が舞台には必要であるが故に、能楽はこの先もAIに道を譲ることは無いのだろう、「アルファ能」は生まれないのだろうと思うのです。