大仁稽古場への坂道

今日は伊豆の大仁稽古でした。

大仁稽古場へは、伊豆箱根鉄道の「田京」という駅を降りて、東へ向かって山を登って行きます。

中々の急坂です。

途中で振り返ると…

伊豆長岡の「葛城山」が見えます。

ロープウェイもあるこの山は、御釈迦様が寝ているようにも見える事から「寝釈迦山」とも呼ばれるとか。

坂道自体は車道ですが、道の両側は緑に覆われており、鶯の囀りや蛙の合唱を聴きながら登っていくのは「放下僧クセ」のような風情でとても良い気分です。

遠くには薄っすらと富士山の影も見えます。

この急坂を10分程登ると稽古場の公民館があります。

急坂の先の稽古場と言えば「大山崎稽古場」の「宝寺」に向かう坂道が思い出されます。

(2017年2月20日のブログにこの坂道の事を詳しく書きました)

しかし実は宝寺は現在本堂などの改修工事中で、もう1年以上あの長くて急な坂道を登っていないのです。

何かちょっと寂しい気がして、早くまたあの急坂を登って大山崎稽古に行きたいと願っております。

第17回関西宝連のお知らせ

来る5月26日(日)13時より香里能楽堂にて、

「第17回関西宝生流学生能楽連盟自演会」

が開催されます。

これは「第17回阪神宝生流学生能楽連盟自演会」と、

「第129回京都宝生流学生能楽連盟自演会」

を合わせた催しです。

今年は各学校とも新入生が入ってくれたようで、新しい顔ぶれをたくさん見ることができそうです。

なにより大きなニュースがあります。

「京都女子大学宝生会」

が3年ぶりに新入生を迎えて復活したのです。

この4月の新歓イベントで石黒実都師とOGが力をあわせて仕舞を出した結果、その舞台に心を動かされた新入生が入部したいと言ってくれたそうなのです。

しかも聞けばとても真面目で稽古熱心な新入生だそうです。

過去に何度も能を出した事もあり、歴史ある「京都女子大学宝生会」を、何とかまた盛り上げていってほしいです。

京大宝生会も新入生がシテワキを勤める素謡「鶴亀」などが出るので、今週はきっと毎日空き時間に稽古している事でしょう。

もちろん上回生の舞台や、最後には指導する能楽師の番外仕舞もあります。

皆様香里能楽堂にて5月26日(日)13時開演の「関西宝連」に是非ご来場くださいませ。

よろしくお願いいたします。

外国人旅行者向けの古着物屋さん

昨日は午後に京都で時間があり、大きめのトートバッグが必要だったので探す事にしました。

寺町か新京極あたりにカバン屋さんがあるかと思い行ってみました。

するとカバン屋さんよりも先に目についたのが「古着物屋さん」でした。

以前は無かった場所に、男性用の着物もたくさん揃っているお店が何軒も出来ているのです。

男性用の古着物は意外に珍しいので、嬉しくなって覗いてみました。

3000円くらいの良いのがあれば、買ってみても…と思って安そうな着物の値札を見て仰天しました。

「10000円」

なんと、それは高過ぎるでしょう…

他の店でも、やはりいかにも安そうな古着物が

「3枚15000円」

とかで売られていました。

良くみれば、店の中にいるのは外国人ばかりです。

「そうか、インバウンドの外国人旅行者向けの古着物屋なのか」

と納得しました。

しかしこの高額な値段設定は驚きました。

心配になったのは、昔からある安い古着物屋さんまで、外国人向けに値上げしていないかという事です。

昨日は時間がありませんでしたが、今度は昔からのお店を覗いてみようかと思います。

ちょっと値札を見るのが怖いですが…

成長した2回生

今日は京大稽古でした。

次の日曜日26日に迫った「関西宝連」に向けての稽古です。

思えば昨年の今頃は、4回生1人と新入生6人という布陣でした。

OGさんの力を借りての地謡でしたが、仕舞も謡も初舞台が6人という大変な状況で、現役もOGさんも本当に良く頑張ってくれました。

あれから1年。

今年は現役2回生がそれぞれ力をつけて、仕舞地謡はお互いに地頭を交代して2回生だけで謡っていました。

入ってすぐの今年の新入生はこの関西宝連では素謡「鶴亀」だけで、仕舞の初舞台は6月末の「全宝連京都大会」になります。

現役が1、2回生だけという状況なので、今しばらくはできるだけ2回生に負担がかかり過ぎないように活動していってもらいたいと思います。

おそらく来年あたりには、また全盛期に近い部員数になっているでしょう。

その頃にはおそらく久しぶりの「能」も視野に入って来るだろうと期待しております。

薪御能の「附祝言」

昨日の興福寺薪御能は、金曜日土曜日と2日間開催の2日目で、我々宝生流の能「鉄輪」が最後の演目でした。

番組の最後に「附祝言」と書いてあります。

長い催しの最後には附祝言を謡うことがありますが、薪能で謡うのは割合に珍しい事です。

宝生流だけの催しでは無いので、一番メジャーな附祝言である高砂「千秋楽」を謡う事になりました。

しかしこのような玄人が舞う舞台での”附祝言”

にはちょっと難しい要素もあります。

終わったばかりの演能のせっかくの余韻が壊れてしまう恐れがあるのです。

なので、このような時の附祝言は、シテが幕に入りかけて、ワキが横板で幕に向いたくらいのタイミングで謡い始める事が多いです。

昨日は最後の演目が「鉄輪」だった事もあり、附祝言の「千秋楽」もあまり明るくなり過ぎないように、ちょっと控えめに、でも目出たく終わるように、加減して謡わせていただきました。

鉄輪の”負のエネルギー”…?

今日は午前中に水道橋宝生能楽堂にて定期公演の能「忠度」地謡を勤めて、その後すぐに奈良に移動して、夜に興福寺薪御能の能「鉄輪」地謡を勤めました。

この「鉄輪」はとても恐ろしく、シテからは強い「負のエネルギー」のようなモノが放射されているのを感じます。

その負のエネルギーはあまりに純度が高いので、それがかえって”美しさ”にまで昇華して、観る人を魅了するのだと思うのです。

この鉄輪の”負のエネルギー”がちょっと実感できる出来事がありました。

私は普段から「袖珍小謡本」という4分の1サイズの小さな謡本を持ち歩いています。

宝生流の全ての曲が一番ずつ分冊になっている本で、「和綴じ」です。

この「和綴じ」に使われている糸は非常に丈夫で、滅多な事では切れたりしません。

ところが何故か「鉄輪」の小本の糸が、購入して割と早い時期に切れてしまったのです。

ちなみにもう1冊、和綴じの糸が早くに切れてしまったのが「通小町」なのです。

こちらもやはり”負のエネルギー”が強い曲です。

私の小本はもう25年以上使っておりますが、そのうちで、糸が切れたのはこの「鉄輪」と「通小町」の2冊だけなのです。

単なる偶然なのでしょうけれど、私は「鉄輪」の小本の切れた糸を見るたびに、何となく”負のエネルギー”を感じて薄ら寒くなってしまうのです。

稽古の栄養補給

私は稽古中には、可能な限り飲食はしないのが好みです。

食べ物は食べた後に思考力が低下して、身体も重くなって、舞や謡がしんどくなるような気がするのです。

飲み物はほぼコーヒーだけです。コーヒーは少しずつ飲むとその度に頭が冴える気がします。

しかし稀に稽古中に栄養補給したくなる時もあります。

今日は昼過ぎの12時半頃から夜の21時まで、延べ40人以上の仕舞、舞囃子、謡の稽古をぶっ通しでしました。

夕方頃に燃料切れの感じになり、出されていた食べ物の中から「ゼリー状の栄養補給飲料」をいただきました。

色々と強烈な栄養素が入っていたようで、しばらくすると身体が燃焼している感じがして、残りの稽古を乗り切る事が出来ました。

しかし、私が稽古中にあまり食べないのは、「稽古が終わって帰宅してから食べるご飯を美味しくいただくため」という理由もあるのです。

今日も稽古を終えて三ノ輪の自宅に帰ると、ゼリー飲料の燃料もちょうど切れていて、晩御飯をしみじみと美味しくいただく事が出来ました。

特に先日松本稽古でいただいた小田原の「金目鯛の揚蒲鉾」が最高の美味しさでした。

明日の舞台を頑張るための万全の栄養補給になりました。

明日も頑張ります!

昭君の偽似顔絵

今何ヶ所かの稽古場で「昭君」の謡を稽古しております。

王昭君は似顔絵師に賄賂を渡さなかったために酷い顔に描かれてしまい、匈奴の国に送られる事になります。

しかし本当の昭君は中国4大美人(西施、貂蝉、楊貴妃、王昭君)のひとりとされる絶世の美女です。

私は非常に無粋なことなのですが、この昭君が酷い顔に描かれたという「偽の似顔絵」が見たいと思い、色々と探してみました。

昭君の謡の中に「今頃は昭君は、あの”偽の似顔絵”のように憔悴した面持ちになっているだろう」という文句があり、その”憔悴した面持ち”がどのようなものか確認してみたかったのです。

…結果的には、昭君の”憔悴した似顔絵”は全く見つかりませんでした。

昭君は例外なく超絶美人に描かれていたのです。

これは昭君が人々に愛されていたという事なのでしょう。

しかし、やはり”偽の似顔絵”も、できる事ならば見てみたいものです。

もしそれらしい絵をご存じの方は教えてくださいませ。

どうかよろしくお願いいたします。

採れたてアスパラガスと老舗お味噌

昨日は松本稽古でした。

北アルプスの麓でハーブ作りなどをされている松本澤風会会員さんご夫婦が、今回は「アスパラガス」を持って来てくださいました。

大人の指程の太さのとても立派なアスパラガスが10本ほど。

私「これはどちらで採れたものですか?」

会員さん「うちで採れたものですよ。少し茹でてそのまま食べてください」

なんと、自家栽培の採れたてアスパラガスとは大変美味しそうです。

東京に帰ってから早速食べてみることにしました。

シンプルにアスパラガス、味噌、マヨネーズです。

実はちょっと調べたら、「アスパラガスは茹でても良いけれど、電子レンジ500Wで2〜3分チンすれば栄養素が逃げずに全部食べられる」とあったのでその通りにしてみました。

そして写真右手の”味噌”。

これはただのお味噌ではないのです。

やはり松本澤風会の会員さんに、松本城下で天保3年(1832年)創業の老舗味噌屋「萬年屋」の若おかみさんがいらっしゃいます。

この「萬年屋」のお味噌は、現代では省略されている「味噌玉造り」という工程を守り続けており、それが深い味わいを出しているという大変美味しいお味噌なのです。

この製法はなんと1300年前から続くものだそうです。

能楽がまだ黎明期だった頃から、現代まで綿々と受け継がれた製法。何かとても親近感を覚えます。

私も一度食べたらその深い味に他のお味噌が物足りなくなり、定期的に購入しております。

採れたての自家製アスパラガスと、昔から変わらない伝統製法で作られた老舗のお味噌の組み合わせです。

もちろん最高の味わいで、大地の恵みを余すところ無くいただいて大満足でした。

昨日はまた「小田原の蒲鉾」も頂戴して、こちらは今夜のお楽しみにしたいと思います。

稽古曲の記録手帳

一昨日の亀岡稽古の時のことです。

亀岡稽古場では、今月初めに大きな舞台が無事に終わりました。

なので一昨日は皆さん新しい仕舞を考える回でした。

まだ初めて年数が少ない方はすぐに曲を思い付くのですが、ベテランの方は曲選びが難しいのです。。

長く稽古されている方の前で、

「うーん、何にしましょうか。もう大抵の仕舞はやったことがあるのでは…」

と困った声で言ってみたところ、その方が

「あの、私これまで稽古した曲は全部手帳に書いてあるのですがご覧になりますか?」

おお、それは大変ありがたいです!

是非、と言って手帳を見せていただきました。

手帳の2ページにわたって几帳面な字で最初に稽古した曲から最新の曲までが網羅されています。

その方とのこれまでの稽古の記憶も蘇って来て、とても懐かしい気持ちになりました。

ザッと見てみると、意外に稽古していなかった曲があることがすぐにわかりました。

「”井筒”はまだ稽古されていないのですね?」

「はい!」

「それは意外でした。では井筒にしましょう!」

とすぐに曲を決めることができました。

私自身が全く几帳面で無いのでお願いできた義理では無いのですが、このようにご自分の稽古曲を記録しておいてくださると大変有り難いとしみじみ思ったのでした。