あまねく会申合と満月

今日は午後から水道橋宝生能楽堂にて、11月4日開催の辰巳満次郎師のお社中会「あまねく会」の申合がありました。

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今回は京大宝生会OBの柴田昇先輩が能「班女」を舞われて、私は地謡を謡わせていただきます。

京大宝生会のOBの先輩方は、毎年必ずどなたかが能を舞われています。曲も難しいものばかりで、大変に見応えがあります。

今回の「班女」も素晴らしい仕上がりで、本番で地謡座から拝見するのがとても楽しみです。

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他にも舞囃子なども沢山出るので、皆さま是非11月4日には「あまねく会」にお越しいただければと思います。

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さて申合が終わって、先ほど20時頃に宝生能楽堂を出て宝生坂を登って家路につきました。

今日は夜空を見上げながら歩きました。

満月が見えないかと探していたのです。

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給水所公園まで来たところで、雲の切れ間から見え隠れする月を見つけました。

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先月の9月24日は「中秋の名月」でした。

私はその日は松本稽古の帰りに「一杯のワイン」をいただき、その後に乗った特急あずさの窓から名月を眺めたのです。

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そして今日の満月が「栗名月」という名前だと思っておりました。

栗名月が見られて良かった良かったと思いながら、一応と思って「栗名月」を調べたところ、なんと私の認識が間違っていることがわかりました。

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「栗名月」とは、「中秋の名月」の次の満月の直前、”十三夜”の月の事を言うのだそうです。

今年の栗名月は一昨日の10月21日。

つまり、松本澤風会の日の夜だったのです。

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そして私はその日、旅館”月の静香”の前に出て、澤風会に参加された何人かの方々とお月見をしていたのでした。

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「中秋の名月」と「栗名月」は、できれば両方とも見た方が縁起が良いそうです。

私は図らずも、どちらの名月も松本で見たことになります。

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ともあれ、今日の雲間から見える満月もとても綺麗です。

皆さまこれからでも、是非夜空を見上げてみられたら良いかと思います。

寒いので、くれぐれも暖かくしてお願いいたします。

松本澤風会無事終了しました

美ヶ原温泉の旅館”月の静香”大広間にて、昨日松本澤風会を無事に開催することができました。

小鼓方の住駒充彦さん始め、ご参加くださいました皆様誠にありがとうございました。

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松本澤風会は、来年で稽古開始から10年、再来年が第10回の舞台を迎えます。

最初の頃は仕舞と謡だけだった番組が、舞囃子、居囃子、独調なども増えて、多彩なものになりました。

また昨日は太鼓と小鼓、仕舞と笛、舞囃子シテと太鼓など、一人で複数回舞台に出る人が多くいらっしゃいました。

これはとても大変なことなのですが、どうかこれからも精力的に挑戦していただければと思います。

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一夜明けて今日は、京都や東京からいらした方々と紅葉狩に出かけました。

天気も良く、北アルプスの一足早い秋を満喫いたしました。

貴船神社の怖い思い出

今日は水道橋宝生能楽堂にて「五雲会」が開催され、私は能「鉄輪」の後見を勤めました。

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前シテは夜の京をヒタヒタと北へ歩いて、貴船神社へと丑の刻参りに通います。

女性の怨念がひしひしと感じられる、非常に不気味な雰囲気の”道行”謡です。

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今からもう8年ほども前のことになりますが、年末に貴船神社に詣でたことがあります。

大山崎のふるさとガイドでもある木村さんの案内で、半ば能「鉄輪」の取材のような貴船ウォーキングでした。

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クリスマスも終わった12月27日だったと記憶しています。

叡山電車の貴船口駅で降りて、くねくねした細い車道を登って貴船神社へと向かいました。

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辺りには意外にも人が多く、特に若い女性がひとりで歩いている姿が目立ちます。

「今流行りの”パワースポット”というやつだろうか…?」と思いながら、やがて貴船神社に到着しました。

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境内にもやはり結構人がいて、とりあえずお参りをした我々の横でも、手を合わせる女性がいます。

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お参りの後に、木村さんのガイドで境内を色々見てまわりました。

大阪湾から遡って来たという”磐船”などを見たりして、30分ほどゆっくりと境内で過ごした後に、「では帰りましょうか」と最後に辺りをぐるりと見回しました。

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そこで、「あれ?」と思いました。

何とも言えない異常な感じがしたのです。

もう一度見回した時、その違和感の原因に気づきました。

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先程30分前に我々がお参りした時に、横でお参りしていた若い女性。

彼女が先程と全く同じ場所で、同じ姿勢でじっと手を合わせているのです。

30分間も微動だにせずに、一体何を祈っているのか…?

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そう考えた時、行きの貴船口駅からの道を歩いていた沢山の女性のことが思い浮かび、背筋がスッと寒くなりました。

“パワースポット”などでは無く、彼女達はもっと切実で深刻な思いで貴船神社に詣でているのではないだろうか…。

それはまるでリアルな「鉄輪」のようだと思いました。

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能「鉄輪」の世界は、おそらく現代の京都にも、当時と同じように息づいているのです。

今日の舞台で”道行”を謡う前シテの後ろ姿を見ながら、あの時の怖さを思い出したのでした。

古民家の稽古場

今日は午前中から京都紫明荘組の稽古でした。

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今年から”紫明荘”が稽古場として使用出来なくなりました。

以来、いくつかのスペースを稽古場として試しに使っております。

今日はまた会員さんの紹介で、新しい稽古場所で初めて稽古をいたしました。

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東大路通と丸太町通が交わる「熊野神社前」の交差点近くにある、古民家を利用したゲストハウスです。

築140年と伺って驚いたのですが、古いものの良さを残しつつ、現代風の改装もなされており、不思議にモダンな建物なのです。

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稽古場は2階で、和室が2部屋つながっていました。

掛け軸や置物なども歴史を感じるものばかりです。

何故か木魚などもあり、思わず少し叩いてしまいました。

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また、先先代の御主人が狂言をされていたとの事で、狂言の絵や人形なども置いてありました。

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これまで何回か、バレエスタジオのようなスペースで稽古してきたのですが、やはり畳敷きの和室は落ち着いた気持ちで稽古出来ます。

また京大まで歩いて5分というのも大変有り難いのです。

これから度々こちらを使わせていただきたいと思いました。

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因みに1階が喫茶店スペースになっているのですが、稽古を終えて帰り際にゲストハウスのスタッフの方に「今日は喫茶スペースのお客様達が、2階の能のお稽古に興味津々でしたよ」と言われました。

次回は是非喫茶スペースのお客様に見学に上がって来てもらいたいと思います。

もしかしてそこで稽古を始める人がいる、かもしれません…。

能楽師としての着付け方

今日は午前中の五雲会申合の後に、午後から夜まで江古田稽古でした。

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江古田稽古場では、来春に東京藝術大学を受験する高校3年生の男の子が稽古に励んでいます。

先日芸大邦楽科の実技試験の課題曲が発表され、今日はそのうちの仕舞「嵐山」と謡「羽衣」を稽古しました。

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それが終わると更に、紋付袴の着付けを稽古しました。

芸大の実技試験では、紋付袴を自分1人で着られないといけないのです。

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とてもぎこちない手つきで帯を締めている彼を見ていて、20数年前に芸大受験を控えた頃の自分を思い出しました。

私は京大宝生会では一応自分で着付けしておりましたが、それは紐を2本使ったりした「素人向け」の着付け方だったのです。

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当時楽屋に入れていただいていた七宝会で、能楽師としての正しい着付けと、紋付袴を畳んで纏める方法を先輩達から教わりました。

着付けはとにかく最短の時間で、綺麗に着る方法です。

畳んで仕舞うやり方も、紋付袴など一揃いをコンパクトにしかも皺にならないで、素早く仕舞えるという優れた方法でした。

「下っ端は、装束運んだりして最後に着替えを始めて、尚且つ先輩達よりも早く着替え終わって仕事にかからないといけないのだ」と言われ、家で毎日着付けを稽古したものです。

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江古田稽古場の彼も、ここから先ずは受験までの4ヶ月ちょっとの期間、毎日のように着付けと、畳んで仕舞うやり方を稽古してほしいと思います。

平成30年松本澤風会

来たる10月21日の日曜日に、松本郊外の美ヶ原温泉の旅館「月の静香」にて、「平成30年松本澤風会」が開催されます。

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実はこの会は「第○回」という回数が曖昧なのです。

最初に開催したのが2011年3月だったのですが、直前に東日本大地震がおきてしまい、参加人数が半分ほどになってしまいました。

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以来開催時期も1月、5月、10月、11月などと試行錯誤を重ねました。

1月は寒さが非常に厳しく、11月開催の時にも雪が降って大変でした。

また10月初めの澤風会京都大会の日程との兼ね合いなどもあり、今回はこの日取りになったのです。

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松本澤風会のメンバーを中心に、幸流小鼓の住駒充彦さんの会や、金春流太鼓を習っている方々なども参加されて、素謡「鵺」、舞囃子「高砂」、「箙」、「班女」、「野守」などを始めとして仕舞、独調、独鼓などバラエティに富んだ番組構成になっております。

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松本澤風会の特徴のひとつとして、「会員さんの大半が現役でバリバリ仕事をされている」ということがあります。

また主婦の方も多く、皆さん仕事や家庭のことで本当にお忙しいのです。

その中で何とか毎年松本澤風会を開催させていただいて、松本の皆さんと全国各地から応援にいらしてくださる皆様には心より感謝申し上げます。

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松本市内からは若干離れておりますが、どうか多くの方に御覧いただければと思います。

よろしくお願いいたします。

“うしびて”?

今日は松本稽古からの帰りに、松本駅前にある美味しい鰻屋さん「山勢」で昼ごはんを食べました。

松本城薪能前座の時に、初舞台仕舞「鶴亀」を見事に舞われた会員さんがなさっているお店です。

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ここではいつも鰻重の前に、季節の美味しい物を一品出してくださり、それがまた楽しみでもあるのです。

今回は”きのこと菊の花のお浸し”というようなものでした。

出された時に「これは◯△×☆という名前のきのこです」と言われ、元々耳があまり良くないので「上手く聞き取れなかったなあ…」と思いながら一口食べてみました。

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外見は黒っぽくてゴツゴツした印象ですが、柔らかくて適度な歯ごたえもあり、風味もしっかりとあるとても美味しいきのこでした。

やはり名前を知りたいと思い、「あの〜すみません、これは何というきのこでしたっけ?」と尋ねてみました。

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「うしびて、という名前です。由来はわからないのですが、この辺の人はそう呼んでるみたいです。」

なるほど、「うしびて」。

不思議な名前です。

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鰻が焼きあがるまでに携帯で検索してみると、ちゃんと出て来ました。

「牛額」が訛って「うしびて」になったようです。牛の額は確かに黒くてゴツゴツしていそうです。

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そしていよいよ出てきた鰻重に添えられたお吸い物の具が、また普段見慣れない菜っ葉でした。

「このお吸い物には何が入っているのですか?」

「ああ、これは”きんじそう”と言います。金沢では良く食べるみたいですよ。」

これもすぐ調べると、「金時草」という字でした。

少しぬめりのある食感で、独特な風味があってこれまた美味しかったです。

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美味しい鰻とともに、初めて食べる「うしびて」や「金時草」もいただいて、幸せな昼食でした。

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店主さん「来年は、もう少し早い時期に”こうたけ”というきのこを是非食べていただきたいです。僕は”松茸”よりも美味しいと思いますよ。ただ出回る時期が短いので、運が良くないと食べられないんです。」

なんと、それでは来年の10月初めくらいに何とか”こうたけ”を食べてみたいと思います。

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完全にグルメリポートになってしまいましたが、今回はこれにて。

最後に”四柱神社”の色づき始めた紅葉です。

松本の秋

澤風会京都大会が終わってから1週間。

あれから夏は足早に遠ざかって、すっかり秋の気配になりました。

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松本という土地は、私が次の季節をいち早く感じるところです。

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今日の松本稽古で、私は今シーズン初めて長袖シャツを着ていきました。

極端な暑がりの私は、昨日まで頑固に真夏と同じ薄着で過ごしてきたのです。

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月曜日の松本稽古は夕方に始まって、大抵終わるのが20時半頃です。

稽古を終えて公民館の外に出ると、空気は秋というより最早冬の走りのようで、冴えた空には星が明るく光っておりました。

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今週末の21日には「松本澤風会」を開催いたしますが、その頃にはまた一層秋が深まっていると思われます。

松本に来られる皆さまは、どうかくれぐれも暖かい格好でいらしてくださいませ。

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先ほど稽古の終わりに、会員さんから”松茸ご飯のおにぎり”を頂戴しました。

今年初めての松茸、宿で美味しくいただきました。御馳走様でした。

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今日は肌でも味覚でも、秋の深まりを感じた松本稽古でした。

音だけで舞台を知ること

今日は水道橋の月並能にて、能「葵上 梓の出」のツレを無事に勤めさせていただきました。

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今回のツレは、舞台上ではずっと「ワキ座」に座っており、何度か僅かに向きを変えるだけの動きでした。

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それ以外の場面では、小面から見える狭い視野の外は当然視ることはできません。

すると、”聴覚”が普段よりも鋭くなって、”摺り足の音”や”装束が擦れる音”で舞台の様子が不思議な程に把握出来ました。

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能楽師をやっていると、五感うちの特に”視覚”と”触覚”を遮られることが割とよくあり、それは他の感覚を磨くのに良いのだと思います。

また今日の能「葵上」は、お囃子が演奏しない場面が意外に多く、その意味でも”聴覚”が研ぎ澄まされる能だったのかもしれません。

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皆様も試みに、お囃子の無い静かな場面で敢えて眼を閉じていただき、舞台上の音に集中すると、また違った能が感じられるのかもしれません。

3匹のアサギマダラ達

今日は亀岡稽古でした。

毎年この時期になると、亀岡稽古場にあるフジバカマの群落には、旅をする蝶「アサギマダラ」がたくさん飛んで来るのです。

ちなみに去年は10月4日と11日のブログでこの蝶のことを紹介しました。

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幸いに今日は穏やかな天気だったので、きっと会えるだろうと楽しみにしながら亀岡に向かいました。

そして去年と同じ場所のフジバカマを見に行ってみると…

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やはりいました!

フジバカマの蜜を吸うアサギマダラです。

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去年は3匹のアサギマダラが舞っていたとブログにありました。

不思議なことですが、今日も3匹が花に戯れています。

アサギマダラは渡りをした先で生涯を終えるので、去年と同じ個体の筈はありません。

しかし何となく「また会えたな…」と1年ぶりに友人と再会したような気持ちになりました。

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少しの間写真を撮っていると、この3匹の個体に何となく”個性”がある気がしてきました。

先ず1匹目…

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羽根の模様がくっきりした1番大きなこの個体は、近寄っても逃げないのに、カメラを構えると途端にフワリと飛び立ってしまいます。

なにか振る舞いに余裕が感じられて、”ボス”のようだと思いました。

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次の2匹目は…

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ちょっと色が薄めで、1匹目よりも小ぶりな個体です。

この個体は近寄っても写真を撮っても逃げずに、じっと花に止まっていました。

静かな性格なのか、もしかして元気がないのかも…と、心配になってしまいました。

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そして最後の3匹目は…

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ほんの少しでも近付く気配を見せるとすぐに飛び立って逃げてしまう、実に用心深い個体でした。

遠くからしか見られず、かろうじて撮れた写真もピンぼけです。。

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一度だけこれらの3匹が一斉に飛び立って、私の周りをヒラヒラと飛び交った時がありました。

ぶつかりそうな程近くで乱舞するアサギマダラに、思わず「うおお…」と感嘆の声が出てしまいました。

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彼らとは一期一会で、もう二度と会うことはありません。

しかしまた来年の今頃には、亀岡稽古場で彼らと似たアサギマダラ達にきっと会えるのだろうと思います。

もしかしたらそれは”ボス”と”静か”と”臆病者”という性格の3匹かもしれません。

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なんとなく”輪廻”という単語が頭に浮かんできたのでした。

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今日出会った3匹の、南への旅の無事を祈りつつ。