鞍馬天狗 天狗揃

今日もまた水道橋宝生能楽堂に行き、「秋の別会能」に出演して参りました。

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私は能「鞍馬天狗 天狗揃」の地謡を勤めました。

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「天狗揃」という小書(特殊演出)は、宝生流の定例会では数十年に一度しか出ておりません。

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通常の「鞍馬天狗」の後場では、シテ大天狗が1人出るだけです。

しかしこれが「天狗揃」になると、ツレ小天狗が7人、シテと合わせて計8人の天狗が登場して、それぞれ順番に牛若丸に稽古をつけていきます。

ちなみにツレは”小天狗”と言いながら、実はそれぞれが主役を張れるほどの名のある天狗達なのです。

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最後の部分で大天狗は牛若丸に、

「今後の合戦においては、我々天狗勢が影ながらあなたに加勢いたしましょう」

と告げて鞍馬山中に消えて行きます。

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今日の場合はその言葉が、全国の有名な天狗達を引き従えた大天狗から告げられる訳で、謡っていて大変な説得力を感じました。

義経が平家との合戦において連戦連勝したのは、彼ら天狗の超人的な能力に助けられたからなのかもしれません。

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一ノ谷で、また屋島や壇の浦で、宙空を翔け回って源氏に加勢する無数の天狗達を想像して、何かそんなお話でも書いたら面白いかも…

などと思いながら帰路についたのでした。

2019年篁風会大会に出演して参りました

今日は水道橋宝生能楽堂にて、藪克徳師主宰の「篁風会大会」に出演して参りました。

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例年通りの盛りだくさんの内容で、朝から晩までなんと10時間にもわたる舞台でした。

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藪克徳さんは昨日一昨日の申合から含めて3日間、殆ど舞台に出突っ張りの状態で、これも例年のことながらその超人的な働きぶりには驚かされました。

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そして息子さんの俊太朗君も、今日は朝一に仕舞「経政キリ」を舞い、その後には能「百万」の子方を勤めていました。

更に明日開催の「別会能」で俊太朗君は能「鞍馬天狗 天狗揃」の花見児を勤めるのです。

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ちなみに父親の克徳さんは後ツレ天狗と、親子で同じ曲への出演になります。

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俊太朗君も、どうやら働き者のお父さんの血を引いていると思われます。

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年々頼もしくなる息子さんの成長と共に、篁風会の更なる発展を祈念しております。

篁風会関係者の方々本日は誠にありがとうございました。

離れては近づいて

昨日は昼間に水道橋で申合があり、夕方から江古田稽古でした。

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夜になって最後に江古田稽古場に来たのは、北陸在住の京大宝生会若手OGさんでした。

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今週は出張で東京に来て、霞ヶ関のある官庁でずっと仕事をしていたそうです。

夜まで働いて疲れているのに稽古に来てくれるとは、とても有り難いことです。

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そしてOGさんからちょっと嬉しい話を聞きました。

彼女が仕事をしていた官庁で、偶然にも京大宝生会同期の若手OBが働いていて、昨日は霞ヶ関でランチを共にしたそうなのです。

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京大を卒業する段階では全く異なる職種を選び、住む場所も互いに遠く離れた彼らです。

それが巡り巡って近い分野の仕事をするようになり、ついに同じ仕事場で再会を果たした訳です。

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そして若手OBさんもまた澤風会で稽古をしたいと言ってくれたそうです。

遠く離れてはまた近づいて、人の縁とは不思議なものだと昨日改めて実感しました。

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今日は水道橋で昼間に日曜開催の別会の申合、そして夕方からは明日土曜開催の藪克徳くんの会の申合が続いてありました。

“能繁期”らしいスケジュールで、謡や諸々を覚えるのに些か苦労しております。。

今日はこれにて失礼いたします。

田町の忘年発表会

昨日は松本から東京に移動して田町稽古でした。

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田町稽古場では、毎年12月の稽古の後に忘年会をすることにしております。

そして今年は会員さんからのご提案で、忘年会の前に「発表会」をすることになりました。

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全員が1人ずつ、”仕舞”もしくは”独吟”を皆の前で披露するという発表会です。

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昨日は初めてその発表会のための稽古をいたしました。

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“独吟”は全員違う曲を選んで、仕舞部分かその程度の長さの謡を1人で謡います。

そして可能な限り「無本」で謡うことにしてもらいました。

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1人だけで役も地謡も謡うのは、田町の会員さんにとって全く初めての試みでしたが、これは大変勉強になることだと感じました。

修正点が良くわかるので注意しやすく、また普段よりも緊張感があって、その分意欲的に稽古されているように見受けられました。

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また稽古が終わった後に「何か一曲でも空で謡える曲があるのは嬉しい」という声も出たそうです。

確かに、今回覚えた独吟をどこか別の場所で自分で発表したりも出来るのです。

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田町稽古場の初めての「忘年発表会」。

これは是非毎年恒例行事にしたいと思いました。

2019松本の秋景色

昨日は京都から名古屋経由で松本稽古に移動しました。

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台風19号による土砂崩れで、新宿発の特急あずさが暫く運休になってしまったのです。

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名古屋から特急しなので木曽路を辿って松本へ。

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松本はすっかり秋の装いでした。

稽古場近くの「四柱神社」に立ち寄ってみると…

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綺麗な紅葉が始まっていました。

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まだ一部だけの色づきですが、今年初めての紅葉狩になりました。

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おそらく去年紅葉狩に行った山奥の白骨温泉や乗鞍の辺りは、今頃紅葉のピークを迎えているはずです。

あの紅葉の絶景をまた見たいものです。

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松本駅から遠く望む乗鞍岳は、もう雪を被った姿でした。

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そして最近ではハロウィンがすっかり定着して、松本でも其処彼処にカボチャの飾りがありました。

宿の隣のレストランには…

かなり個性的なジャックオーランタンがいました。。

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11月17日の「松本澤風会大会」に向けて、来週も松本稽古に行く予定です。

更に深まり行く秋の風景が見られることでしょう。

目をつぶって…

昨日は夕方から京大宝生会の稽古に行きました。

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11月26日の自演会「能と狂言の会」に向けて、皆稽古に一層熱が入っていました。

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能「竹生島」は、シテ、前ツレ、後ツレがそれぞれ初めて面をかけての稽古になりました。

面をかけると無意識のうちに手や肩に力が入ったり、距離感が掴めずにいつもの場所に行けなかったりします。

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シテ、ツレともにほぼ想定内の動きをしてくれたので、何点か注意をしました。

おそらく次回の稽古までに修正してくれることでしょう。

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稽古が終わると23時近くになっており、そこから皆で晩御飯を食べに行きました。

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その席でも能面をかけた時の話を色々しました。

話の流れの中で「もし目をつぶって全部舞うことが出来たら、面をかけた状態でも楽々舞えるだろうね」

と半ば冗談のつもりで口にしました。

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すると…

シテ「はい、この間目をつぶって稽古してみました。回り返しで変な方向を向いてしまって…」

後ツレ「私もやってみたら、回り返しで同じことになりました」

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更に一昨年の能「巻絹」のシテを舞ったOGさんもいたので、「もしかして君も…?」と聞くと、

OGさん「ええ、そりゃまあ…やりましたよ」

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なんと”目をつぶっての稽古”は京大宝生会では当たり前のようになされていたのですね。。

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試しに「じゃあ一歩進んで、目をつぶって生活してみたら、より能面の影響が少なくなるかもしれないよ」

と言おうかと一瞬思いましたが、彼らは本気でやりそうで、怪我をしてもらっては困るのでやめておきました。

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しかし考えてみれば彼らがこのブログを読む可能性もあるのでした。

京大宝生会の人は、危ないのでどうか目をつぶって生活しないようにしてくださいね。

星野道夫さんの「旅をする木」

昨日は散歩の最後に、私の大好きな場所の一つである図書館「ゆいの森あらかわ」に行きました。

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書架の中にアラスカの写真家、星野道夫さんの著書「旅をする木」を見つけたので、テラス席に出て適当な頁を開いてみました。

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カリブーの大移動を撮影するために小型セスナ機でアラスカの原野に向かった星野さん。

しかし帰りの離陸に失敗して、パイロットと2人で原野に取り残されてしまいます。

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深刻な事態にもかかわらず、星野さんとパイロットは「じっとしていても勿体無いので、カリブーを探しに行こう」と飛行機を置いて近くの山に登って行くのです。

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そして山を越えた先にはワタスゲの咲く大平原が広がり、その白夜の平原の真ん中で、星野さんとパイロットは夢のようなカリブーの大群と遭遇したのでした。

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星野さんは「もし離陸に成功していたらこの場にはいられなかった」と思います。

そしてパイロットもしみじみと「ギフト(贈り物)だな…」と呟いたのでした。

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星野道夫さんのアラスカのお話はどこか現実を離れたような幻想的で優しい空気感があり、読むととても心が癒されます。

散歩の終わりに、この「旅をする木」という本に出会えたのもまた、私にとっては運命のギフトのようでした。

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昨日はほかにも気持ちが暖かくなる出来事があり、葵上の疲れはすっかり回復しました。

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今日は早朝から元気に京都大山崎稽古に向かいました。

そして旅のお供の文庫本には、開高健さんのアラスカの釣りの本を選びました。

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しばらくの間アラスカの大自然の話に浸りつつ、各地の稽古を頑張って参りたいと思います。

御息所が抜けていって…

昨日の五雲会には、ご遠方からもたくさんの皆様にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。

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能「葵上」に関しては、自分でやろうとした事の大半は表現できたと思います。

あれが私の今回の”六条御息所”の解釈でした。

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しかし舞い終えて感じたのは、この「葵上」という曲は、今回と違う解釈で演ずれば全く異なる色の曲に変貌するのだろうという事でした。

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願わくばこの先何回も「葵上」を、それぞれ違うカラーで演じてみたい。そう強く思いました。

そういう願望を感じた曲は初めてで、なんとも不思議な能と出会ったものだと思います。

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私はあるシテが終わると、独特の”虚脱感”を感じます。

そして今回”六条御息所”が抜けた後には、これもまた過去感じたことの無い規模の、大きな”空虚”が残りました。

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このシテの後の虚無感を埋めて現実に戻るために、私はいつも初めての道を当てもなく歩くようにしています。

今は三河島駅の横の公園で、ブランコの練習をする親子をぼんやりと眺めながらブログを書いております。

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今日は日暮れまで歩いて、明日からの稽古の日々に向けて徐々に現実に帰りたいと思います。

葵上終了いたしました

五雲会にての能「葵上」は、おかげさまでなんとか大過なく終了いたしました。

お越しいただいた沢山の皆様誠にありがとうございました。

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すみません、詳細はまた明日以降に書かせていただきます。

今は放心して何か抜け殻のような状態になっております。徐々に現実に戻って参りたいと思います。

“闘い”の日々

今日は予定の稽古が延期になり、「葵上」の最終稽古のみの1日になりました。

昨日の五雲会申合でいただいた色々なご注意と、自分で感じた修正点を水道橋宝生能楽堂の舞台でじっくりと確認いたしました。

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「葵上」という曲と格闘した日々も今日で最後、明日は本番なのです。

今は何か武者震いするような「早く舞いたい」気持ちと、「明日で終わってしまうのか…」という感慨と、少しだけ寂しいような気持ちとが色々入り混じっています。

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今回の「葵上」に関してのブログでは、”悪戦苦闘”、”闘い”、”格闘”というような言葉を多用しました。

この曲に取り組む時には、稽古というよりも何故か”闘う”という心持ちになってしまったのです。

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稽古中に、これはシテ「六条御息所」の強い想念と真正面から向き合う闘いであると感じました。

また逆に「六条御息所」の目線での、自分を覆い尽くそうとする激しい怨みや悲嘆や絶望感との闘いにも感じられました。

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「道成寺」以外では、これまで舞った中で一番難しい曲でした。

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この”闘い”を明日の舞台でどのように昇華させることが出来るのか。

それを思うとやはり「早く舞いたい」と武者震いを覚えてしまいます。

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皆様明日は是非宝生能楽堂の「五雲会」にお越しくださいませ。

正午開始で、

能「敦盛」辰巳和磨

能「井筒」大友順

能「葵上」澤田宏司

という番組です。

どうかよろしくお願いいたします。