現場主義の玄翁和尚

昨日の神保町稽古には、山形県新庄の曹洞宗のお寺で僧侶をしている京大宝生会若手OBが久しぶりに来てくれました。

謡稽古は「殺生石」で、いつも曲の解説資料を作って来てくださる会員さんに今回も解説をしていただきました。

それを聞いてちょっと驚いたのが、ワキの「玄翁和尚」が”曹洞宗”の高僧だったという事です。

たまたま今回来てくれた京大OBと同じ宗派だった訳です。

解説も会員さんと若手OBが交互にする形になりました。

会員さん「玄翁和尚は、總持寺の”峨山禅師”に入門して、”二十五哲”の1人と数えられた偉い僧侶です」

おお成る程。

若手OB「でも…」

ん?

「実は總持寺から”出禁”になった事があるんですよね」

何と!それは一体なぜですか?

「玄翁和尚は、總持寺の経営に参画する立場だったのに、總持寺にはあまり寄り付かずに、諸国を巡って布教活動ばかりしていました。

それで、玄翁さんが亡くなった後に、厳密には玄翁和尚の弟子達が一時期總持寺から出禁をくらってしまったのです」

成る程。事務的な仕事よりも現場で働く方が好きな人だったのですね。

何となく玄翁和尚への好感度が増しました。

若手OB「殺生石以外にも、北は秋田から南は鹿児島まで、玄翁和尚が”悪龍”を退治した、というような伝説は多く残っています」

それはまた興味深いです。

今後どこかの土地で玄翁和尚の足跡を見つけることができるかもしれません。

また移動の楽しみがひとつ増えました。

束の間の涼しさ

連日信じられない程の暑さが続いています。

暑さが一番の苦手な私にとって、家から稽古場に行く道のりが本当に難行苦行で、稽古よりも移動で体力を使っている感じです。

しかし、今日の移動した先はちょっとだけ気温が低めでした。

16時半で26℃です。

小雨模様で湿度はありますが、東京のサウナのような空気に比べたら大分ましです。

さてここはどこでしょうか…?

答えは「仙台」でした。

今は街中に「すずめ踊り」のポスターが貼られています。

有名な「仙台七夕まつり」は来月8月6〜8日だそうで、「すずめ踊り」は7月の目玉なのでしょう。

今日は束の間の低めの気温を満喫(?)して、また明日からは東京、関西の暑さに何とか耐えていきたいと思います。

お祭りを終えて

全宝連京都大会から1週間と少し経ちました。

あの舞台では、みんな春先からの稽古の成果を遺憾なく発揮してくれました。

そしてそれからの1週間の間に早くも、京大と自治医大から「夏合宿のご案内」というメールが届きました。

京大からは、「秋の京大能楽部自演会の舞囃子のご相談」というメールも来て、既にシテと候補曲も決まっているようでした。

お祭りのような大きな舞台を終えて、この先は合宿と稽古で地力をつけて、また次の大きな舞台へのチャレンジが始まるのです。

…しかし、学生さん達はその前に大変な実習や前期試験などが待っているはずです。

とりあえず学業のヤマを越えて無事に夏休みが迎えられるように祈っております。

羽衣6号に乗って

昨日は上の写真までブログに載せました。

その後飛行機は定刻18時15分に離陸したのですが、松本空港は「信州スカイパーク」という広い公園に隣接しており、犬の散歩をする人や子供達が離陸する飛行機にしきりに手を振ってくれて、何だか温かい気持ちになりました。

飛行機は松本平をぐるりと旋回しつつ高度を上げていきます。

北方から望む松本平です。

松本城や、遠くには富士山(画像の左上あたり)も見えてテンションが上がりました。

そしてちょっとだけ仮眠を…と思ったらすぐにもう着陸体制に入り、

1時間もしないうちに眼下には瀬戸内の島々が。

定刻よりも早い19時05分には、もう神戸空港に到着したのでした。

稽古には余裕を持って行くことが出来て、乗り換えチャレンジ大成功でした。

そしておまけのようなお話ですが、途中の機内アナウンスで、

「この飛行機は”羽衣6号”と名付けられております」

と流れて驚きました。

“羽衣6″とはバーチャルアイドルグループの名前らしいのですが、舞台から稽古に移動する能楽師が乗る飛行機が”はごろも号”とは何だか出来過ぎのような気がいたしました。

松本市民芸術文化祭からの乗り換えチャレンジ

今日は「まつもと市民芸術館」にて、

「第65回松本市芸術文化祭」に出演して参りました。

今回は第65回であると同時に、松本澤風会も所属している「邦楽振興会」の10周年にもあたる記念大会でした。

日本舞踊、長唄、端唄など、皆さま今回は特におめでたい演目が並んでいます。

長唄「松の緑」「君が代松竹梅」

端唄「松づくし」

などなど…

我々能楽も、やはりここは「高砂」でおめでたい舞台を寿ぎました。

おかげさまで芸術文化祭の舞台は無事終わりました。

しかし私にはここからもうひとつのミッションがあったのです。

終わってすぐに松本バスターミナルに向かい、空港行きシャトルバスに飛び乗りました。

そして松本空港でこれから神戸に飛びます。

神戸からあと2回の電車の乗り換えで、20時過ぎからの稽古に間に合うか、頑張ってチャレンジしたいと思います。

曇天の松本城にて

今日の松本は、午後に降った雨が夕方に上がると少し涼やかな空気になって、東京や京都の猛暑に比べるととても過ごしやすく感じました。

久しぶりに松本城にやって参りました。

流れる雲の下の天守閣は、また迫力が増して良い眺めです。

天守閣前から「二の丸御殿跡」に移動します。

この二の丸御殿跡に、8月8日には特設舞台が作られて「松本城薪能」が開催されるのです。

今年の松本城薪能では宝生和英御宗家の能「紅葉狩」が演じられ、私も能「経政」のシテを勤めさせていただきます。

入場無料ですので、皆さま是非お越しくださいませ。

情報は以下にリンクを貼っておきます。

https://www.matsumoto-castle.jp/topics/6883.html

自治医大宝生会の京都観光

先週の全宝連京都大会、初日の6月29日は舞台終了から夜のレセプションまでに3時間ほどの自由時間がありました。

そこで、自治医大宝生会の部員達と短い京都観光をしようと思い立ちました。

彼らのうちの何人かは初めての京都だったのです。

自治医大のある栃木県にゆかりのある場所や、今回仕舞が出る「敦盛」などの謡蹟は組み入れたい…と考えて、コースを決めました。

金剛能楽堂を出発して先ずは北上。

今出川通から市バス203に乗って東へ。

途中「鴨川デルタ」や「百万遍交差点」などの名所(?)を見つつ、「銀閣寺道」で下車。

最初の目的地「東北院」を目指して歩き始めました。

神楽岡通で見つけた和菓子屋で、ちょうど6月30日の”夏越の祓”に食べる和菓子「水無月」を購入して皆で食べました。

自治医大は食欲旺盛で、鮎の形をした和菓子「若鮎」も追加で食べていました。

東北院では外から「軒端の梅」を眺めて、すぐに次の目的地「真如堂」へ。

ここでは「殺生石」から作られたという「鎌倉地蔵」を見ました。

鎌倉地蔵を彫ったのは能「殺生石」のワキである「玄翁上人」です。

京都から空を飛んで那須野に逃げた「玉藻前」が殺生石になり、それが玄翁上人の手でお地蔵さんになって再び京都に戻って、そのお地蔵さんを那須野の近くから来た自治医大宝生会が眺める…

というなんとも不思議なご縁でした。

その後は金戒光明寺に下って、「平敦盛」と「熊谷直実」の供養塔が向き合って建っているところにお参りして、一応の行程を終えました。

途中で比叡山が見えたので「あれが比叡山だよ」と言うと、部員の1人が何故か高めのテンションで、

「あれが比叡山ですか❗️愛宕山はどこですか⁉️」

と言うので、また途中で愛宕山が見えた所で「あれが愛宕山だよ」と言うと、

「あれが愛宕山ですか❗️

あれをイメージして舞います‼️」

そうでした。その部員は「花月キリ」の仕舞を舞うことになっていたのです。

実物の比叡山や愛宕山を見られてテンションが上がっていたのですね。

その後は丸太町通に出て再び市バスに乗って、レセプション会場ちかくの烏丸丸太町に向かいました。

途中で「京大病院」が見えたので「あれが京大病院だよ」と言うと、今度は全員が

「あれが京大病院ですか‼️」

とハイテンションになって、さすが医大生、と感心しました。

京大OBOGが囃子方を勤めた舞囃子

先日の「全宝連京都大会」では、京大宝生会から舞囃子「草紙洗」を出させていただきました。

シテも地謡も全員2回生で、ちょっとだけ背伸びした舞台になります。

2回生達にとってはもちろん初めての舞囃子ですが、実は他にも”初めて”の要素がありました。

大鼓と小鼓をそれぞれ京大宝生会若手OBとOGが勤めたのです。

これまで新歓企画の舞台などではそういう事もありましたが、全宝連のような歴史ある大舞台では例の無い事でした。

しかし大鼓も小鼓も、緊張しながらも非常に気迫のこもった演奏で、笛の貞光智宣先生のリードによって大変素晴らしい囃子になりました。

また、シテや地謡にとっても、普段から京大BOXで大鼓小鼓と何度も稽古ができたので、若い2回生達にとっては安心感に繋がったと思います。

今回の舞囃子「草紙洗」が無事にできた事で、2回生は大きく成長しました。

そしてまた囃子方を勤めた若手OBOGにとっても、今回の舞台の成功によって、今後も同じように学生達の囃子が打てる可能性が広がりました。

秋の京大能楽部自演会「能と狂言の会」では、更にパワーアップした舞囃子が披露できる事と期待しています。

亀岡の花々〜ユリの王様〜

今日は亀岡稽古でした。

京都二条駅近くの宿を出ると、35℃の強烈な熱気に包まれて、あっという間に汗だくになりました💦

ややぐったりとしながら亀岡稽古場に到着して、何か花は咲いていないかと探しに行ってみました。

春に比べて花は少ない季節ですが、遠目にとても大きな花が見えました。

もしかしたら見られるかもと期待していた

「ヤマユリ」

です。それも遠目にみても沢山の花が咲いているのがわかりました。

嬉しくなって暑さも忘れて早足で近寄ってみると…

6輪の大輪の花を咲かせた堂々たる「ヤマユリ」でした。

ヤマユリは発芽から開花までに最低でも5年かかるそうです。

また「1輪1年」とも言われるそうで、という事はこのヤマユリは少なくとも発芽から11年経っている事になるのです。

花のあまりの大きさ重さに、支えが無いと倒れてしまうようで、2本の支え木が添えられていました。

ヤマユリの花言葉は「荘厳」

まさに荘厳華麗なその姿は、

「ユリの王様」とも呼ばれるそうです。

「百花王」と呼ばれる「ボタン」とはまた一味違った豪華絢爛なヤマユリの花は、大輪の打ち上げ花火が夜空に開いたようにも見えました。

前回書いた「半夏生」は、房状の花とその周りの白くなった葉が、よりはっきりとわかるようになっていました。

雑節の「半夏生」が今年は一昨日の7月2日だったので、やはりこの頃は植物の「半夏生」も、一番の盛りを迎えるのでしょう。

舞台を”言語化”して観るということ

先週土曜日の全宝連京都大会レセプションの時のお話です。

宝生和英家元は昼間の国立能楽堂での舞台の後すぐに京都に駆けつけてくださり、レセプションの冒頭でスピーチをしてくださいました。

その中で家元は、

「他の学生達の舞台を見るのはとても大事です。他人の芸の長所と短所を”言語化”して、それを自分の芸に活かすのです。私も常にそうしています」

と仰いました。

「長所短所を言語化する」

という考え方は初めて聞いたので、すぐには腑に落ちませんでした。

しかしよくよく考えてみると「成る程!」と目から鱗が落ちる思いがいたしました。

例えば、

「この人は運びの最中に下を向いている」

とか、

「今の飛び返りはとてもキレが良かった」

というのを、普段の私は感覚的にしか捉えていなくて、「何となく上手い」としか認識していませんでした。

それを”言語化”して改めて認識し直す事によって、

「運びの最中に下を向かないように気をつけよう」

とか、

「キレのある飛び返りを研究してみよう」

と具体的に自分の芸に活かす事ができるのです。

今後は私も他人の舞台を観て気付いた事は一度”言語化”して、自分の芸の改善に努めていきたいと思います。

家元の貴重なお言葉は学生達にもきっと響いたことでしょう。

有り難い事でした。