兼平稽古2  前シテ

いよいよ七宝会での能兼平が目前に近づいて参りました。

以前にも書きましたが、兼平という能は修羅物にもかかわらず動きが非常に制限されていて、全体の8割を一箇所にとどまって演技します。

前シテの場合、幕から出ると先ず常座(見所から見て舞台左奥)に置かれた船に乗ります。

後は、中入までそこから一歩も踏み出さずに演技をするのです。

動きらしい動きは、足を「掛ける」「捻る」「一足出」「一足引」のみ。

後はわずかに顔を上下左右に動かすだけです。

こうなると、やはり謡が重要な役割を担います。

しかし謡もやはり究極には「早い」「遅い」「高い」「低い」しか無いとも言われます。
これらの組み合わせだけで、矢橋の渡しから粟津ヶ原までの僅かな旅路のあいだに、いかに兼平らしさを表現するのか。

この辺りに兼平前シテの難しさの胆がある気がします。

本番まであと僅かな時間ですが、少しでも兼平の心情に迫れるように、ギリギリまで稽古していきたいと思います。

何歳になっても。

昨日は5歳の男の子の話をしましたが、今日は澤風会最高齢のお弟子さんのお話です。

江古田稽古場には数え年で今年90歳になる女性がおられます。

今日も元気に仕舞と謡を稽古されました。

仕舞を始めたのが80歳近くだった事もすごいですが、それからずっと稽古を続けられ、舞囃子を舞うまで上達されました。

今は来たる3月25日の澤風会東京大会に向けて、仕舞難波を稽古しています。

聞けば朝昼晩各10回以上の仕舞稽古を、ご自宅で毎日欠かさずされているとのこと。

稽古はほぼ皆勤で、天候が悪い日でも電車を乗り継いで来てくださる姿には、毎回本当に頭が下がります。
いつまでもお元気で舞台に立っていただけるように、私も精一杯がんばって稽古させていただきたいと、今日も気持ちを新たにいたしました。

5歳で鸚鵡返し!

大稽古会から通常モードに戻って、今日は松本稽古でした。

前にも書きましたが、松本稽古場には子供が沢山来ています。最年少が5歳の男の子です。

いつもは自分の仕舞の稽古が終わると、ちょっと上のお姉ちゃん達と元気に飛びまわって遊んでいます。

しかし今日は、お姉ちゃん達は途中で帰ってしまい、お母さんの謡の稽古の時に1人になってしまいました。

すると…。

彼はお母さんと一緒に座って謡本を見始めたのです。

謡の稽古は「鸚鵡返し」と言って、私が一句謡ったら、鸚鵡のように同じ謡をうたってもらうやり方です。

また宝生流の謡本は特に古い字体で、読み辛いと言われています。

ところが私が見ていると、彼はお母さんと一緒に謡本を目で追って、謡う時にもお母さんと同じように口が動いているのです。

曲目は「箙」、大人でも普通に難しい曲です。

さすがに途中で鞄から機関車トーマス君を出して遊びながらになりましたが、一定時間鸚鵡返しをちゃんとしていたのは間違いありません。

5歳で謡の鸚鵡返しというのは、澤風会では最年少記録です。

このまま続けていってくれて、ベテランになった彼に「君の生涯初の鸚鵡返しは2017年1月30日でした」と言える日が来ると良いなあと思いました。

2件のコメント

大稽古会終了しました

稽古会2日目も無事終了しました。

稽古会なので技量を高め合う研鑽の意味が第一なのですが、久々に集まる世代を越えたメンバーならではの遊び心の番組もありました。

例えば仕舞殺生石は、22年前に京大自演会で能殺生石の後シテをした人が舞って、2年前の同じ自演会で出した同じ能殺生石の地頭が地頭を勤めました。
舞囃子箙は、12年前にやはり京大自演会で能箙を出した時のシテと地頭が、役を入れ替えて勤めました。

そんなこんなで、舞台の厳しさと、能によって得られる楽しさ、充実感を存分に味わえた二日間でした。 

今回集まった世代は、おそらくこの先40年、50年と能を続けていってくれると思います。

集まったのが本当に素晴らしいメンバーなので、私も彼らに付き合える限り、今回のような会を積み重ねていきたいと思います。

昼ごはんの様子。これ位の人数でした

稽古会初日

稽古会の初日が無事(?)終了しました。

昼頃集合してすぐ稽古を始めたのですが、数年ぶりに謡う人もいて最初はやや混乱気味でした。。

しかし2回目をやるとすぐに良くなるのが学生上がりの良い所です。

今日でみんな大分感覚を取り戻したと思うので、明日の2日目は更にハイレベルな舞台を期待したいと思います。

京大宝生会と仲間たち

私はずっと昔に京大宝生会に入部してから今迄に、数え切れない程の部員と出会いました。
また京大宝生会を取り巻く縁で、沢山の能楽フリークとも友達になりました。

明日明後日はそれらの人々のうちの比較的若手の30人程が集合して、稽古会をひらきます。

ドイツで靴職人になった人を中心に、研究者、社労士、部員同士で結婚した人、会社員、公務員、ブレーメン能楽隊、松本の骨董屋さん一家とその御仲間さん、京大宝生会新OBOG、、等々が集まります。

沢山の再会とともに、新しい出会いもまた数多くありそうです。

その出会いがきっかけになって、また次の企画に繋がっていけば良いです。

そして広く見たら、こんな集まりがもっともっと増えて、出会いが化学反応を起こして、若手の能楽フリークがこれからどんどん盛り上がっていってほしいのです。

明日明後日、頑張って稽古と監督をしたいと思います。

マスクの効用

今年も風邪やインフルエンザが流行しているようです。

私は移動中にはマスクをするようにしているのですが、私にとってはこれがウイルス対策以外にも効果があるのです。

マスクをすると何となく顔に違和感があって、外した時にはすっきりして呼吸が楽になる感じがします。

これが能面を掛けたり外したりする感覚に似ている気がするのです。

一方私は単独行動中は基本的に階段を使うようにしています。

例えば地下鉄日比谷線秋葉原駅のホームから、JR総武線のホームまでは約ビル5階分相当の階段があります。

これをマスクした状態で一気に上がると半ば呼吸困難になってしまいます。

しかしこれを我慢して日常的にやっていると、面を掛けた時に逆に違和感が無くなる気がするのです。

普通の人には全く役に立たないネタなのですが、もしも能面の苦しさを疑似体験したい方は、マスクで階段を駆け上がる事をおすすめします。

そしてこれをやって全く平気という方は能に向いているので、すでに稽古している方は是非とも能を出していただきたいです。

稽古まだの方は、是非稽古を始めていただきたいので、どうかお問い合わせフォームよりメールくださいませ。

うれしい復帰

今日は田町稽古場でとてもうれしい出来事がありました。

昨年秋に事故で足を骨折されたお弟子さんが、元気に復帰されたのです。

最初は椅子を用意して、と思っていたら、もう横座りで座れますと言われて驚きました。お医者さんの診立てよりも早く治ったようで、本当に良かったです。

怪我や病気、仕事や家庭の都合などで、澤風会でもこれまで、長ければ1年位お休みになる方が何人かいらっしゃいました。

しかしそんな方々も、有り難いことに大半が復帰されてまた稽古を続けておられます。

お休みの方がいつ戻って来ても良いように、澤風会はずっと変わらない雰囲気とやり方で稽古をして参りたいと思っています。

この週末には遠い国で働いている友人が帰って来て、彼を中心に、稽古を離れていたメンバーも大勢集まっての稽古会があります。うれしい再会が沢山ありそうです。

兼平と比叡山

今回はまた兼平にまつわる話です。

能兼平の前シテは、ワキに対して比叡山の事をとても詳しく説明します。

その語りの中で、比叡山を「我が山」とまで言っています。

おそらく兼平にとって比叡山はそれ程に大切な場所だったのです。

木曽義仲は、倶利伽羅峠の合戦で10万騎の平家軍を打ち破り、破竹の勢いで京都を目指します。

しかし都を目前に最後の難関となったのが比叡山延暦寺でした。

白河法皇をして「賀茂川の水、賽の目、比叡の山法師だけは意のままにならず」と言わしめた一大勢力の延暦寺と何とか手を結んだ義仲は、比叡山頂に陣を構える事に成功します。

これが決定打となり、栄華を誇った平家は都を追われて西国に落ちていくのです。

その先を考えると、義仲が人生最も希望に満ちていたのは比叡山上だったと言えると思います。

都入りを目前にした義仲と兼平は、期待と充実感の中で比叡山頂から京都と近江の下界を見下ろしたのでしょうか。

しかしその都入りからわずか1年足らずにして、義仲軍は比叡山を間近に見る粟津原で終焉を迎えるのです。

最期の戦いの最中、兼平が比叡山を見上げる瞬間が果たしてあったのかはわかりません。

しかしともかく前シテの老人は、能の定型を無視して自らの本性を全く明かさずに、比叡山とその周辺だけを大切に物語って中入します。

自分の事よりも、主君が絶頂期を過ごした場所を先ず語りたい。「自らの存在よりも大切にしたいものがある」というのが、能兼平のテーマな気がします。

下鴨新年会

京都下鴨・紫明荘は、京大宝生会と澤風会を繋ぐ、私の能楽師人生の原点とも言える場所です。

今日は紫明荘にて、下鴨稽古場の新年会をいたしました。

稽古の後に鶴亀、橋弁慶、鉢木と謡って、更にその後に「サックスと現代詩朗読のセッション」という新しい試みがあり、その後に賑やかな鍋になりました。

毎年お世話になっている常連メンバーに、昨年入会された新人の方、新春から入会する京大宝生会新OG、また病いから元気に復帰された方など、多彩なメンバーで盛り上がりました。

澤風会の各地での新年会も今日で一段落です。

これからまた次の舞台に向けて、稽古頑張って参ります。各地の澤風会の皆様どうかよろしくお願いいたします。

また興味を持たれた方は、是非ともお問い合わせいただき、来年はどこかの稽古場で楽しく新年会にご参加いただければと思います。

どうかよろしくお願いいたします。

素謡橋弁慶

朗読とサックスのセッション