高校生になると

今日の神保町稽古場には、先月の澤風会郁雲会で能「敦盛」ツレを勤めた男の子と女の子が来てくれました。

2人とも会うのは澤風会以来で、約1ヶ月ぶりになります。

2人別々に来たのですが、それぞれ一目見た瞬間に「おぉ…!」と驚いてしまいました。

なんだか雰囲気が変わって急に大人びて見えたのです。

実は2人とも、この4月から高校生になりました。

よく「立場が人を作る」と言いますが、中学生から高校生になるとこんなに雰囲気が変わるものかと感心しました。

とは言え、仕舞の稽古を始めて会話をしてみると、内面は前と殆ど変わっていなかったので逆に安心いたしました。

私の高校時代を振り返ってみると、今の自分に繋がる大事な出来事をたくさん経験した3年間でした。

きっと彼らもこれからの高校生活で、そんな大事な経験を積みながら、内面的にも成長していくのでしょう。

稽古を通じて彼らの成長を見ていくのが楽しみです。

800年前の原本…!

私は古本屋を覗くのが大好きです。

最近見つけて愛読しているのは、「田中光常」という動物写真家の「自然・動物・わが愛」という40年ほど前に発行された文庫版写真集です。

田中光常さんは、私が尊敬するアラスカの動物写真家の故星野道夫さんの師匠だった人です。

今は絶滅してしまった動物達の写真もあり、やはり古本は素晴らしいと悦に入っておりました。

しかし今日のニュースで、なんと「藤原定家直筆の古今和歌集注釈書」が京都の冷泉家で発見されたというのを読みました。

“藤原定家”と言えば能「定家」はもちろんのこと多くの謡に登場する人物であり、1162年生まれで1241年に亡くなっています。

つまり”約800年前の原本”が見つかったわけで、私が40年前の古本で喜んでいるのとは全くもってスケールが違うお話です。

発見した人の喜びはいかばかりだったでしょうか…。

と言っても、私は藤原定家については謡の中の事しか知りません。

せいぜいが京都にある「藤原定家墓所」に御参りに行ったことがあるくらいです。

この機会に藤原定家と古今和歌集注釈書についてもう少し勉強してみたいと思いました。

しかし今日はもう遅いので、明日以降に…

希望に満ちた出発

春は色々と移動の季節です。

先日ブログに書いた松本で稽古していた女の子は、留学先のカナダに先週旅立っていったそうです。

また京大宝生会OGの1人は、やはり留学でオランダに一昨日出発したと聞きました。

カナダもオランダも距離的には遥かに遠いのですが、何故か別れの寂しさはほとんどありませんでした。

どちらも自分の意志での留学で、希望に満ちた出発だったというのがひとつ。

また現代では海外ともビデオ通話が容易であり、コロナ禍も明けたので、来年以降くらいにカナダやオランダに行って能楽公演、というのも可能なのです。

翻って今稽古している能「昭君」では、子方の王昭君は心ならずも遠い異国に旅立つ事になり、嘆き悲しむ両親と二度と会う事もなく異国の地で悲劇の生涯を終える事になるのです。

能には理不尽な話が多くありますが、この「昭君」を稽古していると、現代日本に生まれた自分の幸せをしみじみと感じてしまいます。

先ずは留学した2人の海外での活躍を祈りつつ、出来る事ならカナダかオランダでの再会を願っております。

最近の若者は…

京大宝生会の若手OBOGの中には、御囃子を何種類も習っている強者が何人かいます。

それぞれ上手にこなしているので、笛や小鼓が芸大時代に全く鳴らなかった私は、すごいなあ羨ましいなあと思って見ていました。

昨日の京大宝生会新歓ワークショップの時の事です。

最後に新入生達に舞台に上がってもらい、能面や御囃子の楽器を自由に体験してもらいました。

その時間も終わって、後片付けをしながら残った現役数人が楽器の体験を始めました。

私も能面などを片付けながらそれを聴くともなく聴いていました。すると…

「オヒャライ ホウホウヒ」

という若手OGの笛の音の後に、2回生の1人が

「オヒャライ ホウホウヒ」

と繰り返しているのですが、それが大変滑らかな笛なのです。

ちなみにその2回生は笛を吹くのは初めてです。

なんと15分くらいの間に、「中之舞」の笛をほぼ全部吹けるようになってしまいました。

若手OGも驚いた様子で、

「笛を習いたくなったらいつでも言って!この笛は預けておくから自由に吹いて!」

と笛の稽古を勧めていました。

よく言われる「最近の若者は…」

というフレーズは大抵ネガティブな意味で使われますが、昨日の私は

「最近の若者は…すごいなぁ」

と心から感心したのでした。

2024年京大宝生会新歓ワークショップ

今日は2024年京大宝生会新歓ワークショップの日でした。

昨年の新歓を成功に導いた若手OBOG達が、夕方になると今回も続々と能楽部BOXに集まって紋付に着替えていきます。

今年はそれに加えて、昨年入部した新2回生6人もほぼ自分で紋付を着付けられるようになり、先輩として初の新歓ワークショップに臨みました。

舞囃子「男舞」、舞囃子「草紙洗」、舞囃子「船弁慶後」

という番組のうち、「草紙洗」はシテも地謡も全て2回生で勤めました。

また囃子の解説でも、太鼓を稽古し始めた2回生が頑張って実演したり、今年はOBOGと現役の総力を結集した新歓ワークショップになりました。

終了後には参加してくれた8人の新入生とともに百万遍で晩御飯を食べました。

アメリカのウィスコンシン州からの留学生や、宝生能楽堂のインターンシップ経験者など、多彩なキャラの新入生達がやはり多彩な話題で部員達と盛り上がっていました。

今年は来週ももう一度新歓ワークショップを開催する予定です。

なんとか多くの新入生を迎えたいと願っております。

景清ツレの位取り

今日は宝生能楽堂にて開催の「宝生会特別公演」にて能「景清」のツレを勤めさせていただきました。

「景清」のツレは2人いて、1人は景清の娘である”人丸”、もう1人は男性である”人丸の従者”です

私は”人丸の従者”でした。

最初に”人丸”と”従者”が一緒に謡ういわゆる「同吟」がありますが、この同吟の位取りが非常に難しいものでした。

先ず男性と女性という性別の違う2人が、それぞれのキャラクターを損なわないように謡わなければなりません。

そして「景清」は奥伝の曲なので、それを考慮しつつ、しかしあくまでも「ツレ」なので重くなり過ぎないように。

更に行方不明の父親を探して相模国から日向国まで遥々長旅をするという、精神的にも肉体的にも厳しいシチュエーションなども勘案しなければいけないのです。

申合、本番ともに地謡の先生方などから細かなご注意をいただきました。

課題も残ったツレでしたが、多くの学びもある御役でした。

次は月末4月27日の「七宝会」での能「昭君」シテに向けて、また稽古に励んで参りたいと思います。

橙白会に出演して参りました

今日は水道橋宝生能楽堂にて「橙白会」に出演して参りました。

「橙白会」は辰巳大二郎君の御社中会です。

ご遠方の山形から来られた方が長い舞囃子をされたり、小さな兄妹が仕舞に加えて連吟にもチャレンジしたり、他にも皆さん前回よりも難易度の高い演目に挑戦されていました。

ほかならぬ会主の辰巳大二郎君も一番最後に、

「番外舞囃子天鼓盤渉」

という難曲を舞われました。

通常の「天鼓」は”楽(がく)”という足拍子が非常に多い舞を舞いますが、これが

「盤渉楽(ばんしきがく)」になると笛の調子が高くなり、唱歌も複雑になって足拍子を正確に踏むのが中々大変なのです。

それを会主として一日中働いた最後に舞うのはすごいと思いました。

明日はまた水道橋宝生能楽堂にて、

「宝生会特別公演」が開催されます。

私は能「景清」のツレを勤めますので、今日は早めに休みたいと思います。

辰巳大二郎さん始め橙白会の皆様どうもありがとうございました。

自治医大も新歓スタートです

今日は自治医大稽古に行って参りました。

自治医大も新歓の季節です。

全寮制の学校なので、新歓の呼び込みも寮の共用スペース「大ラウンジ」という所で行いました。

先ず寮の玄関に入ったところで驚きました。

広いエントランスが「家電」の大きな段ボールで埋め尽くされているのです。

聞けば全部が新入生用の新しい家電製品だそうです。

新生活が始まる高揚感を感じる光景でした。

呼び込みを学生部員達に任せて、私は紋付に着替えて正座して謡を謡っていました。

すると…

「こんにちは…」

という声と、部員の

「お〜!」

という喜びの声が聞こえてきました。

先日に一度見学に来てくれたという新入生が再び来てくれたようなのです!

早速サークル棟に移動して、稽古を体験してもらいました。

鹿児島から来たという新入生は、高校時代は演劇部だったという事で仕舞も謡も中々筋が良いです。

ひと通り体験稽古をした後は、部室で能の写真などを見ながら色々お話しをしました。

「能はなぜ幽霊と生きている人が普通に話せるのですか?」

などと能の核心に迫る質問もしてくれたりして、興味を持ってくれたようです。

私は今は稽古を終えて東京に戻る途中ですが、今ごろ部員達が新入生と楽しく晩御飯を食べに行っているはずです。

次回月末に稽古に行く時に、今日の新入生が入部していてほしいと願っています。

弱法師と香道

最近何ヶ所かの稽古場で「弱法師」の謡を稽古する機会がありました。

「弱法師」の前半には、シテ弱法師が、

「や、花の香の聞こえ候」

と言う場面があります。

香が「聞こえる」という表現は、確か「香道」にあったと思い、香道の知識が全く無いので少し調べてみました。

やはり香道においては香は「聞く」ものであり、それは心の中でゆっくりと香を味わうという意味が込められた表現だそうです。

さらに「香道」とは能や茶道、華道と共に室町時代に出来たものであり、「禅」の思想に強く影響を受けているという事です。

やはり能楽と香道は深い繋がりがありそうで、「弱法師」の中で「香が聞こえる」という表現が出てきたのは香道の影響なのかもしれません。

また宝生流の能装束の「緋の大口」の中には

「源氏香模様」

という物があり、これも香道に使われる模様があしらわれた装束です。

これまで香道とは縁がありませんでしたが、機会があれば香道を体験してみたいものです。

令和6年第2回七宝会のお知らせ

来る4月27日(土)15時より、「第2回七宝会」

が開催されます。

場所は「枚方市総合文化芸術センター本館・関西医大小ホール」です。

能「清経音取」シテ宝生和英

狂言「蝸牛」善竹隆司

能「昭君」シテ澤田宏司

という番組で、宝生和英御宗家が久々に七宝会にてシテを舞われます。

また私もシテを勤めさせていただきます。

能「清経」は、「音取」という小書(特殊演出)で演じられます。

これは笛の特殊な演奏に導かれるように、シテ清経が橋掛を時間をかけて歩んで舞台へ向かいます。滅多に観られない小書です。

また能「昭君」も上演頻度の低い珍しい曲です。

皆様この機会に是非特殊演出や希曲を観に七宝会にお越しくださいませ。

どうかよろしくお願いいたします。