お弁当選び

今日はゆるい内輪話で失礼いたします。

3月2日、3日に宝生能楽堂にて開催の「郁雲会四十周年大会・澤風会第五回東京大会」がいよいよ近づいて参りました。

各地では仕上げの稽古が佳境に入り、当日用の番組も出来上がりました。

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実はこれらに加えて密かに重要なのが「お弁当」なのです。

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「お弁当」とひと口に申しましても、

①申合の能楽師向け弁当

②初日の会員さん向け弁当

③初日の能楽師向け弁当

④2日目の会員さん向け弁当

⑤2日目の能楽師向け弁当

の5種類を考えなければなりません。

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①は時間がタイトなので、素早く食べられて美味しいもの。

②③は、初日は夜の宴会が無いのでちょっとボリュームのあるもの。

④⑤は、夜の宴会のメニューと量を考えて、和風でボリュームは少し控えめで見た目と味にこだわって…

と考えていくと、なかなか難しいものなのです。

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しかも私は頭が古いので、どうも「ネット注文」というのが苦手です。。

お弁当配達サイトで色々見てみると、いくつか良さそうなお弁当はあるのですが、「写真と実物は本当に同じだろうか?」「写真では大きさがわからないな…」「ご注文フォームの入力が面倒だ」などと色々考えてしまい、結局注文までいかないのです。

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なのでやはり候補は「これまで食べたことがあって確実に美味しいお弁当」と、あとは実地でデパ地下のお弁当売り場を見て回る、ということになります。

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最終的に、③④は以前に食べた美味しいお弁当。

②は先日の江古田稽古の帰りに池袋西武のデパ地下で探し出しました。

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そして今日は①と⑤を求めて、大丸東京店のデパ地下「ほっぺタウン」と、東京駅地下「GranSta」に向かいました。

やはり色々なお弁当を目で見て探せるのは有り難いです。

店員さんの話も聞けます。

①に良いと思ったお弁当がありましたが、そこの店員さんが「これまで配達はやっていなかったのですが、今回検討してみます。おそらく大丈夫です。」と言ってくれました。

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というわけで、何とか無事に5種類のお弁当を選ぶことが出来ました。

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会まであと半月です。

お弁当以外にもやるべき事は山積していますが、ひとつひとつクリアして参りたいと思います。

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今日はとにかく「お弁当選び」ミッションを完遂して、これから本業の田町稽古を頑張って参ります!

初めての一人旅

東北新幹線の車内誌トランヴェールに、沢木耕太郎さんの旅のエッセイが連載されています。

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沢木耕太郎さんと言えば、私は京大時代に「深夜特急」を文庫本で読みました。

アジアからヨーロッパまで、バスを使って一人旅する青年の長大な記録です。

初めて聞く名前の街で青年が体験する様々を、憧れの思いを持ちながら読んだものです。

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トランヴェールのエッセイには、その沢木さんが16歳の時に初めて一人旅をして東北を巡った時の話が度々出て来ます。

今月号のエッセイでは、その東北一人旅で様々な人に親切にしてもらったので、「旅における性善説の信奉者になった」とありました。

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沢木さんと自分を比べるのは大変おこがましいのですが、私も17歳の夏休みに初めて一人旅をしたのです。

岡山と、四国の香川を巡りました。

宿は「ユースホステル」で、晩御飯とその後には食堂に旅行者達が集まって、とりとめなく色んな話をしました。

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当時はそれ程多くなかった外国人旅行者も、安く泊まれるユースホステルをよく利用していたようで、食堂では片言の英語でそのような人達とも交流できました。

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元々の目的は、その年の秋に修学旅行で岡山に行く事になっており、私は修学旅行委員だったのでその個人的な下見をしたいと思ったのでした。

それが何故四国にまで渡ったのか、今となっては全く思い出せません。

高校生当時は「能楽」からもすっかり遠ざかっていた筈なのに、香川に渡った私は「屋島ユースホステル」に宿をとり、一人で屋島見物に行ったのです。

能「船弁慶」の子方で義経を演じた記憶から、義経への思い入れがあったのでしょうか。

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ともあれ、その「屋島ユースホステル」で私は何人かの日本人や外国人旅行者達とすぐに仲良くなり、生まれて初めて「ビアガーデン」という処に繰り出しました。(繰り返しですが当時17歳。何を飲んだかは、まあ内緒です。。)

彼らとは住所を交換して、東京に帰ってからもしばらくの間手紙のやり取りをしたり、交流が続きました。

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今の私は仕事で移動してばかりいますが、その移動も「旅」の一種だと思えば全く苦にならないのです。

それは思えば、私もあの17歳の時の初めての一人旅で、「旅における性善説の信奉者」となったおかげなのかもしれません。

桜色、ここに。

昨年4月11日のブログ「桜色はどこに?」で、「桜色の着物を着て桜川を舞いたい」という方がおられると書きました。

その方は松本稽古場の会員さんです。

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そして同じ松本稽古場の会員さんに「手織り紬」の職人さんがいらして、その方の手で「桜色の着物」の製作が着々と進んでいると聞いておりました。

その着物がついに完成して、今日松本稽古場で披露されたのです。

天然の染料で染めた糸を使って、一年近くをかけてゆっくりと丁寧に織られた桜色の着物。

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これがその着物の一部です。

遠目でみるとまさに桜色なのですが、近くに寄って見てみると微妙なグラデーションがかかっていて、更にその中にも異なる色が何色も使われています。

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濃い桜色は「茜」で染めた糸。

グラデーションで少し薄目の桃色になっているところが「桜」で染めた糸。

クリーム色に見える部分は”絹のダイヤモンド”とも称されるという「天蚕」の糸。

濃紫の筋のように入っているのが「紫根」を用いて染められた糸だそうです。

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「その時の気分に合わせて、色を変えていきました」とのこと。

いくつもの天然の色が重なり合い、全体としては実に鮮やかな、それでいて優しく品の良い桜色にまとまっているのです。

これは天然素材を使った手織りだからこそ出る風合いなのでしょう。

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更に、実際に着た時の感触が「すごく軽くて、まるで着ていないみたい」だそうなのです。

これも、手織りなので糸と糸の間に空気がうまく入り、織り上がりが軽くなるということでした。

機械織りではもっと重くなってしまうのです。

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この実に素晴らしい桜色の着物は、来月3月2日・3日に水道橋宝生能楽堂にて開催される、郁雲会澤風会での舞囃子「桜川」で皆様にお披露目されます。

ちなみに手織り紬の職人さんも、同じ日の仕舞「羽衣キリ」にて初舞台を踏まれるのです。

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一年かけて織られた桜色の着物と、それを着て舞いたいと願っていた方の「桜川」の舞と、その着物を作った方の初舞台「羽衣」の舞。

楽しみが重層的になって、まるで着物のグラデーションそのもののようなのです。

「もつけ祭り」に遭遇…

昨日は夜から青森稽古でした。

土曜日の青森稽古は初めてだったのですが、18時頃に青森駅に到着すると駅横の広場で何かイベントをやっていて、すごい人だかりです。

近寄ってみると、なんと1月23日のブログで紹介した「男男男祭り(もつけ祭り)」が正に開会するところだったのです。

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そのブログで「参加するのは遠慮したいですが、遠くから眺める分には面白いかもしれませんね」と書いたら、それが現実になってしまいました。。

そっくり全部が雪で出来たステージには、フンドシやコスプレ姿の「もつけ(愛すべき馬鹿野郎達)」がズラリと並んでいます。

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気温は平年よりかなり暖かいとは言え、0℃を少し越えたくらい。

会場の周りには沢山の「ゆきだるま〜る」が並んで暖かそうな光を灯していますが、当然のことながら非常に寒いです。

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もつけ達はこれから「雪上綱引き大会」をするようです。

最初の対戦は「津軽海峡フェリーチーム」vs「青森大学剣道部ぽっちゃり侍チーム」。

手前の津軽海峡フェリーチームには「ねぶた」のコスプレをした「ねぶたマン」もいました。

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対戦結果はぽっちゃり侍チームの勝利!

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次に登場したのがディフェンディングチャンピオンの「チーム新青森駅」。

たしかに一介の駅員さんとは思えない、格闘家のようなもつけ達です。

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対するチームがなんと「チーム青森駅」。

JR身内同士の対決です。しかしチーム青森駅は如何にもJR職員という感じの普通のおじさん達でした。

「行くぜ東北」キャンペーンの宣伝をするあたり、本当に実直なもつけ達です。頑張ってほしいです。

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ちなみに対戦を仕切るのは、「ミスもつけ」という何か矛盾した肩書きのお姉さんです。

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いよいよ対戦開始…!

チーム新青森駅、やはり強い!

チーム青森駅のおじさん達を正に一蹴、僅か数秒で決着してしまいました。

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私はここまで見て、「寒っ!」と思い宿に退散。。

宿で暖まってホッとしていると、どうやら綱引き大会が終了したらしく、盛大な打上花火の音が聞こえて来ました。

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本当に遠くから眺める分にはなかなか面白かった「もつけ祭り」。

企画者も参加者も、地元青森への愛情が実に強く感じられて、それがとても良い印象に繋がっていると思いました。

あとはあの「もつけ」達が風邪をひかないように祈るのみです。。

贅沢な能楽教室

今日は京王線沿線の女子中学校で能楽教室のお手伝いをして参りました。

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中学2年生を対象に毎年この時期に開催される能楽教室で、私ももう5回目くらいの参加になると思います。

「今年の子供達は、ちょっとやんちゃらしいですよ」と事前に聞いていたのですが、始めてみると騒ぎもせず、飽きて余所見したりもせずに、面白いところでは良く笑ってくれるという、非常に有り難い素直な生徒さんたちでした。

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朝9時から午前中いっぱいをかけて、四種類の能楽囃子と仕舞の所作を全て体験して、最後に「船弁慶」の一部を鑑賞するというとても贅沢な能楽教室です。

おそらく大半の生徒さんが「能楽」というものに初めて触れる機会だったはずです。

これはある意味で責任重大です。もしここでマイナスの印象を持たれてしまったら、この人たちは今後の長い人生で能楽に二度と接してくれないかもしれないのです。

逆に「能楽は面白かった」という記憶が強く残ってくれたら、将来舞台を観に来てくれたり、稽古を始めたりしてくれる可能性もあります。

果たして今日の生徒さん達の反応はどうでしょうか…?

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例えば大鼓の体験の時のこと。

大鼓は構えて打つのもさることながら、「よ〜オ〜、ほ〜オ〜」という「掛け声」がなかなか難しいのです。特に「オ〜」の部分で裏声になるのが、大人でも恥ずかしくて出来ないことが多いのです。

しかし今日は声を揃えて「よ〜オ〜!」と裏声もしっかり出してくれていました。

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最後の能楽鑑賞でも、ほんの数人が眠そうでしたが大半はとても熱心に鑑賞してくれました。

つい先程自分たちが体験したお囃子の音や掛け声や、また仕舞の動きなどが、すぐ目の前で演じられるのですから、舞台への心の入り方が全く違うのでしょう。

この生徒さんたちの心に「能楽」が良いものとして残ってくれているように願っております。

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終わって教頭先生に、「やんちゃどころか非常に大人しく素直な良い生徒さんでした」と話したところ、先生は「いや〜、それはお互いに牽制し合っていたのでしょう」と仰いました。

成る程。やんちゃしたり牽制し合ったり、色々難しい年頃なのですね。。

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北白川の寒さ

当ホームページの記録によると、今日のブログにてブログ投稿数が400回目になるようです。

日々お読みいただいている皆様の応援のおかげで、何とか400回まで続けることができました。誠にありがとうございます。

次は500回を目指して、頑張って投稿し続けて参りたいと思います。

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続くといえば、ずっと寒い日が続いております。

福井の皆様は記録的大雪で非常に大変なことと存じます。

福井には親しい方々も何人もおられるので、心配しております。

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寒さに関して忘れられないのは、やはり京大時代の下宿の寒さです。

私は入学から4回生まで、北白川の「第1双葉荘」というアパートに下宿しておりました。

「家賃27000円、エアコン無し、キッチン、トイレ、シャワー、洗濯機共同」という物件です。

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つまり洗濯、洗面、トイレ、風呂などは全て、部屋を出て一度完全に外気に晒されてから洗面所、トイレ、シャワー小屋などに行かないと不可能だったのです。

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入学して暫くは問題無かったのですが、最初の冬が来ると状況は一変しました。

下宿のすぐ裏手には、その昔白隠禅師が修行されたという「瓜生山」があり、山の冷気が直に吹き付けて来ます。

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寝る前と朝起きての洗面とトイレは、部屋を出る前に「おーし、行くぞ!」と気合を入れて、決死の覚悟で部屋を飛び出し、出来るだけ最短で済ませて部屋に飛んで帰ります。

それでも隙間風の吹き込む洗面所で歯磨きを始めると、すぐに歯の根が合わないような状態になってしまいます。

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もっと辛いのはシャワーでした。

先ほど「シャワー小屋」という変わった表現をしましたが、「第1双葉荘」の裏庭には、たたみ一畳を一回り大きくしたくらいの正しく「小屋」があり、そこがシャワー室だったのです。

小屋は吹きさらしで非常に冷えており、脱衣所で服を脱ぐのもやはり難行でした。

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100円で10分お湯が出るシステムだったのですが、最初の冬には寒くてつい長く湯を浴び続けてしまい、洗髪の途中で湯が止まるという悲劇も起こりました。。

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思えば、今三ノ輪の自宅マンションで暖房の効いた部屋を出て、ちょっと気温の低い洗面所に行くだけで「寒い!」と思ってしまう私は、随分と軟弱になってしまったものです。

このブログを書くことで、北白川の寒さを克明に思い出しました。

これからは自宅マンションの暖かさに感謝して過ごしたいと思います。

…400回目が全く能楽に関係ないお話になって恐縮なのですが、今日はこれにて失礼いたします。

隙間花壇 〜春待つ息吹〜

東京三ノ輪の私の自宅マンションと隣の建物の隙間に、四季の野の花が咲く不思議な空間があります。

私は「隙間花壇」と名付けて、日々前を通るのを楽しみにしております。

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とはいえ、秋が深まってからは新しく咲く花も無く、上の写真のように静かに眠っているような景色でした。

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しかし今日、隙間花壇の前を通る時に、何か微かな雰囲気の変化を感じました。

暫し立ち止まって眺めると…

きちんと剪定された紫陽花の枝えだの先に、新芽が顔を出していたのです。

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更に良く見ると、他にも芽の出た植物が。

こちらはガクアジサイの新芽でした。

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そして新芽だけでなく…

梅の蕾もありました。

まだまだ固く閉じられていますが、これから陽射しを浴びるにつれて、大きく膨らんでいくのでしょう。

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能「高砂」のクリの一節に「草木心無しとは申せども 花実の時をたがえず」とあります。

隙間花壇の草花達も、本当にまるで心があるように近づく春を感じとって準備をしているのだと思いました。

京大黄金コース

昨日は後期試験期間を挟んでの久しぶりの京大稽古でした。

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現四回生はもう追いコンも終わって、実質OBになっています。

なので事実上最上回生となった現三回生を中心にした稽古体制でした。

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仕舞は新しい曲が多かったのですが、すでに地謡と合わせて稽古している部員も多くいました。

「次は三山です」などと声がかかると、わらわらと何人かが立ち上がって、地謡座に座っていきます。

一度に6人ほど並んでしまったり、地頭を譲り合ったり、この時期特有の少々緩やかな雰囲気の地謡でしたが、難しい曲でも果敢に地謡に挑戦する姿勢はとても良いと思いました。

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稽古の合間には、「今度の関西宝連の舞囃子の件ですが…」「今年出す能の曲の候補ですが、○○は出せますでしょうか…?」「関西宝連で三輪、全宝連で車僧の仕舞を出してもよろしいですか?」などなど矢継ぎ早に質問を受け、いつもながら彼らの前のめりなパワーには圧倒されました。

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そして前向きな稽古だけでなく、楽しいイベントもちゃんと(?)あるようです。

一昨日の2月3日には追いコンがあり、卒業生へのプレゼント贈呈などで盛り上がった後に、二次会として吉田神社の節分祭りに行ったそうです。三次会は勿論京大能楽部BOXです。

それもある意味黄金コースで、大変羨ましく思いました。

二次会の節分祭りの夜店で買った「ピカチュウ」の面を付けた部員が、BOXで仕舞「加茂」を舞って、「ほ〜ろ〜、ほ〜ろ〜」と謡うところを「ピ〜カ〜、ピ〜カ〜」と謡いながら足拍子を踏んでいる動画を見せてくれました。。

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現役稽古の後には若手OB達がやって来て、郁雲会澤風会で出す素謡「大会」の稽古をして、終わると時計は22時半を回っていました。

思えば夜明けと共に東京を出発して、朝10時の大山崎稽古から始まった稽古尽くしの1日でした。

23時頃から現役部員や若手OB達と百万遍に行き、京大宝生会30年来の行きつけの店「なみなみ」で久しぶりに皆とゆっくり話をしながら遅い晩御飯を楽しみました。

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これもまた幸せな「黄金コース」なのでした。

「あしらう」ということ

我々の専門用語で「あしらう」という言葉があります。

2本の「張り扇」を使って、囃子の手を打ちながら能や舞囃子の稽古をすることです。

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右手の張り扇を「大鼓」、左手の張り扇を「小鼓」として打つ時もあれば、2本の張り扇を撥に見立てて太鼓の手を打ったりもします。

口では謡を謡ったり、笛の唱歌を口ずさんだりします。

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例えば誰かが舞う能を最初から最後まであしらって稽古する時は、まずシテの出の「次第」や「一声」などの囃子のあしらいから始めます。

そして途中のワキの謡、狂言の言葉も謡って、地を謡いながら張り扇で囃子をあしらい、舞があれば唱歌と張り扇であしらい…と、一人でシテ以外のすべての舞台構成員「地謡方」「囃子方」「ワキ方」「狂言方」を演じる訳です。

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一曲の謡を完全に記憶して、通して無本で謡うことが出来れば、それはその曲を理解する上でのひとつの到達点であると思います。

しかし、更に上を目指すとすれば、「一曲を一人で完全にあしらう」ことだと私は考えます。

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それには、謡と囃子の手を覚えるのは勿論、各箇所の謡と囃子の「位取り(高低遅速強弱の微妙な加減)」や、囃子の「掛け声」、ワキと狂言の文句も勉強しなければなりません。

囃子、ワキ、狂言は、流儀の違いが大きく影響する場合があるので、その点も注意が必要です。

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これら全部を消化して、たった一人で一曲の能をあしらい通すことが出来れば、それこそがその曲を理解する上での究極に近い到達点だと思うのです。

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…私はと言えば、まだその境地には遠く及びません。。

囃子の手組や唱歌の資料を見ながら、大まかな流れを作る程度のあしらいが今の精一杯です。

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しかし、日々人工的な音源を極力使わずに、自分の手であしらっていく事で、少しずつでも「究極のあしらい」に近づいていければと思っております。

立春能

今日は水道橋宝生能楽堂にて「立春能」の地謡に出演して参りました。

立春能は宝生流の女流能楽師が中心になって催される舞台です。

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「能楽師には女性もいらっしゃるのですか?」という質問を度々受けるのですが、人数比では男性よりも少ないものの、たくさんの女性能楽師が活躍しておられます。

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私のような男性が、三番目などの優美な女性のシテを演じるのには、やはり色々と苦労苦心があります。

女性能楽師は、むしろそういった役は自然体で出来るのかもしれません。

逆に二番目や切能などの荒々しいシテを女性が演じるのは、また越えるべき高いハードルがあるのでしょう。

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能楽師の場合、初番目から切能まで満遍なく役が付くので、結局男性も女性もどこかで自分とキャラの異なる役を演じる苦労は経験する訳です。

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しかしその苦労のしどころはある意味で正反対なので、男性と女性それぞれどんな役でどんな苦労をしたか、情報交換をすると面白い気がします。

今日も男の霊、少年、美女、老人、貴公子などの様々な役があり、それぞれの演者の解釈や演技が興味深く、色々と勉強させていただきました。