稽古場の一体感

今日は朝から、京都紫明荘組の稽古でした。

稽古場としての「紫明荘」に代わる場所をいろいろと試行錯誤しておりますが、今日は「リハーサル室」という名前の部屋で稽古しました。

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そこは大きさがちょうど能舞台と同じ三間四方くらいで、完全防音の部屋です。

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完全防音なので稽古中は扉を締め切り、会員さん達はリハーサル室の外の椅子が並んだスペースで待っていることになります。

しかしこれが稽古を始めてみると、意外にやり辛いのです。

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これまでの和室の広い空間だと、稽古しながら横目で隣の部屋で談笑している会員さん達が見えます。

そこで、稽古しながら私は「あの方はいらしてから大分待っておられるので、次に仕舞の稽古をしよう」とか、「遠くからいらしている方がそわそわしているので、早い順番にした方が良いか聞いてみよう」などと考えられるのです。

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それが密閉空間での稽古だと、外で何人待っておられるのか、どの順番でいらしたのかなど、いちいち外に出て確認しないとなりません。

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また会員さんにとっても、自分の稽古だけでなく他の人の稽古も見聞き出来る方が勉強にもなりますし、誰かが舞っている仕舞を見て、「いつかあの仕舞がやりたい」と思ったりも出来ます。

更に私は、仕舞の稽古の時には見ている人達に向けても「この型はさっきの仕舞にもありましたね」とか、「”行き掛かり”の足は、他の仕舞でも共通でこのように捻ります」などと解説したりします。

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なのでやはり稽古場は、舞台スペースと待合スペースが繋がっているところに限ると痛感したのです。

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たまに会員さん達の楽しいお喋りが、録音に差し障りがある程に盛り上がってしまう事もありますが、私の好みとしては「同じ時間と空間を全員で共有できる稽古場」というのが一番だと思ったのでした。

1件のコメント

「3月のカレンダー」の話

ホームページを開設して1年と少し。

その間にこのホームページを通じていくつかの貴重な出会いがありました。

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「岩手未来機構」の皆さんとの御縁もそのひとつです。

岩手未来機構の皆さんは、国内外から様々な芸術家を東北に招き、芸術活動を通じた復興支援をされています。

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これまで二度の会合を開いてお話を色々伺いましたが、中でも特に印象深いお話がありました。

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ホセマリア・シシリアさんというスペインの現代アート作家が、震災から1年後に岩手の小学校でワークショップをされた時のことです。

そこでシシリアさんは2011年3月のカレンダーを取り出して、子供達に「3月11日までにあった出来事を書き込んでごらんなさい」と言ったそうなのです。

周りの大人はハッとして心配になったのですが、子供達はカレンダーに書き込みを始めました。

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そしてその内容は、大人達の予想とは違うものでした。

誕生日にお母さんと料理を作ったこと、もうすぐ弟が生まれることなど、楽しかった思い出がたくさん書かれていたというのです。

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「あの時のことを全て忘れたり、記憶に蓋をして目を背ける必要は無い。楽しかった思い出や、大切にしていた事はちゃんと心に刻んで、一緒に未来へ歩いていけば良いんだよ。」

という尊い大切な考えを、遥かスペインから来た偉大な芸術家が子供達に教えてくれたというのです。

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シシリアさんはまた、「死者と生者」、「過去の人と現在の人」が同じ空間の中に同居して、会話を交わすという能楽の世界観にも深く共鳴してくださっているそうです。

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「私には能楽しか出来ない」と1年前のブログに書きました。

しかし岩手未来機構の皆さんと出会い、その素晴らしい活動のお話を伺う中で、私にも「能楽」を通じて復興の為に何かお手伝いが出来るかもしれないと、微かな方向性が見えて来た気がします。

さらに話し合いを重ねて、年内にはそれをひとつの形に具体化したいと考えております。

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最後になりましたが昨年同様、被災された皆さまに1日も早く平穏な日々が戻って来ますように、心よりお祈り申し上げます。

早春の味覚

昨日のブログは関西に向かう新幹線で書きました。

その新幹線に乗る前は、東京は前日からずっと続いた雨がまだ少し残っていましたが、気温は高めで暖かでした。

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しかし天気は西から回復傾向で、新幹線が名古屋を過ぎる頃には、久しぶりに見る青空が。

何となく良い気分で京都に到着して新幹線を降りると、そこで私はいささか驚きました。

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降りた途端に「ビュオーッ」と非常に冷たい風が吹き付けて来たのです。

私に続けて降りた会社員達がやはり風を受けて、「うわっ!京都寒っ!!」と背後で叫んでいます。

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思えばまだ3月上旬でした。

京大時代には4月に入っても炬燵が恋しかったのを思い出しました。

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私は春用の薄手のジャケットで来てしまったので、寒風が身に染みます。。出来るだけ外に出ないコースでいつもの安宿へ向かいました。

そして夜に芦屋稽古に行き、終わって再び京都へ。

晩御飯に、これも行きつけの京都駅近くにある安くて美味しい居酒屋さんに入りました。

寒いので何か暖かいものを…と思ってメニューを見たのですが、ここでは嬉しい驚きが。

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本日のお勧め欄に「たけのこ土佐煮」と「ホタルイカの茗荷和え」の文字が見えたのです。

なんと、メニューの中ではもうすっかり春になっていたのでした。

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迷わずその2品を注文。

たけのこ土佐煮。シンプルながら、しっかり味が染みており、絶品でした。

店員のお兄さんが、昔実家で行ったという筍採りの話をしてくれるのを聞きながらいただきました。

ホタルイカの茗荷和え。こちらは日本酒を、あえて冷やで頼んで春の気分を味わいました。

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しかし、食べ終えて外に出た途端にまたしても寒風が「ビュオーッ!」

春の気分が吹き飛ばないうちに、足早に宿に向かったのでした。

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食べ物ネタが続いてしまいましたが、今日はこの辺で失礼いたします。

ようやく味わうお弁当

私は「駅弁」というのは高価なものだと思っているので、新幹線に乗る時には大抵、駅のコンビニでおにぎりを買う程度で済ませるようにしております。

しかし今日は、新幹線のテーブルの上にやけに豪華なお弁当が。

左側にあるのは美濃吉の「鳥照り焼き弁当」で、実は先日の郁雲会澤風会の申合において能楽師用に用意したお弁当なのです。

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先月このお弁当を、東京駅大丸デパ地下の「ほっぺたうん」で40個ほどまとめて注文したところ、ポイントが一気に貯まって「次回ご来店時に2000円分の商品と引き換え可能」なカードを貰ったのです。

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普段私はこの「ポイントカード」というものを煩わしく思い、殆ど使わずに家に放置してしまいます。

しかし今回はやはり特別です。

本日水道橋にて月並能申合を終えて、関西への移動の前に「ほっぺたうん」に立ち寄りました。

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カウンターの中には、先日の注文の時に色々お世話になった店員さんが。

「こんにちは。先日はありがとうございました。お弁当を引き換えに来ました。」

「あら!この前はどうもありがとうございました!お弁当大丈夫でしたかしら?」

「はい、大変好評でした。またどうかお願いします。」

という会話を交わして、件の「鳥照り焼き弁当」に加えて「お料理小箱」もいただいて、丁度2000円也。

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写真は、新幹線でそれらを広げていただく直前の一枚だった訳です。

申合の時には自分では全くお弁当を食べる暇がなかったので、ようやく味わうことができました。

上品な味の出汁巻、煮こごりがまぶしてある鳥照り焼き、その下のご飯には海苔が敷いてありました。大変美味しいお弁当でした。

お料理小箱も茶碗蒸しまでついてとても豪華で、ゆっくり美味しくいただきました。

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食後には文庫本が2冊。

至福の移動時間なのです。

今年も幼稚園に行って参りました

今日は毎年恒例の、千葉県柏の幼稚園での能楽教室に行って参りました。

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昨年は教室に入るなり、「あ〜!侍だ〜!!」と言われましたが、今年の子供達はどうでしょうか…?

また人数が昨年の48人に比して今年は73人と、かなり大勢です。

果たして収拾がつくのか、ちょっと心配でもありました。

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朝9時半にいよいよ教室に入ると…

「あ〜!着物着てる〜!!」

おお。今年は至極真っ当な反応です。

挨拶から始めて、「摺り足」や「シオリ」、「六つ拍子」などの稽古では、やはり何人かハイテンションになって、全体が賑やかになりかけました。

するとすかさず園長先生が「みんなうるさい!」と一喝。

そして「騒ぐと先生こうなっちゃうよ…」と、今稽古したばかりの「シオリ」でしくしくと泣いてくださったのです。

そんなこんなで、何とか最後まで終えることができました。

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そして最後の質問コーナーで、ちょっと驚く事がありました。

先ずひとりの男の子が、「先生たちは”文楽”もやりますか?」と質問して来ました。幼稚園で”文楽”を知っているとは大したものです。

「我々はやりませんが、文楽と能はとても近い関係ですよ。」と答えたのですが、ひと通り質問コーナーが終わったところで再びその男の子が手を挙げて、大きな声で、

「僕を弟子にしてください❗️」

と言ったのです。すると隣の男の子もやはり

「僕も弟子にしてください❗️」と言って、2人できちんと正座してさっき覚えたばかりの「よろしくお願いします‼️」という正式な挨拶をしてくれたのです。

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もう10年もこの幼稚園で能楽教室をやっておりますが、弟子入りの希望者は初めてでした。

帰り際に園長先生に「彼らが本気で稽古したいようなら、いつでも連絡をください」とお願いして帰って参りました。

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思えば色々な場所で「能楽教室」をやっておりますが、その場で弟子入りというパターンは皆無です。

果たして今回が初めての例になるのか、しばらく楽しみに待ちたいと思います。

隙間花壇〜咲くやこの花〜

今から丁度1ヶ月前の2月7日の「隙間花壇」のブログに、梅の蕾の写真を載せました。

こちらの写真です。

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あれからひと月の間、私はバタバタしていて「隙間花壇」をゆっくり見る余裕もありませんでした。

そして郁雲会澤風会がようやく無事に終わった翌日、3月4日の朝。

崇宝会に向かおうと「隙間花壇」の前を通ったところ…

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いつの間に梅の蕾が開いていました!

しかしまだ三分咲きというところでしょうか。

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更に、ひと雨を挟んで今日。

ついに隙間花壇の梅は満開になりました。

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「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花」という有名な和歌は、能「難波」のシテでもある「王仁」の作であるとされています。

この和歌における「この花」とは、梅の花を指すそうです。

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隙間花壇の梅もこの数日で冬ごもりから目覚めて、ようやく花の春が巡って来たことを私に知らせてくれました。

次はどんな花が咲いてくれるのか、楽しみに待とうと思います。

ずっと舞台にいること

今回の郁雲会澤風会の2日間では、私は一部の素謡を除いてはほぼ全曲で、地謡もしくは後見で舞台に出ておりました。

皆様これを比較的大変な事だと思われたようで、「さぞかしお疲れでしょう」「お身体は大丈夫ですか?」などと心配してくださいます。

しかし、私にとっては本番の舞台上にいるのはむしろ「喜び」であり、いっそ「ご褒美」のようにも感じられたのです。

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昨日は箇条書きのように、番組のそれぞれを短くご紹介いたしました。

しかし本当はそのひとつひとつに、本番に至るまでの長い長いドラマがあったのです。

嬉しい事もありましたが、大半は苦しく地道な努力の日々でした。いくつかのアクシデントもありました。

それらを乗り越えたクライマックスシーンが郁雲会澤風会の舞台であり、私はそのクライマックスシーンを主役と共に作り上げるという栄誉を与えられた訳なのです。

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これは私には大変光栄で喜ばしいことでした。

更にもう一点、本番の舞台は一発勝負なので、何が起こっても私は注意したり、やり直したりしないでも良いのです。

これも精神的にはむしろ稽古よりも楽な事に感じられました。

なので、2日間出突っ張りでも私には全く苦にならなかったのです。

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…とはいえ、やはり少々疲れはあるようです。

昨日はそうでもなかったのですが、今日の午後になってから、丁度時差ボケのような急激な睡魔に襲われました。

新幹線でスイッチが切れるように寝てしまい、危うく乗り過ごして大変な事になるところでした。。

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明日はようやく一日中何も無い休みなので、ゆっくり骨休めしたいと思っております。

郁雲会澤風会御礼

先週金曜土曜の郁雲会澤風会の2日間では、本当に無数のエピソードが同時進行的に起こっていたことと思います。

数多の物語がめでたく完結して、また多くの物語が次の章に進み、それと同時に未来に繋がるいくつかの新しい物語も始まりました。

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最年少5歳の男の子の初舞台「絃上」。

最高齢91歳の方の仕舞「葛城」。

桜色に美しく染められた着物で舞われた舞囃子「桜川」。

沢山の素謡(京大若手OBの素謡「大会」では、殆どのOBOGが無本で謡ってくれました)。

1人で無本で謡われた独吟「草紙洗」。

砧、忠度、笹之段を始めとする難しい仕舞や、一調「放下僧」独調「桜川」などの難曲に挑戦され、苦心して稽古を積んで本番を迎えられた皆さん。

早朝に京都や北陸や松本を出て来てくださった方々。

金曜朝一で仕舞を舞って、その後は受付などの仕事をよくやってくれた京大宝生会の現役や、若手OBOGのみんな。

初舞台や、稽古を始めて間もない会員さん達がとても堂々と演じられた素謡「橋弁慶」、また「羽衣キリ」などのいくつかの仕舞。

一人で何回も舞台に出てくれた人(素謡2番、仕舞、能のツレ、能の地謡の計5番をこなした人も)。

いつも母親を支えてくださっている郁雲会の皆さま。

毎回ゲスト出演いただく京大宝生東京OB会や、早稲田大学、東京大学OBの方々の重厚な舞と謡。

舞囃子を舞われた7人の会員さんはそれぞれ「楽」や「神楽」などの難易度の高い舞や、位の重い曲、思い入れのある曲に全力投球で挑まれました。

そして4番の能。

先ず金曜日には、松本から何度も東京にいらして稽古をしてくださった初シテの方が見事に舞われた「巻絹」。

土曜日にあった大曲「鷺」、「野宮」、「松風」では、今回もまた舞台上のシテ方、囃子方、ワキ方、狂言方に見所のお客様までも含めて、能楽堂が全部一体となって熱量を増していくような、気迫に満ちた舞台を体感することができました。

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…今思い出しながらつらつらと書いていっても、次々と色んな出来事が思い出されてとても書ききれません。

全てを書いたら1冊の本になるような、濃密な2日間だったと思っております。

宴会で辰巳満次郎師より「今回舞台に出ていて、”ああ、能って素晴らしいなあ。能をやっていて良かったなあ”と改めて思いました」という大変に有り難いお言葉を頂きました。

これはきっと私も含めて、参加してくださった皆様に共通の感覚であったと信じております。

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御礼の言葉もどれだけ尽くしても足りない気がいたしますが、今回の舞台でお世話になりました全ての皆様に、本当に心より御礼申し上げます。

どうもありがとうございました。

崇宝会に出演して参りました

昨日の日曜日は朝から渋谷セルリアン能楽堂にて、郁雲会澤風会でも大変お世話になりました山内崇生師主宰の「崇宝会」に出演して参りました。

今年が第24回で、来年は25周年記念大会が盛大に開催されるということです。

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連日の短い更新で申し訳ございません。

昨日でようやく仕事の山場を越えましたので、また落ち着いたら通常のペースで書かせていただきたいと思います。

2日目も無事終了いたしました。

おかげさまで郁雲会澤風会の2日目も無事終了いたしました。

皆様心より御礼申し上げます。

大変短くて恐縮ですが、本日は取り急ぎこれにて失礼いたします。

会の諸々はまた改めて書かせていただきたいと思います。