兼平のアドレナリン…?

いつも能を一番舞い終えた後には、その曲のシテが”抜けていく”感覚を味わいます。

何とも形容が難しい、虚脱感とでも言うようなものです。

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それが一昨日の土曜日の能「兼平」の後には、これまでと少々異なる状態になりました。

舞い終えた疲れを感じながら三ノ輪の家に帰り、食事をして早めに休もうとすると、何故か布団の中で気持ちが高揚して全く眠れなくなってしまったのです。

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精神の高揚感とともに、身体的な疲労も何処かにいってしまったようで、

「なんだか今からもう一回”兼平”を舞えそうだな…」

とまで思えるほどに不思議に力が湧いて来たのです。

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しかしそうは言っても、もう寝るしかする事がありません。

「今回は体調管理がよほど上手くいって、ダメージが少なかったのだろう」

と思い、何度も寝返りを打ちながら眠れぬ夜を過ごして、深夜になってようやく眠る事が出来ました。

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翌日の日曜日には、正午から夜まで遠隔稽古の予定が詰まっておりました。

干した胴着類の片付けもあり、朝ちょっと早めに目覚めて起き上がろうとすると…

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なんと今度は全身が著しい脱力感に覆われており、立ち上がるのも一苦労という状態になっていたのです。。

つい数時間前に感じた湧き上がるような力は、すっかりどこかに消え失せてしまっていました。

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「寝ている間に”兼平”が抜けていったのか…」

と思いながら、鉛のように重い身体を引き摺って遠隔稽古場に向かったのでした。

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そして夜までなんとか遠隔稽古をして、今度は帰ってから倒れるように熟睡しました。

明けて今日、幸いに脱力感は消えてすっかり健康体に戻っていたのです。

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考えてみるに、兼平のように力強いシテを舞うと、きっとアドレナリンのような体内物質が多く分泌されるのでしょう。

それが残っているうちは興奮状態で眠れなくなり、物質が消えると一気にダメージが来るのではないでしょうか。

科学的根拠はありませんが…。

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ちなみに次にシテを舞う「歌占」では、曲中でシテが神がかって激しく舞い、最後に神が抜けて脱力するシーンがあります。

今回味わったのはおそらくそれに近い感覚かもしれません。

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「兼平」は終わった後に貴重な経験を残していってくれました。

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