「歌占クセ」の巻き物
今日は江古田稽古でした。
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ジパング倶楽部のメンバー中心の団体謡稽古は、今「歌占」を稽古しております。
この「歌占」のクセは非常に難しく、宝生流では「山姥クセ」「花筐クセ」と共に「三難クセ」などと呼ばれています。
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そしてこの「歌占クセ」は、節使いの難しさもさることながら、その内容の凄絶さ、難解さが殆ど異様なほど際立っています。
人間の生命の儚さと、地獄巡りの苦しみを”これでもか!これでもか!”というほど微に入り細にわたって延々と描写しているのです。
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昔の人は何故こんな物凄い内容のクセを作ったのか、何か特別な由来があるのかと思って少し調べてみたのですが、残念ながらまだ手掛かりは掴めておりません。
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「歌占クセ」で思い出すエピソードがひとつあります。
京大宝生会に入って少し経った大学一回生の頃、渡辺三郎先生のあるお弟子さんから”巻き物”を頂戴しました。
広げてみると、半紙を繋げた細長い紙に、達筆で何やら沢山の文字が書いてあります。
よくよく読んでみると…
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なんと「歌占」のクセだったのです。
当時はまだ大学生になったばかりで、一応それなりに希望に満ちていた私は、その歌占クセの文句を読んで「なんじゃこりゃ」とその内容のあまりの重さに衝撃を受けたのでした。。
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その渡雲会のお弟子さんに、「何故これを、今私にくださったのですか…?」と聞いてみたかったのですが、残念ながらその機会はありませんでした。
私が宝生流を稽古し始めたのを知って「この歌占クセを稽古出来るほどになってください」というお気持ちだったのでしょうか。
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あるいは「大学に入って浮かれているかもしれんが、人生は本当はこのように厳しいのだぞ!」
と戒めてくださったのかもしれません。
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あれから幾星霜を経て、この歌占クセの文句も少しずつ身にしみるようになりました。
しかし一方で「やはりこれは大学一回生にはちょっと早い内容だよなあ…」とも思ってしまうのでした。。